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第一章                          4 新たな人生



会話など無い静かな夕食の時間が流れた。

気不味く料理の味さえ分からない程にアリスはリオベルトが何を考えて居るのか分からずに戸惑うばかりだ。



時折、チラリとリオベルトに視線を向けるが、無駄の無い所作で料理を口に運ぶリオベルトはアリスと視線を合わせる事も無かった。


食事を終える頃に、ワインで口直しをしたリオベルトは初めてアリスに視線を合わせた。



「俄には信じ難い話だが俺の知るアリスとは別人のオマエを見ていたら信じる方が辻褄が合うようだ。


今迄のアリスの記憶が断片的に抜け落ちていると言うが生活に支障は無いのだな?」



「はい。アリスとして生まれて18年間の積み重ねで無意識に身体が覚えて居るのかマナーや所作はアリスのままだと思いますが。


それに抜け落ちた、この世界の常識も誰かに聞けば思い出す程度のものだと思うのですよね…クロエと話してたら記憶が戻ってきたので」



リオベルトはアリスの話を聞きながら何かを考えて居る様だった。次の質問を待つアリスは目の前のワイングラスを手に取ると口を付けた。



「アリスは酒は苦手だった、俺に合わせて無理をしている様だったが、オマエは酒は苦手では無いのか?」



「この身体がお酒に弱い訳でも無さそうです。

ただ以前のアリスは味が苦手だった様ですね…私は好きですけど」



ワインの香りを楽しみながらグラスを傾けるアリスに偽りは無さそうだと思うリオベルトは、目の前のアリスは別人だとして一から関係を構築した方が良いのでは無いかと考えていた。



「なるほど。ならば今迄のアリスは忘れる事にしよう。俺は今日からオマエを嫁に貰い関係を構築していると思う事にする。オマエも、そうしろ。


この国で、貴族として生きていくのは知識としてどんなものかオマエも分かるだろ?おいそれと離縁なども出来ぬし婚姻は国王陛下の意見も少なからず介入しての事だ。互いの想いだけで離縁などすれば国王陛下への侮辱とも取れるのだ」



「確かに…今、言われて気付きました…

この世界は窮屈なのですよね。女は人権など無いに等しい…所詮は子孫を産む道具ですものね…」



アリスは、改めてオベリオ王国の貴族としての在り方を思い出していた。前世の記憶とは余りにも違う概念の世界で、前世の様な考え方は通用しない。


そう考えてから、過去の記憶を振り返ればリオベルトは優しい方なのでは無いかとさえ思えた。この世界では、もっと酷い扱いを受ける夫人は幾らでも居るのだから。



「俺は別にオマエを道具とは思っていないぞ」



言い訳をしようとするリオベルトにアリスは笑ってしまう。



「お気遣い有り難う御座います。

今更ですが、酷い言い方をしたように思います…御免なさい。


前世の世界は、恋愛結婚が主流の国に居たので…リオの扱いに腹立だしさを覚えてしまって…けれど良く考えたら、この国での夫人の中で私は自由を与えられて居たのだと思い出しました。愛されなかった記憶ばかりが先行して、贅沢な環境や物を必要以上に与えて貰っていた事が抜け落ちていた様ですね…


なんかすいません」



苦笑いを浮かべるアリスにリオベルトは困った顔をしながら反論した。



「いや、オマエに指摘された事は事実だ。

他の者がどうであろうと、事情があったにせよ、嫁入りして心細い中で蔑ろにしていたのは俺だ。なんの説明もせずに会いに来るオマエを邪険にした。責められても当然だ」



案外、腹を割って話せば誠実な男なのではと思うアリスはリオベルトと一から関係性を築くのも悪く無いと思えて来た。


どうせ、婚姻を済ましてしまって居るのだから自ら進んで茨の路を選ばずとも公爵夫人としての安泰の人生の方が良いに決まっているのだから。



「今迄のアリスを忘れると仰ったのだから、私も今迄のリオの記憶は忘れる事にしますわ。不束者では在りますが、これから妻として宜しく御願いします」



そう言って笑うアリスに、リオベルトは微笑んだ。



食後は、二人でワインを嗜みながら穏やかに語り合う二人の笑い声が部屋の外まで漏れていた。


屋敷の使用人達は驚きと共に、二人の関係性が良くなった事に喜びを感じていた。仕える屋敷がピリピリムードより穏やかな方が良いに決まって居るのだから。




「所で、明日から数日はミシェーレ家だが、大丈夫なのか?」



「そうなのよね…御父様…いやパパって呼んでたわよね?記憶が欠損してると言ったから御父様と呼んだ事に違和感を覚えて無きゃいいけど…

それに、ベットを共にしてた事もあるのよね?その辺が聞いても思い出せないのよ。それってレオン兄様は知ってるのかしら?」



私の不安にリオベルトが知る限りの情報を教えてくれた。



ミシェーレ家は当主であるエルロンド、兄であるレオン、そしてアリスの三人家族だ。母はアリスを産んで直に亡くなったと聞いている。


しかし、事実は少し違う様だ。


エルロンドの父である前ミシェーレ公爵は、今は亡きエルロンドの姉を溺愛していた様だ。誰の婚約者にも据えずに監禁に近い様に屋敷から外に出した事は無いらしい。世間でもエルロンドに姉がいると知らぬ者もいるくらいだったと言う。


初めて聞く話にアリスも驚愕だ。


前ミシェーレ公爵は、エルロンドの姉との間に子を成した。それをエルロンドの子として出生届を出したのだ。その子供と言うのが私であるアリスだ。


そしてエルロンドは、アリスにその事実を伏せる為に秘密裏に事故に見せかけ前ミシェーレ公爵も姉も自分の嫁さえ手に掛けたと言うのだ。



「何故、パパはそこまで…」



驚愕の事実にアリスが、そう漏らすとリオベルトは淡々と答えた。



「この国の貴族としては普通かもしれないな。

親子間に愛情がある方が稀な程だ。何しろ愛もない政略結婚で子育てさえ乳母に任せ切りなのが普通だ。親を無条件に愛せる訳も無いだろう?」



「確かにそうね…アリスは貴族では珍しく愛を向けられて育ったって事よね?だからレオン兄様とは他人行儀だったのね…」



「レオンは一般的な貴族育ちと言えるだろうな。だからこそミリティアに惹かれたと言える。ウィリアム殿下と結ばれたミリティアに手を出す訳にいかないからな…仕方無く王女殿下であったキャロラインを嫁にしたが、別邸に閉じ込めている様だ」



アリスは知らなかった事実に顔を歪めた。



「実の兄妹とも違うみたいだけど血の繋がりはあるのよね…知れば知るほど複雑な環境よね…キャロライン様が可哀想に思えてきたわ」



リオベルトはレオンを庇う様に補足する。



「流石に、王家から出たとは言え王女だ。

酷い扱いはしては居ないよ。仕事を理由にして屋敷からも遠ざかっている様だが定期的に顔を出し表向きは優しい旦那を演じてる様だ」



互いに苦笑いを浮かべ話題を変える。

家族とは言え、表面的に取り繕っているのがミシェーレ家と言う事だろう。今迄のアリスだけが何も知らず初恋の相手に嫁ぎリオベルトの事しか考えて居ない世間知らずのお嬢様だったと言う事だ。

しかも、アリスは社交の場にも出ていない。知識は偏りがあるし、元々のアリスも世界を知らな過ぎだった。



「オマエが嫌なら何かしらの理由を付けてミシェーレ家への里帰りも中止出来るがどうする?」



「ありがと。けれど、ずっとパパを無視するのも不自然だと思うのよね…今迄のアリスは、当たり前の様にパパからの愛情を可怪しいとも思わずに受け入れてた訳でしょ?」



アリスの問にリオベルトは頷く。

アリスは少し考えると困った様な笑顔で言った。



「今迄のアリスと私は別人であって同じなのよ。

何処かでパパを拒めない私は居るのだもの。普通に考えたら有り得ないと思う気持ちも確かにあるのだけど…不思議よね。家に戻ってパパに求められたとして、きっと受け入れる自分が想像出来ちゃうんだもの」



そんなアリスにリオベルトは同じく困った顔様な笑顔で答える。



「それもアリスて事だろ?

それさえ受け入れるのが夫である俺の愛だと刻み込め」



新たな人生を新たな気持ちで生きようと思うアリスだったが、今迄の18年はアリス自身に刻まれている様だった。前世の私の様で、完全にアリスを消し去る事も無い不思議な感覚だった。


それが今のアリスと言えばそれまでだが、その感覚に慣れる迄は戸惑いが多そうな気もしたが今を生きるしか無いのだ。


この世界で、この国の概念に従い新たなアリスを構築する。それは、リオベルトの妻としての人生を構築する事でもあった。


リオベルトが意外にもアリスを尊重してくれる事が有り難かった。



嫁いだ先の家業が物騒ではあるが、それも慣れなのだろうかとも思う。



お酒も進み、酔が心地良い。

どちらからともなく唇を重ねた二人は、当たり前の様に肌を重ね果てると眠りについた。



それは、とても自然な流れで馴れ親しんだ恋人の様でもあった。




翌朝、メイドの世話を受け仕度を整えるとミシェーレ家へと向う準備をメイド達が慌ただしく整えていく、リオベルトはミシェーレ家へと送り届けると言って今日も仕事を後回しにする様だった。



「大丈夫なの?本当は忙しいんじゃないの?」



「心配するな。優秀な部下達が変わりにこなす。

当主として、本当は自らが動くのは感心しない事だからな」



「それって、私が煩わしいから自ら動いてたって訳?」



呆れた様な顔をリオベルトに向ければ、リオベルトは苦笑いを浮かべる。図星の様だ。


アリスは、クスクスと笑いながらリオベルトを誂う。



「過去を蒸し返すのも楽しいみたい」



「忘れると言ったよな?」



今迄の事は互いに水に流すと言っておいて蒸し返すアリスに抗議をするリオベルト。アリスは楽しそうに「そうだったかしら?」と、とぼけて笑う。



そんな言い合いをしながら馬車に乗り込む二人を使用人達は朗らかに見送ったのだった。



馬車の中でも、楽しそうに笑い合う二人に御者は夢でも見ているのかと驚きを秘めながら馬を走らせていた。



なにせ、アリスが嫁に来てから数ヶ月間の間に二人を一緒に乗せた事も無いのだから。









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