120話 聖樹の森(8)
「あ!」
「!」
『!』
俺が声を上げて指を差したことで妖精の方も驚いたのかご飯を取り落とす。けれどリンデンは素早くそれを回収して魔法を放った。
『そんなの無駄だもんね~』
でも妖精の方は余裕だ。あっかんべーをしそうな様子で笑っている。
それがなんか、俺的には駄目だった。
近付いていく俺にも妖精達は構わない。逃げる様子もない。
だからこそ俺は手を伸ばして、男の子の方をむんずと掴んだ。
『え!』
『ちょっと!』
手の中で必死に体を捩って逃げようとする男の子と、そんな俺の手をポコスカ叩く女の子。
片や、突然空中を掴むような仕草をする俺を凝視するリンデンと、また何かしらやらかしていると察して額に手を置くクナル。
そんなそれぞれの中、俺は妖精達に向かって声を上げた。
「人のご飯を盗み食いしちゃ駄目。食べたいならちゃんと言わないと駄目なんだよ」
『お前、なんなんだよ! 見えてるのはいいとして、なんで捕まえられるんだよ!』
「それは俺も分からない」
まぁ、女神の力なのは間違いない。
「マサ、そこに……妖精がいるのかい?」
信じられないものを見るようにリンデンは問う。本来は見ることも困難で、触るなんてもってのほかな妖精だ。実体が無いって言ってたしな。
「はい。どうやら食べ物を盗んでいたみたいです」
「どうして触れるんだい!」
「あ……色々ありまして」
これも女神からのチートスキルの恩恵……なんだよな。
「マサ、俺達にも見えるように出来るか?」
「え? えっと……」
心の中で願ってみる。ここに居る人限定でこの二人が見えるようにと。魔力を込めて。
すると薄かった彼らの印象が鮮明になっていく感じがした。不透明度が上がった感じだ。
『え? え! なんで!』
「声も聞こえるように頼む」
「あぁ、うん」
冷静に腕を組んでいるクナルがジト目で妖精達を睨み、俺は言われるままに声も聞こえるようにと願った。
「なんで! 見えちゃう!」
「声が聞こえる!」
「ひゃうん!」
小さくだけれど声も聞こえるようになったようだ。
リンデンは唖然。クナルは溜息。妖精達はパニックになり、俺は苦笑だ。
「なんてことしてくれたの!」
「戻せ!」
「えっと……戻し方分からないかも……」
「「はあぁぁぁ!」」
思い切り批難の声を浴びている。けれどクナルはそんな二人の妖精を捕まえた。
「いやぁ!」
「乱暴するな、野蛮人!」
「人様の飯を盗んだお前等はコソ泥だろうが」
「取られる方が悪いんだい!」
「ほぉ? それなら捕まる間抜け妖精が悪いんだろ? 仕置きか?」
思い切り見下すクナルを前に、二人の妖精は小さく項垂れた。
「まずは謝れ」
「ゴメンナサイ」
「調子乗りました」
どうにもならないと判断したのか、二人はそう呟く。俺は苦笑して二人をクナルの手から受け取り、余分に持ってきていたお米と余っている豚汁を器に乗せてあげた。
「いいの!」
「どうぞ」
「わーい!」
これらを囲んで美味しそうにムグムグしている様子はなんとも微笑ましいのだが……リンデンだけがおもいきり固まっている。
「妖精が見える? 声が聞こえる? 触れる?」
「あ……スキルのお陰……かな?」
「そんなとんでもスキルがあるのかい!」
「えっと……」
まさか、女神の力をそのまま受け継いでいますとは言えないよな。
けれど俺達はとても有用な人物を手に入れたと言って過言ではない。なんせこの森で起こっているのは妖精の神隠し。それなら妖精に聞くのが一番だ。
「ねぇ、二人はなんて名前なの?」
食事に夢中な二人に問いかけると、女の子の方が手を上げた。
「アタシはキキ!」
「ボクはモーラ。兄妹だよ」
「あっ、俺も妹いるんだ」
伝えたら、モーラの方がニッと笑った。可愛い。
「聞きたいんだけれど、最近ここでエルフの人が行方不明になったの、知ってる?」
追加でもう少しご飯をあげると、彼らは誇らしげな顔をして胸を叩いた。
「知ってるよ! だって攫ったのボク達だもの」
「え!」
これには俺以上にリンデンが驚き近付いた。
「それは本当なのか!」
「わぁ! なに!」
「お前達が攫ったエルフの一人が、そいつの兄なんだ」
「セレンという。無事なのか」
問うと、キキの方がウンウンと頷いた。
「無事よ。全員無事。でも、背の高い金髪の男以外は皆寝てるわ」
「兄は起きているのか? 何故」
「女王様のお相手をしているの。魔力が高かったから、次の王になるだろうしって」
そう言ったキキがアムアムまた食べている。それにしても、随分食べる。多分だけれど自分の体以上に食べているな。
そしてリンデンは明らかにホッとした様子だった。
「生きている……」
「当たり前だよ、お客様だもの。女王様も申し訳ないって言ってたよ。緊急事態なのに連絡できないんだって。森神様の加護が突然薄れてしまったから」
「そんなことがあるの?」
いや、あるのかもしれない。俺はつい最近起こったリヴァイアサンのことを考えていた。神獣だった海龍も穢れと呪いの影響で理性を失い、魔物になりつつあった。同じようになっているなら、あるいは。
俺は疑っていたんだ。森神様というのが、蒼旬の言っていた神獣の一人なんじゃないかって。
「森神様の力が急速に弱まったんだ」
「だからアタシ達、お腹空いてるの」
「ボク達は魔力のある物を食べてる。でもそういう物が突然減ったんだ」
「だから今沢山食べてるの!」
思わぬ答えに驚く俺に、二人の妖精はウンウンと頷いている。
「凄く良質の魔力で美味しいの」
「お腹が満たされるって幸せ」
「女王様にも食べさせてあげたい。アタシ達がお腹空いてるからって、分けてくださるの」
「だから余計に女王様は力がでないんだ」
これに、三人が顔を見合わせた。思った以上にマズい事態になっている。
「それなら、どうして捜索の人は無事だった?」
「魔力が足りないから。女王様には高い魔力の人を連れてきてほしいって。出来ればエルフの女王がいいけれど、動けないだろうからって」
「兄を帰せばよかっただろ」
「駄目よ、人質なの」
「森の異変を正すまでは帰せないよ」
どうやらかなり強硬な手段に出たようだ。
「じゃあ、今回は妖精女王に謁見できるわけだな?」
「え?」
クナルを見るとニッと笑っている。その笑い方、ちょっと悪役っぽいよ。
「そうだね」
「十分ね」
一通り食べた二人は俺を見る。そして丁寧に頭を下げた。
「貴方を女王様の所にお連れいたします」
「どうかこの森を救ってくださいませ」
そう言われ、俺は不安でクナルを見る。けれどクナルは確かに頷いた。だから、俺も頷ける。
「宜しくお願いします」
「任せろ!」
モーラがぴょんと跳び上がる。
でもとりあえずこれで今日はお終い。おのおの眠ることになった。
結界を張っているから安心して眠れる。火はキキとモーラが見てくれるそうだ。妖精は眠らなくても平気だからって。今はキュイに凭りかかって火の側にいる。
耐水性の布を敷いた上に毛布を掛けて寝ているけれど、俺の隣にはクナルがいて、何故か腕枕をされて抱き込むようにされている。それを見たリンデンが遠い目をして、かなり離れて寝始めた。
「ちょっと恥ずかしい」
思わず呟くが彼は何処吹く風。知らんという顔をしている。
「クナル、やっぱり離した方が」
「嫌だ」
拗ねた子供みたいに口元がムッとする。けれど耳は落ち込んだみたいにへにゃっとするのだ。
背に回った腕が腰に回って、より引き寄せるようにされる。驚くけれど……本心では嫌じゃない。人目は気になるけれど、この温かさが凄く落ち着く。
目を閉じて胸元に収まると彼の心臓の音が聞こえる。少し早いのかもしれない。体温も高くて……緊張してる?
「クナル、緊張してる?」
問うと、彼は何も言わなかった。でもほんの少し白い頬が赤くなって、長い尻尾がすりっと俺の体を撫でた。
「ふふっ」
なんか、可愛いな。ツンとしてるのに好意が伝わってくるの。




