第23話 深海輸送船(後編)
深海輸送船 Leviathan
― 後編:生体AIとの駆け引き ―
前編でたどり着いた青白い光の球体──《Core-Lung》。
その鼓動は、まるで生き物の心臓のように規則的に脈打っているが、時折、微細に変調を見せた。
ミラ・ガーネットは震えた声で言った。
「L……あの光……脈動が……感情……って本当だったのね……」
Lは球体の前で静かに観察していた。
「うん。圧力、音波、光の反射パターン……全てが“学習型AI”による感情表現だね」
「……え!? でも、それってどうやって“怒り”とか“怖がり”とか表現できるの!?」
「光と脈動の周波数を微調整しているんだ。心拍の揺らぎを解析すれば、恐怖や警戒を読み取れる」
ミラはただ唖然とするしかなかった。
「……Lって、ホントになんでもわかるのね……」
Lは軽く肩をすくめた。
「でも、読むだけじゃ盗めない。脈動パターンに合わせて行動する必要がある」
ミラは息をのんだ。
「……じゃあ、どうするの!? 触ったら怒るんでしょ!?」
「怒っても大丈夫。触る前に少しだけ“同期”すればいい」
Lはそう言うと、Core-Lung に手を伸ばした。
脈動の周期に合わせ、わずかに体を揺らす。
瞬時に光のパターンが変わり、光の波がLの手の動きに反応した。
「……なるほど……怖い……けど……すごい……」
ミラの瞳が輝いた。
◆ Leviathan 内部追跡戦
しかし、球体に触れると同時にアラームが鳴った。
胎内の壁全体が脈動を加速し、通路の水圧も不規則に変化する。
「来た……追跡モードだ」
Lは冷静に潜水艇から取り出したツールを確認する。
ミラも装備を整える。今回のために作った“模倣装置”──
空気圧で瞬間移動する小型グライドシューズを足に装着していた。
「これ……まさか模倣装置でシューズまで作れるとは……」
Lは小さく感嘆する。
「水中での操作性と、脈動に合わせた微調整用に改造済みよ」
ミラは誇らしげに言った。
「なるほど。これで追跡波に合わせて滑れるわけだね」
Lは軽く頷き、潜水艇を離脱した。
胎内の空間は、まるで生物の血管を移動しているかのように形を変える。
圧縮と膨張を繰り返し、時折、巨大な筋肉のような突起が道を塞ぐ。
「危ない……!」
ミラが叫ぶが、Lは軽く手を差し伸べる。
「大丈夫。模倣装置のシューズで跳躍しながら進めば、押し潰される心配はない」
二人は交互に跳びながら進む。
胎内の壁の動きに合わせて足場を読み、空中で微調整するLの動きはまるでダンスのようだった。
「うわ……Lって……なんでそんなに落ち着いて動けるの……」
ミラは思わず感嘆する。
「訓練と経験かな」
Lは冷静に、しかし瞳には微かな興奮の色を宿していた。
◆ 生体AIクジラの妨害
「……待って! あれ見て!!」
ミラの指が示す先、胎内の暗闇から青白い光が一筋走った。
巨大な Leviathan の背びれが形を変え、壁と床を押し潰すように動き始めた。
生体AIクジラが、捕獲用の補助装置として動いているのだ。
「Dolphin型追跡ユニット……だね」
Lは解析装置を取り出す。
「ソナーでは探知できるけど、壁に張り付けば感知されない」
Lは壁面を滑るように移動し、シューズのグライド機能で距離を詰める。
追跡ユニットは何度も通路を走るが、Lとミラは微妙なタイミングで影に隠れる。
「わ……わかってても怖い……!」
ミラは壁を蹴り、次の浮遊床へジャンプした。
Lは静かに言った。
「泳がない。流れに逆らわず、動きを読みながら進む。それが今回の鍵」
◆ Core-Lung 取得作戦
最奥部、光が静かに脈打つ空間へ到達した。
Lは Core-Lung をじっと見つめる。
「脈拍を読む……理解……同調……」
一瞬、Lの手が光に触れる。
光がわずかに反応し、柔らかい波動が二人を包んだ。
「やった……触れた……?」
ミラが息を呑む。
「まだ序盤だよ」
Lは球体を手で包み込みながら慎重に動く。
鼓動の変化、光の揺れ、脈動パターンを全て計算している。
その瞬間、Leviathan は微細な圧力波を発生させ、通路を揺らした。
だがLは慌てず、ミラはシューズで跳躍、滑るように波動を回避する。
「……流れに乗れ……」
Lの呟きに、ミラも続く。
二人は互いに呼吸を合わせ、最後の通路へ滑り込んだ。
◆ 胎内脱出
Core-Lung を取得した瞬間、Leviathan は体内全体を震わせた。
圧力、音波、光──全てが反応し、胎内は生き物の怒りのように脈動する。
「L! 外に出るのよ!!」
ミラが叫ぶ。
「うん、流れに合わせて……」
Lは球体を抱え、シューズのグライド機能を最大にして滑走。
胎内の筋肉のような壁が迫るが、瞬間の計算で隙間を抜ける。
「追跡ユニットも……」
ミラが跳躍でかわしながら前へ進む。
ついに、出口。
光が差し込み、深海の暗闇から脱出する二人。
◆ エピローグ
深海の波間に浮かぶ潜水艇に戻り、二人は深く息をつく。
「無事だった……L……」
ミラが目を潤ませる。
「ありがとう。君の模倣シューズがなければ、追跡波に耐えられなかった」
Lは Core-Lung を安全な収納ケースに収めた。
ミラは胸を押さえながら笑った。
「……科学で魔法を越える……それが、怪盗L……」
Lは軽く微笑む。
「そう、科学で魔法のように見せる──それが僕のスタイル」
深海の黒い海面に、二人の影が長く伸びる。
Leviathan は静かに海底へ戻っていくが、Core-Lung の微細な脈動は、まだどこか二人を見つめているようだった。
「……次はどんな挑戦かな?」
ミラは興奮気味に訊いた。
「それは、次に届く挑戦状次第だね」
Lは淡々と答え、深海に沈む船影を眺めた。




