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第三章                          7 アーサーの憂鬱


アリスが旅立ってから、半月が経っていた。

アーサーは、前にウィリアムの補佐を務めていたオリバーに教えを請いながら政務を行っていた。



オリバーは、ウィリアムに仕えていただけあって、王太子の業務は全て把握している。


アーサーにとって、強い味方となっていた。

オリバーは、ウィリアムに似ているアーサーが可愛くて仕方無いらしく、甲斐甲斐しく世話を焼く姿は、母親みたいだと周りからは笑われていた。




「ねぇ~、オリバー。

父上は、どんな王太子だった?」



「陛下ですか?陛下が殿下くらいの時は、視察に出掛ける事が多かったですね。民の暮らしぶりを自分の目で見たいと。孤児院に行ったり災害があれば現場に行ったりと民に寄り添う人でしたよ。


その分、業務が滞る事もあって、毎日の様に遅くまで付き合わされたものですね。


けれど、私はそんな陛下が好きでしたよ。

努力の人でしたからね。真面目過ぎて悩む事も多かった気がします。それが分かるのに私には陛下の心を軽くする事が出来なかった。


ダグラス公爵には敵いませんでした」



オリバーは、しんみりした様子で過去を思い出している様だった。



アーサーは、書類を眺めながら自分にとって何をする事が国の為になるのか考えてしまうのだった。


毎日、事務的な業務をこなすだけの日々に疑問を感じていたのだ。



民の為に生きる事が王族の務めだと言うなら、王族は民の奴隷なのでは無いかと思ってしまう。


国を護るとは、何を護る事なんだろうか?

何を変えれば、良いのだろうか?


大きな力を持つ者が犠牲になる事が、この国の在り方だと言うのだろうか?



と、アーサーは答えの無い迷路に足を踏み入れた気分だった。


父親も、同じ様に考えたのだろうかと、オリバーに聞いたのだが、何の参考にもならなかった。



アーサーは、ルナの為に強くなりたいと思っていた。

ルナの為に、魔法と言う力を持った自分達は何の為に生まれてきたのかと考える様になった。


民の為だと言うなら、自分達は民の為に自分達の人生を捧げなければいけないのかと。


人々が自分の為に悩む時に、自分達は全ての民の為に悩む。何故、同じ人間なのに違うのだと納得する答えが欲しかった。



自分達を犠牲にしている大人達に聞いた所で、分かるはずも無かった。



午後から、ルナとの御茶会を予定していたアーサーは、書類を一枚づつ片付けるのだった。






温室での御茶会は、定期的に行われていた。


アリスが旅立つ前に、温室の御茶会を提案してくれたから、アドバイスに従った結果だった。


綺麗な花に囲まれ御茶を飲むのは気分転換になるとルナに好評だったから、やはり相談するなら母上だなとアーサーは思ったのだ。


だからこそ、アーサーはアリスが居ない日々が寂しかった。最近の悩みも、アリスに相談したかった。


早く帰ってこないかな?そう思う様になっていた。




約束の時間前に温室に入ったアーサーは、母親が好きだった薔薇の花を見ていた。母を恋しがるなんて、まだまだ子供だなと自分に呆れながら。



ルナが温室に辿り着き、アーサーの後ろ姿が目に映るが、何だか寂しそうに見えて声を掛ける事も無く静かに近付くと横に立った。


ルナに気付いたアーサーは、慌てて「いつ来たの?」なんてビックリするからルナは笑った。



「アリス御母様が好きな薔薇を見てたの?

当たり前に居た人が居ないのは寂しいわよね?」



「うん。こんなに離れた事は初めてだからね…」



「分かるわ。私もパパが居なくなった時に寂しかったもの。でも、アリス御母様は消えた訳じゃないじゃない?ちゃんと帰ってくるもの」



「そうだね」



メイドが御茶とデザートをテーブルに置いて下がった。アーサーとルナは席に座ると、紅茶を飲んだ。


少し浮かない顔をしてるアーサーが気になるルナは単刀直入に聞いた。



「何か悩んでるんでしょ?話してよ」


アーサーは苦笑いして答えた。


「考えても仕方無い事を考えてるよ。

誰に聞いても、聞きたい答えじゃ無いような事をね」


「答えてあげられないけど、聞かせてよ」



ルナに言われて、少し迷ったが話す事にしたアーサーは語り出した。


王とは何か?父親達がしてる事が正解なのか?

魔法の力は、誰の為のものか?

何故、神は平等に力を与えなかったのか?

皆の為と言うなら、何故?一人が背負わなくてはいけないのかと。


難しい問いだった。

ルナは少し考えてから言葉を選んで答えた。



「それは難しい問いよね?

誰がどんな答えを出そうと、納得出来るものでも無いわよね?だって、皆が其々に考えてる答えは違う気がするから。


自分で答えを出さなきゃならない事だものね」



アーサーは静かに頷く。



「ん〜。私は自分の好きな事をさせてくれてるパパに、いつも感謝してるんだ。

きっと、パパも同じ様な悩みを抱えてたと思うんだよね。だから、私には強要しないの。だから余計に有り難いなって思うのよ。


納得はしないと思うけど、パパに聞いてみたら?」



ルナの提案に、アーサーは溜息を吐いてから答えた。



「う〜ん。リオ叔父さんは、父上の意見を尊重してるだろ?寄り添ってる感じって言うかさ。

俺が聞いても、父上の事を思った答えしかくれない気がしてさ」



「そうかな?パパは、そう言う意味では割り切ってる気がするんだよね。現状に沿わない他人の意見もちゃんと理解してくれる優しさはあると思うんだよ。


良い子じゃない意見も尊重してくれるって言うか…」



アーサーは微笑んでルナを見た。



「ルナは、リオ叔父さんが大好きなんだね」


「そうね。普通の父親って感じじゃないけど、ちゃんと愛情を感じるの。パパの子供で良かったと思える程には好きね」


「リオ叔父さんに負けない位に、俺の事も好きになって欲しいな」



話の流れの様に、アーサーが、そんな事を言うからルナは会話を止めてしまう。



「まだ、恋が分からない?」



アーサーが真剣な瞳をルナに向けるとルナはドキっとしてしまう。



「…きっと…恋なんだと思う…」



目を反らしながら小声で呟くルナの声だった。

アーサーは、聞き間違いかと思った。


「それって…」



ルナは、少し頬を赤くして声を出す。



「たぶん、私もアーサーが好き」



アーサーは、舞い上がりそうだった。

嬉し過ぎて、悩みなど吹き飛んでしまう。


勢い良く立ち上がると、ルナの所まで移動すると座るルナを抱き締めた。



「嬉しいよっ!有難う」


そんなアーサーにルナは恥ずかしい様な嬉しいような変な気分だった。



「アーサーっ。急に抱きつかないでよっ。

私、どうしても良いか分からなくなっちゃう…」



「ルナも俺を抱き締めてよ」



耳元でアーサーの声が聞こえるのが擽ったくてドキドキして、ルナは本当に恋だと実感した。


アーサーの腰に手を回し少し力を入れる。

鍛えていると分かる引き締まった身体の感触が服の上からも伝わってきて、ルナはアーサーが男なのだと自覚しドキドキが止まらなかった。


それが苦しくなってしまう。

恥ずかしさの様な、良く分からない恋の感情に支配されていく様で、ルナは嬉しいのか嫌なのか分からなかった。



「アーサー。苦しい…」



そう呟くと、アーサーは慌てて離れた。



「ごめん。あまりに嬉しくて加減間違えたかも」



そう謝るアーサーは、いつものアーサーで少しホッとしたルナは微笑んだ。



「アーサー。私、恋するのは初めてだから…少しづつ距離を縮めたいの」



「うん、ごめん。気を付けるね。手を繋ぐのは大丈夫かな?」



アーサーは、照れた様に聞いてくるから、ルナは頷くと笑ってしまった。



手を繋いで、少し庭園を散歩した二人は談笑する訳でも無く。静かに散歩した。


急に恥ずかしくなっていたのだ。

不器用な二人の恋は前途多難かもしれない。






その日、夕方に書類整理が終わったアーサーは、リオベルトを呼び出した。


色々と相談したかったからだ。



アーサーの執務室にリオベルトが現れたのは18時を過ぎた頃だった。



「どうした?呼び出すなんて珍しいな」


「ちょと二人で話したくて」


「そっか、長くなりそうだな?

そろそろ夕飯の時間だろ?別の部屋に夕飯を用意させよう。食べながら話そうぜ」



リオベルトの提案にアーサーは頷くと、リオベルトの後を着いて行った。


部屋に入るとリオベルトが「ココは俺の仮の部屋だ」と言った。


「帰らない日には、ココで寝てるの?」


「だな。後はサボる時に使ってる」



そう言ってリオベルトは笑った。

その後直ぐに使用人達が、夕飯を運んできてセットすると出て行った。



「さっ食べよう」


二人は、食事に手を付ける。


「で?話は?」


食べながら、リオベルトが聞いてくる。


「食べ終わったら話すよ」


アーサーは、そう言うと黙々と食べた。

リオベルトも黙って腹を満たすとワインを飲んだ。



「リオ叔父さん。

父上の考えじゃ無くて、リオ叔父さんが王だったらで答えて欲しいんだけど、良いかな?」



「俺が王だったらね。分かった。言ってみろ」



アーサーは、正直にルナの事を好きな事も、ルナがリオベルトと同じ闇属性だと言う事を踏まえた上で、自分が、王太子として次期王として考えてる事を話した。


ルナに話した事と同じ事を。


リオベルトは、ワインを飲みながら静かに聞いていた。アーサーが話し終ると息を吐いてから言葉を出した。



「なるほどな。随分と深い話しだな。


アリスに全て聞いたんだろ?だから、神の子として考えてるって事で良いか?」



アーサーは頷いた。リオベルトは改めて答えた。



「王だったらと言うよりは、俺が神の子だったらの方が正解だな。


オベリオ王国は、他国とは根本からして違う。

天使って奴等が贔屓した島国だからな。神自身が望んだ在り方では無かったと俺は思ってる。


善に偏る天使達が楽園を創りたかったんだろうな。

しかし、世界は島国だけでは無かった。そして悲劇が起きた。天使だったアリスは、自分達の過ちに責任を感じたんだと思うんだ。


だから、なんとしてでも世界を人間を幸せに導きたかったのかもな。俺の感想だ。本人は、どう考えてるか分からないぞ?


それを踏まえて、俺が神の子なら。

オベリオ王国の在り方全てをブチ壊すかもな。

そして、魔法って奴を、この世から消すかもしれない。


不公平だろ?同じ人間なのに魔力の有る無しで決まるなんてさ。


愛を持って使えばって言うけど、人間なんて馬鹿だろ?自分に都合の良い愛しか持ち合わせない。


だったら、そもそも、こんな力無い方が良いって思っちまう。


力を持って生まれた奴が全て、有り難いと思うわけじゃないだろ?力なんて要らないから普通に暮らしたいと思う奴も居るだろう?


だから、俺なら自分が持つ光で全ての魔法を消し去る。誰に責められてもな」



思ってもみなかった答えに、アーサーは言葉を失った。国の為に犠牲を払ってまで尽くしてきた人の言葉とは思えなかったのだ。


アーサーの表情を見て、リオベルトは笑った。



「ビックリしたか?俺が綺麗事を言うと思ったか?」



「綺麗事とは言わないけど、国の事や民の事を考えた様な答えが返って来ると思ってたんだ」



リオベルトは微笑んだ。そして語る。



「アーサー。俺は神の子じゃない。

魔力量が高い闇属性の人間ってだけだ。たまたま公爵家に生まれ、悪魔みたいな親に家業をやらされて育った。アーサーと生まれた環境が余りにも違う。


そんな男に、神の子だったらと聞いた所で愚問だ。

俺は、魔法を便利に使ってきたし魔法がある事で助けられた。けど同じだけ魔法を憎んだ事もある。


この世には二面性がある。光と闇の様にな。


神の子が持つ力は、全てを凌駕する光そのものだって聞いてるよ。


世界の歪みを治すって言うけどさ。人間が生きてるだけで歪むもんだろ?人間の性格を矯正することは出来ないもんな。


魔力が、そもそも世界に要らない物かもしれないと俺は思ったんだよな。魔力が穢れを生み出すって思ったんだ。俺の推測だぞ?


光属性の浄化だけが穢れを消す事が出来るとか関連あるとしか思えないだろ?


魔力のコントロールが未熟なオマエが暴走した時に放った光。あれを見て、ずっと考えてた。


オマエが、完全たる神の力を使えたら、この世界から穢れを消し魔物を消し、魔法さえ消せるんじゃないかってな。


まぁ〜俺の妄想だけどな」



リオベルトの妄想に興味を示したアーサーが質問する。



「リオ叔父さんの妄想を、もっと詳しく聞きたい。

他にも、何かあるんでしょ?考えてる事」


「まぁ〜な。

魔力を持って生まれた奴の魔法は聖霊の力だ。

天使の力と言って良いだろうな。神から与えられた力だ。


精霊の加護の魔法は、精霊の力。


二つの力の違いが分かるか?」



リオベルトの質問にアーサーは答えた。



「ん〜。

元々持って生まれた魔力を使うのと、精霊との契約で精霊に魔法を使わせるかの違い?」


リオベルトは頷き、言葉を足す。



「間違えじゃないが、少し足りないな。


俺達が使う魔法は、体内に溜まった魔力を使う。

無くなった魔力は、寝たり時間を置けば勝手に補充される。


けれど、精霊との契約は等価交換方式。

魔力を持ってる人間からは魔力を貰うが、持ってない者が精霊と契約するには精霊が求める対価が必要だ。

例えば寿命や、精霊が欲しい物をだ。


天の神と、地の神との違いでもある。

天の神の力は良心的だが、神が好まぬ好意をすると穢れを生む。要は、等価交換方式では無いが神の好みでデメリットがあるって事だ。


それを考えたら、どちらの神の力も代償があるって事だ。けれど、本物の神は本当に平等なのかもな。


だから、神の子を降臨させ。

本当は、不平等を消したいんじゃないのかって思ったのさ。天国みたいな世界を作る為じゃない。

人は、馬鹿で不完全で良いと、本当の意味で慈愛溢れる神は、人間が善でも悪でも気にしないのさ。


ただ、流れるままに好きに生きなさいってな。

それに意味を与えてるのが天と地の神で、人間が意味付けしてるだけ。


馬鹿な人間は、好き勝手するだろうが、誰かは正義感で正そうとするもんだ。


それは、やりたい奴がやればいい。

押し付けられてやるもんじゃ無いだろ?」



アーサーは、それが嘘か本当かは分からないが、リオベルトの話しを信じてみたくなった。



「俺も、そんな気がする。

俺が自分の力の理解を深めたら、本当の神と話せるかな?」



「まぁ〜、多分な。

アリスも夢の中で話したとか言ってたしな。


まぁ〜今の話は、俺の妄想だからな。

神の子の力が魔法を消せるかも分からんし、魔力のせいで穢れが発生してるのかも分からないからな?」



「分かってる。でも、そうだと良いなと思うんだ。

有難う、リオ叔父さんっ。なんかスッキリした」



リオベルトは、微笑みアーサーの頭を乱暴な撫でた。



「また、悩んだら相談してこいっ。


所で、ルナと付き合ってんのか?

また、近場で済ましたもんだな。ルナは恋が分かるようになったってことか…


俺は複雑だよっ」



リオベルトの言葉にドキッとしたが、アーサーは真面目に言った。



「俺は、本気だから。

ルナの幸せを一番に考えるから」



リオベルトは笑って答えた。



「真面目だな。自分の幸せも考えろよっ

自分が幸せだから、相手も幸せに出来るんだ。


俺達、大人が、間違った事をオマエ達は繰り返すなよ?」



そうして、男二人の語らいは幕を閉じた。



後から聞いたウィリアムが、父親じゃなくてリオベルトに相談した事にショックを受けるのだった。









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