128話 聖樹の森(16)
「あの森は封じられている。生きて戻ってくる事など不可能だ」
「どうだかな。だが数千年も種が誰かの手元に残っているとも考えられない。それに、それが可能かもしれない奴等がいるだろ?」
「……女神神殿の大神官」
「そういうこった」
また女神神殿。しかもそんな魔物の種をどうして。世界を守っている神獣を殺そうとした?
「あいつらのいる天空神殿は魔の森の真上だ。そしてあいつらにはメリノ様の加護がある。短時間ならどうにか生きているだろうな」
「……証明できる方法は」
「ない。俺も今回の犯人が誰か見ていない。ただ、状況を並べて無理がなさそうなのがそこだってだけだ。だからこそ、気をつけろ智雅。お前の力が知れれば奴等が何をするか分からない。女神を頂いてはいるが、あいつらが何なのか見えてこないからな」
「はい」
脅すように言う、その言葉の恐ろしさを俺も感じる。
この力は誰かに偏って使ったらいけないんだと思う。まして蘇生なんて。
俺はこの秘密をずっと抱えて、言わずにいないといけないんだ。
正直震える。怖くないなんて言えない。そんな俺の肩を、クナルがギュッと抱きしめた。
「一人で抱えなくていい。俺もいるって、忘れるなよ」
「クナル……うん」
なんだろう、これだけで少し軽くなる。俺だけの秘密が俺達の秘密になって、話せる誰かがいて。それがこんなにも頼もしくて嬉しいんだ。
「まぁ、そういう事だ。頼むな」
「あんたは?」
「森の奥で少し力を溜める。今回の事でかなり力が削れてるからな」
「分かった。感謝する」
「おう、頑張れ」
そう言った後、シムルドの姿は白銀の狼に変わり、森の奥へと消えてしまった。
それを呆然と見送った俺の後ろから、クナルがギュッと抱きついてくる。大きな体が触れていて、そこからジワリと熱くなってくる。
「クナル?」
「今日だけで頭の中パンパンになりそうだ」
「あっ、そうだよな! ごめん、色々言わないままで」
隠していた後ろめたさがちょっとある。
でもクナルは直ぐに「それは隠しとけ」と言ってくれた。スケールの大きさが大嘘レベルだもんな。それに、危ないし。
「これからは俺もお前の助けになる」
「うん、凄く頼もしいし、楽になるよ」
前に回ってる腕に触れて、俺も笑う。そうしたらまたちょっと眠くなってくる。
「寝るか?」
「んっ、そうだね」
横になる俺。その背中にぴったりくっついて何故か横になるクナル。
……ん?
「えっと、クナル?」
「なんだ?」
「……このまま寝る気?」
「そうだけど」
何で!
「クナル!」
「あんたがちゃんと居るって確かめてないと寝付けない」
拗ねたみたいに言われたら、何か……断りづらいな! 心配かけたの俺だしね! 色々秘密にしてたしさ! 後ろめたさ凄いんだけど!
悶々とする俺の背中でクナルが笑う。腰に回った腕が弱く引き寄せてくる。
「観念して寝ろよ」
「……おやすみ」
背中の熱が落ち着かないまま、俺は眠気も何処かに吹っ飛んで暫く寝付けなかったのだった。
◇◆◇
翌日、俺の体調も大丈夫となって王都へと戻る事にした。
「そんなに早く戻らずともよいのに」
そんな風に言うのはルルララ様。その隣にはセレンと、妖精女王のアルルもいた。
『森を救ってくださった恩人をもてなさないままだなんて、酷いですわ』
「いいよアルル、もっと言って! せっかく宴を考えていたのに!」
「あはは……」
そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり気になるしさ。
王都を空けてけっこう経つ。それに、今回得られた情報を殿下にもある程度共有したほうがいいと思うんだ。
「それにしても、リンデンも王都に帰るのか」
俺達の側に立つリンデンが苦笑して頷く。これに兄のセレンは何か言いたそうだった。
「リンデン、ここに留まっても構わないと思うが」
「私は王都でやりたい仕事を見つけたんだ。そろそろ店を開けないと、お客さんが困るしね」
そう言いながら歩み寄った二人はしっかりと握手をする。スッキリとした笑顔で。
「また戻ってこい」
「勿論」
どうやらリンデンも後ろめたい思いとかが薄らいだみたいだ。
『それでは王都まで転移いたしましょうか』
一連のやりとりを終えた俺達にアルルが声をかけてくれる。今日ここに彼女がいる理由はこれだ。俺達を王都まで転移魔法で送ってくれるという。魔力も戻って可能になったとか。
妖精女王の肩にルルララも手を置いて魔力を供給している。俺達は用意された魔法陣の上に乗って、その時を待った。
「また何時でもおいで、マサ」
『歓迎いたしますわ』
「ありがとうございます! 必ず!」
約束を交わし、魔法陣が光を帯びる。不思議な浮遊感がある。
「それでは! 『テレポート!』」
声の後、一瞬体が浮き上がるような不思議な感覚があった後で視界が大きく流れていく。そうして気づいた時には王都近くの街道だ。
見慣れた城壁を見て、懐かしいような気持ちになる。そんな俺の肩にクナルがポンと手を置いた。
「行くぞ」
「うん」
大きな手と手を繋いでゆっくり進む道。帰ってきたんだって思える嬉しさがある。俺にとってここは、もう帰る場所なんだな。




