第三章 8 封印された記憶
ポータルを開く旅をしながら、王都に辿り着いたのは港街を出てから3か月経った頃だった。
帝王の城は、巨大な宮殿だった。
Uの字型の宮殿は、洗練された雰囲気で、重厚感があって少し圧倒された。
帝国の王都は、都会的でオベリオ王国の王都より広く何よりビックリしたのは路面電車が走っている事だった。魔法に頼らない発展を遂げた都市だった。
オベリオ王国が、ファンタジー世界なら、帝国は、現実的な昔の異国のようだろうか。
前世の記憶が無ければ、相当驚くべく別世界だった。
宮殿の中に案内され、用意された部屋に入った。
「当分は、ココを使ってくれ。
少し、俺も仕事を終わらせなくてはだから、一週間はアリスは、ゆったりして欲しい。
また、旅に出る事になるからね。クローゼットには用意させといた服もあるから好きに着てくれ。
まぁ〜足りなかったり気に入らなかったら使用人に言ってくれて構わないよ。気遣いは無用だ」
「有難う。使わせて貰うわ。
王都は治安はどうなのかしら?街に出ても大丈夫?」
「王都は治安は良い方だよ。警備隊も見回ってるしね。けど、出歩く時は言ってくれて。なるべくなら俺が付いててあげたいからね」
アリスは、少し驚いた。帝王が気軽に出掛けて良いのだろうかと。
「帝王が、王都を歩き回って大丈夫なの?」
「俺の国だよ?好きに歩いて何が悪いのさ」
御尤もだった。が、オベリオ王国では無理な事だったからこそ、アリスには斬新な答えだった。
「何もかもが今までの概念ではないのね…国が違うと何もかも違うのね」
アルバートは笑った。
そして、自分が仕事の時は図書室で文献を見てたら良いと言った。旅の途中で言っていた物だ。
話によれば古代文字で書かれている様だった。
アリスにとっては、是非見たい物だった。
早速、図書室へ案内して貰ったアリスは、何冊かの文献が保存されてる棚を教えて貰った。
アルバートが言うには、皇帝が奪った国にあった物で、コレを解読した皇帝がオベリオ王国に目を付けたと言う事だった。
アルバートは、リオベルトが国へ帰ってから文献を見付け読んだそうだ。
「古代語を解読しながらだったから大変だったよ。
まだ全ては読めて無いんだ。解読が出来てる場所は別に書き起こしておいたから、参考にしてよ。
俺は仕事してくるけど、アリスは残るか?」
「うん。少し読んでから部屋に戻るわ」
アルバートが出て行った後、アリスは一冊の文献を手に取り椅子に座ると開いた。
不思議な事に古代語は、解読せずに読めてしまった。
過去世の記憶が読ませてくれてるのだろう。
誰が書いたかは不明だ。
それに何故、長い年月が過ぎていたはずの年代も違う出来事が書かれているのかも謎だった。
文字を見る限り、同じ者が書いて居るに違いなかったからだ。
過去世の記憶が断片的に思い出されたアリスの様に、誰がそれを書き留めたのだろうか?
読み進む中で、この文献は日記の様なものなのかもと思っていた。そして、もしかしたら過去世の自分では無いのかと思う様になる。
何故なら、全て読む前に他の文献もザッと目を通したからだ。
そして、確信する。何故なら過去世のアーサーの事が書かれていたからだ。
ある神の子である娘の事がメインに書かれた一冊で、悟ったのだ。
輪廻転生し、記憶を持っていた自分が時代時代で残した日記。この世界に転生する事で、記憶が蘇る様になっていたのかもしれない。
未来の自分に読ませる為に。
アリスは、全てを思い出したとは言い切れない。
前世の記憶が一番鮮やかに、途切れ途切れだが覚えている。しかし、その他の記憶は情報と言う感じだ。
断片的だし、思い出した時だけは感情も伴ったが、直ぐに今の自分が強くなり記憶と言う情報にすぎなくなるのだ。
それに、徐々に薄れて行く。
この文献を全て読まなくてはいけないとアリスは思った。時代事に分かれた日記を古い順から並べ直した。
そして、アリスは古い物から隅々まで読む事にしたのだ。
一冊目が読み終わる頃に、アルバートが現れた。
「まだ読んでたの?もう遅いから寝た方が良いよ?
それに何も食べてないんじゃないのか?」
後から声を掛けられ振り返ったアリスは答えた。
「ごめんなさい。もう、そんなに遅い時間なのね。
時間を忘れてしまったわ」
「謝る事じゃないさ。それより何故、泣いてるんだ?」
自分が泣いている事に言われるまで気付かなかったアリスは、顔に手をやり初めて自分が泣いている事に気付いた。
「やだ。なんで泣いてるのかしら?」
涙を拭きながら、そう答えるアリスにアルバートは近づくと、そっと後からアリスを抱き締めた。
「君の涙は見たくないな…。文献に何が書いてあって、何がアリスの心を震わせたの?」
アリスは、何を言えば良いか迷った。
アルバートに話して良いか分からなかった。
「何も言いたくないんだね。
無理に聞こうとは思わないよ。オベリオ王国に関わる事だから言えないよね?
ただ、君が胸を痛める事があるなら力になりたいと思ってしまう俺がいる事は知ってて欲しい。
もしも、リオベルトやウィリアム王と話して楽になるなら言って。通信魔導具があるからさ」
言い終わると、アルバートはアリスから離れた。
アリスは、アルバートを見上げると微笑んだ。
「有難う。全て読んでから考えたいの。
これは、誰でもなく私が読まなきゃならないみたいだから…」
「そっか…
でも今日は、もう終わりだ。
御飯を食べよう。俺も今からだから一緒に食べよう」
アリスは、文献を閉じて棚に戻した。
アルバートが手を差し出してくるからアリスは、その手を握った。
手を繋ぎ歩みを進める。
アルバートは、何事も無かった様に話題を変えて話しをしながら歩く。
アリスは、それが有り難く感じた。
食事中も、料理の話やアリスの好みなどを聞いてくるなど、冗談交じりの会話だったり笑いの絶えない時間になった。
とても濃く長い時間を共にしている感覚だった。
アルバートは、想いをストレートに伝えてくる男だった。時にドキドキして、時に安らいで、時に楽しくて。
アリスは、アルバートに恋をしていた。
抱き締めて来る事はあっても、キスを求める事も無いし健全な関係だった。
アルバートは、馬鹿正直だから我慢してると口に出して言うのが笑えたが、アリスが自分に隠し事をすること無く本気で信用してくれるまでは何もしないと言った。
それだけ、真剣な付き合いがしたいと言う事らしい。
「ねぇ~、アル。
私を好きだと言ってくれるけど、私は貴方の妻にはなれないわ」
「それは、俺を好きになれないって事かな?」
「私ね、もう子供は出来ないの。
だから、帝王の妻に相応しくない。それに、私は本気で愛した人には私だけ見てて欲しいから」
「なんだ。そんな事か。
なら大丈夫だよ。俺は自分の子を望んでない。
俺は、あのイカれ野郎の血を絶やしたいからね。
後継者は世襲制にはしないつもりだ。だから跡取りなんて要らないんだ。
後継者は、見所のある孤児でも育てても良いかなとも思ってたし、まぁ〜部下の中で選んでも良いしね」
アリスは、また驚いてしまう。
「周りは何か言ったりしないの?」
「皇帝の身内は俺だけだよ?それに、帝王の座を狙う野心家は多い。ただの権力欲しさの暴君になりかねない奴なら排除するけど、理想を持った野心家なら良いと思うしね。野心がなきゃ国なんて治めようと思わないだろ?
俺はさ成り行きで帝王になった。イカれ野郎の血を絶やす為に身内と戦って、イカれ野郎が奪った領土も民が望めば返した。
アイツの痕跡を消す為に俺は今、帝王として君臨してる。ある程度したら、誰かに譲る気だ」
「それで良いの?」
「国を良くしよう、民の為に、って志がある奴なら誰がなっても同じだろ?遣り方や進め方が違うだけで、良くしたい気持ちは同じだ。
俺がやれる事は、世襲制の禁止と暴君を生まない為に領主の過半数の賛同が無くては継承出来ない、最終的には帝王が認めた者だけが後継者になれる、そんな法律を通す事かな?
それと、今回のポータルが開通すれば電車を走らせる路を各地に建設するのが早まる。
元々、少ない魔力量の低下による事も考えたら、いつかは魔法が使えなくなる未来がやってくる。
その前に、完全に魔法に頼らない基礎を創りたいんだ。そしたら、もう俺が国の為に出来ることなんて無いよ」
この男は、終わりさえ見据えて居るのかと思った。
年齢が来たらとかでは無いのだ。遣りたい事が終われば、直ぐにでも王など捨てられる潔さがあった。
「帝王の座を譲ったら、どうするの?」
「そうだな。アリスが俺を選んでくれたら、アリスが好きな国に住んで、その環境下で出来ることを探すよ。たまには旅行に言ったりしてさ。
平凡で平穏な暮らしが良いかな?田舎で、のんびり畑仕事も良いかもね?
まぁ〜決めないで、各地を転々とする暮らしも良いかもね?」
アリスは笑ってしまう。
その後の事は、その時に考えるなんて自由過ぎると思った。本当の自由とは、そう言う事なのかもしれないと思った。
「私と一緒なのが前提なのね?」
そう言って笑えば、アルバートは
「当たり前だろ?俺はアリスと共に生きたいと思ってるんだからさ」
そう言って笑った。
アリスは、席を立つと大きなテーブルの向こうに座るアルバートの元へ歩いて行くと、アルバートの頬にキスをした。
「アル。文献を最後まで読んだら私の話しを聞いてくれる?そして、私の想いも聞いてくれたら嬉しいわ」
アルバートは、アリスにキスをされた頬を触りながら、とても良い笑顔を浮かべた。
「勿論だよ。待ってる」
次の日からアリスは図書室に籠もって文献を読み漁った。最後まで読むのに2日掛かった。
そして、自分が今回、本当にしたかった事を思い出したのだ。文献を残してまで今の私に伝えたかった事があった事を理解したと言うべきだろうか。
封印された記憶が今、ピースが揃った。
アリスは、アルバートの元へと向かう。
仕事中のアルバートに、今夜ちゃんと話すと言えば、アルバートは微笑んで「分かった」と言った。
寝不足気味だったアリスは、少し横になると直ぐに寝てしまった。仕事を終えたアルバートに起こされたのは夜の10時頃だった。
軽食を用意してくれてたアルバートと共に、アリスの部屋で軽い食事を済ませ、お酒を飲みながら話した。
アリスが前世の記憶を思い出した時の経緯や、預言書の事、神の子のアーサーの事、そして過去世の事や文献の事まで全て隠さずに話した。
「君は、とんでもない想いを心に秘めて生きてたんだね。あの日の涙の理由も知れて嬉しく思うよ。
天使だったなんてね…でも納得だよ。リオベルト達もそうだけど、元々は天使の血族なら、その美貌になるよね?やはりオベリオ王国は他とは違うと思ってたけど、凄い過去だよね。
そして、君は全てを終わらせたかったんだね。
神の子の力…夢で会った聖霊とも、意見が食い違ってた過去の君が、文献で今の君に伝えた。
凄いスケールで小説の様だよ」
アリスは、苦笑いしてしまう。
「過去が凄いだけよ。今の私は、ただの人間よ?
神の子である、アーサーが完全覚醒すれば、その身にある魔力量は源の神と同等のエネルギーになる。
アーサーが望めば世界を破壊する事も可能かもしれない危険な力でもある。
今までの神の子は、不完全な力しか使えなかったから分裂したり、精神が壊れる事になった。
過去の私は、何が正解だったのかと苦悩してたのね。
魔力や属性で優越を付ける人間の世界で、果たして魔法は必要なのか…
ただ、アーサーがどうするかは未知数。
こればかりは私が、どうこう出来ないわ。
私は、人間として人間が、アーサーが何を想い決断するのか見届けるだけ…」
アルバートは、アリスを抱き寄せると優しい声で話した。
「アリスが一人で背負わなくても、リオベルト達も居るだろ?彼等が一緒に考えてくれる。君は愛されてるだろ?魔法の事は皆で考える事だ。アーサーも含めてね。
それを踏まえて俺が出来る事は、オベリオ王国から魔法が消える時に備えて、帝国の科学技術を提供する事だ。穢れが浄化されれば帝国や他の国も自然が豊かになるだろうし精霊がオベリオ王国に集中しなくて良くなる。どの大陸も文化の違いはあれど、極端な差は無くなって行く未来になるんじゃないかな」
アリスはアルバートに寄り掛かりアルバートの手を握る。
「有難う。私ね、落ち着いたら貴方と共に死ぬまで生きて行きたい。何処ででも、アルと一緒なら楽しくて幸せだろうなって思える。
リオともウィルとも出来なかった、本当の恋をして、たった一人だけを愛して愛されて。そんな普通の人生を歩みたい。
ずっと、私だけを見て私だけを愛してくれる?」
「勿論、一生ずっとアリスだけ愛していく。
ずっと二人だけだ。子供も居ない、二人だけの時間を共に生きよう。たまには喧嘩になったりするかも知れないけど、その度に仲直りして楽しく暮らそう。
俺なら、どんな環境でもアリスを楽しませて幸せにする自信しか無いから、期待して」
アリスは笑って冗談ぽく言う。
「有言実行なのよね?期待してるわ」
アルバートは、アリスの身体を持ち上げ抱きしめ直すとキスを落とした。唇を話して囁くように伝える。
「愛してる」
「愛してるわ」
二人の唇が再び重なる。熱いキスを何度も交わした二人だったが、アルバートはアリスを抱くことは無かった。恋人同士が、徐々に関係を深めて行くように、ゆっくりと愛を育みたい。それがアルバートの誠実さの様だった。
それに、今はまだ、ウィリアムの妻と言う立場だから、正式にウィリアムとリオベルトに宣言してからにしたいそうだ。
翌日、アリスは通信魔導具で、連絡を取った。
ウィリアムとリオベルトには先に、文献を見付け全てを悟った話しを伝えた。
ポータルを設置した後に帰ったら、ちゃんと話し合おうと伝え、二人にも考えて欲しいと想いを伝えたのだった。アーサーには、皆で伝えようとも付け足した。
アルバートの仕事は、法律改正だった。
法案を通したアルバートは、再びポータルを開く旅にアリスと共に旅立つ。
全てのポータルを開通させ終わったのはアリスが帝国に来てから1年と3か月経った頃だった。
ポータルで、王都に戻ったアルバートは、直ぐに鉄道工事を進めさせた。前から計画があった様で、指示を出された者たちの動きは早かった。
そして、部下に仕事を任せるとアリスと共にオベリオ王国へと向かう船に乗るのだった。




