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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
2章 おまけの兄→女神の使徒
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132話 収穫祭(4)

 表に出るとメイン通りは勿論、市のある食品通りにも沢山の屋台や露店が出ていた。行き交う人は思い思いに買い食いをしたり、露天を見たり。芝居小屋も今日は特別な演目なんだそうだ。広い場所では大道芸も披露されている。


「凄い!」


 ちっぽけな悩みくらいは簡単に吹き飛ぶパワーを感じて、俺は目を輝かせてクナルを見る。彼は笑って頷いて隣に並んでくれた。


「軽く食べながら見て行くか。もう少しでお昼時……」


 言いながら、クナルの鼻がヒクヒクと動く。そして目が思い切り輝いた。

 でも俺も感じている。肉の焼ける匂いに乗せた甘塩っぱいタレの匂い。思い切りこちらを誘惑する匂いだ。


「マサ」

「いいよ」


 伝えるとクナルは匂いに誘われていく。隣を歩きながら、俺はこれにちょっと予感があった。


 辿り着いたのは宿舎に近い場所。そこで見知った人が屋台を出していた。


「ガンツさん!」


 声をかけたのは食品通りで肉屋をしている豚獣人のガンツさん。以前クナルに案内された店の店主だ。豚獣人であるこの人が肉屋をしているっていうのは……未だにじわじわクルものがあるが。

 彼は炭火台で肉を焼きながらこちらを見て、パッと笑顔をくれた。


「おう、マサか!」

「こんにちは」

「なんだ、親父さんの店か」


 一緒に近付いていくクナルがそんな風に言うが、ガンツは豪快に笑った。


「おいおい、ご挨拶だな。せっかく美味い肉が焼けたってのに」

「食う!」


 飛びつくみたいなクナルが豚串を三本、鳥串を三本頼むと、彼は側にある壺に肉を浸して追加で焼き、更にもう一度浸してから皿に置いて渡してくれた。


「親父さん、このタレ」

「おう、マサが教えてくれたやつだ。焼き鳥のタレ? って言ったか。これがまた美味くてな!」

「ほぉ……」

「……」


 途端、ジトリと睨まれた。

 王都にも慣れて一人で買い物に出る事もある。そうなると食品通りに行きつけの店が出来たり、店主と仲良くなったりする。その中で色々とあるわけなんだが。


「ちゃんとお金もらったから!」

「あんなの払った内に入らないんだけどな」

「うっ」


 だって、普通に焼き鳥とか豚串が食べられたらいいなって思ったんだもん。なんならコロッケとかメンチカツも買い食いで食べたい!


 ガンツの店では生の肉の他に、簡単な惣菜のような物も売っている。その新作について相談されたおり、提案したのだ。

 材料は醤油、砂糖、酒。みりんの代わりに蜂蜜を少々だ。これらを鍋に入れて煮詰めていき、とろみが出たら冷ます。簡単なものだ。


「うま!」


 何かを言いたげにしながらも匂いの誘惑には勝てない。豚串を一つ頬張ったクナルは途端に目を輝かせる。

 俺も鳥串を食べたが、本当に美味しい! 甘塩っぱいタレが肉に染みて絡み、炭でじっくり焼かれ所々が少し焦げてもいるがこれも。何よりヘルシーだ。余分な油が落ちている。


「言われた通り、減ったらその分を作り足して育ててるからな。肉の旨味や脂がタレに溶け出して最初よりも旨味が増えてんだ」

「最高だよ!」


 これが店で買える。ちょっと食べ歩きの幸せを噛みしめる事ができる幸せだ。

 クナルはすっかり平らげて、それでもまだ足りなそうにしている。でもここで腹一杯にするのは勿体ないから、俺達は先に進んだ。


 メイン通りからいつもの食品通りへ。収穫祭ということもあり、やはり食品を扱う通りは賑わっている。

 その中で一つ目の目的地へと辿り着いた俺は店へと入っていった。


「こんにちは!」


 店内は盛況で人が沢山いる。バター、牛乳、チーズ。ここは乳製品を専門としている店だ。

 店の奥にあるカウンターでは牛獣人の女性が忙しそうにカップを客に手渡している。横には専用の冷凍容器もあった。

 そんな彼女と目が合い、ふわっと和やかな笑みを向けてくれた。


「マサさん、こんにちは!」


 彼女の名前はメリッサ。この乳製品専門店の店主だ。実家がモーモー農家で、毎日新鮮な牛乳を騎士団にも卸してくれている。

 女性らしい肉付きの体で胸が大きく、愛らしいおっとりとした顔立ちの彼女は店主であると同時に看板娘でもある。


「……おい、マサ」

「ん? なにクナル?」

「あれ、アイスじゃないのか?」


 メリッサが手渡しているものを見てクナルが渋い顔をする。心なしかゴゴゴゴゴッという擬音が聞こえてきそうだ。


「な、何の事かなぁ?」

「お前、ここにもレシピ売ったのか!」

「ちゃんとお代もらったもん!」


 大量のバターを対価として貰った! 殿下から貰ったマジックバッグとマジックボックスは時間経過がないからって調子に乗って二桁キログラムも貰ったんだ!


「だからって!」

「それに、俺じゃアイス作れないもん。食べたいじゃん、買い物帰りとかにちょっとだけ」


 この世界には『冷凍』という保存方法がない。全てはマジックボックスという魔道具の普及のせいである。

 冷蔵室はある。少し涼しくしてあり、短期の保存や根菜の保存に使われる。

 だが長期保存と考えると少しくらい値が張っても時間経過なしのマジックボックスを買う方が主流なのだ。そうだよね! 腐らないどころか鮮度もそのままだしね!


 だがそうなると冷凍技術がない。結果、アイスを作る為には氷魔法の得意な人に冷やしてもらわないといけない。俺に、氷魔法は使えないんだ。


「まぁまぁクナル、そんなにマサさんを怒らないで」


 声を掛けてくれたメリッサのおっとりとした声で癒される。

 とっ、そこにもう一人小柄な女性がひょっと顔を出した。


 彼女はとてもスレンダーな人で、金に近い茶色の髪をツインテールにしている。大きな青い目をこちらに向け、顔一杯の笑顔で出迎えてくれた。


「マサか! 何仕入れにきたんだ? またバターいるか?」

「アイナさん」


 彼女はメリッサの番で、ねずみ獣人のアイナ。厨房担当でバターにチーズ、アイスも作っている。氷魔法が得意で、俺の言う事も直ぐに理解してくれた。


「昨日お願いしたチーズ出来てますか?」

「おう、任せとけ!」


 小さい体をぱっと翻した彼女は裏へと向かい、次には蓋のない木箱にお願いした品を詰めて俺の前に置いた。


「わぁぁ」


 もちもちっとした白くて丸い塊。それが丈夫な防水袋の中に浮いている。


「なんで液体の中に入ってるんだ?」

「食塩水だよ」

「濁ってるぞ?」

「ホエーが滲み出てるからね」


 モッツァレラチーズは発酵させていないフレッシュチーズの一つだ。その為独特の匂いや癖が少なく食べやすい一方で保存が利かない。衝撃で形が崩れる事もあるので、保存と運搬の為に食塩水の中に入れるのが一般的だ。


「最近作り始めたばかりでさ。マサが昨日大量に欲しいって言ってたから準備してたんだ」

「美味しいんだよ、これ。カプレーゼとか」

「トマトとこいつを薄切りにして、オリーブオイルと塩振ったやつだろ! メリッサが気に入ってよく食卓に出るようになったぜ」


 ニシシッと笑うアイナが腰に手を当てて嬉しそうにする。

 俺はそれをマジックバッグに入れて財布を取り出したが、その段階でアイナに待ったをかけられた。


「金はいらない」

「え!」

「お前な! アイスの売上どんだけあると思ってんだ? キロ単位のバターじゃ流石に足りないってメリッサとも話してたんだ。ってことで、これは追加のレシピ代だ。いいから持ってけ」

「そんな。申し訳ないです」


 ちゃんとお金は取らないと商売にならない。贔屓にしている店が潰れてしまう事の方が損失大きいのに。

 でも、アイナもメリッサも笑っている。


「本当に、凄くお客さん増えたんで。それは受け取ってください」

「そういうこと!」

「マサ、受け取っておけ。感謝は有り難く受け取るもんだぞ」

「うぅ……分かった。ありがとうございます」


 こうまで言われたら受け取らない方が嫌な顔をされてしまいそうで、俺はありがたく貰う事にした。そのかわり、今俺が作ろうと思っているやつが美味しく出来たらそれを二人に教えよう。

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