第6話:地下鉄の黄金
雨が小ぶりに降る夜、地下鉄の入口には濡れたアスファルトが光を反射していた。
ジョウは帽子を深くかぶり、傘を肩にかけながら階段を下りる。
後ろにはケルロ、リンゴ、マックスがついてきた。
今回はいつものギャラリーではなく、街の地下鉄網に眠る“黄金の貴重品”を狙う。
「今回のターゲットは、金庫じゃなくて、運搬列車の中だ」ジョウが低くつぶやく。
「運搬列車……それって走ってるやつですよね?」リンゴが目を丸くする。
「そう、しかも駅間をわずか二分で通過する地点だ」ジョウは地図を広げる。
地下鉄の路線図に、赤いペンで移動する列車の線が引かれている。
「黄金の貴重品はこの列車に積まれる。警備員も最低二名、警報も複数ある。
ただし、我々には奇策がある」
ケルロは眉をひそめる。
「奇策……って、またジョウさんの無茶な思いつきですか?」
ジョウは笑みを浮かべる。
「無茶ではない。計算に基づいた奇策だ。
重要なのはタイミングと仲間の連携。偶然も少しは役に立つがな」
マックスは興奮気味に目を輝かせる。
「列車を止めて、黄金を手に入れる……なんて、まるで映画みたいです!」
ジョウは地図の上で指を滑らせる。
「まず、列車の運行時間を正確に把握する。次に、地下通路を利用して移動する。
警備の目をかいくぐるのは、我々の得意技だ」
リンゴが小さく笑う。
「ジョウさん、また予想外の偶然に振り回されるんすね」
ジョウは肩をすくめる。
「それも計算のうちだ。偶然と不運は、計画をスリリングにするスパイス」
ケルロが地図を指差す。
「で、どこで黄金を奪うんすか?」
ジョウは地下鉄のトンネル内のある交差点を指す。
「ここだ。列車が短く減速する地点で奇策を発動する。
我々が入る時間は正確に30秒だけ」
マックスは息を飲む。
「30秒……そんな短時間で?」
ジョウは笑う。
「計算済みだ。必要なのは冷静さと仲間の機転、そしてちょっとの勇気だ」
リンゴは小声でつぶやく。
「勇気って……俺たちの心臓、また試されそうっすね」
ジョウは地図をたたみ、仲間たちを見渡す。
「準備はいいか? 今夜は地下鉄の闇が、我々の舞台になる」
四人は地下通路に向かい、雨に濡れた街角を背にして影のように消える。
路面電車の光が地下への階段に映り、これから始まる泥棒劇の予感を漂わせた。
地下鉄の暗闇。列車の金属音がトンネルにこだまする。
ジョウ、ケルロ、リンゴ、マックスは、短い減速区間を狙って、影のように壁沿いを進む。
「タイミングは完璧だ……」ジョウは小声でつぶやき、懐中電灯の光を極力抑える。
ケルロは背後から首をひねる。
「ジョウさん、俺、毎回この瞬間が一番怖いっすよ。
列車の中に潜るなんて……もう無茶通り越してます」
ジョウは肩をすくめ、笑みを浮かべる。
「無茶ではない。計算済みだ。ただ、偶然がスパイスになるだけ」
リンゴが心臓を押さえながら、列車の床下を見上げる。
「スパイス……って言っても、まるでスリルの調味料ですよ」
マックスは手袋越しに小型磁気吸着装置を握る。
「今回の奇策はこれですか?」
ジョウはうなずき、装置を手渡す。
「列車の底部には金庫の運搬車両がある。磁気装置でロック解除を補助する。
だが、時間は30秒しかない。無駄な動きは命取りだ」
列車が減速区間に差し掛かる。
ジョウたちは素早く車両の底部に滑り込み、磁気装置をセットする。
光も音も最小限に抑え、奇策は順調に進むかと思われた。
だが、予期せぬトラブルが発生した。
減速の衝撃でケルロが足を滑らせ、装置の一部が床にぶつかる。
小さな金属音が響き、車内の警備員が警戒する。
「くっ……偶然、計算外!」ジョウが小声で叫ぶ。
リンゴは咄嗟に動き、警備員の視線を逸らす。
ケルロは必死で装置を固定する。
「やばい……!」マックスが息を詰める。
しかし、ジョウは冷静だった。
「偶然は計算のうちだ。仲間の機転が試される瞬間だ」
ケルロは汗をぬぐいながら装置をセットし直す。
装置は再び動作を始め、金庫のロック解除が完了する。
「成功……だが、まだ油断はできない」ジョウがつぶやく。
四人は再び床下を進み、金庫車両の真下に到着。
ジョウは小型ワイヤーで金庫を慎重に引き上げる。
「30秒以内に脱出だ」
時間が刻一刻と迫る。
列車の減速が終わり、加速が始まる。
リンゴは息を荒くしながらも笑う。
「まさにジェットコースター泥棒劇っすね!」
ケルロも苦笑い。
「ジョウさん、毎回この瞬間に心臓を置き忘れてきますよ」
ジョウは無言でワイヤーを操作し、金庫を床下から引き上げる。
マックスが宝を確認し、口を押さえる。
「やった……! これ、すごい……!」
しかし、最後の最後に列車が急カーブを通過。
ワイヤーが揺れ、金庫がわずかに傾く。
四人は必死で支え、床下から抜け出す。
「くっ……危なかった」ジョウが息をつく。
リンゴは思わず笑いながら後ろを振り返る。
「やっぱり不運も奇策も、両方セットで来るんすね!」
ケルロは頭をかきながらつぶやく。
「無事でよかった……次からは、もうちょっと安全な計画にしてくれませんか?」
ジョウは宝を抱え、微笑む。
「安全だけでは、泥棒劇は面白くならない」
マックスも笑顔でうなずく。
「確かに、怖いけど……最高にスリリングでした」
四人は列車の底部から静かに脱出し、トンネルの影に消える。
黄金の貴重品を手に入れたことで、また一つ泥棒劇が成功した瞬間だった。
トンネルを抜けた四人は、街の地下水路沿いにたどり着いた。
雨に濡れた夜空の下、ジョウは宝の入ったバッグを肩にかけ、仲間たちを振り返る。
「無事に手に入ったな」ジョウが低くつぶやく。
リンゴは息を切らしながら笑う。
「無事って……もう心臓が飛び出すかと思ったっすよ!
でも、やっぱり最高にスリリングでしたね」
ケルロは頭をかきながら、肩越しに列車を見上げる。
「ジョウさん、毎回毎回……俺たち、本当に命がけで笑ってますよね」
マックスは宝の入ったバッグをそっと抱え、目を輝かせる。
「すごい……こんなスリリングな泥棒劇、人生で初めてです」
ジョウは笑みを浮かべながら、四人を見渡す。
「計画通り……とは言わない。偶然と不運、仲間の機転が重なった結果だ」
リンゴが肩をすくめ、苦笑いする。
「要するに、俺たちは毎回運任せってことっすね」
ケルロも笑いながら、ジョウの肩を叩く。
「でも、その運任せで宝を手に入れるところが、ジョウさんのすごいところなんすよね」
マックスは宝をじっと見つめ、静かにうなずく。
「奇跡……確かに、そうですね」
ジョウはバッグを地面に置き、四人の顔を見渡す。
「泥棒の仕事は、計算だけじゃ生き残れない。偶然、不運、そして仲間の咄嗟の判断……
それらが組み合わさって、奇跡は起こる」
リンゴは小声でつぶやく。
「次はどんな偶然と不運が、我々を試すんすかね……」
ジョウは夜空を見上げ、微笑む。
「次のターゲットは……地下の美術館に眠る“影の宝石”だ」
ケルロが驚く。
「また地下ですか? 今度はどんな奇策が……」
ジョウは肩をすくめ、笑いながら答える。
「偶然と不運は計算に含まれている。それに、仲間がいれば大丈夫だ」
マックスもバッグを抱え、ワクワクした表情で言う。
「奇策……楽しみです!」
四人は雨に濡れた路地を抜け、街灯の下で影のように歩く。
黄金の入手は成功したが、ジョウたちの泥棒劇はまだ終わらない。
次の計画が、また新たなスリルと笑いをもたらす予感を漂わせていた。
リンゴは小声でつぶやく。
「もう心臓の保険料、払えないっすよ……」
ケルロも苦笑い。
「でも、やめられないんだな、これが……」
ジョウは微笑み、仲間たちと夜の街に溶け込む。
雨が小雨になり、街灯に反射した水滴がキラリと光る。
バッグの中の黄金は、次の泥棒劇への招待状のように静かに輝いていた。




