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第1話 開かずの金庫ロボを盗め!


彼の名は『怪盗L』。


彼にとって盗みは犯罪ではなく、芸術でもなく、

「セキュリティという作品を完全攻略するゲーム」 でしかない。

どんな防犯にも必ず“穴”がある。

その穴を見つけて突破する瞬間こそ、彼が世界で一番愛する快楽だった。


そして、宝はただの“クリア報酬”。

本当に欲しいのは、突破の証明だけ。


怪盗Lが活動を始めてからというもの、

科学者、発明家、巨大企業、さらには世界的エンタメ企業までもが、

彼を倒すための“最強のセキュリティ”を開発し始めた。


これは怨敵ではなく、もはや挑戦状だった。


「うちの防犯を破れるものなら破ってみろ。

 世界一の怪盗さんよ」


企業も天才も、自分の誇りと技術を賭けて“Lを迎え撃つ”。

そしてLは微笑む。


「もちろん。

 あなたが作ったセキュリティに、穴があるなら」


――怪盗Lは今日もまた、完璧という名のゲームに挑む。



1 ──挑戦状の倉庫


倉庫街のいちばん端。

街灯がチカチカと点滅する静かな夜。


黒いコートの男が、倉庫のシャッターの前に立っていた。


怪盗L。

その名を知らぬ泥棒はいない。


Lは懐から挑戦状を取り出し、読み返す。


“この金庫を開けられた者はいない。

 挑戦者99名すべて失敗。

 来い、怪盗L。最後の一人目になれ。”


「……最後の“一人目”って何だよ。

 順番の概念を破壊してくるな」


Lは肩をすくめ、シャッターを押し上げる。


ゴウン、と重い音が響き、倉庫が開いた。


中には――


巨大な金庫。


高さ3メートル、幅2メートル。

前面には古典的なダイヤル式ロック。

場違いなくらいローテクだ。


「……今どきダイヤル式?

 挑戦状に“99人が敗北”って書いてあったけど……

 いやいや、これはさすがに――」


その瞬間。


ゴゴゴゴゴッ!!


金庫が振動した。


「え?」


両側面が裂けるように開き、

金属の腕が2本、脚が2本ずしんと地面に突き刺さった。


金庫の上部に円形ランプが点灯する。


「ピ……ピピピ……起動完了」


光が二つの“目”になった。


金庫は立ち上がった。

立ち上がった。


「ピピピ!

 我こそ《巨大金庫ロボ K-BORG100》!!

 泥棒対策プログラム・フル稼働中!!」


L「…………」


巨大金庫ロボ「ピピ! どうした、驚いたか?

 今までの泥棒たちは、この姿を見ただけで失禁して逃げたぞ!」


L「いや、ごめん……

 “前時代的な金庫が急に立ち上がる”っていうギャップに

 対応が追いつかなくて」


巨大金庫ロボ「ピピピピ! 貴様、ふざけているのか!!」


2 ──泥棒対策プログラムの恐怖


倉庫の照明が一斉に点灯し、

金庫ロボの足元にレーザーセンサーが広がる。


巨大金庫ロボ

「説明してやろう!

 我の泥棒対策プログラムは、泥棒特有の行動を感知する!

 鍵を触る、歩幅が変わる、視線が鋭くなる――

 泥棒行動パターンをすべて学習しておる!!」


L「なるほど。つまり泥棒の行動が“入力”になってるんだ」


金庫ロボ「そうだ!!

 お前が何か泥棒らしいマネをすれば、即攻撃!!

 我は今まで99人を返り討ちにしてきた!

 そしてお前で……ついに100人目ピピ!」


L「百人目……ずいぶん縁起のいい数字だね。

 まあ、敗北者のほうの数字だけど」


金庫ロボ「ピギィ!!(怒)」


金庫ロボが腕を振り上げ、叩きつけた。


ズドォン!!


床が砕け、粉塵が舞う。

Lは紙一重でかわして距離を取った。


L「動きは重いけど、質量がえげつないな……」


金庫ロボ「ピピピ!

 逃げても無駄だ。

 我は泥棒の習性から“逃げ道選択率”を解析し、

 お前の回避を予測する!」


L「逃げ道選択率って……そんなの初めて聞いたよ」


3 ──不可解な男の不可解な行動


金庫ロボが突進してくる。


Lは走る――かと思えば、


L「はぁ……」


急に歩き出した。


散歩のように。


金庫ロボ「ピ? 攻撃しないのか?」


L「うん、今日は散歩したい気分でね」


金庫ロボ「ピピピ!? 泥棒がロッキング中の金庫の前で散歩!?

 分析不能! 行動分類できない!!」


L「そう? 僕はただ歩いてるだけなんだけど」


Lは金庫ロボに背を向け、

倉庫内の壁を見ながらテキトーに歩く。


その足音は単調で、泥棒のリズムではない。


金庫ロボ「泥棒行動指数0……警戒モードダウン……ピ?」


L「そう。泥棒っぽい行動をしなければ、君は反応しないんだね」


金庫ロボ「!?」


4 ──開錠開始


Lは“ダイヤルに触れない”。


ただダイヤルに耳を寄せて、歩きながら足音を鳴らす。


トン……トン……トン……


L「なるほど。

 君、動くたびに内部ギアが微妙に揺れる。

 その揺れで“必要なダイヤル位置だけ”音が共鳴するんだ」


金庫ロボ「ピ……ピピピ!?

 音響解析で開錠!?

 泥棒らしさゼロの動作で鍵を読み取るなんて聞いてない!!」


Lはゆっくり歩きながら足音を調整する。

すると――


カチリ。


L「あ、1つ目開いた」


金庫ロボ「ピギィィィ!!(悲鳴)

 そんなバカな……!

 なぜ泥棒らしく動かない!?

 なぜダイヤルを触らない!?」


L「だって触ると君、怒るでしょ?」


カチ……カチリ。


L「はい、二つ目」


金庫ロボ「ピピピピピ!!

 やめろ! やめろ!!

 泥棒はもっと……泥棒らしく!!

 鍵穴に耳を当てろ!

 緊張しろ!! 焦れ!! 盗みらしい動きをしろ!!」


L「ごめん、今日はそういう気分じゃないから」


最後の一つ。


Lは床を軽くトンと踏む。


カチリ――ガシャッ!


巨大金庫ロボの胸部が開いた。


5 ──敗北宣言と、100人目の例外


金庫ロボはガクガクと震える。


金庫ロボ「……理解不能……

 泥棒らしさゼロ……

 我、泥棒対策プログラム、根本から否定される……」


L「うん。

 君のプログラムは“泥棒の行動”を前提にしている。

 つまり、泥棒じゃないみたいに見せればいいだけ」


金庫ロボ「ピ……ピピ……

 お前はいったい……何者だ……?」


Lは微笑む。


「僕?

 ただの――

 **どんな警備でも“理解して盗むだけ”の怪盗さ」」


金庫ロボ「ピィ……100人目にして……初の例外……」


光がスッと消え、巨大金庫ロボは静かに膝をついた。


宝はLの手の中にある。


L「記念に内部構造、あとで調べさせてもらうよ」


Lは倉庫を出た。


外にはミラが待っている。


ミラ「L! 遅かったじゃない!」


L「ごめん。ちょっと散歩してた」


ミラ「は? どういう意味?」


L「いや、散歩は大事だよ。

 気分転換にもなるし、金庫も開くし」


ミラ「……え?」


Lは夜風に揺れるコートを翻し、

星空の下を歩き出した。


今宵もまた、

怪盗Lは“理解して盗む”のである。

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