第三章 2 法改正
ダグラス公爵が復帰し、社交界での噂の的になっていた。
しかし、ダグラス公爵は一切、社交界へには姿を現さず、社交界のプレイボーイは鳴りを潜めた。
リオベルトは、公爵に復帰し屋敷を改装すると、マリを正式な妻として婚姻届を提出した。
ルナも公爵令嬢に戻った。
けれど、リオベルトはルナのデザイナーへの夢を応援した。
マリと共に、今迄と変わらず店の経営をさせた。
そして、マリと改めて子作りを始めた。
跡取り息子を産ませる為だ。
魔力量が多く、死ぬ間際迄は歳を取らないからこそ出来る事だった。
直ぐに、マリは二人目の子を妊娠する。
アリスが驚くのも無理は無い。
アリスは、ルナの後に子供が出来ないマリに妊娠しづらい体質だと思い込んでいたからだ。
リオベルトに実は避妊してたと聞かされ、呆れるのだった。
奈落の底は、エルロンド、それにミリティアとジグルドが引き継いだ。
案外、仲良くやっている様だ。
勿論、リオベルトが元締めだが、仕事は任せきっていた。
リオベルトは、ウィリアムの仕事を精力的に手伝った。帝国との貿易などもリオベルトがアルバートと交渉している。
裏方に回るのではなく宰相として表舞台に立った。
その分、アリスの仕事は減り、アリスは城の使用人達の管理運営と貴族同士の交流会などの方に力を入れた。
夫人達を集め、情報交換などをし女でも活躍出来る機会を増やす為の働き掛けを主に考えている様だった。
マリも、ちょくちょくアリスに呼び出され、夫人達に経営などをレクチャーする事もあった様だ。
アリス達が、望む女の人権を叶える為にウィリアムはリオベルトと共に法律を改正する為に貴族達を集め会議を重ねた。
男社会が普通でやって来た者達にとって、女がしゃしゃり出るのを嫌がる男達は多い。
それを黙らせ法改正に持っていく為に半年も掛かってしまった。
「まったく頭の硬い奴等は嫌になるな」
「ハハハっ。仕方無いよ、概念を変えるのは簡単じゃないからね。でも助かったよ、僕だけじゃ説得は無理だった。君が居る御蔭だよ。君が睨みを効かせるだけで黙るんだから」
「半年も掛るとはなぁ。少し考えるとか、一度持ち帰るとか会議を何回、開かせるつもりだったんだか。
彼奴等、少し舐めてるよな?個々に圧力掛けとくか?」
ウィリアムは、苦笑いして諭す様に言った。
「まぁ〜まぁ〜。程々にしてくれよ?
恐怖で従わせるのは本意じゃないからね。成る可くなら話し合いで解決したい」
「はいはい。そうでしたね。
堅苦しいのは嫌だね。お高く止まった奴等は本当に苦手だし慣れない。厭味ったらしいしな」
「君は、元々も貴族生まれなのにね。
なんで、そう育ったかな?あれが貴族の普通なのに」
リオベルトは溜息を吐いて、書類から手を離すと隣の席で書類整理をするウィリアムの机の上に、邪魔するように座り直す。
ウィリアムは、リオベルトを見上げた。
「普通ね…なら普通なんてクソだ。
貴族が皆、贅沢三昧でヌクヌク育ったと思うな」
「ごめん…怒った?」
ウィリアムは、しゅんっとする。
リオベルトは、少し怒った顔のまま言った。
「ごめんなさいを態度で示せ」
リオベルトは、手を広げた。
ウィリアムは、椅子から立ち上がるとリオベルトに抱きつきキスをした。
二人だけの執務室だからと、二人は普段から、いちゃついて居る。
机の上で熱いキスを交わしていると、ノックも無しに入って来たアリスが呆れた声を上げる。
「また、イチャついてる…。書類がシワになるわよ?場所を考えなさいよっ。仲の良い事は良いけど仕事しなさいよっ!」
「「はぁ〜い」」
二人、揃って返事をすればアリスは笑った。
そして、新たに持って来た書類を机の上に置くと説明を始めるのだった。
リオベルトとウィリアムの関係を、アリスも認めていた。アリスは、ずっと思っていた。
リオベルトとウィリアムとは、大人が決めた縁だった。
確かにリオベルトを婚約者だと紹介された幼子の時に年上の兄の様な存在に淡い恋心を抱いたかも知れない。けれど、それは子供の憧れの様な甘えの様なものだった。
二人の事は家族として愛してるのだと思う。
恋い焦がれる、そんな愛では無かった。
とても大切な存在で、大事な人達。
アリスは、自分が独占欲の様なものを感じる恋をした事が無い。だから、少し憧れがある。
話し終わると、アリスは二人に言った。
「二人は毎日、飽きもせず仲良いわね?私も燃えるような恋をしたいかも」
すると二人は驚きの顔を見せた。
リオベルトは「ウィリアムが居るだろ?」
ウィリアムは「僕達の仲に呆れて愛想尽かした?」
そう、其々に言うとアリスは笑って「独占欲が湧くような恋に憧れるのよ」と言った。
「なるほどな。オマエは欲張りなのか変わってるのか、前から妬いたりしないもんな。オマエの愛は寛容過ぎると言うか何と言うか」
リオベルトが呆れた様に言うと、アリスは不本意な顔で言い返した。
「それは、そう言う対象に出会ってないからかもじゃないっ」
「対象が現れたら、僕を捨てるのかい?」
そう言ってウィリアムは苦笑いする。
「捨てないわよ。大事な家族なんだから」
アリスの返しに、リオベルトは苦笑いした。
「オマエさ…俺と同じで最低な女になりそうだよな」
「言い方が良くないわよ。私とリオは欲望に素直なだけよ」
「ものは言い用だね…」
二人の会話に呆れた顔で言うウィリアムに、二人は笑った。
そして、ウィリアムは笑顔で言った。
「アリス。君が本当に本気で愛する男が現れたなら遠慮なく言ってね。僕は君の幸せを一番に願うから。
その時は、笑って送り出してあげる」
リオベルトも続いた。
「俺も笑顔で送り出してやるよ。
オマエが幸せに笑ってる方が良いからな」
アリスは「ありがとう」と言って微笑んだ。
アリスが執務室を出て行く。
するとリオベルトがウィリアムに尋ねた。
「オマエ、本当に送り出せんのか?」
「送り出せるよ。だって、僕には君が居るからね」
「可愛いこと言うじゃん。御褒美に抱いてやろうか?」
「まだ仕事が残ってるだろ?」
「真面目だな。ほんとオマエは真面目過ぎだ。
俺が帰ってきてからアリスを抱いてないだろ?オマエは一途過ぎだ。アリスが恋したいなんて言う訳だよな。アイツが本気になれるヤツが現れると良いな」
「なんで知ってるの?アリスが言ったの?」
リオベルトは、笑ってウィリアムの腰を引き寄せて言った。
「抱いてりゃ分かる」
そう言って、キスをした。
唇が離れるとウィリアムは「仕事っ」と少し抵抗を見せる。
「欲望に素直な俺は今オマエが欲しいけど」
妖艶な顔でウィリアムを誘惑するリオベルトに押されるようにウィリアムは言った。
「ココじゃだめだから…最上階に行こう…」
リオベルトは、ウィリアムを抱き上げると姿をウィリアム事、消した。
そのまま最上階に向うと、リオベルトは欲望のままウィリアムを抱く。
最近では、リオベルトの方が積極的にウィリアムを求めている。箍が外れた様に、リオベルトの愛はウィリアムに向けられている。
それをウィリアムも嬉しそうに受け入れている。
ウィリアムだけではなく、リオベルトも最近ではウィリアムしか抱いて居なかった。
「そろそろ執務室に戻ろうか?」
「まだだ」
「元気だな」
「次は、オマエが俺を抱けよ。嫌か?」
「いいの?僕が抱く方だと君を壊すほど責めちゃうけど」
「いいよ」
結局、二人は仕事もせずに愛し合う事となる。
後で、アリスに怒られるのは言うまでもない。
法改正がなされ。
女が爵位を継げる事になるのは勿論、女が商売をするのも肩身の狭い思いをしなくてよくなると、国民、特に女性からの喜びの声が上がった。
益々、王家に対する好感は上がった。
そして、帝国との貿易も盛んになり国民の所得も少し上がった。景気が良いのは帝国との外交をするダグラス公爵の御蔭だと、リオベルトの人気も増したのだった。
けれど、当のリオベルトは嫌な顔をした。
目立つのは嫌いらしい。
ダグラス公爵家の民の見る目が変わる頃、ダグラス家では法改正による女が爵位を継げると言う事実に、ルナは考えていた。
もしも、生まれてくる子が女の子なら自分が継がなくてはと。
もしもの時の為にと、ルナは今迄、興味の無かった政治の事などを勉強し始めた。
それを、マリは影で見守る事になる。
仕事で忙しいリオベルトは、家に帰って来るのは深夜を回る。遅くまで起きていないと会話も出来なかったマリは、起きて待つことにした。
深夜に帰って来たリオベルトを迎えると、リオベルトは不思議そうな顔でマリを見た。
「なんかあったか?」
「疲れてるのに御免なさい。少し話したくて」
「大丈夫だ。で、話って?」
マリは、最近のルナの様子を話して聞かせた。
「なるほどな。法改正のせいか。
別に無理に継がせる気は無いんだけどな。俺が跡取りを作るとか考えなきゃ良かったのかもな…俺の代で終わっても良かったのにな」
「あの子なりに考えてるんだと思うのよ。
もう直ぐ生まれる子の性別もそうだけど、闇属性を受け継ぐとは限らないじゃない?」
「まぁ〜そうだな。生まれるまで分からないな。
そろそろ生まれる頃だし、仕事も少し休暇を取るつもりだったから、その時にでもルナと話してみるよ。任せっきりで悪いな」
そう言うと、リオベルトはマリを優しく抱き寄せ額にキスをする。
マリは、リオベルトの変化に気付いていた。
優しいが、家族としての愛なのだと思った。
抱き締めてくれたりはするが、キスも頬か額だけになった。急に、公爵に復帰すると聞かされた時から分かっていた。
帝国から帰って来たリオベルトは、前と少し変わった。ジグルドから詳しく聞いた話では死にかけたとの事だったから、本当の気持ちや、やり残しに気付いたのだろうと思ったのだ。
陛下の傍に居る事が、きっとリオベルトの一番の願いだったのかも知れないと思った。
マリは、それでも良かった。
自分には子供が居るから。大切な宝物。
アリにとっては、アリスもリオベルトも夢の様な存在なのだと思っていた。綺羅びやかな世界が似合う二人。二人の衣装を考えるのが大好きだった。
公爵夫人なんて大層な肩書をくれたリオベルトに感謝しかない。
コレからも、家族として支えよう。
リオベルトが心置き無く好きな事が出来るように。
そう、マリは思うのだった。
数週間後マリが産気付くと、報せを受けて慌てて帰って来たリオベルト。
生まれた子は女の子だった。
それでもリオベルトは「ありがとう」そう言って抱き締めてくれた事に、マリは感謝した。
リオベルトは、ルナの部屋を訪れた。
「ママと妹に会わないのか?」
「やっぱり妹だったんだ…」
「跡継ぎの事を心配してたんだな。
別に、誰も継がなくても良いんだ。ただ、ママより先に俺が死んだらと考えた時に跡取りがいた方が路頭に迷わないで済むかと思っただけだ」
ルナは、リオベルトを見上げた。
リオベルトは、座るルナの頭を撫でると屈んで抱き締めた。
「心配するな。オマエはオマエの好きな様に生きろ」
「でも…」
何か言いたそうなルナの反応に、リオベルトは「座るぞ」と言って、ルナが座る隣に腰を下ろした。
「思ってる胸の内を、遠慮なく曝け出しても良いんだぞ?どんなに醜い感情でも俺が受け入れてやるから」
ルナは、少し考えると話し始めた。
「あのね…何年か前のアカデミーの事件があったでしょ?あの時、パパの凄さを知ったって言うか…闇属性も人を守れるんだって思ったの。
それまでね、破壊とか嫌なイメージって言うか…魔法を使うのが怖かったの…」
「うん」
「それで…アーサーの暴走と言うか凄い魔法を目の当たりにして、光属性さえも怒りで魔法を発動すると破壊的なんだと思ったの。あの時から魔法の事も考える様になったの。私ね、デザインの事ばかり考えてて他に目を向けられてなかった。パパもアーサーも、国の事を考えてて…私は魔法を恐れて、せっかく与えられた闇属性を活かす事をしてなかったなって…」
リオベルトは、ルナの頭をそっと撫でた。
「別に、そんなに難しく考える必要はないんだ。
オマエが、どうしたいかが一番だ」
ルナはリオベルトに顔を向けると困った様な顔で言った。
「どうしたいか分からなくなっちゃって…」
リオベルトは、優しく微笑んだ。
「そんな時は、何も考えるな。
必要に迫られてる訳でも無いだろ?いつかきっと、その力を誰かの為に使いたくなる時が来るさ。
その力を愛の為に使いたくなる時がな。
それに、どっちにしても政治の事を把握するのは商売をする上では大事だ。世の中の流れを知るのは無駄にならないからな」
そう言葉を掛けると、リオベルトは包むように優しくルナを抱き締めた。
「まったく、俺に似ずに真面目だな。もう少し適当で良いんだぞ」
「嘘つき…」
ルナの言葉に、リオベルトは笑ってしまう。
「俺は皆に嘘つき呼ばわりされるな」
そう言って、また笑うと、ルナも笑顔に戻った。
リオベルトは、ルナを連れて赤ん坊とマリの居る部屋へと移動した。
生まれたばかりの赤子を見ながら、親子で名前を考えた。
そして、決まった名はメリア。
プルメリアの花から取った名だった。
夏の花の様に、燦々と照り付ける太陽を浴びる様に、皆に光に照らされ愛される様に…




