112話 君の想いに触れたのは(11)
サッと血の気が引く。ようやく事態を把握した俺に、蒼旬が溜息をついた。
『なんと暢気な』
「だって!」
『まぁ、説明もなくそうしたのはメリノ様の落ち度。だが怒らずにいてやってくれ。あの方は暢気でな、そのようなことを考えていなかったのだろう。とにかく我等が主を救いたいと、それだけを考えていたに違いない』
……確かに、そんな気もする。そんな裏があるようには思わなかった。それに、必死さは伝わっていた。
溜息をついた蒼旬が俺の手首の腕輪に触れる。
『これには我の加護を与えている。我の魔力が其方の魂の周囲に壁を作っている。完全ではないが、これで浸食は抑えられるであろう』
「ありがとうございます」
『なに、迷惑料にもならん。我はあのまま死ぬのだと覚悟していた。むしろ、殺してくれと願っていた。瘴気により徐々に精神を蝕まれ、心を塗り替えられてゆくのを感じ恐怖しながら、それでも可能な限り害を成さぬようにと踏ん張っていたのだ。それを救われた。感謝してもしたりない』
呟く人はフッと息を吐く。そして優しい顔で俺を見た。
『我が末裔にも苦労をかけた。ウォルテラの神子は我とは相性が良いようだからな。そのうち、加護を与えておく』
「ありがとうございます」
『……神子殿、其方の力を頼ることになるが、もう一つ頼まれてくれぬか?』
「え?」
首を傾げる俺に、蒼旬は深く頷いた。
『我は、今は邪神と呼ばれるアリスタウス様がお作りになった眷属。神獣と呼ばれるものだ』
そう言って、彼は指で空に文字を書く。すると文字は青く蛍光塗料で書いたように光って空間に浮かんだ。
『この世界は広い。とても神二人では管理できない。だからこそ我等が生まれた。我は海の中を任された海龍。他に、地上を任された天狼、山を任された天狐、空を任された竜、そしてあの方の補佐として金烏がいた』
それらも彼は書いていく。漢字からしてどんな姿をしているか、なんとなく分かった。
『だが、あの方が堕ちた時に我等にはあの杭が打ち込まれ、神獣としての力を徐々に失い、瘴気に蝕まれてしまっている』
「ってことは、貴方みたいな存在が他にもいるんですか!」
こんな厄災クラスの魔物が他にも出てくる可能性があるのか!
そんなのとんでもない! オロオロする俺の心中を察してか、蒼旬は苦笑した。
『他の者はまちまちだ。瘴気に蝕まれることを恐れて深く眠った者もいる。竜などは瘴気にも強いから、案外そのままで元気にしているかもしれぬ』
「そう、ですか」
それならよかった。
そう思うのに、蒼旬は『ただ』と繋いだ。
『近年、何やら不穏な感じもしている。急に瘴気が強まったのだ』
「え?」
『我等が主を押さえ込むことが、難しくなっているのやもしれぬ』
「!」
それって、邪神が復活するってこと? そんなことになったら、この世界はどうなるんだよ!
目を見開く俺を見て、蒼旬は頷く。そして再度、腕輪に触れた。
『神子殿、頼む。他の神獣を見かけたら救ってやってくれ。さすれば加護を得られるであろう。そうすれば其方自身の守りも強くなり、メリノ様の力も増していく。メリノ様を陥れ力を奪った何者かを討伐することも可能になるだろう』
それは俺もそうしたい。けれど俺が動く時にはクナルも巻き込む。戦えない俺の前に立つのはいつもクナルだ。
最悪、俺がクナルを殺しかねない。
『……其方の力が増せば、与える加護も増える。今日、我を助けた雪豹の男は我と親和であろう。本来なら獣人は天狼の力を得るほうが良いが、礼をしておく』
「あ……ありがとう、ございます」
俺の心中を察したのか、蒼旬はそう約束してくれた。
だから俺も、俺の目的とこの世界の為にやれることをやろうと思う。
「俺も、他の神獣を助けます」
それが、俺がこの世界に出来ること。沢山増えた大事な人達を、守ることになるのなら。
これにて「君の想いに触れたのは」完結です。
読んでいただき、ありがとうございました。
ですが、文字数の関係上最後がとても短かったので、本日は次のお話「聖樹の森」も1話追加します。
20時20分更新です。
よろしくお願いします。




