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あなたに愛を教えるのは  作者: 旧里朽墟
間章:我々は何者か
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神の場合

 そんな、ある日のこと。


 あの時の臣下の言葉が、ふいに耳元でよみがえった。


『――女神を己のものとするのです』


「私は……」


 本当に、少しだけ、魔が差した。


 何かの拍子に、初代〈赤の王〉は私室に招き入れた女神を、押し倒してしまった。


 理性よりも、本能が働いている。


 女神は、ひどく驚いていた。


 初めて目にする相手の顔。


 しかし、もはや後戻りはできない。


 そう踏んだ王は、女神の頬に手を触れた。


 途端、その手を振り払われる。


「……女神?」


 初めて、拒絶された。


 会って以来、ずっと守ってきてくれた存在が。


 その時、王は自身の中で何かが決壊した感覚に陥った。


 強引に女神に手を付け、行為に及んだ。


 その後、女神はひどく悲しんだ顔を見せ、風が吹くように消えていった。


 それから、王の前に姿を表すことはなかった。


 代わりに、その後すぐ、自然の猛威が、王国を襲ってきた。


 尋常でない雨嵐。強く吹き付ける風。地面が揺れる災禍の数々。


 まるで強い感情を織り交ぜたそれらは、女神による仕業であると王は検討をつけた。


 自身を裏切った人間を、許さないといったように。


 そして、王の宮殿で外の景色をうかがっていた初代〈赤の王〉は目にした。


「何だ、あれは……?」


 荒れ狂う嵐の中、人間の倍以上はありそうな物体が、地上を闊歩している。


 それは獣の角が二本、頭の両端から飛び出していた。


 これまで目にしたことのない生物。例えるならそれは、怪物。


 それらは地上を行進するかのように、多くの怪物が現れ、次々に人間たちを襲った。


「これが、あなたの怒りなのか……? どうか我が声に答えてくれ、女神よ!」


 王は自身の行為を激しく後悔し、空に向けて叫ぶが、返ってくるのは雷鳴や嵐の音ばかり。


 初代〈赤の王〉は、兵士たちを率いて、怪物たちとの戦いに明け暮れた。


「今一度、私の前に姿を表してくれ! そして、もう一度話をしよう!」


 初代〈赤の王〉は荒れ狂う風の中で一人、声を張り上げる。


 しかし、かつて小鳥がさえずるように美しかった姿は、もうどこにもなく。


 返ってくるのは、吹き荒れる嵐と、轟々たる雷雨。それらが容赦なく大地へと降り注ぐ。


 それでも女神の怒りは収まることなく、やがて自らが地上に産み落とした娘も呪った。


 神と人の血を引いてこの世に生を受けた半神半人の子は、その生をありとあらゆる困難にさらされることとなる。


 しかし、ともすれば呪いは祝いでもある。


 逃れ得ない運命の悲運を女神の祝福とした娘は、最終的にあまたの試練を超克した。


 ついには地上への災禍を振るう自身の母親とも対峙し、これを封印するに至る。


 この偉業を成し遂げるに自らを〈白の神官女〉と名乗り、自身を伝説的な存在へと押し上げた。


 これが〈白の神官女〉の始まりであり、後に初代と称される人物の起こりである。


 初代〈白の神官女〉はその後、父である国王にある頼みを迫った。


 それは、自身の母である女神の怒りを鎮めるべく、神殿を建てることであった。


 また、この事実を隠すことも。


 父王はその望み通り、神殿をうち建て、これを娘に任せた。


 初代〈白の神官女〉は、地上に現れた怪物たちをこの迷宮に封じ込め、彼らを統制する存在を作った。


 それこそ、後に羊頭鬼と称される存在である。


 また、この迷宮に人間の手が及ぶことも禁じた。


 迷宮の最下層にある葡萄園は、初代〈白の神官女〉がせめてもの供物として女神に贈った品だ。


 以来、女神の怒りが地上を脅かすことはなくなり、王国にも平穏が訪れた。


 その後の王家の血統は、建国王の娘である〈白の神官女〉が子を生み、その人物が二代目の国王となった。


「王族としての役割は果たす」と、王女でもある彼女はそういったとされる。


 また、神官女の役職については、弟子が引き継いだとも、また別の人物を連れてきたとも。


 その詳細については、定かでない部分も多く、未だ謎に包まれている。


 かくして、今日まで赤の王国の王家の歴史は紡がれてきたのであった。




 ――夢を見た。とても悲しい夢を。

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