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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
2章 おまけの兄→女神の使徒
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140話 東国からの要請(4)

 三日の航海を経て、今俺の眼前には木造の港町が見えている。

 ルアポートのようなレンガの倉庫とは違う、明らかな蔵。白い漆喰の壁に青い瓦の屋根が見えている。


「懐かしい!」


 流石に俺の時代にこんな古い景色はあまり残っていないけれど、それでも心の原風景としての懐かしさはある。日本らしい光景に思わず口を突いていた。


「ここが我等の故郷、瑞華でございます」


 猿之介もどこかほっとした様子でそう言い、丁寧に礼をする。クナルなどは随分興味深そうだ。


「これが、あんたの故郷の景色なのか?」

「流石に俺の時代だとここまでじゃないけれど、こういうの残ってるよ。それに、懐かしい感じもある」


 心が沸き立つのがわかる。ベセクレイドでとてもいい暮らしをさせてもらっているけれど、ここは田舎の祖父母の家に来たみたいな感じがするんだ。

 そんな俺を、何故かクナルは複雑そうな顔で見ていた。


 船は無事に入港できた。ここで俺達が帰るまで停泊するらしい。それらの許可は下りているらしく、基本は船で寝泊まりして待っているそうだ。


 降り立った桟橋も木造で、地面はならしてあるものの土。着物の上を脱ぎ、足元はやはり作業しやすく足首の窄まったズボンを履いて荷下ろしをしている人々。引く荷車も時代がかっている。


「瑞華の港町でございます。賑わっておりますでしょ?」

「凄いです!」


 持ち込まれた荷物は蔵の中へと入れられ、違う蔵からは荷を出して。

 そんな光景を横目に俺達が案内されたのは、大きな二階建ての宿屋だった。


 やはり木造と漆喰という感じで、入口には暖簾。引き戸を開けると土間があり、先には板間と番頭台が。そこに座る尾の二本ある狐の老人がこちらを見て丸い眼鏡をあげた。


「おや、猿之介様じゃありませんか。今日お戻りに?」

「そうなんだ。ついでに、約束の客人を連れてきたんだけれど、姫のお屋敷に人をやっちゃくれないか?」

「えぇえぇ、畏まりました。後ろの方は二名様で、お部屋は三室ですかな?」

「あぁ、いえ! 俺とこちらの彼は同室がいいのですが」


 慌てて言うと番頭はクイッと眼鏡を押し上げ、俺を見てクナルを見て頷いた。


「獣人のご夫夫様でしたか。いや、これは失礼。年を取ると目が悪くなりますな」

「夫夫!」


 いや、まだ夫夫では……言いかけたが、それよりも前にクナルが前に出た。


「新婚だ」

「それはめでたい。では、お部屋は二階の二〇一を使ってくださいませ。風呂は一階に。部屋に浴衣もございますので、お使いください。お食事は部屋に運びましょうか?」

「それで頼むよ。俺は隣の部屋がいいんだけど」

「はいはい、分かりました」


 番頭は帳簿に書き込み、俺達に木札の付いた鍵を渡してきた。

 靴を脱いで上がるとクナルは変な顔をする。それを俺と猿之介がちょっとおかしそうに笑った。

 階段は木造で、少し急な角度だ。それを見たクナルが少し驚いた顔をする。


「こんなに角度があるのか」

「獣人の国ではもっと緩やかですからね」

「祖父ちゃん家思い出すな」


 手すりに手を添えて登るとギィ、ギィという音がする。これも聞き慣れないのか、クナルは恐る恐るという感じだった。


 階段を登り切り、表に面した角部屋が二〇一だった。玄関のような格子戸があり、鍵を差し入れる。カチンと音がして右にスライドさせると、カラカラと音をさせて扉が開いた。


 板間があり、横の靴入れのような物置の上には桔梗の花が一輪飾ってある。

 イ草の匂いがして、襖を開けるとその先は畳敷きの部屋だった。真ん中に大きな座卓があり、対面になるよう座椅子に座布団が置いてある。

 床の間には掛け軸と花。隣室との間には押し入れがあり、ちゃんと干された匂いのする布団が複数組積まれている。

 正面には障子窓があり、開け放つと表の通りを見下ろす事ができる。


「慣れねぇ」

「まぁ、そうだよね」


 俺はむしろ寛げる。鞄を下ろしてどっかりと畳みに座った俺に、クナルはギョッとした。


「床に座るのか!」

「畳はそういうものなの。靴も脱いでるし、掃除もちゃんとされてるから大丈夫」

「ベッドがないが……」

「布団あっただろ? テーブル避けて布団を床に直接敷いて寝るんだよ」

「……慣れねぇ」


 とは言いながらもソワソワしながら床に座ったクナルは、次にキョトッとして畳を手で撫でた。


「冷たくないし、柔らかい」

「畳っていうんだ」

「いい匂いもする。草の匂いだ」

「この表面の部分が草を乾燥させて編んでいるものなんだよ」


 本当に懐かしいなと思っていると、クナルは辺りにも目を向けつつ鼻をヒクつかせている。やっぱり慣れないのかな。


「木の匂いに、草の匂い。潮の匂いもしている。マサの世界はこんなに、自然の匂いの中にあるんだな」


 そう、少し満足そうにしている彼を見て俺は苦笑した。

 実際は街中だ。自然なんて感じられない世界だったけれど……でも。


「落ち着かない?」


 問うと、彼はちょっとして首を横に振った。


「けっこう好きだ」


 そう言ってくれて、俺も結構嬉しかった。


 少しゆっくりしてからお風呂に向かう事にした。という事で浴衣に着替える。

 何度か着た時を思い出しながらどうにか着てみせると、クナルはちょっと渋い顔をした。


「どうしたの?」

「下、スカスカしないか?」

「え?」


 言われるとズボンよりは風通しがいいけれど、浴衣ってそういうものだし。


「クナルも着る?」

「え? いや……」

「尻尾用の穴もちゃんとあるよ」


 浴衣には丁度お尻の位置に尻尾を出せる穴が空いていたが、裏側のボタンを閉じると開かない。俺はそれで着ている。


 クナルはやや戸惑いながらも断り切れなかったのか、暫くして服を脱ぎだした。

 引き締まった腹筋や胸筋。細いのに形の浮き出る手足の筋肉。色が白くて凄く格好いい。

 長身のクナルに着物を着せかけ、尻尾穴の位置を教えると自分で器用に通した。前を合わせて帯で締めるだけ。

 濃紺に波模様の浴衣がもの凄く似合う感じだ。


「なんか、心許ない」

「大丈夫だよ」


笑って、タオルを持って俺達は温泉に向かった。


 温泉は問題無く。騎士団宿舎も集団で入るからね。ただ、クナルにしては温泉の温度が高かったみたいで白い肌は上気し、熱そうに息をついている。


「湯あたりする前に上がっていいよ」

「あんたは平気なのか?」

「このくらいはね」


 確かに熱いけれど直ぐに馴染んでくる。すると寧ろ心地よくて、ジワッと奥へと染みてくる感じがする。日本人って温泉好きだよな……が、よく分かる感じだ。


 しばらくはクナルも頑張っていたが、それも限界だったのだろう。ザバン! と立ち上がり、かけ湯をして今は涼んでいる。肌が白いから余計に赤く見えるよな。


「上がったら冷たいもの飲もうか」

「賛成だ」


 少しへばっているクナルを微笑ましく見ながら、俺は温泉を堪能したのであった。


 温泉から上がって浴衣に着替えると、クナルの浴衣に対する意識が変わった。


「涼しい。それに、汗を吸ってる」

「麻で出来てるんだ」


 麻は通気性がよくて汗を吸収してくれる。

 さっきまで少し熱かったらしいクナルは快適なのか機嫌がいい。そのまま表の売店で冷たい牛乳を飲み込んで、これもクナルはお気に召したようだった。

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