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121 『守り人』②

 「もうあんな所に……」


 緑一色の草原の中、すぐにたぶん白の死神だと思われる白い点を発見した。


 だが、かなり距離が離れている。もうあんなに小さい。いったいどれほどの速さで走ればこんな短時間であそこまで行けるんだ。


 そして、白い点が向かう先には、白い大きな雲のようなものがあった。ヒツジの群れだ。白の死神からも見えているだろうに、当の死神はまっすぐヒツジの群れに向かっていく。


「くそっ! 間に合わねえ!」

「おーい! 死神ー! そっちはダメだー!」

「ダメだ。聞こえてねえ!」


 ヒツジは目がいい。もう白の死神を捕捉したのだろう。白い群れが土煙を上げて大移動を開始する。


「くそ! 見つかっちまった!」

「どうする、ジョス?」


 俺はガチャガチャ音を立てて走りながら抜刀した。


「俺たちのやるべきことは変わらない。そうだろ?」

「そうこなくっちゃな!」

「それでこそ俺たちのリーダーだ!」


 パーティメンバーの心強い言葉を聞いて、俄然、体に力が入る。


 俺たち『守り人』は、冒険者同士の助け合いを目指すパーティだ。


 それは、まだ俺たちが新人だった頃、無料で稽古を付けてくれたり、装備を譲ってくれた先輩冒険者との体験が礎になっている。


 時にはダンジョンの中で命を助けてもらったこともあった。


 俺たちも先輩冒険者たちがしてくれたことを後輩に返していきたい。


 ダンジョンから様々な物資を持ち帰る冒険者は王都の発展にはなくてはならない存在だ。


 しかし、ただでさえ冒険者は危険な職業でもある。


 ならば、お互い助け合おう。自分たちが率先して冒険者を守る『守り人』になる。


 そんな思いを込めて『守り人』というパーティ名にしたんだ。


 そして今、自分の強さを過信しているのか、無謀な戦いに挑む若者がいる。


 そう。白の死神は意外にも成人したばかりくらいの若者だった。


 なら、助けに行くのが先達の役目だろう。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ヒツジたちにも、白の死神にも届かないことを承知でウォークライをあげる。


 これから厳しい戦いの時だ。もしかしたら、命を落とすことになるかもしれない。


 だが、誓いを守らず、後悔するよりマシだ!


 前方では、ついにヒツジの群れと白の死神が戦闘開始となった。その瞬間――――ッ!


「はあ!?」


 まるで巨人に放り投げられたように空を舞うヒツジたち。


 あまりに非現実的な光景に一瞬目を疑ってしまった。


 だが、ヒツジの数が数だ。最初はよくてもそのうち数の暴力に轢き殺されるはず。


 急がねば!


「急ぐぞ!」

「お、おう!」


 ヒツジたちはまるで円を描くように白の死神を囲っていた。


 その中心からは、モウモウと白煙が上がり続けている。


 ダンジョンのモンスターは、倒すと白い煙となって消えてしまう。


 白の死神がまだ生きている証拠だ。


 だが、その煙はいつまで経っても途絶えることはなく、だんだんヒツジの数が目に見えて減っていく。


「うーむ……」


 俺はいつの間にか走るのをやめていた。


「どうしたんだよ?」

「怖気づいたわけじゃねえんだろ?」

「いや待て。あれは……」

「どういうこった……?」


 始めは俺を責めるように見ていたパーティメンバーだが、だんだん俺と同じようにその異変に気付き始めたようだ。


「みんな、俺たちはとんでもない勘違いをしていたかもしれん……」


 ヒツジたちの中心では、今もモウモウと白い煙が上がり続けている。それがもう答えな気がした。


「ひょっとして、白の死神は……」

「我々の勘違いだったのか……?」

「まさか、これほどの強者だとは……!」

「マジかー……」


 パーティメンバーたちもモウモウとたなびく白い煙に見入っている。


 そして、気が付けばもうヒツジの数は当初の半分以下にまでなっていた。


 類稀なる攻撃力とそれを支える体力。そして、この数相手に真正面から対峙しても戦い続けることができる回避能力。そのすべてが白の死神は優れている。


 さすがの強さだ。王都の冒険者ギルドの支部長が目にかけているという噂があるだけはある。


 元々ここまでソロで踏破してきた事実はそれだけ重いのだろう。


「帰ろう」

「いいのか、ジョス?」

「白の死神の強さをこの目で見ることができただけでも収穫だ。まったく、世の中にはバケモノが多すぎる」


 不思議な虚脱感を感じながら、俺は駆けてきた草原を振り返る。


「行こう。目指すべき高みは見た。俺たちも後に続こう」

「そうこなくっちゃな!」

「俺たちもいつかたどり着けるかな?」

「たどり着けるさ。そのために一歩ずつ進んでいこうぜ」

「足を止めたらそこで終わっちまうからな」


 ◇


「ん? 帰るのか?」


 メリーの黒い顔面に英知の歯車を叩き込み、オレは少しだけ首を傾げた。


「もしかすると、あのパーティもメリーを狩りたくなったのかもな……」


 だとしたら悪いことをした。


 もうメリーは十頭ほどしか残っていない。


 これだけ残してもなぁ。


 今度、冒険者ギルドであのパーティに会ったらエールでも奢ろう。


 そう心のメモに書き残しながら、オレは残りのメリーも片付けるのだった。

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