119話 聖樹の森(7)
ある程度味が決まったら具材を投入してまた煮込む。完全に火が通らなくても大丈夫! これはご飯と一緒に炊き込むから。
そう、俺が作っているのは鶏肉とキノコの炊き込みご飯。これは作り方が色々あるし、簡単なのだと洗った米に分量の水と調味料を入れ、上に具を乗せる方法。
でも俺はそうじゃなく、先に全部を煮込んで味を調えた煮汁で作る方法をよく使う。一つに米がべちゃっとしにくいんだ。案外キノコは水分があって、それを計算に入れておかないと炊いた時にべちゃっとなる。絶対じゃないけれどね。
あと、事前に味が決めやすいのもある。後で塩っぱかった、薄かったってことがあまりない。水を入れずに煮汁で炊くから全体に味も行き渡るし。
そんなことでまずは煮込んで、程よいところで味を調えたら火から下ろして具材を取り分けて冷ます。
その間におかずとして猪肉の肉じゃがを作る!
芋は適当に乱切りにして、猪肉は薄切りに。玉ねぎ、人参も準備してから肉を三分の一くらい先に焼く。焼き色がしっかりつくくらいね。ここに芋と玉ねぎ人参も。馴染んだら残りの肉を被せるようにして乗せて、水と砂糖と酒を投入してまずは煮込む。
甘みは最初に入れないと入らないからね。
「マサ、冷めたみたいだぞ」
「ありがとう!」
煮汁が冷めたら米をそれぞれ鍋に移して、そこに煮汁を投入。水加減は米を平らにしたところに指を入れて、大体中指の第一関節くらいまで。手の大きさによるけれど、俺はそんなに指長くないから炊き込みご飯ならこのくらいで。
これに具材を均等に上に乗せて、後は炊いていくだけだ。
「鍋の蓋がぶくぶくしたり、グツグツ沸騰した音がしたらそのまま二分程同じ火加減で。その後は少し火を弱めてください」
「はーい」
鍋番が各鍋に一人ずつ。そして耳の良いクナルもついてくれた。
肉じゃがもこのまま少し煮込んでいくから、次は豚汁だ。
こちらもジャガイモ、大根、人参、猪肉と玉ねぎを投入。グツグツ煮込んでいく。
「こちらは出汁を使わないのかい?」
見ていたリンデンが疑問そうにするのに、俺は笑顔で頷いた。
「野菜と肉からの旨味で十分ですし、味噌で味を調えるので」
「似たような具材なのに違うんだね」
だからこそ、それぞれの味わいがあるんだよな。
米の方は少し気を遣う。全自動でやれた炊飯器の偉大さが分かるよ。
でも鍋で丁寧に炊いたご飯は程よくお焦げも出来て美味しい。一度鍋の中の水分量を見るのに蓋を開けた時、広がったキノコと肉、そして醤油の匂いは犯罪級の美味さがあった。
「食いたい!」
「まだ!」
今にも飛びつきそうなクナルを制して中を確認。よく炊けていると思う。火を止めて蓋をしたまま少し蒸らす間に肉じゃがには醤油を少々。豚汁も芋に火が通れば後は味噌を溶くだけだ。
「よし、完成!」
鶏とキノコの炊き込みご飯、肉じゃが、豚汁。どれも美味しく出来た。
これも昨日と同じで町の人にも振る舞われた。勿論、明日の非常食用に炊き込みご飯はおにぎりにして抗菌作用のある葉に包んだ。笹の葉のお弁当とかって、なんか憧れるよな。
肉じゃがも保存用の容器に。豚汁も小さな鍋に移して俺のマジックバッグにしまった。時間経過がないっていうの、本当に助かる。
「うまぁぁぁ!」
かき込むように炊き込みご飯を食べるルルララ様が大きな声に笑顔で言う。アルも少し驚いた感じだ。
「アル、直ぐに東国の千姫に連絡して、米の輸入を検討しておくれ」
「はい」
「トモマサ、どれも大変美味だぞ!」
「ありがとうございます」
給仕をする俺にルルララ様はニコニコで伝えてくれる。その笑顔が無邪気で、俺は凄く嬉しくなった。
「本当に美味しいな。なんだか第二に戻りたくなるよ」
「戻ってくるか? 目も治ったんだし」
同じくご飯と豚汁を啜るクナルに、リンデンは少しして首を横に振った。
「なんだ、勿体ないな」
「悪いな、クナル。でも私は魔道具師という道を見つけてしまった。私が作る物を喜んでくれる人の顔を見るのは、存外癖になる嬉しさがあるんだ」
「それ、俺分かりますよ」
作った物を喜んでくれる人がいる。その笑顔を見られたら、少しくらいの疲れは吹き飛んでしまう。
何かを作る人にとって何よりのご褒美なんだよな。
「そういうもんか」
呟いたクナルは少し残念そうだったけれど、でも納得は出来るのか小さく笑っていた。
◇◆◇
翌日、俺達は妖精女王がいるという神殿を目指して森を進み始めた。
相変わらずの悪路に足を取られる俺をクナルが側について支えてくれている。
キュイもいるのだが、あちらはソワソワして俺の肩から下りて動き回っている。鳴き声も日頃より多く、呼びかけている感じだ。
「キュイの故郷なのかな?」
「ありえるな。この森には妖精や、多くの霊獣が住んでいる。不法に連れてこられて故郷は分からないが、ここだとしてもおかしくはない」
今は先行しているリンデンと俺との間ぐらいをキョロキョロしながら歩いている。長い耳をピンと立てて。
「帰りたいのかな……」
今まで側にいてくれて、何度も助けてくれたキュイだけれど、もしも家族がいたり仲間がいて帰りたいなら引き留めるのは……。
思うけれど、寂しいのもまた事実なんだよな。
そんな俺を、隣でクナルが見つめていた。
工程の半分を超えた位で辺りが茜色になってきた。
開けた場所を見つけたリンデンはここで野宿の決断をして辺りに結界を張り巡らせた。
「こんな場所が森の中にあるんだね」
これまでの道とは違って地面は平ら。中央辺りには何かを燃やした跡なのか黒く煤けた感じがある。適当な大きさに切られた丸太が、その燃え跡の周囲に二本横たわっている。
「エルフ達が作っているんだよ、野宿できるように」
「では、もしかしたらあんたの兄さんもここで野宿したんじゃないか?」
クナルの言葉に、だがリンデンは首を横に振った。
「おそらく素通りだよ。あの人達の足ならここではなく、もっと奥地まで行ける」
俺があまりに不慣れだから旅程が遅いんだよなぁ。
ちょっとしょんぼりしてしまった。
この世界では魔法が使える。ということで火起こしも一瞬だった。薪を置いて火魔法で火を付けるとあっという間に温かくなる。今はそこを囲って火に豚汁の鍋をかけ、包んでおいた炊き込みご飯おにぎりを手渡した。
「どうぞ」
「ありがとう。お昼のサンドイッチもだけど、森の中でこれだけちゃんとしたご飯が食べられるのは有り難いな」
「行軍となれば大抵酷いからな」
「そんなに?」
マジックバッグとか、マジックボックスがあればけっこう戦えると思うんだけれど。
そんな俺に、二人は苦笑の後で溜息をついた。
「まず飯の匂いで魔物が寄ってくるしな」
「肉を焼く匂いは奴等にも美味しそうに感じるみたいだね」
「え!」
じゃあ、今大丈夫なのかな……。
不安になって見ると、二人は笑ってくれた。
「これは大丈夫、肉の焼ける匂いじゃないよ」
「魔物肉を捌いてそこで思い切り焼き肉やるんだよ。そうすると追加で魔物が寄ってくる」
「デレク団長がいると『追加の肉きたぞ!』って、追加オーダーみたいに言うんだよね」
「肉食ばかりが二十人近いからな。しかも食べる奴等ばかりだ」
なんとも豪快な逸話である。
木製の器に温めた豚汁を入れて配り、それを啜りながら肉じゃがを……と思って脇を見た俺は目を丸くした。
「ない!」
「はぁ?」
「肉じゃが!」
「はぁぁ!」
クナルが立ち上がり耳をピンとそばだてる。唸り声を上げそうな様子だ。
リンデンも辺りを注意深く警戒している。その横にある炊き込みご飯が、俺の目の前で浮いた。
『ふふふっ』
『頂いちゃおうね』
小さな女の子と男の子の声。悪戯っぽい様子だ。
そして俺の目にはこれも見えているんだ。
金髪を二つに縛った手の平大くらいの女の子と、同じく金髪を短くした同じ大きさくらいの男の子だ。その背中には妖精っぽい羽がついていて、こっそり食べ物を持って行こうとしている。
っていうか、妖精!




