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第一章                          3 強引な誘惑



リオベルトに、そのままベットへと寝かされたアリスは覆いかぶさる様に上から見下ろす視線から逃れる様に顔を横に向けた。



「なんなのよ…急に…」



力無い声で抵抗する様な言葉を吐くアリスにリオベルトは妖しい笑みを浮かべ、アリスの耳を舐めた。


「ヒッ」と小さな悲鳴を上げるアリスにリオベルトは囁く。



「本当に記憶が欠損してる様だな」



その囁きにアリスはリオベルトに視線を向ける。



「意味が分からぬと言った顔だな…」



そう前置きするとリオベルトはアリスの横に身体を移動し仰向けになると語り出した。



ダグラス公爵家は、代々王家の影として裏社会を管理しているとリオベルトは教えてくれた。


それぞれの貴族の家の事情さえも握り、多少の不正などは目を瞑り国や王家に仇なす者だけを罰して来たと言う。事故に見せかけ始末したりもするし、情報操作で民衆を動かす事もあると言った。



「そんな事を私に話して良い訳?」



アリスが怪訝な表情を向ければリオベルトは笑って答える。



「愛ある夫婦に隠し事は無しだろ?」



それはミシェーレ家の話にも発展した。

ミシェーレ公爵家は、その富を良くも悪くも動かしている様だ。グレーゾーンで富を集め国の流通などを管理しているとリオベルトは言う。


アリスもそうだが、普通の令嬢は政治的な事を本当の意味で知らない。知る必要も無いのだ。


この世界は男性社会で成り立って居るのだから。

結婚し夫の役に立つ為に社交界などで情報を聞き出したり操作したり夫に言われるがままに動く事もあるが、知る情報は一握りだ。



リオベルト曰く、どの家の夫婦関係や屋敷の中の様子、当主の動向なんて事さえ網羅していると言う。


勿論、ミシェーレ家も例外では無い。

エルロンドがアリスを異常な迄に溺愛していたのは把握済みなのだ。



「オマエの記憶が何処まで抜け落ちて居るのか知らないが、ミシェーレ公爵がアリスを娘以上の愛を注いでいるのは知っている。まぁ〜流石に純潔を奪ったかどうか迄は探れなかった訳だが…


それもあってオマエを抱くのも時間をあけていた」



「どう言う事?」



リオベルトの言っている意味を理解していないアリスの反応にリオベルトは笑う。



「なるほど、上手いこと欠損したのは消したい過去だからか?」



アリスは抜け落ちた過去を思い返す様に黙り込むとリオベルトは話を続けた。



「ミシェーレ公爵は娘であるアリスに手を出してる。

まぁ〜最後までは流石に無いと踏んでいるが、真相は知らない」



リオベルトから発せられる言葉に息を呑むアリスは、驚きの表情をリオベルトに向け泣きそうな顔だ。


訴え掛ける様な表情のアリスにリオベルトは優しく微笑みアリスの髪を撫でた。



「心配するな。知っていて嫁に貰ったのは俺だ。

しかし、純潔か確認するのを後回しにしただけの事だ。流石にミシェーレ家だけの血族をダグラス家の跡取りには出来ないだろ?


確かに俺にも打算があった。アリスの好意を利用しミシェーレ公爵が退いた後にレオンには悪いがアリスを餌にエルロンド卿から富を引っ張ろうかとも考えてた訳だからな」



「それは今でも私を餌だと思ってるって訳?」



アリスは、記憶が抜け落ちてるとは言えエルロンドとの関係性が異常であるのは理解していた。

自分がリオベルトなら、そんな女を愛せる訳も無いと思ったのだ。




「オマエに興味が出たのは本当だ。

これから愛のある夫婦とやらをしても良い程にな。


俺は肉体的欲望と愛とを混同はしない。

だから覚えておけ、欲望を満たす事を咎めたりはしないが俺を裏切るな。愛が欲しいと言うなら俺の全てを受け入れ俺だけ見てろ」




リオベルトは起き上がり上着を脱ぎ捨てる。シャツのボタンを器用に片手で外しながらアリスを見下ろす。



「さて、綺麗に着飾ったドレスを強引に破くのも悪く無いかもな」



アリスの答えなど待たずにリオベルトに唇を塞がれ舌を絡ませられる。少しの抵抗を見せるアリスを強引に押さえ付けると唇を離したリオベルトと視線が絡む。



「ちょっと…止めて離して」


アリスの抵抗の言葉にリオベルトは妖しく微笑み



「そんな顔で抵抗しても煽るだけだ」



リオベルトは指先に魔力を込めると胸元辺りからドレス越しに身体を指でなぞる。



ドレスは綺麗に切られていき胸が露わになるがリオベルトに手首を押さえられているアリスは手で隠す事も出来ない。


恥ずかしさで顔を赤らめ涙目になるアリスは視線を逸らし「嫌…」と掠れた声で囁くとリオベルトは興奮気な悦びを滲ませた。



「前の積極的なアリスより、今の方が数倍唆るよ」



リオベルトに強引に抱かれるアリスも身体の快楽に抗う術を持たずに甘い吐息を漏らし身を委ね始めた頃にはリオベルトも優しい愛撫に変わり丁寧にアリスを快楽へと導いていく。


リオベルトを受け入れる時、アリスに痛みが走り声を上げ仰けぞり抵抗するが同時に安堵の感情も込み上げアリスは涙が溢れた。


アリスを労るように優しくキスを落としながら、ゆっくりと動くリオベルトにしがみつき吐息を漏らすアリスは、いつの間にか悦びの声を上げていた。



リオベルトが果てた後、アリスはシーツの上の出血を確認すると再び安堵しエルロンドに初めてを奪われていなかったのだと確認する事が出来て頬が緩んだ。



そんなアリスにリオベルトは軽いキスを落とすと微笑みを向ける。



「だから心配するなと言っただろ?

もしも純潔で無くとも俺はオマエを妻に迎えた事を後悔などしない」



アリスは複雑な想いだった。

目の前に居るリオベルトは確かに優しい。

けれど記憶の中のリオベルトはいつだってアリスに冷たかったのだから素直に受け入れる事など出来なかった。



アリスの身体で純潔を奪われたとしても、前世の記憶がある私としては純潔が特別なものでもなく、甘い言葉などに直に絆されるほど世間知らずでも無い。



「そう言う事にしときますわ。

散々、蔑ろにしてきて急に優しくされたって絆されませんからっ!」



本心だったが、直に隣で色気あるイケメンに見詰められると照れるのは仕方が無い。反則級の容姿は武器でもあるらしい。



「顔を赤らめながら言われてもな。

まぁ〜好きなだけ抵抗すれば良い。離縁はしてやらないけどな」



戯言をいなすかの様に軽く流され、話が噛み合っていないとばかりに甘い雰囲気で腕枕をされる。


自信に満ちたリオベルトには、否定的な言葉を言った所で刺さらない気がして何だか悔しい気持ちになるアリスはベットから起き上がると一人でバスルームへと向かおうとする。


そんなアリスにリオベルトは余裕の笑みで声を掛ける。



「何だ、風呂か?一人で平気か?」



馬鹿にされてるのだ。

メイドに入れてもらうのが当たり前の生活で、一人で入れるのか?と言われている訳だから。



「御心配は無用ですわ!

お風呂くらい一人で入れますから!」



プンプンしながらバスルームに消えるアリスをクスクス笑いながら見ていたリオベルトは、ヤレヤレと呆れる様な嬉しそうな表情で後を追う。


アリスが一人で風呂に入れるとは本気で思っていなかったのだ。



バスルームからシャワーの音が聞こえる。

流石にお湯は出せたのかと思いながらドアを開けたリオベルトは自分で身体を洗っているアリスに驚きを隠せなかった。



「オマエ、良く身体と髪に使うソープを間違えなかったな。勘か?」



アリスは呆れた様にリオベルトを見ると溜息を吐いた。



「あの、入るなら入るでドア閉めてくれます?

それに私を馬鹿にするのも辞めて下さるかしら?

一人で生きて行けるだけの知識は御座いますので!」



そう言いきると、リオベルトの存在など気にせず身体も髪も一人で洗い流していくアリスを、ただ呆然と眺めるリオベルトが、心底驚いているのを見たアリスは苦笑いになる。



「リオ様。サッサと洗い流さないと風邪を引きますわよ?生憎、浴槽にお湯を溜めては居ませんので」



そう告げるとサッサと出ていくアリス。

リオベルトは慌てて身体を洗い流しながら考えていた。



アレは本当に自分が知っているアリスなのだろうか?と。ある程度成長したリオベルトは家業の為もあり隠密行動を叩き込まれていた。


最初は失敗も許されると、アリスの日常を盗み見る事だった。だからこそ、アリスの事は全て把握してる自信もあった。


アリスはエルロンドに溺愛されながら育った為に、一度たりとも自分一人で何かをした事は無い。

知識があった所で初体験を自然にこなせるだろうか?


いくら記憶が欠損したからと、人はあんなに変わるものだろうか?心なしか雰囲気さえ変わった様に思えてならなかった。



風呂を出ると、アリスは一人で着替えたのかリオベルトのシャツに着替えていてメイドを呼び付けていた。


メイドのクロエが来れば、夕飯を頼んでる様だ。



バスルームの入り口に立ち髪をタオルで拭きながらアリスを眺めるリオベルトは、アリスの言動を観察していた。



凄く視線を感じながらも、リオベルトの存在を無視していたアリスも、流石に居た堪れなくなる。



「ちょっと!何時まで見てんのよ!

すっごく落ち着かないんですけど!」



「着替えもメイドに頼めば良かっただろ?俺のシャツを寝巻きにするつもりか?」



「仕方無いでしょ?ココは貴方の部屋で、着れるのはコレしか無かったのだから。着替えの服は頼んだわよ!」



ツンケンと言葉を吐き捨てるアリスは、何とも新鮮だった。リオベルトの知るプライベートなアリスでさえ、こんな姿を見たことは無い。リオベルトの知るアリスは良くも悪くも他者に合わせる個性の無い女だったからだ。だからこそ、何色にも染められる。


リオベルトに恋をしてから人生の全てがリオベルトになったのが唯一の個性だろうか?



リオベルトは、アリスの対面のソファーに座ると言葉を漏らした。



「オマエ、本当に誰だ?」




リオベルトの問にアリスの心臓が跳ねた。

アリス自身が誰よりも分かって居たからだ。

前世の記憶が断片的とは言え蘇った今のアリスは、前世の私の性格に独占されていた。


今迄のアリスとは別人なのだ。

以前のアリスの人格は記憶と言う情報に過ぎなくなっていたのだから。



戸惑うアリスにリオベルトは更に言葉を乗せる。



「ダグラス家の家業の事は話したよな?

俺は誰よりもオマエを知っている。だからこそ、違和感が拭えない。オマエに何があった?正直に話せ」



真っ直ぐに深いブルーの瞳に射抜かれ、アリスは渋々と言った具合に口を開く。




「信じて貰えないかもしれないけど…」



アリスは、弱々しい声で床に叩きつけられた時の自分に起きた状況を語って聞かせた。リオベルトは顔色一つ変えずに、ただ黙ってアリスの話を聞いていた。



アリスは語り終えると、リオベルトの顔を伺うが何を考えて居るのか分からなかった。



暫しの沈黙が部屋を包む中、クロエと数人のメイドが部屋へと夕食を運んで来る。



二人は沈黙のまま、その様子を見守る様に眺めていた。テーブルに料理や飲み物がセッティングされると部屋を出ていくメイド達を見送る様に視線を動かしていたアリスにリオベルトは静かに声を掛けた。





「冷める前に、まずは食事を済まそう」








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