おまけ②
以下に、
「怪盗L vs 絵画の次元壁」
の完全シナリオを提示します。
・絵画の詳細
・送り主の正体
・セキュリティの仕組み
・怪盗Lの突破法
・ミラとの掛け合い
を統合して、
怪盗L“らしい”論理的でエレガントな解決を用意しました。
◆絵画の概要
●タイトル
『消えゆく王の最後の宝』
●作者
架空の伝説的画家
アストレイ・ヴァトリオ
●特徴
・圧倒的写実性で知られる画家
・しかし写実でありながら、物体の影や光の入り方が微妙に現実とズレている
・“時間が止まった一瞬を閉じ込めた絵”がテーマ
今回展示されている絵は、
王の私室のような空間と、
中央に置かれた金の懐中時計が描かれている。
この懐中時計が今回の「お宝」。
一見ただの絵画だが、
Lはすぐに異常に気づく。
「……影が二種類ある」
◆手紙の差出人
差出人は――
**アストレイ・ヴァトリオ本人。
ただし、“死後”。**
彼は謎めいた遺言を残していた。
“私の絵画は、私の死後にこそ完成する。
盗めるものなら盗んでみよ。
世界でただ一人、怪盗Lならば。”
遺言は“挑戦状”として複製され、
Lに届いたのはその一枚。
◆セキュリティ:次元の壁ではない
表向きは
「絵の中に物は存在しない」
という、もっともらしい“次元の壁”に見える。
しかし、アストレイの画風を理解するLにはすぐ分かる。
この絵画、
絵の中に三次元空間が存在している。
画家が生前使っていた特殊技術。
“立体陰影のズレ”を用いて、
二次元絵画の内部に、極薄の立体空間を作る
という異常技法。
この技法は、
“絵画内部の一部が、現実の光の反射に干渉する”
という不可思議な効果を持っていた。
つまり絵の中のお宝は、
ほんのわずか――深さ1mmほどの“実物”
なのだ。
◆怪盗Lの突破法
●1 絵に「入る」のではなく、絵の三次元性を反転させる
怪盗Lはミラに言う。
「ミラ、あれは次元の壁じゃない。
“錯視の罠だ”」
ミラ「どういうこと?」
L「絵の中が二次元じゃないなら、
二次元にしてしまえば取り出せる」
ミラ「…………は?」
Lは展示室の照明角度と反射を細かく調べ、
絵画が“奥行きを持つ瞬間”を割り出す。
この特殊絵画は、
特定角度の光が当たると内部の立体が浮かび上がり、
逆に光がずれると完全な平面に戻る。
つまり:
■ 光の角度A → 絵の中に深さ1mmの立体が存在する
■ 光の角度B → 絵は完全な平面に戻る(0mm)
L「宝物が絵の“立体側にある”うちは盗めない。
なら、平面になった瞬間に“絵の外へ押し出される”はずだよ」
つまり、
絵の三次元性を“潰す”瞬間を作れば、
内部にあった立体物は外へ出る。
●2 方法:
●ミラが照明を“完璧に模倣して”調整
ミラの能力「模倣」は機械や道具限定。
そこでLは頼む。
「ミラ、展示室の照明を再現して、
“光の角度だけを調整できる装置”を作ってくれ」
ミラは展示室の照明を観察し、
簡易照射ユニットを作る。
(素材は汎用部品で足りる。)
ミラ「これで……本当に出てくるの? 絵の中の宝が」
L「予言しよう。出てくるよ。
作者のクセを熟知した怪盗Lならね」
ミラ「自分で言った!」
●3 実行
展示室が無人になった夜、Lは絵の前に立つ。
ミラは照射ユニットを起動。
絵画に当たる角度を少しずつ変える。
すると――
絵の中心、懐中時計の影が消えた。
次の瞬間。
コトリ。
絵の表面から、
小さな金の懐中時計が“落ちてきた”。
現実へと押し出されたのだ。
ミラ「出たああああ!?!?」
L「ふふ、名画の技法は嘘をつかない」
ミラ「いや、これもう技法じゃなくて魔法でしょ!?」
◆差出人の正体:アストレイの真意
Lは懐中時計を開く。
そこには走り書きされた文字。
『怪盗Lへ。
美術とは挑戦であり、挑戦とは盗まれるためにある。
もし君が私の“空間の嘘”を暴けたなら、
この時計は君のものだ。
画家・アストレイ』
ミラ「……本当に、あの人はL向きの変態ね」
L「最高の褒め言葉だよ、ミラ」
ミラ「褒めてない!」
*
――ブリック市。某区画
「………こりゃあ、酷いな」
ラグは頭を抱えた。この区画には、地面に魔法陣が描かれている。それも、一つではない。ここから見えるだけでも、六つは確認できる。
この世界では、魔法を使ったら、魔方陣を処理しないといけない。それは術者の義務であり、責任でもある。
それをしなかったため、この区画にはこんなにも魔法陣が溢れているのだ。
「ねえ、ラグ。そのまま、放置してたらいいんじゃないの?」
隣にいるエマが聞いてきた。
彼女は幼馴染だが、仕事仲間でもある。質問の答えは知ってるが、いじわるのつもりで聞いてきたのだ。
「放置してたら、大変なことになるんだ」
「大変なことって? 具体的には?」
「こう、ボワーって、なるんだよ。ボワーって」
「なんだ。たいしてわかってないんじゃない」
ラグはむすっとした。確かに、わかってないけど、処理すべきことにかわりはないだろう。
「まったく、この町の住民と来たら……」
「でも、好きなのよね。この町が」
「当たり前だ!」
誰かがやらなければならないのだ。この魔法陣を代わりに処理し、町を綺麗に保ってくれる、そうした人間が必要なのだ。
「俺がやるんだ! エマ、例のものは用意してくれたか」
「はいはい。ちょっと待ってて」
エマが用意してくれたのは、魔法ポンプだ。これを使えば、魔方陣を処理し、消し去ることができる。
さっそく、装着してみることにする。背中には大きなタンク。そのタンクはぶっとい管。このタンクから水を汲み上げ、手に持ったノズルから水を噴射するわけか。それにしても、重いな。
「あなたのお父さんのおさがりだけど、あなたでも使えるように、調整しておいたわ。どう? やっぱり、重い?」
「全然!」
「無理しなくてもいいのに」
あらかじめ、名前も考えておいた。これから、仕事をしていくうえでの相棒になるのだ。とびきり、カッコイイ名前を付けてやらないといけない。
「よし、これから、おまえの名前は、ポン太だ」
魔法ポンプだから、ポン太。うん。かっこいい。
「ダッサ」
「うるさいな」
さっそく、仕事を始めて行こう。まずは、一番手前にある魔法陣からだ。綺麗な円状で、その円の中には、何やら複雑な幾何学模様が描かれている。
基本、その辺りの人でも、魔法は簡単に使うことができる。でも、その魔法がどんな仕組みかなんて、誰も分かっちゃいない。
かくいうラグも、中の模様が何を意味するかなんて、さっぱり理解していない。
「なんだか、消すのがもったいないね」
「だから、放置したままだと大変なことに」
「うんうん、わかったから。ポンプ使ってみてよ」
よし、手元にあるボタンを押してみよう。ポチっと。
すると、ガコンと音がして、背中のタンクがうねりを上げた。ポンプが軋んでノズルの一部が膨らみ、その膨らみが徐々に先端に近づいていく。
そろそろ水が出てきそうだ。
ラグはその先端を魔法陣の方に向けた。
雰囲気を出すために、技名でもつけておくとしようか。
「いけ! ぶっ飛びショット!」
ノズルから水が発射された。
おおっ! これは……。
――チョロチョロオオオオォッ!
「……え?」
先端から水が出てくると、魔方陣にかかった。魔法陣の円の一部がパキっと欠けると、段々と崩壊していく。そして、色が薄くなり、ついには消えてなくなってしまった。
魔法陣、初めて消してみたんだが、こんなになるんだな。
「ジョウロで水やりでもしたの?」
「……ごめん。突っ込まないでくれ。素でへこんでるから」
子供の頃に、父さんがやってるのを見たときは、凄い勢いがあったのを覚えている。あれを想像していたんだが、まったく噴射に勢いがなかった。
何かコツでもあるんだろうか。
気を取り直して二つ目の魔法陣だ。
今度は、魔方陣が壁に描かれている。だが、距離が遠い。先ほど見た噴射の様子だと、確実に届かないだろう。
「じゃあ、こうすれば……」
ラグは壁に近づくことにした。目の前は三つほど溝があり、ジャンプして飛び越える必要がある。だが、これなら余裕だ。ラグは昔から運動神経は抜群なので、重いポンプを背負っていても、この程度の溝は簡単に飛び越えることができる。
ひょいひょいとジャンプすると、壁際まで辿り着いた・
「いけ! ぶっ飛びショット!」
――チョロチョロオオオオオォ!
魔法陣二つ目を消し去ることに成功した。
「どうだ。エマ」
「うんうん。ちゃんと、掃除できてるよ。かっこよくないけど。すっごくダサいけど」
「うおおおおっ! こんなはずじゃなかったのにっ!」
*
――某区画、Bエリア
「だいぶ、片付いてきたな」
あれだけあった魔法陣もあらかた消し去り、もう周りには掃除するところもなくなってきた。
「……あれ? おかしいぞ」
「どうしたの?」
「いや、スコープで覗いてみてるんだけど、まだ汚染がおさまってないんだ」
「本当? 見せて……うん。故障でもないみたいだし。どうしてかしら」
エマにも事情が分かっていないようだ。普通なら、魔方陣が全て消え去れば、汚染もおさまってくれるのだが。何かまだやり残したことでもあるのか。
「ラグ。あれを見て」
エマに言われて、後ろを見ると、そこには何やら怪しい男たちが。全身黒ずくめで、へんてこな帽子をかぶっている。でも、それだけじゃない。何か床に描いている。あれは……魔法陣だ。どうやら、汚染が収まらないのは、あいつが原因らしい。
「おい、おまえら。そこで何してるんだ」
怪しい男たちはこちらに気づくと、めんどくさそうに肩をすくめた。
「見たらわかるだろう。遊んでるんだよ」
「わかるか! 町を汚すな。魔法を使ったら、ちゃんと処理しろ」
「嫌だね」
「なんだと」
「この町は、俺たちどうぶつ団の遊び場なんだ。どこでどんな風に遊ぼうと、俺たちの自由だ」
なんて、はた迷惑な奴らなんだ。どうぶつ団。よく知らないが、ろくな奴らじゃないな。
「お前こそ、何者なんだ。いったい、何の権利があって、俺たちを止める」
「俺は掃除屋のラグだ」
「ああ、掃除屋か。だが、ラグという名は聞いたことがないな」
「今日が初仕事なんだ」
「なんだ。見習いか」
「見習いじゃない! 俺はこの町を守る掃除屋なんだ」
「ほう。そこまで大口叩くなら、見せてもらおうじゃないか。その実力とやらをな」
男たちは、ラグから距離を取った。なんだ。魔法陣を放置したってことは、消していいということか。
ラグは魔方陣に近づいてく。そう言えば、緑色の塗料を使っていたな。魔法陣に使う色としては、結構珍しい方だが。
「……ん? なんだこれ」
魔法陣。その円の中には、幾何学模様が描かれてない。その代わり描かれているのは、動物。緑色で、四本脚の両生類。これは……。
「カエルだ」
「うん。カエルだね」
しかし、驚くべきはそこじゃなかった。なんと、そのカエル鳴きだしたのである。ケロケロと。そして、魔方陣から頭が飛び出て、両手両足が飛び出した。動いている。嘘だ。この魔法陣、いったいどうなってるんだ。
「おうおう。驚いているな。これこそ、どうぶつ団の秘術、どうぶつ魔法陣だ」
確かに、びっくりした。だが、カエルだ。ヘビやらワニなら、もっと怖かっただろうが、ただのカエルである。
こいつも魔法ポンプで消してやればいい。
「いくぞ。ポン太」
ノズルの先端をカエルに向けた。
「ぶっ飛びショット!」
――チョロチョロオオオオォォォ!
噴射した水はカエルに向かっていく。
すると、男がニヤリと笑みを浮かべた。
「カエルっ! かわせっ!」
その命令のままに、カエルが飛び跳ねた。ピョン。そのジャンプによって、ポン太の水は回避された。
「……なっ。かわすなんて、卑怯だぞ!」
「そんなヒョロヒョロショットを撃つお前が悪い」
後ろで、エマがウンウンと頷いている。おい、エマ。おまえはどっちの味方なんだ。
「うおおおっ! もう一度だ! ぶっ飛びショット!」
「バカが! 何度やっても同じこと……」
ふたたび、カエルが回避。完全に、こちらのショットが見切られてしまってる。
「ふっ。威勢が良いのは口だけだったようだな」
「……そ、そんな」
ラグは膝をついた。結局、自分は父さんのようにはなれないのか。すっかり、諦めかけていた。
その時だった。
「……ん? これは」
ポン太のノズル部分に削られた跡がある。エマがやったものじゃない。もっと古い跡だ。
矢印に見える。ラグはその矢印の方向を見た。地面が見える。これがいったいなんだって……。
「そうか……!」
意味がわかった。父さんが伝えたかったことの意味が。
「どうぶつ団。これで終わりだ。ぶっ飛びショット!」
――チョロチョロオオオオォォォ!
しかし、今度はカエルが避ける必要すらない。そのノズルはあさっての方向を向いているのか。
「ハハハハッ。どこを狙っているんだ。そんなことをしたって、カエルは……なに!」
男は驚愕した。カエルの身体がどんどんと薄くなり、消えて行こうとしているのだ。
「地面をよく見てみろよ」
そう、ラグが狙っていたのは、カエルではない。地面にある魔法陣だったのだ。カエルがどれだけ動こうと、それはそう見せているだけに過ぎない。本体は必ず魔法陣。それを消しさえすればいい。掃除屋としての鉄則である。
ラグは初仕事で熱くなり、冷静な判断ができなくなっていたのだ。その頭を冷やしてくれたのが、ポン太のノズルにあったあの矢印である。
「父さん。ありがとな」
どうぶつ団は、さっきとは打って変わって、ガタガタと震え始めた。
「そんな馬鹿な。この短時間で、魔方陣の仕掛けを見抜いただと。団長に考えてもらった超絶エレガントな魔法陣だったのに。俺は団長にどう報告したら……」
男の一人が手を上げた。
「撤収だ! みんなここから撤収するんだ」
どうぶつ団の面々がその場から退散していった。
「……なんだったんだ」
こうして、ラグの仕事は波乱含みの幕開けとなったのだった。




