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あなたに愛を教えるのは  作者: 旧里朽墟
三章:ミネルヴァの梟は迫りくる夕暮れに飛び立つ
26/31

2.

 今より五年前のことである。


 当時、王妃の近衛と侍女を務めていたアレキサンドリアは、病床に伏した王妃の介護を担当していた。


 その手を握りながら、彼女は王妃の側である頼みを受け取った。


「……アレキサンドリア」


「何でしょう、王妃さま」


「私の大切な臣下であり、侍女であり、友人であるあなたに、お願いがあります」


「この身に余るお言葉でございます。お願いなどといわず、何なりとお命じになってください」


 王妃が力なく首を左右に振る。すでに全身を病に侵されており、医者でさえお手上げといった状態であった。


「あなたは私の大切な友人よ。そんなあなたにだからこそ、お願いしたいの。――あの子のことを」


 彼女は今、自らが病床の間にあっても、他者を心配している。


「私には愛せなかったけれど、あなたが側にいてくれるなら、心配いらないわ。だから、お願いね?」


「……残りの生涯を賭けて、お約束します」


「ありがとう。これで私の心残りもなくなったわ……」


 その後、王妃は眠るようにして人生の幕を閉じた。


 ――今でも、あの時のことを忘れた時はない。


(いいえ、王妃さま。あなたは、陛下を愛しておられましたとも)


 だから、誓ったのだ。


 この身が滅びるまで、殉じようと。


 それから五年の月日が流れ、彼女は自身を王の〈第一の臣下〉と名乗り、今日までその側に仕えてきた。


 思えば、早いようで長い時間であったと思う。


 しかしまさか、自分が歴史の変わる瞬間に立ち会おうとは。


 それほどに、神殿の封鎖はこの国の者にとって特別なことだった。


「……あれは……?」


 と、その時、街中で見知った顔の人物を見掛ける。


 相手の正体を知るアレキサンドリアは、その目を見開いた。


 ――何故、あなたがここにいるのですか?


 金色の髪をさらさらと流した女性。本来、この場にいるはずのない身分。


 その手にしているのは、先端が幾枚もの葉で覆われた杖。


 〈白の神官女〉その人が、堂々と市街を闊歩していたのだ。


 確かあれは、王によって使用が禁じられていたはず。それを何故、今持っているのか。


 思わずといった様子で、アレキサンドリアがダフネに声を掛ける。


「〈白の神官女〉さま、このようなところで、一体何をされているのです? いくら神殿の封鎖が決まったとはいえ、未だ御身は神域から出られないはずでは……」


「あなたは……」


 まるで、初対面の人物と会った顔で、ダフネはいった。


「ちょうどいい。では、あなたに案内してもらうといたしましょう」


 そこにはアレキサンドリアが目にしたことのない、笑みを浮かべる相手の顔があった。


「さぁ、悲劇の再開よ。共に踊り狂いましょうね?」


 ・ ・ ・



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