おまけ、「リーダーの苦悩・とどめ」
とりあえずまとまってから、幾日かが過ぎた朝。
早くも関係は順調とは云いがたく、お互いに己ばかりが損をしていると思いがちなふたりだったが、そこはまあ、惚れた者の弱みで、相手のわがままをそれぞれに(おもしろくない思いはしながらも)聞いたりしながら、まっとうとは隔たりがあるかも知れない恋愛を、つきあいはじめたばかりのバカップルよろしく、満喫していなくもなかった。
前置きが長くなったが、ようするに問題はなくもないが別れる気配もまたない、できあがっちゃっているふたり、という、傍目にとても迷惑な状況になっているわけだ。
おもしろくない思いをすることにも、少しは嬉しいなんて馬鹿げた小市民的な幸せをおぼえたりするほどには、冷静でない、愉快な毎日を送っている両人だった。
それで、朝だ。
「カラダ痛い~!」と真中は俯せのまま喚いている。
隣で北見は煙草に手をのばした。まるで他人事のような顔をしている。
「なんや、まだ慣れへんのか。慣れれば平気、聞くけどな」
誰のせいやねん、と真中はじとりと北見を見やる。自分が誘ったことなどすでに意識の外だ。めちゃくちゃにして、と囁いた彼は影もない。
「お互い、今日がオフでよかったですな」
憎々しげにすら響く真中の声に、北見は眉を寄せる。
「追及をまぬがれへんようなとこに、キスマーク、ついとるで」
なに、と片眉をあげた北見は、火をつけたばかりの煙草を灰皿に押しつけ、鏡を探した。
「いつのまにそんなんしてたんや、どこやって」
「自分や見えへんとこですよ」
ベッドを降りて鏡に向かおうとする北見の腕をつかんで止めた真中は、怪訝に振り返る北見のその頚にするりと腕をまわした。
「こーゆーとこ」
そのまま北見を引き寄せ、真中はその頚に齧りついた。北見が、ぎゃあ、と情けない声をあげる。
「おや、すいません。いま、つきました」
「おまえ……っ!」
かじられたところを手で押さえ、一喝しようとする北見にかまわず、真中はまわした腕を離さない。
「俺にもつけてくださいよ。北見さん、あんまりそういうのしてくれへんから、寂しくて」
「……まえに、蚊がいるとか云うとらんかったか」
恨みがましげな北見に、真中は笑った。
「そんな冗談、真に受けんと笑って流してくれな困りますて。……正直なとこ、俺があんたのもんやって証拠、つけてくれたら嬉しい」
いたずらな顔で笑う真中に、渋い顔をしていた北見は、ため息まじりに怒りを解いた。
「そんな証拠には、ならへんやろ」
気持ちなどなくとも、跡はつけられる。所有の証でもない。そんなものであれば、「蚊が居りまっせ」とか云われるはずもなかった。そのころの北見には、つけられない。
「まあ、いまの俺がそう思ってるだけですけど。あしたには、意見が変わるかもしれませんね」
「いまだけか?」
「そっすね。期間限定の、あんたのもんやって証拠。いやですか?」
なんとなく騙されている気がするが、まあいい。自分たちの関係は、一生こんなもんだろう。
素直になればなるほど、騙し、騙されているような気になる。悩んだところで無駄なのだ。
もっとも、悩まずにいられるはずもないのだが。
その結論をほかして、北見は真中を掻きいだき、くちづけた。
北見が真中のどこに所有印をつけたのか。
それは、ふたりのみ知る話である。
これにてハピエン。
以降の更新は、真中視点の番外編とかになります。




