表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたに愛を教えるのは  作者: 旧里朽墟
一章:悲劇の誕生
4/31

2.

 頭の両端を紐でまとめた後、今度は小物入れ(ピュクシス)の蓋を開けて、金製の耳飾り(イヤリング)を取り出し、耳元に飾り付ける。


 それらをようやく終えて、今度は用意した衣服を身にまとう。


 昨夜と同じ、亜麻布で編まれた白の肌衣を金色の帯で締め上げる格好。実は帯の下に銀製の留めフィブスも付けている。


 ちなみに、下着と呼べる物は身に付けていない。


 これについては諸々の意見があるものの、この国、この国土にあっては、何もおかしくはない常識といえた。


 むしろ、女性だから服を着るのであって、男なら着ない場合も多い。


 〈白の神官女〉は自身の姿を確認するべく、再び青銅の姿見を見やる。


「……おかしなところは、どこも、ないはず」


 自身の今の姿を一通り見ながら、感想を呟く。


 最後に平底靴を履いて、着替えは完了となる。


「……これでよいでしょう」


 一連の支度を終えて、一人息を吐く。


 ひさしぶりに神殿外の人間と会うため、身だしなみが崩れないか心配だった。


 神殿に仕える者は、世俗との関わりを断っている。


 その最高位に位置する〈白の神官女〉に選ばれた人物は、本人の出自がどうであれ、王国でただ一人、国王とも対等に話し合える立場にある。


 かといって、莫大な富が手に入るわけではない。現在の神殿が抱える経済事情は、悲惨なものだ。


 特に食料に関しては重要な問題で、月に一度運ばれてくる物資がなければ、たちまち飢えてしまうのが現状だった。


 その理由は、先述したように、世俗との関わりを断っているため、街への買い物に出ることもままならない。


 なんとも窮屈かつ面倒な決まりであるが、神との関係を重んじる彼女たちにとっては、決まりとは己の体以上に重く、生命に等しいほど大切なことだった。


 しかも、それらに加えて。今の〈白の神官女〉には、その持ち運ばれてくる物資すら受け取りにくい事情もあった。


 だというのに、これからその要因ともいえる相手と会わなければならないので、気が重い。


 最も、背に腹は代えられないため、ありがたく受け取るより他にないのだが。


 そうこうしているうちにも時間は経つので、覚悟を決めて部屋を出る。


 その前に、扉の近くに立て掛けていた棒状の物を手に取った。


 それは各部屋の扉を開けるための鍵である。


 神殿内の扉は錠付きで、この奇妙に長い鍵を用いて扉の穴に通し、中からかんぬきを外すという仕組みだった。


 また、鍵は神官を表すための象徴であり、祭儀を司る者にとっては、身分を示す装身具でもある。


 それを手に抱えて、部屋の外に出る。


 と、柱廊の合間から外の景色が目に飛び込んできた。


 深い青空の下、切り取った地平線。神殿の下に見えるのは、街の市民が住まう家屋や、その他の建造物。


 さらにその先には、果てしない海が垣間見える。


 それらの景色の間を進みながら、〈白の神官女〉は廊下を渡り、目的の部屋へと向かっていく。


 目指すのは、神殿にある三つの部屋のうち、神室である。


 そこで、これから来訪するであろう客人と面会する。


 また、神室には神殿の要ともいうべき神像も奉られていて。むしろ神室は、そのための空間といってもよかった。


 あれこれ考えているうちに、目的の部屋の前まで到着する。


 〈白の神官女〉は扉の中へと、その足を踏み入れた。


 部屋に到着したあるじの姿を確認して、既に来ていた〈神殿従女〉たちが一斉に礼を取る。


「おはようございます。〈白の神官女〉さま」


 見事なまでに揃えられた一礼を受けて、神官女も挨拶を返した。


「皆さん、おはようございます」


 神官女は室内に入ると、左右に立ち並んだ円柱の下に控える〈神殿従女〉の縦列を縫って、足を進めていく。


 従女たちもまた、自分たちのあるじと同じ格好をしており、その身に白の肌衣と黄色の帯を締めている。


 しかし誰もが、素顔を頭巾で隠していた。


 彼女たちの合間を通った先、この空間が神室と呼ばれる由縁である、石造りの神像の前に辿り着く。


 そこは、〈白の神官女〉が最も所定とする位置であり、来訪する祭礼者を応対するための場所だ。


 神像の前に辿り着いた神官女は背後を振り返り、あらためて客人を迎える準備を整えた。


 と、両脇に控えていた従者たちの一人が、前へと進み出てくる。


「先ほど、国王さまがこちらにご到着されました。今は神殿の前でお待ちいただいております」


 神官女は頷いた。


「お通しを」


 許可を得て、〈神殿従女〉が主人の意志を伝えに外へ出る。


 しばらくして、足音が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ