094 対策会議
数日後。エグランティーヌの離宮。相変わらず豪華な猫足の家具たちに囲まれて、オレたち『バル・マスケ』のメンバーが揃っていた。
コレットとクラスメイトたちの間に広がっている溝をどうするかという問題を話し合うためだ。
だが、オレも、アリスも、エグランティーヌも、エヴプラクシアも、コルネリウスも難しい顔をして黙り込む中……。
「このお茶のカトルカールってめっちゃおいしいな!」
まぁ、当のコレット本人は、生クリームをたっぷり付けたカトルカールを食べてご満悦だったが……。もう少し、緊張感を持ってくれてもいいんじゃない?
「コレット、ちゃんと聞いてるか?」
「聞いてるよ。ったく、ほんとにムカつくぜ!」
コレットが一度フォークを置いて、不機嫌な様子で腕を組む。腕を組むのはいただけないが、フォークを置く仕草は洗練されたものだった。コレットに礼儀作法を教えているエグランティーヌとエヴプラクシアの努力の跡が窺える。
コレットがなぜここまで怒っているのか。それは、ついに今日、コレットの教科書が行方不明になったことが原因だ。コレットは教科書をすべて机の中に入れていたのだが、今朝になると教科書一式が消えていた。誰かが隠した。もしくは、捨ててしまったのだ。
そんなわけで、ついに実害が出てしまったので、こうして『バル・マスケ』で集まって対策会議をしているところである。
「ったく、クスクス笑っておいて、誰に訊いても視線逸らすだけでよぉ! これが貴族のやり方かよ!」
「まぁ、あんな訊き方じゃあなぁ……」
コレットは、クラスメイト全員にまるで尋問するように犯人は誰か訊いて回ったが、結局誰も答えなかった。
それに、教室を包んでいたコレットの不幸を嘲笑うような雰囲気。胸糞悪くて仕方がなかった。コレットとクラスメイトたちとの関係は、それほどまでに冷え込んでいる。元々あった不満が爆発した形だ。
「わたくしの方でも調査してみましたが、犯人は見つかりませんでしたわ。それどころか……」
エグランティーヌが頭が痛いとばかりに額に手を当てる。
まぁ、気持ちはわからんでもない。コレットの教科書を隠した犯人をクラスメイトに尋ねたら、みんなが口を揃えたようにコレットとの付き合いを見直す、もしくはやめるように進言してきたらしい。
今では、エグランティーヌは見る目がないという悪評が上級生の間でも広まっているらしい。
それに対抗するようにエグランティーヌはコレットを自分の騎士に任命した。王族の騎士になれば、一代限りの貴族位が貰えることになる。エグランティーヌとしては、コレットも貴族だよ、仲間だよと示した形だ。だが、それはクラスメイトたちの悪感情を逆撫でするだけに終わってしまった。
クラスメイトたちのコレットへの悪感情は、オレの想像以上に強い。
ちなみに、コレットと一緒にアリスもエグランティーヌの騎士に任命されている。アリスは貴族だけど、その出自は決していいとは言えないからね。ないとは思いたいが、アリスがいじめのターゲットになることもありえる。そこで先手を打ってアリスの立場を補強した形だ。
「コレットも頑固ね。礼儀作法なんて挨拶みたいなものなのよ。たしかに面倒かもしれないけど、少し我慢すればいいだけじゃない」
「俺は、形だけでも命を預けたダチにぺこぺこするなんて御免だね!」
「あなたのその心意気は嬉しいけどね……」
「おう!」
はぁ、と溜息を吐くエヴプラクシア。彼女やエグランティーヌみたいな高位貴族や王族にとって、真の友だちというのは貴重だ。コレットは礼儀作法がなっていないが、その分ストレートな感情を言葉にする。エヴプラクシアやエグランティーヌにとって、コレットは特別なお友だちなのだ。
だから、コレットの礼儀作法がなっていないのを許していた。
だが、この国の高位貴族、王族であるエヴプラクシアやエグランティーヌは、言わば貴族たちの代表だ。そんな自分たちの代表に無礼な態度を取るコレットが、貴族のクラスメイトたちからよく思われないのは必然なのだろう。
「ふんすっ!」
不機嫌そうに眉を吊り上げて、睨みつけるように天井を見上げるコレット。
コレットの意志は固いな。今回の事件で、より一層固くなってしまった気がする。できれば楽しい学園生活を送りたいんだがなぁ……。
というか、ゲームにはこんなイベントなかったぞ。どうなってるんだよ。まるでどうすればいいのかわからない。
一番簡単なのは、やっぱりコレットが礼儀作法を完璧にこなすことだが……。それにはコレットの意識改革が必要不可欠だし、いじめに屈するというのはなんだか気分が悪い。
かといってクラスメイトたちを全員敵に回すのもなぁ……。
「コレット……」
オレの隣でアリスが不安そうにコレットを見ていた。その顔を見ているだけで、オレの胸は締め付けられる。
コレットはアリスの一番の友だちだし、やっぱり心配なのだろう。アリスの平穏な学園生活のためにもがんばってみるか……!
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