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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
2章 おまけの兄→女神の使徒
135/154

135話 収穫祭(7)

「クナル、鍋に水を四分の一くらいの深さで入れて火にかけて」

「おう」


 腕をまくって言われたとおりにしてくれる。この間に蒸し用のプレートを用意する。この世界にも蒸し器はあるんだよね。

 沸騰した所でセッティングして十分程放置。その間にみたらしを作ろう。


 鍋に醤油と砂糖と水、そして片栗粉を入れる。あったんだよ、片栗粉。騎士団宿舎のマジックボックスの中に不動在庫として!

 グエンに聞いたら「小麦粉かと思って使ったらとんでもない事になった」らしい。悲劇しか想像できない。


「それ、マジックボックスの中にあった粉か」

「そうだよ」


 これらを火に掛ける前にしっかりと溶いてから弱火にかけて練り続ける。最初は濁っているタレも火が入る事で少しずつ透明感が出てくる。

 醤油の香ばしい匂いと砂糖の甘い匂いが合わさったものが会場へと流れていく。


「美味そう」

「後でね」


 クナルが覗き込んでそんな事を言うのに笑い、とろみのついたタレを火から上げて更に少しの間混ぜている。粗熱を冷ますんだ。

 その間にカボチャがホクホクになっている。蒸し器から取りだしてボウルへ。そしてクナルにマッシュ器を持たせた。


「……え?」

「これでカボチャが滑らかになるまで潰すんだ」

「おっ、おう」


 大きなボウルにそれなりの量のカボチャ。クナルはそれでも頑張って潰してくれた。


「腕つらい!」

「大丈夫だよ」

「あんた、細いのにこういうこと続けられるのなんでだ!」

「俺、腕の筋肉はあるよ?」


 持久力のある筋肉が育つんだよね。


 綺麗に潰したカボチャに片栗粉を入れて更に潰す。くたくたのクナルにかわって俺が。そうしている間にカボチャペーストが餅のようになってくる。そこですかさず小判型に整形。今回は二口くらいで食べられる大きさにした。

 フライパンにバターを溶かし、そこに餅を並べてあとは焼く! 焼けたものは小さな紙の皿に乗せてみたらしを掛ければ完成だ。


「できました!」


 所要時間は三十分程度か。まだまだ焼いているけれど出来たてが美味しいからな。


「早い! では、並んで一つずつですよ!」


 司会の人が誘導してくれて、沢山の人が並んでくれる。俺はじゃんじゃん焼いて、クナルが仕上げて渡している。


「美味しい!」


 色んな人のその声を聞くと嬉しい。笑う俺の隣でクナルも笑っている。

 その中で、気になる人が俺の前で足を止めた。


「醤油に砂糖……とろみに片栗粉。貴殿は瑞華の生まれではなさそうですが、如何にしてこのような調理方法を?」

「え?」


 驚いて見ると、何だか親近感のある顔だった。短い黒髪に比較的平べったい顔立ち。つまり日本人顔なんだ。服装も洋装よりは和装で、袂のない前合わせの着物に足首ですぼまったもんぺのようなものを着ている。

 ただその人の頭には大きな三角の狐耳と、尾が三本あったが。


「……え?」

「東国の者か」

「え!」


 クナルがこちらをちらっと見て言う。それに青年も嬉しそうに頷く。目尻に紅を引いた目元が細くなった。


「旅の行商ですので、祭と聞いたら来ない訳がない。そうしたら故郷の匂いがしたもので」

「食べていくといい。美味いぞ」

「それはもう食べずとも分かりますよ! 有り難く、ご相伴にあずかります」


 言い回しすら懐かしい感じがする。

 皿を受け取った人がそれは美味しそうに食べているのを見て、俺はちょっと嬉しくなった。

 ただ、クナルはどこか複雑そうな顔をしていた。


「クナル?」

「なんでもない」


 「なんでもない」という感じもないんだけれど。何か悩み事があるんだろうか。

 隣の人がちょっと落ち着かない。それが気になった俺だった。


 料理コンテストは無事に終了。俺は二位に入って木箱一杯のりんごを貰った。食べ慣れない料理で挑んだわりには好成績だったんじゃないか?

 ついでに参加していた料理屋の人達とも交流が持てて収穫が多いものだった。


 気づけば辺りは少し暗くなってきている。徐々に冬に向かうからか、最近は暗くなるのが早い。出店にも明かりが点り始める。


「終わっちゃうね」


 なんだか寂しい気持ちで呟くと、クナルが俺の手をギュッと握った。


「もう少し付き合わないか?」

「え? いい、けど」


 真剣な眼差しにドキリとする。いつになく真っ直ぐ見てくるから、そのまま俺の心臓は音を立ててしまう。甘く、締め付けるように。

 掴まれたままの手を繋いで歩くクナルの隣に並んで、俺は自分の気持ちをどう伝えたらいいのか、そんな事を考えていた。


 クナルが連れてきたのは宿舎だった。お祭りという事もあって今日は皆出払っていてデレクやリデル、グエンすらこの時間にいない。何かあっても街中に団員が散らばっているから自然と対処するそうだ。

 静まりかえっている宿舎の二階にあるクナルの部屋からは王城が見える。それと一緒に、少し遠くなる祭の明かりも。


「楽しかったね」


 窓からそんな景色を見下ろしながら言う俺の背後にクナルも立って外を見ている。遠くを見る楽しげな薄青い瞳を見て、やっぱりこの胸は音を立てるんだ。


「過去一楽しい祭だった」

「そうなの?」

「あぁ」


 こちらを見下ろす柔らかな瞳と笑みがある。キュゥと締め付けられる。今の彼を見つめているのは自分だけなんだって思うと嬉しいような、落ち着かないような。


「もう少ししたら城から花火が上がる。ここは他の家より高いからよく見えるんだ」

「花火!」


 その単語に胸が躍る。元の世界でも夏になれば花火大会があちこちで行われていた。会場近くまで行って見るほど熱心ではなかったけれど、テレビの中継を見ながらビールと枝豆と焼き鳥を食べるのが好きだったな。


「マサの元の世界にもあったのか?」

「あったよ! 夏になるとやるんだ」

「夏なのか」

「意味はあるよ。俺の世界では夏には先祖の霊が帰ってくるから、それを供養する為とか、祭を賑やかにする為とか」


 この季節には両親が帰ってきてるのかな? なんて思いながら迎え火を焚いたっけ。そして、送り火はちょっと苦しかったな。

 そんな事を思い出してしまった。


「魔法……は、ないんだったな。どうやってたんだ?」

「火薬っていう物に色をつけて、それを打ち上げて上空で爆発させるんだと思う。詳しい仕組みは分からないけれど。こっちでは魔法なの?」

「あぁ、魔法だ。宮廷魔術師が魔法で打ち上げる。収穫祭と建国祭に」

「やっぱりお祭りには花火なんだね」


 そんな事を話していると突然、窓の外が色んな色に光った。

 慌てて見上げた濃紺の空に沢山の色の花火が打ち上がっている。赤や黄色、緑は勿論。ピンク、水色、そして紫に白も。丸い花の形は勿論で、変わったのだと動物の形とかもある。けっこう細かい。魔法だからかな?


「凄いよクナル! 凄く綺麗……」


 暫く空の景色に釘付けになっていた俺は、クナルも同じように見ていると思っていた。だから振り向いた時、彼が真剣な様子で綺麗な箱を俺の前に差し出しているのを見て言葉を失った。


「マサ、受け取って欲しい」


 そう言って取りだしたのは、とても綺麗な耳飾りだった。

 丸い銀色の土台のそれは、露天で見た物よりもずっと繊細な細工で作られている。片翼を広げたような意匠、その先端には下がりの小さな薄青い魔石が揺れている。

 それだけじゃない。羽の付け根にはもう少し大きな同色の魔石が埋まっている。


 これの意味を、俺はもう知っている。


 ギュッと胸を掴まれたみたいに苦しくなった。でもそれは嫌だからじゃない。甘く、深く締め付けられてジンジンする。緊張で言葉がない。嬉しさと戸惑いで、どんな顔をしていいか分からない。


 クナルは真剣な表情のままこちらを見ている。魔石と同じ薄青い瞳には静かな決意が燃えているみたいに見える。


「嫌か?」

「違う! ……好きだよ、俺。クナルのことが好きだ」


 溢れるように出た言葉が、結局どんな言い訳をしても全てだって思った。この気持ちは何よりも確かなんだ。

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