第29話 白の回廊
白の回廊──光が拡散した静寂の中、Lは落ち着いた足取りで最上層を目指していた。
その後ろで、ケインは床に倒れたガジェットを拾い上げ、荒い呼吸を整える。
「……まだ終わらない……」
ケインの瞳には怒りだけでなく、計算され尽くした自信が僅かに揺れていた。
「怪盗L……お前はただの泥棒じゃない……
だが、僕もまた“例外”になれる男だ。」
Lは振り返らずに静かに言う。
「君が例外になるつもりなら、僕はその例外を理解して盗むだけだ。」
ケインは歯を食いしばり、拳を握り直す。
「理解……か。僕のすべてを読んだつもりか?
だが、僕の計画は、まだ始まったばかりだ!」
Lは微かに微笑む。
「始まったばかり……確かに。だが、僕の目標はまだ先だ。
君と戦うのも、その“途中経過”の一つに過ぎない。」
ケインの表情が暗くなる。
「……途中経過……だと?」
Lは天井の光に照らされ、背筋を伸ばす。
「君がどれだけ僕を追い詰めようと、未来を固定することはできない。
でも、僕がどこに行くか、どの道を選ぶかは、君が見極めるしかない。」
ケインは何も言えず、ただLの後ろ姿を見つめる。
白の回廊に残る静寂──それは、心理戦の余韻と、次の戦いへの予兆だった。
「……次は……絶対に……」
ケインの心に誓いが灯る。
Lは階段を上りながら、思う。
(ケインは巧妙だ。未来を読む力と、策略を使う腕もある……だが、知識や装置は万能ではない。
予測不能な“未知”を混ぜれば、誰でも僕の前では例外になる。)
最上層のドアを前に、Lは立ち止まる。
その先には──ヘリクス社が誇る“最終試練”が待っている。
CEO・エレイン・ヘリクスの狙いも、ケインの復讐心も、すべてこの先で明らかになるだろう。
Lは静かに息を吐く。
「さあ、ゲームの本番だ……」
白光の回廊に、二人の影が重なる──
未来を読む者と、未来を壊す者。
戦いの余韻は、ラスボス戦へと静かに繋がっていく。
ヘリクス社CEO・エレインの“本当の目的”
それは──
「この世界から“例外”を消し去ること」
◆1.すべてを“計算の中”に閉じ込める
エレインは幼い頃から、
「世界は予測可能な方が美しい」と考えていた。
不確実性。偶然。直感。
計算に乗らない揺らぎ。
──彼女にとってそれらは欠陥だった。
ヘリクス社の全プロジェクトは一本の思想に基づいている。
「完全予測社会の実現」
人間の行動も、経済も、犯罪も事故も、
“未来がすべて計算できる世界”。
混乱も戦争も犯罪も起きない。
予想外が消えれば、人類は平穏に進化できる。
──エレインは本気でそう信じている。
だが、その計画にはひとつの致命的な障害があった。
◆2.怪盗Lという“世界最大の誤差”
怪盗Lの行動は、
既存のデータ、既存の犯罪心理学、既存の統計学──
あらゆる枠組みで予測不能。
行動の動機が“効率”でも“欲望”でもなく、
**「セキュリティの理解」**という未知の価値観に基づいているためだ。
彼は計算式に乗らない。
前例にも乗らない。
矛盾すら計算に使う。
エレインにとって、怪盗Lは“未来を乱すウイルス”。
そしてエレインは結論に辿り着いた。
世界に完全な秩序を作るためには
“怪盗Lのような例外”を消さねばならない。
◆3.巨大金庫ロボ K-BORG100 も、予測タワーも、すべては「例外」を潰す実験
怪盗Lに送られてくる挑戦状。
世界の企業がLを倒そうとする流れ。
ヘリクス社の巨大セキュリティ。
それらはエレインの誘導だった。
K-BORG100の開発も
「泥棒行動の予測モデルのテスト」。
オラクル・ネクサス社の未来予測空間に(密かに)
ヘリクス演算を提供したのも
「未来予測の精度チェック」。
白の回廊は
「例外排除の最終検証モデル」。
怪盗Lは知らない。
彼が“ゲームだと思っている挑戦”は
**エレインにとっては“例外対処実験計画の試験データ”**なのだ。
彼が勝てば勝つほど、
エレインのモデルはLのパターンを学び、進化する。
◆4.ケインをスカウトした理由──“例外の解読装置”として
ケインはLを追う者。
彼は世界で唯一、Lの動線を理屈で追おうとする人間。
エレインはそこに価値を見た。
**彼の才能は「例外を理解するための橋渡し」**だった。
怪盗Lを理解し、
彼を“計算式化する”作業。
アーサー・ケインは
「例外を例外でなくすための鍵」。
そのために優遇し、
そのために利用する。
ケインは気づいていない。
自分が“Lを倒すための道具”にされていることに。
◆5.最終目的──例外のない世界を“固定”する
完全予測社会。
全人類の行動を量子演算で先読みするシステム。
そのプロトタイプこそが
ヘリクス社の“量子根源演算体”。
これは
“未来を予測する”のではなく、
“未来を固定する”。
エレインは言う。
「未来が揺らぐから不幸が生まれる。
ならば揺らがせない。」
人の人生、選択、事故、犯罪、成功──
すべてが“計算通り”に進む世界。
そしてその世界では、
怪盗Lのような存在は成立しない。
例外は存在できない。
怪盗Lは、エレインの“世界の完成”を妨げる最後の障害物。
だから、消す。必ず。
◆6.エレインが最終的に作ろうとしているもの
まとめると──
◆エレインの真の目的一覧
世界の不確実性をゼロにする
完全予測社会を構築し、事故・犯罪・戦争を“計算で抑止”
そのために“未来固定システム”を完成させる
怪盗Lはそのモデルに乗らない唯一の例外
ゆえにLは排除すべき対象
ケインは“例外解析の研究材料”
Lとの対決もすべて計画の一部
最終的には「世界を演算で支配」する
エレインは後にこう語る。
「未来は選ぶものではないの。
私が最適化して“与えるもの”よ。
怪盗Lのような例外は……必要ない。」




