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第三章                          3 帝王来訪


帝国との遣り取りは主に手紙の遣り取りが多かった。

リオベルトとアルバートの仲だから手紙1枚での交渉で許されていたのだ。


帝国は戦乱の混乱も直ぐに立て直すと、目覚ましい成長を見せた。元々、近代国家でもある帝国の力でもあった。


オベリオ王国とは違い、魔力をそれ程持たない者が多い為に独自の発展をして来た大陸。


穢が溜まる鉱山から採れる魔法石を最大限に活かす技術は帝国が一番だ。


魔道具の種類も多種多様で、平民の魔力量の低下を懸念していたオベリオ王国は技術提供を是非とも漕ぎ着けたいと思っていた。


その為に、コチラの国から何を提供出来るかと言う事で話しを進めていた。


アルバートは、一度オベリオ王国へ行きたいと打診する。国を見て、決めたいと言うので交流会を開く事となったのだった。



親善交流会として、アルバートを出迎える準備が進められていた。パーティーなどの準備はアリスの管轄だ。アリスは、精力的に動いていた。


正装は、マリが子育てで忙しい事もありルナに頼む事にしたアリスは、連日の様にルナを呼び出しては御茶を共にし久しぶりの団欒を楽しんでいた。



ルナとアーサーの微妙な仲を知らないアリスは、度々の様に昔のノリでアーサーも付き合わせたりしていたのだ。



今日も、いつもの様に三人で御茶を飲みながら話していた。アリスは、子供達の成長を改めて感じて嬉しかったのだ。ルナとも一時は親子だった仲だ。自分で産んだ子では無いが自分の子の様に可愛かったのだ。



「王妃様、パーティーの食事の件で料理人達が話があると…」


仕事に呼ばれたアリスは、二人に「ゴメンね。二人は、ゆっくり楽しんで」そう言うと席を立った。



残された二人は少し気不味さがあった。

アリスを挟んで話すのは普通に楽しく話せるのだが、あの一件以来は二人きりで話すのは、ぎこちなかった。



「衣装は順調に進んでるの?母上に呼び出される頻度が多くて進んで無いんじゃないの?」


アーサーは、当たり障りの無い話題を振る。


「大丈夫よ。私の仕事のメインはデザインだから。ママが私の為に店を頑張ってくれた御蔭で従業員が優秀なの」


「そっか…」


話を広げられなくて、アーサーは言葉が詰まった。

嫌われたかも知れないと、ずっと思い悩んで来たアーサーにとって、下手な事を言って嫌われたくないと過剰な気遣いをしてしまうのだ。


ルナは、そんなアーサーのぎこちなさに、モヤモヤしていた。



「ねぇ~、アーサー。あの時の事だけど…」


その言葉に、アーサーは息を呑んだ。

完全に拒否されるかもと次の言葉が怖かった。


何も言わないアーサーにルナは視線を向けながら話しを続けた。



「まだ、気持ちは変わらないの?」


アーサーは、その質問の意図を探すようにルナの顔を見た。久しぶりに視線を合わせたのだ。


ルナの瞳を見つめると、ルナが少し照れたように視線を外した。アーサーは、少し自信を取り戻すと真っ直ぐルナを見て言った。



「変わらない。会えない日々も、いつもルナを思い出してる。俺は、本気でルナが好きだ」



ストレートに言われたルナは、胸がドキドキしていた。ルナの中で、あの日以来、ずっとアーサーがチラつく様になった。


それが恋か分からなかった。

アカデミーを卒業して、ずっと会って居なかった間も、アーサーが気になっていた。


ルナもモテない訳じゃない。何人もの男に想いを伝えられる事があったが、何の感情も沸かなかった。


ルナの心を動かしたのはアーサーだけだった。



「私ね、恋とか良く分からない。

けど、ふと頭に浮かぶのはアーサーで…

他の人に告白されても何とも無かったのに、アーサーに好きだと言われると、胸がドキドキする…


これが恋なのか、アーサーが教えてくれる?」



アーサーは、頭が真っ白だった。

良く言葉の意味が理解出来なかった。

これは、どっちなんだと。

けれど、脈はあるはずと頭を動かした。



「今度、一緒に出掛けよう。俺に街を案内してよ。

それに、もっと二人で会う時間を作ろう。もっともっと…ルナと距離を縮めたいから」


「うん」


この日を境に、二人の恋が動き出す。

モテる二人が、本当の恋人となる日は、まだ先だ。




そして数ヶ月後。

オベリオ王国に、マルバラ帝国から帝王アルバート・ジスタンがやって来た。


港街では民達が歓迎した。

そして、王家の馬車に乗り込んだアルバートはポータルを抜けて王都に出ると、大勢の民達から大歓迎を受けパレードの様に大通を通り城に辿り着いた。


ポータルの御蔭で、上陸して直ぐに城まで付いてしまったのには、アルバートが驚きを隠せなかった。


そして、直ぐに思い付いていた。

魔導具の技術提供の代わりに、帝国にもポータルを設置してもらう事を。



親善交流会は明日だ。

城に付いたアルバートをリオベルトが客室に案内すると歓迎の料理とワインが並んでいた。


そこには、ウィリアムとアリスの姿もあり先ずは挨拶をしてリオベルトが中心となり談笑する事でうちとけたのだった。



「数日間の滞在は、連れてきた者達と共に別棟の宮殿を一つ開けてある。自由に使ってくれて構わない。

使用人達も、配置してるから気軽に指示して使ってくれて」


ウィリアムの言葉にアルバートは笑顔で答えた。


「俺だけじゃなく、下の者への気遣いを有難う。御言葉に甘えて宮殿を使わせてもらうよ。


それに、ジグルドにも会いたいよ。宮殿に呼んでも良いかな?」



「構わないよ。リオベルトに連れて行かせるよ」



リオベルトは、苦笑いで言った。



「アイツを連れてくんのか?煩いぞ〜。オマエも知ってるだろ?」



「それがジグルドの良い所だろ?懐かしいよ。

それにジグルドが良く話してた女にも会いたいしね」



「マジかよ。あの二人いっぺんに相手すんのはキツいぞ。俺は知らねぇからな」



談笑を終え、リオベルトの案内で宮殿へと移動したアルバート。


宮殿で一息付くと、リオベルトに言った。



「なぁ〜。王妃って、めちゃくちゃ美しいよな。

あんな嫁さんが居たら幸せだろうなぁ〜。俺なんか国の事で、いっぱいいっぱいで嫁を作るどこじゃないし。ウィリアム国王が羨ましいよ」



「オマエ、まだ結婚してないのかよ?

両親のトラウマかなんかか?跡取りとか考えなきゃだろ?」



「そうなんだよな。でもさ、帝王は世襲制を辞めようかと思うんだよ。良き指導者を見極めて譲っていく方が良くないかなってさ。権力者の子供が良き指導者とは限らないだろ?だから、跡取りとか考えて無かったりするよ」



リオベルトは、微笑みをむけると言った。



「オマエは良い王になるよ。それがオマエが考える良い国の在り方なんだろ?良いと思うよ。だけど、支えてくれる嫁は作れよ」



「ハハハ、分かったよ。誰か良い女いないかな〜」



二人は久しぶりに気楽に語り合う。

アルバートにとって、リオベルトは兄の様だった。

そしてリオベルトも弟の様に思っていたのだ。


一緒に過ごしたのは1年間だけだった。

けれど、密な1年間だった。

共に戦場で命を預け合った仲は、時間は関係無かったのかも知れない。ひょんな事から出会った二人は昔からの付き合いの様に気が合ったのだ。





リオベルトは執務室に戻ると、ウィリアムとアリスにアルバートの事を宜しくと伝えた。


二人は「勿論」と言って微笑んだ。



アリスが、明日の交流会でアルバートが挨拶する予定を組んるが国の文化の違いなどを把握したいからと、打ち合わせがしたいと、アルバートの宮殿へと一人で向かった。



「そう言えば、アルバートがアリスを気に入ってたな。美しいってさ、それにオマエが羨ましいってさ」



「まぁ〜アリスの美貌は国でトップクラスだからね。そりゃ男は見惚れちゃうよね」



「口説かれたりしてな。どうする?アリスが帝王と恋に落ちたら」



「その時は、その時だよね。誰にも止められないさ」



そう言って、有りもしない話しをしてる自分達に二人して笑った。




宮殿では、アリスがアルバートに交流会の説明と、文化の違い等を共有していた。


綺麗なだけじゃなく、しっかりしているアリスにアルバートは好感を持った。帝王の話しをすれば、メモを取りながら理解を深めようとする姿勢や、帝王の街の様子やアルバートの思想など聞いて来ては、感心したり興味津々に掘り下げたり、コロコロと変わる表情と少女の様に可愛らしく笑う笑顔にアルバートは、アリスから目が離せなかった。


帝王として君臨してから女遊びをしていない訳でも無い。帝国にも美女なら幾らでも居るし、アルバートが声を掛ければ、女など直ぐに手元における。


けれど、今まで見て来たどんな女より、アリスは魅力的に映ったのだ。



「ん?私、なんか変な事を聞きましたか?」



「いえ、何も。貴方に見惚れちゃいました」



「御世辞が御上手ですね。もう疲れましたよね?

私は、この辺で失礼しますね。ごゆっくり御寛ぎ下さい」



アリスは、席を立とうとすると、アルバートが止める。



「いやっ、まだ話しませんか?

もっと話しをしたいです。特にやる事も無いですから、もう少しだけ俺に付き合ってくれませんか?」



アリスは微笑んで座り直した。



「私の、つまらない話なら幾らでも」



それから数時間、二人は談笑する。

互いの国の事や、良い国にする為には等を語り合った。明るい未来の話は、二人の意見が合って夢を語り合う事になる。


その楽しい時間は、あっという間で、二人は時間を忘れるくらい話し心を許し仲を深めた。



アリスは、ウィリアムやリオベルト以外で心を許した男は居ない。


貴族の中では本音と建前で生きている。

仲良くなっても、それは一緒だった。


けれど、不思議とアルバートには心を許せた。

他国の王だと言うのに気さくで、平民の様な考え方も出来る人だった。


内戦の時などの話しで、二日間も何も食べれなかった話しや、リオベルト達と共に城を出てから宿無しの時もあって野宿した話など、リオベルトからも聞いたことが無い話しを聞いた。


リオベルトは、そう言う泥臭い事は話さないからだ。


アルバートは、過酷な経験も笑い話に変えて話してくれた。アリスが話の内容に心を痛めない為の配慮なのだと思った。



「もう、こんな時間だったんだね。

ごめん、王妃様の君をこんなに拘束してしまった。

後でウィリアム王に叱られてしまうかな?」



「フフ。大丈夫よ。本当に楽しくて時間を忘れてしまったわ。明日は交流会だから、早く寝ないとね」



「そうだね。着飾った君の姿を見られるのが楽しみだよ。城まで送ろう」



「大丈夫よ。一人で平気です」



「そんな事は言わないで。幾ら城の敷地でも一人じゃ危ないから。送らせてよ」



「貴方も、帝王で護られる人なのに」



そう言ってアリスが笑う。

御言葉に甘え、城まで送って貰う。


別れた二人は、それぞれの部屋へと戻る為に歩き出す。二人の表情は共に笑顔だった。



リオベルトとウィリアムの話も、あながち間違えでは無くなる予感を秘めていた。





翌日、親善交流会は予定通りに開かれた。


アルバートは、オベリオ王国の貴族達とも交流を深め帝王にも気軽に来てくれと挨拶をして回った。


その横にはアリスが付き添い、貴族達の紹介をしながら繋ぎ役を務めていた。



「ウィリアム、オマエの嫁が帝王の嫁の様に甲斐甲斐しく世話を焼いてるぞ。」



「そうだね。コレじゃ僕の妻が君の様だね」



そう言って笑う二人は、アリスの輝く笑顔を眺めた。

そして、もしかしたらアルバートとの未来もあるのかも知れないと少しだけ淋しい気持ちになった。



その頃、パーティーに参加している、アーサーとルナは二人で話したいのに、群がる者の対応に追われていた。令嬢と令息に人気の二人を御目当ての者は多く、二人を一人にはさせてくれない。


次から次へと、群がるものだから、足を進めても二人の距離は縮まらなかった。互いに視線を合わせるが、無情にもパーティーの間、会話する事も出来なかった。


そんな中で、レイだけは社交性を存分に発揮し群がる者を華麗に裁きながら、ルナやアーサーの所にも軽く辿り着き挨拶や会話をしていた。


アーサーは、レイを見習いたくなった。

今度、令嬢の捌き方を伝授してもらおうと本気で思うのだった。



アリスは、一通りの貴族を紹介し終わると、アーサーに声を掛けた。



「疲れたでしょ?休憩所で、ゆっくり御茶でもどう?お酒を勧められ過ぎてツラくない?」



「有難う。そうさせて貰おうかな?少し、はしゃぎ過ぎて飲み過ぎたかも」



アリスは笑って、休憩所まで案内すると、自ら御茶を振る舞った。



「御茶も自分で淹れるんだね。王妃様なんだから使用人を使うのが普通だろうに」


「全てを人にやって貰う訳じゃないわ。やれる事は遣りたいのよ。当たり前になり過ぎると感謝が無くなりそうで…傲慢になりたくないの」


「君は凄いね。俺も見習わなきゃだね。

益々、君に惹かれてしまうよ。俺も君の様な人に出会いたいよ…」



アルバートは、自分の好意を隠しもしなかった。

アリスは、戸惑いはするもののアルバートの好意が嬉しかった。



「直ぐ、そうやって褒めるのね。他の女性にもそうなのかしらね?」



アリスが冗談ぽく言えばアルバートは真剣な目で訂正する。



「他の女性には言わないよ。

君だからだ。本当は、君の名を呼びたいくらいさ。

人のものじゃなければ…直ぐに求婚したいくらいさ」



真っ直ぐに見つめられたアリスは、胸が高鳴った。

ドキドキと煩い心臓の鼓動が、アルバートに聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいだった。


アリスは、視線を外すと顔を赤らめた。


「冗談が過ぎるわ…」


「ごめん、困らせたよね…

でも、俺の気持ちは抑えられそうもない。

勝手に恋い焦がれさせて貰うね」


「こう見えて、凄く年上なのよ?」


アルバートは知っていた。リオベルトに聞いて知っていた。オベリオ王国では、魔力量が大きい者は歳を取らず寿命身近に一気に老け込み死に至ると。


アルバートは、微笑みを向けて言った。



「年齢なんて関係無い。

寿命が近付いて急に老けても、気持ちは変わらない。

逆に、俺は徐々に老けるけどね君の方が嫌だよね?」



アリスは笑ってしまう。



「私達は昨日、会ったばかりだわ。

互いに良く知らないから…勘違いかも知れないわ」



「分かった。俺が急ぎ過ぎたね。

徐々に君の心に俺を浸透させるよ」



御茶を飲み干すと、会場へと戻る。

何事も無かった様に社交をする二人。



そして無事に交流会は終わったのだった。








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