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第三章                          1 新たなマルバラ帝王


カール・ジスタンが暗殺され、混沌としていたマルバラ帝国だったが、1年後には新たな帝王が決まった。



皇帝カール・ジスタンが治めていた領土も少し小さくなったが、サンブリア大陸の半分の領土は健在だった。


新たな帝王の名は、アルバート・ジスタン。28歳と言う若さだった。


アルバートは、カール・ジスタンの妾の子だった。

兄妹の中でも虐げられて育ったアルバートは、家族を憎んでいた。


その中でも一番、父親を憎んでいた。

暴君で自分の欲を満たし力で全てを屈伏させる、そんな父親の犠牲者であった母親。性欲を満たす為だけに無理やり妾にされた母親は、アルバートだけが支えだった様だ。


母親だけは愛情を注いでくれた事だけが、アルバートの救いだった。


けれど、アルバートが22歳の頃に、母親は自ら命を絶ったのだ。


アルバートの母親は、カールに異常なまでの執着にも似た歪んだ愛を受けていた。悍ましいくらいの歪んだ性癖とイカれた男からの愛は、母親には拷問でしか無かった。


いつか飽きてくれると信じ耐え抜いていた様だが限界だったのだろう。母親が死んだ事で、カールから「オマエのせいだ」とアルバートは酷い暴力を受ける事となった。



アルバートは、いつか自分の手で殺そうと日々、鍛え鍛錬を重ねていた。力を付ける為に。



その中で、カールが暗殺されたのだ。

城が慌ただしくなり混乱してる事で事情を把握した。

アルバートは、自分の敵がアッサリと死んだ事に呆然となった。これから自分は何の為に生きれば良いのかと目標を見失ったのだ。


が、暗殺者がカールの護衛である男から逃げる途中に城に潜り込んでいたと思われる仲間を庇い負傷する。暗殺者の男は負傷したにも関わらず強かった。


逃げて行く男の攻防戦を眺めていたアルバートは、思わず男を匿ったのだ。


城の秘密の抜け道に、男二人を押し込めた。


「落ち着くまで、そこに居て」


そう言うと隠し扉を閉めた。


部屋に戻るとアルバートは、鞄を取り出し金目の物を有るだけ詰め込むと、包帯や薬なんかも鞄に詰めた。

自身が暴力を受けていた為に薬品も部屋にあったのだ。


隠し扉に戻ったアルバートは、誰も居ないのを確認して扉の中に入る。この隠し通路は、皇帝しか知らない隠し通路だった。


アルバートが知って居るのは、いつか父親を殺そうと尾行したりする事で弱味や弱点を探って居る時に見付けた場所でもあった。



暗殺者は、脇腹に深い刺し傷があった。

仲間の男が「ボスっシッカリして」と泣いていた。



「コレを使って。飲み薬は痛み止めだ」


仲間の男に、包帯や薬品を渡す。

暗殺者は、血の気が引いたのかぐったりしていた。


包帯を巻くのを手伝い、意識が遠退く暗殺者に口移しで薬を飲ますと、仲間の男にアルバートは言った。



「俺が、おぶって行くよ。荷物を持って後から付いて来て。

この通路は地下に通じてる。ちょっと臭いけど我慢してね。下水道を抜ければ城から遠くに出られるから。そしたら、何処かの宿に泊まろう。医者を呼ぶとバレるから街で医療道具を買おう。縫うのは俺が出来るから」



「アンタ。なんでそこまで?」



仲間の男に聞かれ、アルバートは答えた。



「オマエ達が殺した男を誰よりも憎んでるからさ」




そうして、二人を助けたアルバートは、この二人の御蔭で帝王まで、のし上がる事になる。


兄妹を皆殺しにし、父親の血を消したのだ。

リオベルトの御蔭で1年で片付けられた。父親と同じ様に力で勝ち取った帝王の座だった。


憎んでた男と同じ方法しか無かった事に、アルバートは笑ってしまった。


しかし、助けた暗殺者であるリオベルトの言葉に救われた。



「真面目に考えんな。オマエは父親とは違う。

その血塗られた手で父親には出来なかった国を創れ。オマエの理想の国を」



アルバートは、リオベルトと言う男を傍に置きたかったが、彼は戻る場所があると言って去って行った。


けれど、彼の御蔭で仲間が出来た。

同じ戦場で戦った仲間達だ。


彼等と共に理想の国を作ろう。明るい未来の為に。





新たな帝王は、サンブリア大陸の各国とオベリオ王国に謝罪文を送った。


暴君、皇帝カール・ジスタンは死んだ。

今迄の無礼を許して欲しいと。コレからは友好的に国交を開くつもりだと。


新帝王アルバート・ジスタンは、平和の為に有り続けると宣言した。




その書状は、ウィリアムの元にも届いた。


その書状を読んでウィリアムとアリスは安堵したのだった。



そして、更に嬉しい報告が届く。


リオベルトが帰還したと。



張り詰めた緊張の糸が解ける様に、ウィリアムとアリスの目には涙が滲んだ。




その頃、奈落の底では宴会が始まっていた。

その中心に居るのは、リオベルトだった。罰の悪そうな顔をして「うるせぇぞ」なんて言いながら、皆の歓迎を受けていたのだ。



遅れて、泣きながらマリも店に駆け込んでくる。

リオベルトは、優しくマリを抱き締めて「ただいま」と呟いた。


「おかえり」と泣きながら呟くマリに、リオベルトはキスを落とした。


それを見ていた客達からは歓声が上がり、より一層に盛り上がる店内はお祭り騒ぎだった。



ミリティアも久しぶりのジグルドに抱き着いていた。


「ウザいよ」とジグルドに言われても「だって嬉しいもんっ」とミリティアは離れなかった。


ジグルドは少し嬉しそうにニヤけた。


なんだかんだと、二人は仲良しなのだ。




夜も更ける頃、一人の騎士団員が店を訪れた。


リオベルトに手紙を渡すと直ぐに帰って行った。




リオベルトは、二階へと一人、消えて行く。

部屋に入ると蝋燭に火を灯す。


椅子に座り手紙を読んだ。





手紙を読んだら直ぐに最上階に来てくれ。

何時間でも待つよ。




短い手紙だった。

引き出しを開けると、ウィリアムの手紙がギッシリだ。その手紙を見つめ微笑むと、手に持つ封筒を新たに入れて閉めた。


「溢れそうだな」


そう呟くと、リオベルトは姿を消して一階へと降りて誰にも知られぬ様に店を出た。


勝手にドアが開き閉まったのに気付いたのはマリだけだった。マリは静かに微笑むと、ミリティアとジグルドの話に入った。そして楽しく談笑するのだった。



リオベルトは、ゆっくりと街を見渡しながら歩いて城に向う。帝国での1年はあっという間に過ぎた。


ひょんな事からアルバートと出会い助けられ、その恩の為に一緒に戦った日々。負傷して少し無茶をしたと脇腹に手をやる。


その間、この街は変わらず平和な様だ。

自分が居なくても国は安泰なのだと思った。


それもこれも、ウィリアムやアリスが頑張った結果であろうと思いながら歩く。



そして、城に辿り着き最上階へ向う前に、リオベルトはアリスを見に行った。夜も遅い為に、アリスは寝室で寝ていた。姿を消したまま、久しぶりにアリスの寝顔を見下ろしていた。


しくじって、アルバートに助けられなければ逃げ切れた所で力尽きてたかと思った時に、アリスにちゃんと伝えなかった後悔が浮かんだのだ。


「良い夢でも見てるのか?アリス…

今もオマエは、綺麗な顔してるな。俺の憧れの人…

いつまでも輝いて居てくれよ」


そう呟くと、アリスを起こさない様に頬にキスを落とし部屋を後にした。



部屋の扉が閉まる音と共にアリスは目を覚ます。


「馬鹿ね…無事で良かった…」


そう呟くと、アリスは微笑み再び目を閉じた。その目からは涙が流れるのだった。




リオベルトが最上階へと辿り着くとドアが開いていた。そのまま部屋の中へと進むとドアを閉めた。



「おかえり」


そう言ってドアの方を向き立ち上がったウィリアム。

リオベルトは、姿を現すと罰の悪そうな顔で答える。


「ただいま」



ウィリアムは、飛び付くようにリオベルトを抱き締めた。リオベルトの顔が歪む。



「痛いっ」


本気で痛がったリオベルトに、ウィリアムは身体を離すと「何処か怪我してるのかい!」と声を上げた。


「ちょっとな」


そう言って脇腹を押さえたリオベルト。


ウィリアムは、リオベルトのシャツをめぐり上げると痛々しい雑に縫われた刺傷の縫合に顔を歪めた。



「何が…こんなに痛々しい…」


そう言いながら、ヒールを掛けた。

優しい光に包まれ、リオベルトの傷は癒されて行く。

傷跡がみるみる内に綺麗になった。



「もう痛くない?」


「あ~、大丈夫だ。ありがとよ」


「何があったか説明してくれ」



リオベルトは、ソファーに座ると1年間の事を話して聞かせた。


そして



「意識が朦朧とする中でさ、もう駄目かな?って思った時に、頭に浮かんだのはオマエとアリスの顔だったよ…他の誰でもなくオマエ達だった。

やっぱ、俺はオマエ達が一番大事らしい。このまま死んでも悔いは無いけど、最後にオマエ達に会いたいなと思ったよ」



今日のリオベルトは素直だった。

ウィリアムの瞳からは涙が溢れた。



「さっき、ココにくる前にアリスの寝顔を見て来たよ。久しぶりに見たけど変わらないな…俺の目に映るアイツは今でも儚げな精霊の様だ…穢しちゃいけないと思う憧れの女だ。

ウィリアム。アリスを幸せにしてくれて有難うな」



ウィリアムは涙を拭きながら苦笑いした。



「幸せなのかな?王妃になって忙しい毎日だ。

もっと優雅に過ごさせてあげたいけどね…」



「アイツは、優雅に閉じ込められるのは懲り懲りだと思うぞ。何かをしてた方が輝きが増す。気になるなら、少しは休みをとって別荘にでも行けば良いだろ?地方なんだから街を歩いたりしても大丈夫だろ?」



「そうだね…考えてみるよ」



リオベルトは、「歩いてきたから喉が渇いた」と言って立ち上がると勝手にグラスを取り出しワインを開ける。ソファーに戻り、ウィリアムにグラスを渡すとワインを注いでやる。


リオベルトは一気に飲み干すと、手酌した。



「やっぱり高い酒は上手いな」


ウィリアムは、笑ってしまう。


「新帝王には感謝しないとね。書状が届いたよ。

平和的な国交をとね。内戦と戦争で痛手が大きいみたいだね、御礼に支援物資を贈ろうと思うよ」



「そうしてやってくれ。アルバートが喜ぶ」



「何処に行ってもモテモテだね。まさか手を出してないよね?」



リオベルトは、大笑いして「嫉妬か?」と言った。



「嫉妬だよっ。本当に心配したんだ。

一ヶ月だと思ったのに。それに刺されてたなんて…

僕が、この1年間どんな気持ちだったか分かるかい?ずっと苦しかった。このまま…もう君に会えないんじゃないかって怖かった…」



リオベルトは、ウィリアムを抱き締めた。

そして頭を優しく撫でた。



「ごめんな…。もう無茶はしないよ。

俺が居なかった王都の街は平和だった様だな。

俺が居なくても誰かが代わりに闇ギルドを運営して、俺が居なくても国は平穏を保ってる。オマエ達の御蔭だ。俺の役割も、気楽なものになるだろ?

だから、もう心配しなくていいよ…」



「君が居なくても国は回るかも知れない。

だけど、君が居なきゃ僕は頑張れないよ。もう君が大切だって気付いたら君が居ない人生なんて考えられないから…責任とって僕が死ぬまで死ぬなよ」



リオベルトは、また大笑いすると「約束は出来ないな」と微笑んだ。


見つめ合うと熱いキスを交わす。



「俺も、オマエに会いたかった。また会えて嬉しいよ。人は簡単に死ぬ、それを今回、思い知ったよ。

いつ死ぬかなんて分からないから後悔しないように生きようと思ったんだ。


だから、ダグラス公爵家を復活させるよ。コレからは近くでオマエ達を支える。


愛してるよ。もう、我慢も強がりも無しだ」



ウィリアムの瞳から涙が溢れた。

再び熱いキスを交わすと、そのまま肌を重ねた。


熱い夜は朝方まで続いた。



窓から朝日が昇るのが見えた。

裸で抱き合う二人は、朝日を浴びながらキスを交わす。



「もう朝だ。帰るよ。

ダグラス家の使用人を雇うところから始めなきゃだからな。暫く忙しくなりそうだ」



「爵位を戻す手続きをするよ。アリスが喜ぶよ。

それにアーサーも喜ぶと思うよ」



「まぁ〜俺はモテモテだからな」



そう言って笑うと、リオベルトは服を来て「後でな」と言うと姿を消して部屋を出て行った。



ウィリアムは、「後で、か…」と呟くと微笑んだ。





ダグラス公爵家の復活は、国中が驚くニュースとなった。帝国との平和的な架け橋の功績と発表されたのだ。


リオベルトには、引き続き帝国との外交をと王命が言い渡されたのだった。







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