2.
今より五年前のことである。
当時、王妃の近衛と侍女を務めていたアレキサンドリアは、病床に伏した王妃の介護を担当していた。
その手を握りながら、彼女は王妃の側である頼みを受け取った。
「……アレキサンドリア」
「何でしょう、王妃さま」
「私の大切な臣下であり、侍女であり、友人であるあなたに、お願いがあります」
「この身に余るお言葉でございます。お願いなどといわず、何なりとお命じになってください」
王妃が力なく首を左右に振る。すでに全身を病に侵されており、医者でさえお手上げといった状態であった。
「あなたは私の大切な友人よ。そんなあなたにだからこそ、お願いしたいの。――あの子のことを」
彼女は今、自らが病床の間にあっても、他者を心配している。
「私には愛せなかったけれど、あなたが側にいてくれるなら、心配いらないわ。だから、お願いね?」
「……残りの生涯を賭けて、お約束します」
「ありがとう。これで私の心残りもなくなったわ……」
その後、王妃は眠るようにして人生の幕を閉じた。
――今でも、あの時のことを忘れた時はない。
(いいえ、王妃さま。あなたは、陛下を愛しておられましたとも)
だから、誓ったのだ。
この身が滅びるまで、殉じようと。
それから五年の月日が流れ、彼女は自身を王の〈第一の臣下〉と名乗り、今日までその側に仕えてきた。
思えば、早いようで長い時間であったと思う。
しかしまさか、自分が歴史の変わる瞬間に立ち会おうとは。
それほどに、神殿の封鎖はこの国の者にとって特別なことだった。
「……あれは……?」
と、その時、街中で見知った顔の人物を見掛ける。
相手の正体を知るアレキサンドリアは、その目を見開いた。
――何故、あなたがここにいるのですか?
金色の髪をさらさらと流した女性。本来、この場にいるはずのない身分。
その手にしているのは、先端が幾枚もの葉で覆われた杖。
〈白の神官女〉その人が、堂々と市街を闊歩していたのだ。
確かあれは、王によって使用が禁じられていたはず。それを何故、今持っているのか。
思わずといった様子で、アレキサンドリアがダフネに声を掛ける。
「〈白の神官女〉さま、このようなところで、一体何をされているのです? いくら神殿の封鎖が決まったとはいえ、未だ御身は神域から出られないはずでは……」
「あなたは……」
まるで、初対面の人物と会った顔で、ダフネはいった。
「ちょうどいい。では、あなたに案内してもらうといたしましょう」
そこにはアレキサンドリアが目にしたことのない、笑みを浮かべる相手の顔があった。
「さぁ、悲劇の再開よ。共に踊り狂いましょうね?」
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