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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
2章 おまけの兄→女神の使徒
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121話 聖樹の森(9)

 俺の気持ちも温まる。身を寄せてしまえば視界はクナルで一杯になるから、周囲は徐々に気にならなくなる。強い腕が体に回って、温めてくれて、ふさふさの尻尾が俺の体に掛かるように触れていて。


「温かいね」


 トロトロと眠くなる、そんな微睡みの時間。呟いた俺の声をひょこっと立った片耳が拾っている。そんな所もさ、可愛いなって思うんだよ。



 翌日、俺達は改めて妖精女王の元へと案内された。

 途中休憩を挟んでその神殿に辿り着いたのは昼を少し過ぎた頃。ぽっかりと開けた中にあった。

 ギリシャの神殿を小型化したようなそれはそんなに広いとは思えない。大人の男が十人入れば窮屈くらいの感じで、白い柱に蔦文様のレリーフがされた、三角屋根の綺麗な場所だった。


「初めてきた」


 リンデンは呟くように言っている。そうして案内に従い神殿の扉を開けると、その先に玉座に座った小柄な女性と、その脇に立つ金髪にはっきりした目鼻立ちの長身の男性がこちらを見ていた。


「兄貴!」

「リンデン!」


 男性は驚き歩み寄ってくる。それにリンデンも駆け寄り、二人は再会を喜んで抱き合った。


「良かった、生きていて。行方不明と聞いてどれだけ肝が冷えたか」

「すまない。だが帰るに帰れず、伝えることも出来なかったのだ。許せ」


 なんとなく、俺はリンデンと兄のセレンの間には壁があるのかと思っていた。それはリンデンが心配しながらも、何処か壁を置いている感じがあったから。

 でも、違ったんだな。この光景を見ると、俺は素直にそう思える。


『女神に選ばれた聖人様ですね』

「え?」


 不意にした少女のような声に俺は驚く。見ると玉座に座ったままの少女がスッと立ち上がり、容姿に似合わぬ落ち着いた淑女の顔で微笑みかけていた。


 薄く日に透けるような銀の髪を三つ編みにして結っていて、そこに小さく綺麗な虹色の王冠をつけている。背中には妖精の羽根をつけていた。


『ようこそ、私の神殿へ』

「いえ。相沢智雅と申します。呼びやすいように」

『ありがとう、マサ。私はアルルムルプリト。アルルで構いません』


 軽く会釈するアルルに、俺も慌てて頭を下げる。その隣でクナルが丁寧に腰を折った。


「彼の護衛で、クナルです」

『よろしく。さて……不躾ですが時間も惜しいので、お話をさせて頂いても宜しいかしら?』


 ニッコリと微笑んでクナルにも視線を向けた彼女だったが、直ぐに真剣な顔をする。途端に空気が引き締まった感じがして、俺達も背筋を伸ばした。


『ふた月程前、突如森神様の姿が見えなくなりました』


 女王はそう、唐突に伝える。

 何でも妖精は森神の世話をしているらしい。その中でも直接森神に会えるのは、アルルだけだとか。


『元々弱っているとは仰っておりました。呪いを受け、暴走しそうな自我をどうにか繋いでいるのだと。だからこそ、森神様は自身が作った結界の中でのみ生き、枷を付けておりました』

「リヴァイアサンを思い出すな」


 クナルの言葉に俺も頷く。そして何故かアルルも頷いた。


『海龍もまた同胞だと言っておりましたわ』

「それじゃあ、森神様もやっぱり神獣なんだ」


 予測が当たって嬉しい半面、そんな大切な存在が突如消えたという不安が押し寄せる。急速に、事態が動いている感じがある。

 アルルは頷き、俺をジッと見た。


『私はあの方の話し相手でした。この森を守り、豊かにしてくださる森神様にお仕えするのが喜びでした。ですが二ヶ月前、突如姿を消した森神様と入れ替わるように、とんでもない魔物が奥地に現れたのです』

「魔物?」

『エルダートレント。植物系魔物でも滅多に現れない厄災級の魔物です』

「!」


 これに俺は驚き、リンデンは震え、クナルは低く唸り声を上げる。セレンはうつむき、グッと拳を握った。


『奴は根から土地の魔力を吸い上げて成長し、伸ばした枝を鞭のように振るうばかりか魔法も使います。更にその種子からはトレントを生み出してしまう。森の木々が枯れ、代わりにトレントなんて魔物が増殖してはこの森は死んでしまいます』

「だから聖樹にも影響が出たのか」


 リンデンがハッとしている。これにセレンは頷いた。


「私も驚いた。だが事実だ。女王陛下の遠見でエルダートレントを見たが、あんなに禍々しい魔物を見たことはなく、背筋が震えるのを感じた。どす黒い瘴気を樹皮のように纏い、土地の魔力を吸い上げている」

「そんな……」


 絶望するリンデンは今にも倒れてしまいそうだ。

 だがそこで、クナルがグッと前に出た。


「倒すぞ」

「クナル」

「放置すれば周辺にも影響を出す。しかも土地の魔力を吸っているなんて冗談じゃない。今ここで倒す」


 力強い言葉と意志の籠もった目。それを見て、俺も強く頷いた。


「倒せますか?」

『分かりません。ですがまだ成長しきっていない今でなければ難しくなります。奴はまだ実を付けていません。眷属であるトレントを生み出していませんわ』


 加えて、エルダートレントはしっかりと地に根を張っているので場所を移動はできない。ただ、根も枝も葉も自由自在に動かして攻撃するのが厄介らしい。


『申し訳ありません。私が動ければ伝えに行けましたし、誰かが行ければ良かったのですが』

「出来なかったのか」


 クナルの問いかけにアルルは悲しげに頷き、セレンを見た。それに応えるようにセレンはアルルの側に行き、手を取って彼女に魔力を分けている。


『こうして貰わなければ私の命など数日でした。他の妖精達も力を失って仮死状態。唯一小さなその子達だけが動けたので、お願いしたのです』

『アタシ達小さいからね』

『魔力ちょっとでも動けるんだぞ』


 エッヘンと誇らしげなキキとモーラがなんだか可愛い。ちなみに朝起きたら半透明に戻っていたけれど、彼らの好意で姿が見えるようになってもらっている。


「私も戻って伝えようとは思ったのだが、この状態の女王陛下を放っておくことは出来ない。森の秩序が完全に壊れてしまえば修復は過酷なものになる」

『セレンに甘えてしまいました。リンデン、心配をかけました』

「いえ! 事情が分かり、安心いたしました」


 オドオドしながらも返すリンデンは言葉通りだろう。ホッとした顔はしている。

 だが現状は一刻の猶予も無い。動かなければ。


「妖精女王、俺達は急ぎエルフの里に戻りエルダートレント討伐の準備をしたい。だが、大変な戦いになるだろう。おそらく森も何かしら傷つく。それを、容認してもらいたい」

『構いませんわ、クナル。今は森が枯れ果てるかの瀬戸際。それに傷を負っても、いずれ再生します。エルダートレントに枯らされたら再生もできません』

「ありがとうございます」


 丁寧に体を折るクナルが、俺とリンデンへと視線を向ける。それに俺達は頷いた。


『案内にキキを付けましょう。それと、転送魔法を一時預けます』

「転送魔法?」


 目を丸くする俺へとアルルは歩み寄り、手を握る。すると俺の手の甲に虹色に光る魔法陣が浮かび上がった。


『行ったことのある場所へ、瞬時に移動できる魔法です。頭の中に場所を思い描いて、『テレポート』と言えばできます。また、手を繋いだ者も運べますわ』

「凄い!」


 瞬間移動だ!

 思わぬ事にドキドキする俺に、アルルはニッコリと微笑んだ。


『でも、あまり多用は出来ませんわよ。もの凄く魔力を使いますの。しかも人数が多ければ多いほど』

「どのくらいだ」

『最低でも銀色が必要ですわ。マサさんは虹色級ですので少しくらい無理はできますが、だからといって乱発すれば危険です。お気をつけください』

「はい、ありがとうございます」


 それでもこれは切り札に出来る。

 俺はグッと拳を握って、他の二人を見た。


「一回戻ろう」

「そうだな」


 これをルルララ様に知らせないと。

 頷き合って出て行く俺達の背中に、アルルはずっと頭を下げていた。

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