第28話 ヘリクス社
1.消えた金庫ロボの残骸
夜の倉庫街。
以前、K-BORG100(金庫ロボ)と戦ったあの場所。
怪盗Lとミラは、依頼で再びそこを訪れていた。
「L、これ……見て」
ミラが金属片を拾い上げる。
K-BORG100の残骸だ。だが──
「……おかしいね」
「何が?」
「完全に“溶かされてる”。
まるで、証拠を跡形もなく処理したみたいに」
ミラは眉をひそめる。
「でも誰が? 金庫ロボを作った会社じゃないの?」
Lは残骸の縁に指を添え、
微細な刻印を照明に反射させる。
そこには小さく──
〔HFI-EXTRACT Protocol〕
ヘリクス・フォージ産業 資材回収用刻印
と刻まれていた。
ミラ「ヘリクス……フォージ?」
Lは頷く。
「金庫ロボの生みの親だよ。
この破片を“回収”した……つまり、痕跡を消した」
ミラ「犯罪企業じゃないの?」
L「表向きは世界最大のセキュリティ企業さ。
裏向きがどうかは、これから確かめる」
Lの瞳が細められた。
「……挑戦状の匂いがする」
2.メッセージカード《OPEN THE DOOR》
倉庫の奥。
Lは不自然に置かれた黒い封筒を見つける。
宛名は──
《怪盗Lへ》
ミラ「うわ、また変なの拾った!」
L「僕宛らしいよ」
中には一枚のカード。
白い紙に黒インクで、たった一行。
“OPEN THE DOOR(扉を開けろ)”
ミラ「……意味不明ね」
L「いや。カードの縁、触ってごらん」
ミラが指先で触れる。
「……あれ? 温かい?」
Lはカードの裏側を掲げた。
そこに走る印字。
《HFI Test-Tower Access Key》
認証レベル:怪盗L
ミラ「……これ、ヘリクス社の施設の鍵?」
L「“入って来い”ってことだろうね」
ミラ「罠よ絶対!」
L「もちろん罠だよ。
でも──」
Lはカードをポケットに入れながら、静かに笑った。
「招待状は断らない主義でね」
夜の風を受けながら、ミラが震える。
「ほんとに行くの?」
「行くよ。
金庫ロボの破壊処理、痕跡消去、
そして怪盗L専用のアクセスカード……
ここが黒幕じゃなかったら嘘だよ」
ミラ「……怖くないの?」
L「怖いかどうかより、“理解したい”んだ」
ミラ「またそれ……」
白金色に光るヘリクス社のエントランスホール。
巨大な吹き抜けの空間に、最新鋭のセンサーとホログラムが無機質に並ぶ。
怪盗Lは静かに一歩踏み出した。
足音は完全に吸収され、ホールにはただ、空気の微かな振動だけが残る。
「ようこそ、怪盗L」
低く、澄んだ声。空間の反響を計算したかのように、正確にLの耳に届く。
声の主を探すLの目に映ったのは、中央ホールの階段の最上段に立つ一人の女性だった。
長い黒髪、白いスーツ。眼鏡の奥の瞳は鋭く、まるで全てを見通しているかのようだ。
Lは微動だにせず、その視線を受け止める。
「貴方が……ヘリクス社のCEO、エレイン・ヘリクス……」
「そう。私はこの会社を率い、そして“未来を設計する”。」
彼女は軽く頷き、足元の床のホログラムを指差す。
「ここは私の研究空間──この塔全体が、私の意思の投影よ。
貴方のような、予測不能な存在が現れたからには、歓迎するわけにはいかない。」
Lは微かに笑った。
「歓迎されなくても構わない。僕に興味を持つこと自体、貴方の意志の表れだろう。」
「鋭いわね。あなたを観察したデータは、すでに私の手元にある。
過去の行動、習慣、反応速度……未来の予測も。」
Lは軽く首をかしげる。
「なるほど。つまり“未来を把握している”と。
でも、その計算は、あくまで“過去の延長線”に過ぎない。」
エレインの表情が一瞬、微かに変わる。
「……過去の延長線が、未来を作るの。
しかし、貴方は例外。だから、私が直接会う必要があった。」
Lはゆっくりと歩み寄る。
距離を詰める彼の姿は、警戒ではなく観察そのものだ。
「例外……か。確かに僕は“普通の泥棒”じゃない。
でも、その“例外”を理解できるかどうかも、貴方の腕次第だ。」
エレインは冷たく微笑む。
「理解する必要はない。制御すればいいの。
貴方という“変数”を、私のシステムに組み込むの。」
Lは短く息を吐いた。
「面白い。僕を“変数”として扱うわけか。
だけど、僕が望むのは、制御ではなく“理解”だ。」
エレインは軽く片手を上げる。
「理解したいのなら、勝ち抜きなさい──私の塔の最上層まで。
そこで初めて、貴方の“未来”を実感することになる。」
ホールの天井が一瞬で開き、螺旋階段の白い回廊が光を帯びて浮かび上がる。
「白の回廊──ここが、あなたの道の始まりよ。」
Lは目を細め、階段の先を見据える。
「なるほど……未来を固定するための迷路か。
なら、僕はその“固定された未来”を壊してみせる。」
冷たく整然とした空間に、Lの静かな決意だけが波紋を描いた。




