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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
2章 おまけの兄→女神の使徒
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134話 収穫祭(6)

 盗み見るように彼の顔を見てしまう。この耳に飾りをつけるなら、どんな物が似合うのかって。


「……」


 思って、恥ずかしくなる。彼の気持ちを知っている。でも俺はまだ返事をしていないのに。

 ……しないと、な。少なくとも一緒にはいたい。大事にされている。大事にしたい。まだ番までは考えられないけれど。


「マサは、嫌か?」

「え?」

「装飾品、つけてないだろ」

「あぁ、うん。料理するのに指輪やブレスレットは邪魔だし、何より似合わないしさ」


 そう言って笑った俺の耳をクナルがフニフニと触る。薄い耳だと思う。ピアスも怖くて開けていないし。


「……分かった」

「?」


 何が分かったんだろう?

 思いながらもクナルが立ち去るから、俺もそれに付いていった。


「クナル?」


 隣を歩く人は少しの間真剣な顔で無言でいる。その隣を俺も少しの間何も言わず並んでいる。ほんの少し、空気が重いように思えた。


 気を取り直して次の目的地はスパイス屋。ここは行ったことがない。話によるとドラゴニュートの店らしい。

 ベセクレイドから南、エルフの森を更に越えた先にはドラゴニュートが暮らす国があり、スパイスやハーブの産地なのだという。


「香辛料は大事なのに、グエンもそこにはあまり行かないって言うんだよな。無くなりそうになったら手紙送って届けてもらうって」

「あ……」


 クナルは分かるのか、なんとも苦い顔をする。

 そのうちに小さな店に辿り着いた。明るい感じの店で、窓からは作り付けの棚に沢山の瓶が並んで見える。全てにラベルが貼られていた。

 意気揚々とドアを開けると可愛らしい音がする。独特の香辛料の香りもほんのりと。奥のカウンターに量りがあるから、あそこで量り売りをしているに違いない。


「うっ」

「クナル?」


 見るとクナルは自分の鼻を押さえて眉を寄せている。もの凄く渋い顔だ。


「え? どうしたの!」

「あらあら、珍しいわ。ここに鼻のいい獣人さんが来るなんて」

「え?」


 顔色の悪いクナルに慌てる俺の横合い、店の奥から一人の女性が近付いてくる。スラリと背が高く、サラサラした綺麗な染め物のワンピースに布の帯を締めている。

 肌は濃いめの褐色で、額には二本の、少し湾曲した角がついていた。


「あの……」

「獣人は鼻がいいから、香辛料の匂いが辛いみたいなの。お付きの方、無理なさらない方がいいわ」

「えぇ!」


 そういう大事な事は言って欲しかった!

 ……いや、俺が配慮すべきだったんだよな。鼻がいいのは知っているんだから。自分を基準にしたら、ここでは駄目なんだ。


「クナル、無理しないで」

「いや」

「大丈夫、ここにいるから。クナルは少し外に出てて?」


 笑って言ったらクナルは迷って……でも、やっぱり辛かったみたいだ。「二十分で戻るから、来るまで店にいろよ」と言って出ていった。


「優しい彼氏さんですね」

「え! あの……そう、見えますか?」


 驚いて問うと、彼女はニッコリと笑った。


「獣人は囲い込む人も多いみたいですね。あの方、本当は離れたくなかったんじゃないかしら」

「……」


 くすくすっと笑われて、恥ずかしいけれど嬉しくもあって。

 俺、多分もう気持ちは決まってるんだよな。


「さて、それで? 何をお探しですか?」

「あっ、えっと……」


 問われてポケットの中をごそごそする。事前に必要な香辛料をメモしてきたんだ。


「クミン、ターメリック、カイエンペッパーに、コリアンダーと、ガラムマサラがあれば」

「それって……カレーですか?」

「!」


 それは予想していない反応だった。その名前が出てくるってことは、この世界にカレーがあるんだ!


「カレー、あるんですか!」

「え? えぇ。ドラゴニュートの郷土料理ですけれど……不人気なのよ?」

「え?」


 不人気? あんなに美味しいものが? 子供の好物上位に入る定番家庭の味が!


 目を丸くする俺に、彼女は困ったように笑った。


「獣人には匂いや刺激が強いみたいで」

「それって……」


 いや、確かに刺激物が多いけれど。


「あの、もしかしてそのカレーはサラサラしていて、スパイスも凄く沢山入っていて」

「えぇ」

「インド系とかの本格カレーだ」


 俺が知っているご家庭のカレーは欧風カレーだ。欧風って言っているけれど、日本産だったりする。香辛料を沢山いれるインドやタイのカレーとは違って、とろみがあるのが特徴だ。そして味もマイルドだったりする。

 牛骨とかのスープと、玉ねぎや芋、人参や肉を入れて作っている。これにスパイスを入れているんだ。

 そっちなら、食べられるかもしれない。


「さっきの材料、一通りください」

「わかりました」


 可能性はある。もし駄目だったら星那にお裾分けしよう。そう決めた。

 量ってもらっている間に店内を物色。綺麗に並べられた棚の商品を見ていると、端っこの方になにやら見つけて足を止めた。

 赤茶色っぽい少し大きな豆だ。そこから、独特の匂いがしている。香ばしくビターなナッツ系の……。


「んんっ!」


 思わずその瓶を手に取ってしまう。俺の記憶が確かなら、これって……。


「あら、それも知ってるの? 健康食品みたいなものだけど、もの凄く苦いのよ? 現地人でも慣れないとちょっと涙目になるわ」


 健康食品? いや、確か大昔はこれを粉にしてスパイスを加えて飲んでいた。栄養豊富な食品で、疲労回復や老化防止の効果がある。

 これに大量の砂糖をぶち込み、ミルクや油脂を加えたのはヨーロッパ人だ。


「あの、これの名前って……」

「? カカオよ」

「ください! 多めに!」


 これは上手くすればチョコレートが出来る! 大変だけど、大昔の人はできたんだ! 人力だってやれるんだよ!

 幸いこの国では沢山砂糖が作られる。だから砂糖は安価だ。上手くいけば……やれる!


 カレーに必要なスパイスと大量のカカオを購入した俺は満面の笑顔だ。そこにクナルがきて、店を後にした。


「……臭う」

「ごめん」

「いや、慣れないだけだ。鼻がいいってのはこういう時がしんどい」


 俺は感じないけれど、どうやらスパイスの匂いが移ってしまったらしい。管理もよくてそんなに強いと思わなかったけれど。流石獣人だ。


 俺の用事もこれで終わりで、今度は王城前の広場へと向かう。ここが収穫祭のメイン会場だ。

 沢山の人が楽しげにしている。その中央にあるステージでは、何やらイベントが行われるようだ。


「料理コンテストだよ! 参加者募集中だ!」

「!」


 これを聞いて、俺はソワソワと隣のクナルを見る。その視線だけで彼は何事か察して、思い切り溜息をついた。


「あんたなぁ」

「お願い!」

「……俺が側に付けるならいい」

「やった!」


 最近はグエンが料理を張り切っているから、あまり俺が出来る事がなかった。作りたい欲求はあるんだよ。

 クナルの腕を掴んで前に出て、司会のおっちゃんに参加を申し込んだ。クナルは助手ということでOKをもらった。

 そのまま十分ほどが過ぎて参加者は締め切り。用意された調理スペースには立派なカボチャがある。


「テーマはこのカボチャ! 調理時間は一時間! 材料はご自分の持ち物と舞台上の物は自由に使って構いません!」


 スタートの合図と共に俺はカボチャに包丁を入れる。硬いけれどそこまで辛くはない。半分にしてワタを取って、後は適当に切る。皮も取り除くけれどそんなに丁寧じゃなくても大丈夫。


「何作るんだ?」

「かぼちゃ団子」


 これを見た時、それにしようと決めたんだ。

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