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096 決心の

「ジル、話がある」

「ん?」


 その日の放課後。オレはコレットに誘われる形で学園の屋上に来ていた。


 学園の屋上と言っても、コンクリート打ちっぱなしの殺風景な所じゃない。一面に花々が咲き誇り、その中央を貫く道には一定間隔でベンチが並び、その先にはテラスのような建物まで見える。まるでどこかのテーマパークのような風景だ。さすが貴族の学校だね。とても華やかな空間だ。


 だが、放課後になってすぐに来たからか、他の生徒の姿が見えなかった。


「こっちだ」

「ああ」


 コレットに続いて屋上の中央に建てられたテラスへと向かう。テラスの中には木でできたテーブルや椅子などが並んでいた。コレットはそのうちの一つに座った。オレもテーブルを挟んでコレットの正面の椅子に座る。


「それで? どうしたんだ? アリスにも話せないことなのか?」


 教室でコレットに誘われた時、実はアリスも傍にいたのだが、コレットはアリスの同席を断った。どうやらアリスには聞かせたくない話らしい。


 いったいなにが飛び出るのか……。ちょっと不安だ。


「俺、見ちまったんだよ……。ジルがあいつらに頭下げてるの……」


 コレットが呟くように言う。そうか、見られていたのか……。なるべくコレットのいない時間を見計らって動いていたんだが、見つかってしまったらしい。


「かっこ悪いとこ見せたな……」

「かっこ悪くなんてねーよ!」


 コレットは、立って噛み付くようにテーブルに乗り出して叫ぶ。


「ダチのために頭を下げられるジルは、かっこ悪くねえ! ……かっこよかったよ……」


 コレットの最後の呟きが、ギリギリ聞こえなかった。なんて言ったんだろう?


「コレット?」

「とにかく! ジルはかっこ悪くなんてねえ! かっこ悪いのは……俺だ……! 俺のせいでジルに頭を下げさせちまった……。情けねえよ……」


 一転して、力が抜けたようにコレットが椅子にぐたっと座った。顔を伏せ、その表情は見れないが、なんだかコレットがそのまま泣いてしまいそうに見えた。


「俺だって、本当は礼儀を守った方がいいのはわかってる。ここが俺の育った貧民街じゃないこともな。でも、嫌なんだ! どうしてもあんな奴らに頭を下げたりしたくねえ! でも、これ以上ダチに迷惑かけることもできねえ! 俺はどうしたらいいんだよ……」


 オレは、テーブルに置かれたまま祈るように固く握られているコレットの手を取った。


「コレット、そんなに思いつめないでくれ」

「ジル……」


 コレットがそっと顔を上げると、今まで見たことのないほど情けない顔をして、目尻には涙の粒が浮いていた。


「コレット、べつに心から頭を下げる必要は無い。見た目だけでもそれっぽくすればいいんだ。それだけでだいぶ違ってくる」

「でも……」

「ここは戦場で、礼儀作法は武器であり戦術なんだ。今のコレットは、なにも持っていないから侮られているだけだよ。それに、そろそろ礼儀作法の新人戦がある。そこで力を見せれば、問題はない」


 コレットがきょとんとした顔を浮かべた。その拍子に目尻から一つ筋の涙が零れる。オレは身を乗り出してそれを拭った。


「ぇ? え? え!?」

「顔が赤い……?」

「ちっげーし!」


 コレットの顔が一気に赤くなった気がしたが、どうやら違うらしい。熱中症の初期症状かな?


 まぁ、早く本題に入って校舎の中に戻った方がいいだろう。


「話を戻す。コレット、学園の舞踏会に出よう」

「あん? 舞踏会……?」

「ああ。二週間後の建国記念日に、上級生を交えた舞踏会が開かれる。表向きは建国を祝う行事だが、これは礼儀作法の新人戦でもあるんだ。貴族たちにとって、絶対に失敗できない礼儀作法の大舞台。それが舞踏会だ」


 舞踏会には王様も顔を出すしね。


 ゲームでは、主人公の教養の数値によってイベントが分岐する。上手くいくと、王様に名前を覚えられたり、貴族たちから一目置かれる存在になれるのだ。


 それに、このイベントの成功次第でゲームの攻略ルートが解放されたり、仲間になるキャラクターが増えたりする。コレットの将来を考えるなら、絶対に攻略した方がいいイベントだ。


 これを利用する。


 コレットが、舞踏会で目覚ましい活躍を見せれば、今あるいじめや悪評なんてすべて吹き飛ばせると信じている。


「だからコレット、舞踏会に向けてがんばってみないか? 舞踏会までは今まで通りの態度でいい。でも、舞踏会だけは、ちゃんと礼儀作法もできるってところを貴族たちに見せつけるんだ」

「でも、俺は……。礼儀作法なんてできないし……」


 コレットが自信なさそうにうなだれてしまう。


「そこは練習あるのみだな。まさか、コレットともあろう者が、やる前から勝負を諦めるのか?」


 コレットが弾かれたようにオレを見た。その瞳には、煌めくばかりの意志があった。


「嫌だ! あいつらにナメられっぱなしは嫌だ!」

「じゃあ、決まりだな。心配するな。オレが道を整えてやる。お前は自分のことだけに集中しろ。くふふ」


 こらえきれずに笑いが漏れてしまった。


「ジル?」

「いや、普段礼儀作法で文句を言ってくる貴族たちに礼儀作法で勝つなんて最高じゃないか?」

「ははっ! いーね!」


 コレットも釣られたようにふてぶてしい笑みを見せた。コレットはこうでなくちゃな。

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本作は3月24日に発売予定です。

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