第30話 最終決戦
最上層──透明な床の奥に、巨大なオペレーションルームが広がる。
無数のモニターが白光を放ち、ヘリクス社の中枢ネットワークをリアルタイムで監視している。
「よくここまで来たね、怪盗L」
低く響く声。
光の中から、CEO・エレイン・ヘリクスが現れた。
漆黒のスーツに包まれ、肩からは無数のセンサーと制御用デバイスが伸びている。
「……エレイン・ヘリクス。お会いできて光栄だ」
Lは淡々と視線を合わせる。
「CEOの本当の狙いは、僕の未来行動を完全に掌握すること──そして、世界最強のセキュリティとして売り出すことだろう?」
ヘリクスは微笑む。
「その通り。しかし、それだけではない。君を倒すことで、世界に“予測不能を克服した怪盗”の存在を示し、セキュリティ業界の頂点に立つ──それが真の目的だ。」
Lは床の微細な振動から、センサーの種類と位置を即座に把握する。
「なるほど、君は“全ての未来を読むことができる”と信じているわけだ。」
「信じているだけではない。君の行動パターンはすでに分析済みだ」
Lは静かに一歩前に出る。
「過去の延長線で未来を読むなら、未知の要素を入れればすべて崩れる」
ポケットから《ミスリード・プリズム》を取り出す。
ミラの装置──未知の光学反射を用い、センサーやモニターの解析を妨害する。
「未来予測が通用しない……!?」
ヘリクスのシステムが警告音を立て、空間全体が揺れる。
「面白い。君の未知は、確かに予測不能だ」
床が動き、レーザーが放たれ、圧力センサーが作動する──しかし、Lは歩幅とタイミングを調整し、すべてをかわす。
「君のシステムは完璧に見えるが、“完璧に見えるもの”ほど壊れやすいものだ」
ヘリクスは腕を広げ、モニターに映る無数の解析結果を光に変換して攻撃する。
だがLは冷静に光を読み取り、壁面の微細な反射角度を利用して自身の位置を隠す。
「光学解析も、物理の法則には敵わない」
Lは目標の宝に手を伸ばす。
光が乱れる瞬間、CEOのシステムは一斉に停止──
「……こんなはずは……!」
Lは宝を手に取り、静かに微笑む。
「未来を読むことはできる。だが、未来は変えられる。
過去の延長線を壊せば、未来は自由になる」
ヘリクスは唇を噛む。
「君……人の想像の外側から来る怪盗……」
その瞬間、遠くから聞こえる声──
「L! 大丈夫?」
ミラが装置を操作して支援している。
Lは小さく頷き、宝を安全にポケットに収める。
「ゲームは終わった……しかし、挑戦は続く」
Lは静かに後ろを振り返り、外の世界を見渡す。
光の迷路の中、CEOは悔しさと尊敬を胸に秘め、静かに立ち尽くす。
「君の名は……怪盗L……」
白の光が揺れる中、Lは夜風に吹かれながら歩き出す──
未来は、まだ誰の手にも握られていない。
白の回廊──CEOとの戦いが終わり、空間は静まり返っていた。
光の揺らめきが徐々に落ち着き、巨大なオペレーションルームのモニターも静止する。
Lは静かに宝を手に持ち、床を歩く。
ミラが少し遅れて近づく。
「……本当に、全部科学でできるんだ……」
Lは微かに肩をすくめる。
「魔法に見えるのは、観る側の錯覚さ」
その時──背後で足音が響いた。
振り返ると、ケインが立っていた。
「……やはり、君が最後まで来たか、L」
Lは落ち着いた声で答える。
「君も予想通りだね、ケイン」
ケインの瞳には怒りと焦燥が入り混じる。
「ヘリクス社……君にすべて奪われるなんて、許せない……
僕はまだ、例外になれる!」
Lはゆっくり歩み寄る。
「例外になる……? 君は“未来を読む力”に頼りすぎている。
だが、未知を混ぜれば誰でも例外になるんだよ」
ケインは武器を構える──しかし、Lはわずかに指を動かすだけで、床の振動を読み取り、反撃を避ける。
「君の動きは予測可能だ。だが、僕の行動は、今この瞬間にしか存在しない」
ケインは一瞬ひるむ。その隙を逃さず、Lは距離を詰める。
「理解したか、ケイン。力や装置は万能じゃない。予測も、未来も、すべて相手次第で崩れる」
ケインの表情が変わる──怒りから、静かな認識へと変化する。
「……お前は、ただの怪盗じゃない……
未来すら自分のものにする者……」
Lは拳を握らず、ただ目を合わせる。
「そうさ。僕が決める未来は、僕が創る。
君の過去の延長線に僕は縛られない」
ケインはゆっくり武器を下ろす。
「……認めるしかないか、L。
君が例外を体現する怪盗なら……
僕も例外を極めるしかないな」
二人の間に静かな理解が生まれる。
ライバルであり、同業者であり、互いに超えようとする存在──
その緊張は、戦いの後も消えないまま、しかし決着を迎えた。
ミラが二人の間に歩み寄る。
「……L、ケイン、もう終わったの?」
Lは微かに微笑む。
「終わりじゃない。挑戦は、いつも続くものさ。
ただ、今は一区切り」
ケインは視線を遠くに向ける。
「次は……必ず例外として勝つ」
Lは夜風に吹かれながら宝を抱き、空を見上げる。
「未来? そんなものは、盗む必要もない。
歩く道が、僕の未来になるのだから」
ミラは微笑み、そっとLの横に並ぶ。
「……最高の怪盗ね、本当に」
白の回廊に光が静かに消え、夜の街に二人の影が伸びる。
静かな夜風に乗せて、怪盗Lの歩みは、また新たな挑戦へと続いていく──




