少女の場合
今でも夢に見るのは、幼い頃の記憶だ。
己の中に残っている、最も古い部分。
それは自身を構成する要素の核であり、起源ともいうべきもの。
青空の下。神殿外の中庭。
のどかな日差しが、胸の内の温かい部分をくすぐる。
木陰でたたずむ一人の女性。この世のどれよりも麗しいその姿は、まさに神話に謳われる絶世の美女のよう。
銀の流れる髪。慈しみを称えた顔付きの下には、今にもこぼれ落ちそうな豊かな胸元がある。
その膝下では、一人の少女が居心地良さそうに頭を乗せていた。
二年前、この神殿に連れてこられた。
親に捨てられた彼女は、〈白の神官女〉に拾われる形でここへ来た。
食い扶持を減らすために我が子を捨てるのは、この国においては時としてあることであった。
とはいえ、まだ年端もいかない子供がその事実を受け止めるには、酷といってあまりある。
この世から悲しみは消えない。今もどこかで子供が泣き、人々が嘆き、悲しみに暮れているのだろう。
ふと、少女のあどけない顔が、頭上の女性を見上げていた。
「しろのしんかんじょさま」
「ん?」
「しろのしんかんじょさまは、『あい』というものをしっていますか?」
「どうしたの? 急に」
「わたしは、『あい』をしりたいのです」
女性の表情がさらに柔らかくなる。
慈しみを含んだ口元が、言葉を紡いだ。
「大丈夫よ。きっといつか、あなたも知ることになるわ」
優しい手が、少女の髪をさらりと撫でる。
「あなたに愛を教えるのは――」