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第二章                          15 マルバラ帝国からの宣戦布告状


深夜に寝室の扉からノック音がした。


ベットに横になっていたウィリアムはアリスを起こさない様に起きると扉を開けた。


騎士団員の男が小声で言った。



「深夜にすいません。急ぎと言われたので…」



少し酒の匂いがする。差し出された手紙を受け取ると「御苦労だった」と伝える。


男は礼をすると足早に去って行った。



ウィリアムは、アリスが寝ているのを確認すると椅子に座り手紙を開いた。



そして、微笑んだ。


リオベルトの言葉は、いつだってウィリアムの心を楽にした。そして、いつだってリオベルトが軽々となんでも解決してくれる気になる。


自分は、リオベルトに何をしてあげられるだろうかと思っていた。


けれど、最近は思うのだった。

僕はただ、輝いていたら良いのだろう。


リオベルトは、愛する者の為に闇に染まりに行く事を望んでるのだと思っていた。



ウィリアムは、椅子から立ち上がり手紙を鍵付きの棚の引き出しにしまった。


そして、夜空を見上げ月を見た。



「君は夜空に輝く月だね…

ぼんやりとしか照らせないから自分が輝いてる事に気付いて居ないんだ…

君は闇の中で輝く救世主だよ」



月に向かって微笑んだ。





それから、半年の月日が平和に過ぎた頃だった。

帝国の商人から城に書状が届けられたのだ。


それは、マルバラ帝国の帝王、今や皇帝と呼ばれるカール・ジスタン。その人からだった。


書状は、宣戦布告の様なものだった。


属国になるか、光属性の者を差し出すか、嫌なら戦争だと言う脅しだった。



書状を持って来た商人には、返事は一ヶ月間の猶予をくれと伝えた。


予想通り、光属性が御所望の様だった。


ウィリアムは、最小限の犠牲に抑える為にはリオベルトに頼むしか無いと思っていた。


リオベルトに頼るしか無い自分の無力さを痛感する。



「アリス。僕はリオベルトを頼る事にする。

歴代の国王と同じ過ちを犯す。その罪を一緒に背負ってくれるかい?」



アリスは、微笑みを向けた。



「背負うわ。王妃になって分かったの。

私も王なら同じ選択をするわ、最小限の犠牲で済む選択をする。リオに背負わせる罪は私も同じ苦しみを甘んじて味わうわ」



ウィリアムはアリスを抱き締めると「有難う。行ってくる」そう言うと御忍び用の服に着替えフード付きのマントを付け城を後にした。



向う先は、奈落の底だった。


フードを深く被り顔を隠すと護衛と共に店内に入る。

店内は賑やかで誰か入って来ても気にもしない。城の騎士団員の姿もチラホラと見えた。


護衛がリオベルトの元へと向うと、リオベルトに耳打ちした。



リオベルトは、驚いた顔を浮かべたが直ぐにウィリアムの腕を掴み二階へと引っ張って行く。


部屋にウィリアムを入れると第一声が「オマエ、馬鹿か?」だった。



ウィリアムは、クスクスと笑ってしまう。



「笑ってる場合かっ!

一国の王が来る場所じゃねぇの分かるだろ?

用があるなら俺を城に呼び出せよっ」



「一度、来てみたかったんだ。

聞いてたら、駄目だって言うだろ?アーサーを真似してみたよ。


帰りは送り届けてくれるかい?」



リオベルトは呆れた顔で、大きな溜息を吐いた。



「安い酒しか無いが飲むか?」


「御馳走になるよ」



リオベルトは、ドアを開けると下に向かって叫んだ。


「ジグルド!酒持って来いっ」



そして、ドアを閉めると「好きなとこに座れ」と言った。


ウィリアムは、ソファーに座るとフードを取った。



「ココで寝泊まりしてるの?外観より中は綺麗なんだね」



「エルロンドの親父さんが改装してくれたからな」



「へぇ~。義父上様は僕より君の方が可愛い様だね?」



「迷惑してるんだぞ?自由過ぎて困る」



当たり障りない会話が続いた。ジグルドが酒を持ってやって来る。



「何が良いか分からないから適当に持って来たよ」



そう言って、廊下に並べられた麦酒とワインとウイスキーを次々に置いていく。そして、つまみの盛り合わせも置くと「ごゆっくり」そう言って出て行った。



机いっぱいに並んだ、それを見てウィリアムが笑いながら言った。



「随分と好待遇だね」


「気を利かせたんだろ?利かせすぎた」


「じゃ〜遠慮無く頂くよ」



ウィリアムは、麦酒のジョッキを手に取るとゴクゴクと豪快に飲んだ。



「はぁ〜っ。初めて飲んだよ。

ジョッキで飲むの憧れてたんだよね」



子供みたいにはしゃぐウィリアムにリオベルトは笑ってしまう。



「そんなので喜ぶなんて安上がりだな」



王太子として育ったウィリアムには、全てが新鮮だった。こんな裏路地の怪しい店に入る事なんて無いし、麦酒も飲んだ事も無い。安いつまみの盛り合わせだって初めて口に入れるだろう。


視察で地方に行っても、近くの貴族の家や別荘に泊めて貰う。平民の通うような店や宿など使わない。


王都の街でさえ、歩いた事も無いだろう。


王族とはそう言うものだ。

全て視察になってしまうからこそ、下手に出歩けない。



「で、何かあったから来たんだろ?帝国か?」


「そうだね…。属国になるか、光属性の者を差し出すか、拒めば戦争だってさ」


「それで、俺に頼みに来たのか」


「不甲斐ないけどね…」


「俺が手紙を出さなきゃ、自分を差し出してたんだろ?」


「そうだね。そのつもりだった。

そして、向こうで皇帝と刺し違えようかとか自害でもしようかとね…」


「だからオマエは馬鹿だって言うんだよ」



リオベルトは、ウィリアムの頭を叩いた。


「痛いなっ」


「二度と、そんな選択肢を考えんなよ!」


「君は優しいね…」


「どこが?」



ウィリアムは、フフと笑った。



リオベルトは、今から敵国に行き手を血に染めるというのに何でも無いかの様だ。その胸の内を全て分かれば良いのにとウィリアムは思った。



「リオベルト。君の本心を僕は知りたいよ」


「オマエと俺とは違う。俺は誰かを殺す事に心を動かす事は無いよ。確かに親父に強制された頃は絶望しか無かったけどな。それも昔の事だ。

親父はさ、悪人を殺してただけじゃないんだ。闇の世界では悪魔と呼ばれてる程に殺人を楽しんでた。

まぁ〜帝国のイカれ野郎と一緒だ。

王家の影と言う名目で、悪人でもない善人にも手を出してた。それもジワジワとな。

あれは、化け物だったよ。人間の皮を被った化け物だ。


コイツを野放しにしちゃいけないと思ったよ。

だから、あの女のゴタゴタを利用し妹を唆した。毒を用意したのも俺だ。


妹には腹下しの薬だと言ってな。妹を嵌めるのも抵抗は無かった。妹は父親に似ちまって使用人達の扱いも酷くてね…自分の腹の虫どころが悪ければ使用人を刺して喜んでる奴だった。虫唾が走るだろ?


ミリティアには悪い事をしたよ。オマエが助けると分かってたとはいえ苦しかっただろうな。だから、償いの為に面倒見てる。


やった事に後悔は無いんだ。闇属性ってのは闇に呑まれたら化け物になる。アーサーが闇に呑まれたら邪神と化す様にな。


きっと、俺は恵まれてたんだ。

幼い頃、アリスの輝きに魅了されてから俺の光はアリスだった。葛藤しながら、アリスの輝きで持ち堪えた気がするよ。そして、アリスが俺に沢山の愛を与えてくれた。それがマリであり店の奴等であり、それにウィリアム、オマエもだ。


オマエたちが居るから俺は闇でまともに生きられる。表舞台は眩しすぎるから、遠くから見てた方が良いんだよ。


俺は何も背負っちゃいない。

愛する者の為に血に染まるのは喜びだよ。

強がりじゃねぇからな」


ウィリアムは、窓の外の夜空に浮かぶ月を見上げた。


「君は夜空に浮かぶ月だよね。

僕は、月を見上げると君が浮かぶんだ。

君は、淡く光り輝く月だ。


満ち欠けを繰り返して闇を照らす。

僕や闇の住人の救世主だよ」



「だからオマエはキモいんだよっ

歯が浮く様な台詞を吐くなっ」


「幾らでも言うけど。

君が僕を置いて死ねないと思う程にね」


「俺が下手するとでも?」


リオベルトが少し不機嫌な顔をする。ウィリアムは笑って首を左右に振った。


「思ってないけど、不安は尽きないからね。

君と同じ様に、僕も君を失いたくないんだ。

僕の許可無しに死んだら駄目だよ」



リオベルトは、フッと笑うと「死なねぇよ」と言った。



「暗殺しても、帝国の動きを探るから一ヶ月は向こうから帰らない。直ぐに帰って来ないからって心配すんなよ?」


「分かった。無敵の皇帝が暗殺されたら帝国は、一気に傾くかな?」


「どうだろな?親が偉大だからか息子達は馬鹿ばかりだからな、身内同士で内乱が始まるかもな。他国が、その混乱に乗じて領土を取り返すかも知れない。


幾ら皇帝とはいえ、優秀な部下が居てこそだ。

その部下が、何処に付くかだな。皇帝の敵討ちが始まるかもしれないし…


上手くやるが、敵討ちとなりゃオベリオ王国も疑われるかもだ。もしもの事を考えて、精霊王に言っとけ船が攻めてきたら南の海域も濁流にしろってな」


「最悪の想定はするつもりだ。直ぐに出るのかい?」



リオベルトは少し考えてから答えた。



「数日後には出るよ」


「そっか…今日は泊まっても良いかな?」


「はっ?帰れよっ」


「一緒に寝よう?」


「馬鹿かっ」



ウィリアムは、ケタケタと笑う。

少し酔ってる様だった。


安い酒は悪酔いする。

慣れてないウィリアムは悪酔いしたのだろう。



「程々にしないと、安い酒は後がキツイぞ?

頭が割れそうな二日酔いになる」



「気分が良いよ。王だと言う事を忘れられそうだ。

こんなに自由な気分は久しぶりだよ。子作りの為に別荘に籠もってた時以来かな?


リオベルト、君は男も抱くんだろ?

僕を抱いてくれないか?

君に穢されたい。


そう思うのは可怪しいかな?」



リオベルトは、小さな溜息を溢すとウィリアムを見た。



「抱いた所で穢れる訳無いだろ?

寧ろ、オマエは悦び満たされる。俺の虜になるかもな?俺に突っ込まれて快楽に溺れる。

俺に背負わせるなんて思ってるから、俺に抱かれて誤魔化したいだけだろ?

オマエは真面目で、誠実だけど、繊細で弱い。

そんなオマエが、愛しくて可愛いと思う俺も大概だ。


あんなに大嫌いだったのにな。

今では、憎たらしいくらい愛してるらしい。


後悔しても知らねぇぞ」



ウィリアムは、微笑むとリオベルトに手を伸ばして言った。



「後悔してもいいよ。

君に溺れて虜になって、君を求めても

君が居ない日々を誤魔化す事になっても

アリスに罪悪感が沸いても

君が帝国へと行く前に、少しでも不安があるなら

最悪の想定をしてしまうから

後悔したくないから…


抱いてくれ」



リオベルトは、ウィリアムの手を取った。


「またアリスに秘密が増えたな、俺達は最低な男だ」


ウィリアムの手を引っ張り上げ腰を掴んだ。

強引なキスで唇を抉じ開けるリオベルト。


ウィリアムは、それを受け入れた。



反発しあった二人。

会えば言い合いになり喧嘩ごしだった。


意識してるからこそイラついて

大嫌いだった


好意を覚えてから友になり


いつしか愛に変わっていた。


関われば関わる程に強烈に惹かれ合う。



それは秘めておきたい関係だった。

肌を重ねると、止まらなかった。


リオベルトのリードでウィリアムは溺れる。

ただの人間になって快楽に酔いしれる。



その晩、ウィリアムはリオベルトの腕の中で眠りについた。朝、目覚めると二日酔いが最悪だった。


リオベルトに早朝から抱かれ、酔が覚めた。



「スッキリしただろ?シャワーを浴びたら送ってくよ」


リオベルトは、優しかった。

ウィリアムを労る様に風呂に入れてくれる。


「身体は大丈夫か?初めてなのに無茶しちまった」


「大丈夫だよ。優しいね。いつも、優しくしてくれたら嬉しいな」


リオベルトは、優しくキスをすると言った。



「今日だけだ」


ウィリアムは笑う。


「じゃ〜、もう少しの間は優しくしてくれよ?」


「分かった。どうして欲しいんだ?」


「別れ難いから、もう一度、僕の身体に君を刻んでくれないか?」


濡れた髪でリオベルトを見つめたウィリアムは綺麗な顔をしていた。リオベルトの瞳には可愛くて堪らないウィリアムの姿が映っていた。


「そんなに気に入ったのか?口で大きくしてくれ」


バスルームで、また快楽に溺れる。

ウィリアムは、リオベルトを堪能し、コレが最後になるんだろうなと思っていた。


二人の住む世界は真逆だったから。



バスルームから出て着替え終わる頃にはお昼前になっていた。随分と長居してしまった。


こんなにも無断で城を開けたことは無かった。

けれど、ウィリアムはそれが少し嬉しかった。



「随分と引き留めちまったな。アリスに怒られちまうかな?」


「多分、怒らないよ。僕が居なくてもアリスは城を切り盛りしてるよ。頼もしいんだ」


「そっか…後悔してないか?」


「してないよ。愛してる…」



軽いキスを交わすとウィリアムはフードを被った。

リオベルトは、下で待ってた護衛に声をかけ店の前まで馬車を乗り付ける様にと指示した。


馬車に、ウィリアムを乗せるとリオベルトも乗り込んだ。そして、馬車は走り出した。


城の近くまで、リオベルトはウィリアムを包むように抱き締めていた。そして、途中で「じゃ〜なっ」そう言って走る馬車から飛び降りた。



ウィリアムは、ビックリして外を見ればリオベルトが手を降っていた、そして背を向けて歩き出す。



ウィリアムは「またな」じゃないんだ…と少し胸が痛かった。



城に着き着替えると執務室へと向かった。

アリスが「おかえり、ゆっくり話せた?」と笑顔で迎えてくれる。



「うん。ゆっくり話せたよ」



そう微笑むウィリアムは、それだけ言って詳しい話はしなかった。


少し哀しそうな笑顔を見て、アリスは何も聞かなかった。二人だけの秘密の時間だったのだろうと思ってたからだ。


リオベルトに頼みに行って、ウィリアムが何も思わないはずがなかった。幾らリオベルトが強くても帝国へと送るのだ心配するに決まっている。


もしかしたら、二度と会えなくなるかも知れないのだから…。



リオベルトは、マリの元へと向うと、帝国へ行く事を告げた。マリは静かに「待ってるね」と言った。


詳しい話を聞かない、泣いて止めることもしない

それが俺の負担になると分かっているから。


リオベルトは、軽いキスを落とすと「またな」と言って立ち去った。



店に着くと、エルロンドに船の手配を頼んだ。

王都で帝国の服を売ってる店で服を買って来いとミリティアに頼むとジグルドも共に買いに出かけた。


エルロンドには詳しい話を聞かれて、仕方ないから正直に話た。エルロンドは、帝国の宿の手配もしてやると言って、自分の商会へと向かった。



全ての準備が整えば、暫くココには帰れない。

リオベルトは、店を見渡しカウンター席に座った。



「一ヶ月か…長いな…

ホームシックになりそうだ…」



そう呟きながら、静かな店内をまた見渡したのだった。













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