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第一章                          8 初めての喧嘩


アリスは、ただ時に流されるだけの日々を過ごしていた。


相変わらず平和で平凡な毎日。

屋敷の敷地内から外に出る事も無く、リオベルトに大切にされては居るものの豪華な城に囚われた気分になりつつあった。


前世の記憶があるアリスにとって、最初は夢の様な生活の様に思えた贅沢生活も時が経過すれば暇で退屈な日々に変わる。


娯楽も少なく読書も飽きてくる。

外の景色を楽しめたのも最初だけだ。豪華なリゾート気分も豪華なドレスの着せ替えも時と共に色褪せて見えて身体の快楽に酔いしれる事に逃げる様になった。


兎に角、他にやる事が無かった。

断る事にリオベルトに外出をせがんでも良い返事が貰えずに居たのだ。


父であるエルロンドもそうだったが、アリスを外に出したがらないのはリオベルトも同じだった。



理由が分からずアリスの胸の内はモヤモヤしていた。



この世界の貴族令嬢とは、コレが普通なのだろうか?とも思っていた。ミシェーレ家の時から屋敷の中で大切に育った記憶しか無いアリスにとって、この世界の普通が分からなかったのだ。



それに、アリスが考えにふける素振りを見せると決まってリオベルトはアリスを快楽に誘う。


抗えない快楽に溺れる自分を律する事も出来ない。

人の欲望とは切りが無いと言うのは本当だ。

貪欲になる自分が自分で分かるのだから。



けれど流石に考えざるおえない事があった。

それは、どれだけ抱かれても妊娠しない事だ。避妊もせずに行為を繰り返しても兆候は現れない。


結婚してから既に3年の月日が流れていた。

流石に、この世界で婚姻から3年も経って子供の一人も居ないなど有り得ない。


避妊などして居ない。

何ならリオベルト以外の男とも性交渉を営む事さえあるのだ。それは、リオベルトが進んで促してる事でもあった。自分でも抑えようが無い性欲は留まる事を知らなかった。しかし、妊娠する気配は無い。


本来なら既に母体として欠陥品と烙印を押されてもおかしくないのだ。




「はぁ〜」


大きな溜息を吐くと、心配そうに控えていたメイドが私の傍にやって来てソファーに座るアリスの目の前に跪き見上げてくる。



「奥様。最近、元気がありませんがお医者様を御呼びしましょうか?私…心配です…」



「大丈夫よ。有り難う。」



メイドに笑顔を向けた所で、部屋の扉からノック音が聞こえて来てメイドが、そそくさとドアを開けに向う。訪ねてきたのは家令のベンジャミンだった。



「奥様。王城から王太子殿下の誕生祭への招待状が届きましたが生憎、旦那様が留守ですので城からの遣いを持たせて居るのですが…」



「リオは王城に向かったのよね?間が悪いわね…。

ベンジャミン、こう言う時はどうしたら良いのかしら?」



公爵夫人として何もして居ないアリスは、対応が分からなかった。結婚しても世間知らずのお嬢ちゃんなのだ。



「当主が不在の場合、代わりに奥様が対応するのが一般的です。基本的に王家からの招待は拒否は有り得ませんから奥様が遣いに当主の代わりにお受けする旨と出席の返事としてサインするのが通例です」



ベンジャミンから説明されたアリスは身支度を整えると玄関ホールで待つ遣いの者へと声を掛け、なるべく丁寧に対応し出席の旨を伝えサインをした。


丁重に見送りまでして一息付くと、いつの間にか帰っていたリオベルトに声を掛けられた。



「公爵夫人としての対応としては50点だな。

幾ら王家からの遣いでも立場は公爵家の方が上だ。

見送りも要らない。逆に気を使わせる」



初めての事で必死だったのに指摘しかして来ないリオベルトにアリスは腹を立ててしまう。



「何よっ。頑張って対応したのにっ。

対応の仕方も分からないのはリオベルトの落ち度でもあるじゃない!私に何もさせてくれないっ。外にも出してくれないっ、何も出来なくさせてるのはリオじゃない!」



急に怒りだしたアリスにリオベルトは困惑の表情だ。



「どうした?随分と不機嫌だな。何があった?」



人の気も知らないで聞いてくるリオベルトの対応に余計に腹が立つアリスは益々、感情的になってしまう。



「私は、ただの御飾り妻なんでしょ!

世間知らずの妻だから、外に出すのが恥ずかしくて私を外にも出さないのよねっ。公爵夫人としての仕事も与えないしっ。跡継ぎも産めない役立たずで恥ずかしのよね?もう嫌っ!」



ただの駄々っ子だ。一人で勝手に自暴自棄になってるだけの子供だ。



リオベルトは溜息を吐くとアリスの目の前まで歩み寄る。



「他に言いたい事は?

全部聞いてやるから吐き出してみろ」



そう言ってからベンジャミンに視線を移すと「アリスの言い分と不満を漏らすこと無く書き留めとけ」と指示を出した。


その冷静な態度にも余計に腹ただしいアリスは「もういいっ!」と大声を張り上げるとプンプンしながら部屋へと消えて行く。



一人のメイドが慌ててアリスを追い掛けて行き、残されたリオベルトはベンジャミンから嗜まれた。



「旦那様。恐れながら、アレは無いです…

乙女心を学ばれた方が良いかと」



「はっ?俺が悪いのか?

大事にしてるだろう?」



納得いかないリオベルトは八つ当たりする様にベンジャミンに言い返すが、ベンジャミンは淡々と返す。



「早く奥様の所に言って誤解を御解きになっては?」



溜息を吐きながら、リオベルトはアリスの部屋へと向う。歩きながら初めて感情を露にし腹を立てるアリスの顔を思い出すと頬が緩んだ。リオベルトは、何処か楽しそうでもあった。



部屋の扉をノックすれば、メイドが顔を出し罰の悪そうな顔を向け謝ってくる。部屋の中からはアリスの声が響く。



「そんな奴に謝らなくて良いのよっ。

顔も見たくないから入って来ないでって言って!」



「そう言ってますので…」



メイドがドアを閉めようとするのを片手で阻止し、リオベルトは中のアリスに聞こえるように大声で答える。



「勝手な解釈で腹を立てるなんて、まだまだ子供だな!誰が役立たずだと言った?誰が恥ずかしいと言ったんだ?俺の気持ちを勝手に判断して勝手に怒ってるのはアリスの方だろ?違うか?


愛してるから、煩わしい事を排除してやってる俺の想いも考えろっ。



そう言ってくれ」



メイドは、部屋の中のアリスに「だ、そうですぅ〜」と声を掛ければ直ぐに返事が返ってくる。



「愛してるからですってっ!?

押し付けがましい想いを愛とは言わないのよっ!

そっちだって勝手に決め付けてるじゃない!


あぁ~っ!ムカつく!大嫌いっ!


って言ってやって!」



「…だそうです…」



間に挟まれたメイドは、段々と小さくなっていく。

リオベルトはメイドにジェスチャーで下がる様にと伝えると、メイドは静かにお辞儀をすると部屋を後にした。



リオベルトが、部屋の中に入るとアリスに睨まれた。

けれど、リオベルトにしたら睨まれた所で可愛いものだ。



「そんなに俺が大嫌いか?顔も見たくないほどに。」



少し呆れた様な笑みを浮かべて聞いてくるリオベルトにアリスは罰が悪そうに目を逸らすと黙り込んだ。



「そんなに子供が出来ない事が負担になってたのか?跡取りの事なら何とでもなる。別に気にしなくても良い。子供が産めないだけで俺がオマエを邪魔者扱いすると思ったか?」



リオベルトの問いにアリスは不貞腐れながら答えた。



「別に子供の事だけじゃ無いしっ。ただ毎日、何もする事も無く屋敷に閉じ込められてるみたいで・・・」



言葉に詰まったアリスにリオベルトは近付き抱き締めた。そして、そのまま言葉を紡いだ。



「閉じ込めてるつもりは無かった。

オマエが外に出て他の奴と交流を持てば、俺の悪い噂を嫌でも聞くだろ?仕事とは言え俺の素行は悪い。

オマエに聞かれたくないと思ってたんだ。ごめん」



予想もしなかった言葉にアリスは固まってしまう。

そんなアリスをよそにリオベルトは続けた。



「アリスは良くも悪くも世間知らずだ。

乱れた社交界の世界も見せたくは無い。ミシェーレ公爵がアリスを外に出さなかったのも同じ理由だろうな。オマエが思ってる様な綺麗な世界じゃない。

国王陛下でさえ頭を抱える位に、今の社交界は乱れてるんだ」



「そんなに酷いの?」



リオベルトはアリスから離れるとアリスの横に座る。

そして淡々と今の社交界の事を語ってくれた。



上位貴族は、跡取りが生まれると早々に能力の高い娘を選び出し優先的に婚約者候補として有能な女児を確保してしまう。したがって中級や下級貴族は社交界の場で情報交換や品定めをするのが通例の様だ。


時には、休暇室などで味見があったり手を付けて強引に嫁にする事もある様なのだ。


その流れで昨今では乱交パーティーの様に既婚者の御遊びや、望まぬ婚姻をする前の想い出作りなどにも発展していて無法地帯と化しているのだとか。


その一方で、リオベルトの仕事も時にはやりやすい。

何処かの夫人を誘惑してベットの中で情報を得たり、欲しい情報を探らせたりしている。


その為、社交界でのリオベルトは遊び人で有名なのだ。国王陛下の為なら手段を選ばぬのだ。



「事情が分かってれば悪い噂も気にならないわ」



アリスの本心だったが、リオベルトにとっては気に要らない回答だった様だ。



「気にしないって、俺の事を愛してないって言われてるみたいで傷付くんだが?


少しは嫉妬とか無いのか?それとも、軽蔑したか?」




案外、気にしてたのかと思うとアリスはリオベルトが可愛く見えてきた。



「色んな女に手を出してるから?

家業を聞いた時から想像は付いてたわ。裏の仕事だもの汚い事もあるって私だって分かるわよ。誘惑なんて可愛い方でしょ?


それに、本当に私が欠陥品なら世継ぎを他の誰かに生んで貰わなきゃだもの…」



「自分で自分を欠陥品なんて言うな。

時が来たら話す。オマエは特別なんだ。だから大事に大事にしてる。何があろうと俺はオマエを愛してるし手放す気は無いから覚悟しろよ」



『時が来たら話す』その言葉が引っ掛かる。

何を隠しているのかと思うが、例え家族だろうと王家に関わる機密事項があるのかも知れないと思うとアリスは、その事を掘り下げて聞けなかった。



「それで?今度の王家からの招待に私は連れてってくれる訳?」



「流石に王太子の誕生祭だから夫婦で出席だ。

王家主催のパーティーで羽目を外す馬鹿は居ないからな。


お揃いの正装を作らせないとな。デザインはアリスに任せる。頼めるか?」



初めてのパーティーに、初めてのリオベルトからの頼まれ事にアリスは満面の笑みを浮かべたのだった。



思えば、アリスは現在20歳。

17歳でダグラス家に嫁入りして3年を経た。


リオベルトは現在23歳だ。


今年で、また一つ歳を取る。



前世の記憶が正しければ、私の記憶があるのは28歳迄だった気がするのだ。そうすると精神年齢的にはリオベルトの方が若い事になるのに明らかにリオベルトは大人な気がする。


確かにアリスは年下だが、余りにも私が子供過ぎる気がした。



この世界に転生していたと気が付いた時から、前世の知識を役立てる事も無く、ただリオベルトに守られるだけの毎日。大人気なく不満を当たり散らして、リオベルトを困らせただけなのだ。



「ねぇ〜、リオ。

今日はゴメンね…。私が悪いのに逆にリオに謝らせちゃった。本当、私ってガキよね」



苦笑いを浮かべながらアリスが謝罪をすれば、リオベルトは優しい笑顔でアリスの頭を撫でた。


やはり、リオベルトの中でアリスは妹みたいなものなのだろうと思ってしまう。



「こんなんじゃ、そりゃ妻ってより妹よね?

ただの子供としか思えないわよね」



「確かに可愛らしいとは思うけど、妹とか子供とか思って無いぞ。ちゃんと女として見てる。じゃなきゃ欲情しないだろ?


それより、誕生祭は乱れては無いが俺の悪い噂話は耳にするのは避けられない。気分を害する様な話を直接的に言ってくる奴も居るだろう。耐えられるか?」



心配気に聞いてくるリオベルトにアリスは笑顔で答えた。



「そりゃ、ムカついたりすると思うけど。

コレでも大人ですから顔に出さない様に気を付けるわ。それに、王家に次いで地位の高いダグラス家と元とは言えミシェーレ家にも喧嘩売ってくるなんて、こっちが強気に出ても大丈夫よね?」



「あはははは。それは心強いね。

俺が居るから好きにやれ。格の違いを見せてやれ」



楽しそうに笑うリオベルトは、何だかいつもより幼く見えた気がした。





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