表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/12

第3話 絵画の中の宝



「今日はデート……じゃないのよね?」


ミラ・ガーネットは不機嫌そうにそう言いながらも、少し期待を隠せない様子で怪盗Lの横に並んで歩いていた。行き先は街外れの美術館。普通なら二人でのんびり鑑賞、という雰囲気だが、Lの目的は違う。


「違う。今日の目的はセキュリティだ」


その答えにミラは小さくため息をついた。「やっぱりね……」


館内に入ると、展示室は静かで、白い壁にいくつもの絵画が掛けられていた。Lは視線を滑らせ、ひとつの作品の前で立ち止まる。


「この絵画……?」


「違う、目的は絵の中に描かれたものだ」


ミラは首を傾げる。絵画の中のお宝? 常識的に考えて不可能な話だ。しかし、手紙にはこうあった。


「盗めるはずだろ。お前が本物の怪盗Lなら」


怪盗Lの唇に、わずかに笑みが浮かぶ。挑戦状に興味を惹かれた瞬間だ。


「この絵に描かれた宝を盗む……というわけか」


「……信じられないわ」ミラは目を丸くした。「だって絵の中に入るなんて無理よ!」


「不可能は挑戦状にしかない」


Lはゆっくり絵画に近づき、細部を観察する。筆遣い、絵の具の層、光の反射……全てを見逃さない。やがて彼は頷いた。


「わかった。トリックはこの絵画自体にある」


展示室の照明、壁の反射、そして額縁の微妙な浮き――絵の中のお宝は、実際には物理的に存在していた。だが、それは目の錯覚で完全に“絵の中にある”ように見えるよう仕掛けられている。


「どうやって取り出すの?」


「まず複製品を作る。君の出番だ」


ミラは手早く、額縁と展示台の複製を作る。材料は簡単に手に入るもので、彼女の模倣能力なら完璧にコピーできる。


Lは微笑む。「その隙に、こちらからアクセスする」


Lは軽く跳び、壁面の小さな隙間に手を入れる。そこには、絵画を固定する特殊なワイヤーと磁力センサーが仕込まれていた。Lは指先で慎重にワイヤーを外すと、磁力センサーの範囲外に宝を滑り込ませた。


「これで……」


絵の中のお宝は静かに、しかし確実にLの手元に現れる。ミラは息を飲んだ。


「……本当に、絵の中から……」


「絵画が魔法だと信じている者には、これが魔法に見えるだろうね」


Lは宝をポケットに忍ばせ、複製の額縁を元に戻す。誰も気づかず、まるで何も盗まれていないかのように。


「すごい……あなたって、やっぱり……」


ミラの瞳には、尊敬と少しの嫉妬が混ざる。Lは答えない。ただ静かに、展示室を後にする。


館外に出たとき、風が吹き抜ける。宝は手元にあり、挑戦状の意味が達成された瞬間だった。


「今日の任務、終了」


「……魔法みたい……でも、全部科学でできるんでしょう?」


「その通り」


ミラはうなずき、少し照れたように笑った。だが、次の挑戦状がいつ届くのか、二人はまだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ