112 厄介事?
「死神! ちょっと待てよ!」
「ん?」
もう帰ろうかと思ったら、男たちが詰め寄ってきた。その顔は心配したような情けない顔だ。
「やっちまってよかったのか? 相手はあの『グレイブディガー』だぞ!?」
「こいつはやばいことになったぞ……」
「どうする? どうする!?」
「こいつは……どうすればいいんだ……」
「おい、死神! どうするんだよ!?」
なんでこいつらはこんなに慌ててるんだ?
「面倒だったから殴った。なにかまずかったか?」
「まずかったかって……」
「まずいに決まってるだろ! いい加減にしろ!」
そんなにまずいのか……。オレとしては厄介な酔っぱらいを殴っただけなんだが……。
「いいか、死神? こいつはこんなんでも『グレイブディガー』の一員だぞ? そんなやつを倒しちまったら、クランの報復があるに決まってるだろ」
「えー……」
冒険者のクランって、そんな無法地帯みたいな感じなの? どんな世紀末だよ。
「でも、こいつは酒に酔ってたし、言ってることもめちゃくちゃだった。逆に迷惑料が欲しいくらいなんだが?」
だが、オレの言葉に頷く人はいなかった。
「そんなのクランにとっては関係ねえよ。それに、あんたが金を持ってるのは有名な話だ。『グレイブディガー』の連中から見れば、いいカモに見えたかもしれねえ」
「死神、あんたは強い。もしかしたら、あんたを自分たちのクランに入れるためにわざとこいつと揉め事を起こさせたのかもしれねえ」
「そいつはありえるな」
「とりあえず、しばらくは人目の付かない所に行かない方がいい。闇討ちってのもありえるしな」
「んだな」
絡まれたから撃退しただけなのに。どうしてこんな面倒事になってるんだよ……。
「話はわかった。忠告、感謝するよ」
「話はそれだけじゃねえぞ、死神!」
「……まだあるのか?」
これ以上は遠慮してほしいんだが……。
「そんな面倒そうな声出すなって。ヤバいんだぜ?」
「そうそう」
「今、一番注目されてる冒険者。それが死神、あんただ」
「どこのクランもあんたを誘いたくて仕方がないのさ」
「あんたが所属すれば、クランに箔が付くからな」
「オレにそんな価値はないんだがなぁ……」
オレ自身はまだダンジョンの攻略階層も第二十五層だし、そんな組織にメリットになることはないと思うんだが……。
「死神、あんたはあんたが思う以上に大物だぜ?」
「そうそう。自覚しといて損はねえ」
「直接あんたの力を見た俺たちが言うんだ。間違いねえよ」
オレはダンジョンに潜れればいいだけなのに。面倒な世の中だ。
「教えてくれて感謝する」
「気を付けるんだぞ!」
「これは何の騒ぎですか!?」
「ん?」
声の方向を見れば、エマがいた。どうやら誰から通報してくれたのか、ようやく冒険者ギルドの職員が動き出したらしい。
「変に絡まれたから殴ったんだ」
「はあ!?」
端的に状況を説明すると、エマは声を裏返らせて驚いていた。
「ジャックさん、冒険者同士の私闘は禁じられているんですよ!?」
「オレに言われてもなぁ。オレは絡まれた側なんだ」
「だとしてもです。あぁ、もう。なんでこんなことに……。とりあえず、こちらの方の介抱を。ジャックさんにはお話があります」
「待ってくださいや、エマさん。死神は売られたケンカを買っただけで、悪くないんだ」
「手を出した時点で喧嘩両成敗です! とにかく、ジャックさんにはお話を聞かせてもらいますから」
「はぁ……」
なんか今日は運がないなぁ。モンスタートレイン遭遇に運を使い過ぎたか?
◇
その後、意外とあっさりした別室での状況説明が終わり、オレはようやく冒険者ギルドを後にした。常宿にしている『優しい止まり木』に着いた頃には、完全に日も沈んでいた。
遅くなってしまったから、リットリアに行くのはまた明日だな。
「ふぅー……」
白虎装備を脱いで収納空間に入れると、オレは下着姿のままベッドに横になる。腰が伸びて気持ちがいい。深い溜息と共に出ちゃいけない物まで出ちゃいそうだ。
「もう寝ちゃうか……」
明日も平日であり、学園では授業がある。オレは生徒ではないので授業には出ないが、エグランティーヌの護衛としての仕事がある。つまり、朝が早い。
「仕事なぁ……」
ぶっちゃけ、オレにエグランティーヌの護衛をする意味はあまりない。でも、エグランティーヌには、オレが年齢を偽ってダンジョンに潜っているのがバレている。ダンジョンはオレの楽しみではあるが、同時にアリスの学費を支える重要な稼ぎ場所だ。ダンジョンに潜れなくなったら、早晩に干上がってしまうだろう。
まぁ、エグランティーヌの騎士見習いになったからアリスのいる学園に自由に入れるようになったのだし、多少の煩わしさは目を瞑るべきだろう。学園でのアリスの様子も見れるしね。
それに、学園と言えば制服だ。学園に行けば、当然だが制服のアリスを見ることができる。これだけでもエグランティーヌの騎士見習いになった価値がある。
「ふぁ~……」
オレはゆっくり目を閉じると、制服姿のアリスを瞼の裏に思い浮かべながら深呼吸するのだった。
アリスかわいいよアリス!
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