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第二章                          11 闇の世界の異変



「最近、港街が賑やかそうですね」


ジグルドが言った言葉にリオベルトが反応した。



「マルバラ帝国から来る船が増えてるらしいな」



「みたいですねぇ。最近では王都の店でもマルバラ帝国の商人が持って来る異国の商品が並ぶようになりましたからね」



「ミシェーレ家の商人も推されてるみたいだな」



リオベルトは、この国から見て南に位置する海を越えた向こう側のサンブリア大陸の半分以上の領土を持つマルバラ帝国の勢いを懸念していた。


武力で権力を勝ち取って来た帝王の遣り方は褒められたものじゃ無かった。



オベリオ王国は島国だ。

南側の海の海流は比較的に穏やかで船が乗り付けられるが、その他の海岸付近は海流が荒く、この国を守る様に外部の者を寄せ付けない。


リオベルトの推測だが、精霊王の力が作用してる気もしていた。


この国は、精霊に護られていると思うのだ。


けれど、南側の港街にはサンブリア大陸からの船を受け入れて居る。


今の所は他国との争いは無い。

サンブリア大陸では、今も何処かで領土争いが行われてる様だがリオベルトも、そこまで詳しい情報は知らない。



「まぁ〜、普通の商品は新しい物が出回るのは避けては通れないから仕方無いとして、奴隷の持ち込みが増えたのは気になるな」



「だね。奴隷の数が多ければ手頃な値段になるだろうし、今の所は奴隷の売買は違法ではないからな。地方の農作業なんかの人手の補充の為に奴隷を購入するのは悪い事じゃないもんね。

全てが、悪い訳じゃないのが逆に厄介みたいなね…」



「そこだよな。下手に奴隷売買を禁止されたら、余計に奴隷売買が闇深くなるんだよな。ウィリアム達がどう考えてるかだな…。性奴隷用の上物も多いんだろ?」



「サンブリア大陸は戦争が多いからね。弱い者が大量に生まれる。商品は余るほどあるって感じでしょ?

金がある奴が、欲望を満たす為に性奴隷を買うのは悪なのかって事なんだろうけど。戦争で飢えて死ぬよりはマシだよね。」



「そうなんだけどな…。恵まれた奴が、その事を考えられるかって事だ。この国は戦争なんて経験してないからな。その惨状を本当の意味じゃ分からないだろ?綺麗事で済まされない事もあるって事を、何処まで考慮出来るかだ」



リオベルトは、ウィリアムやアリスが奴隷売買の現状を、どう捉えるのかと心配していた。


きっと心を痛めるだろうと簡単に想像出来た。

それを見て見ぬふりが出来るのか、リオベルトには分からなかった。 



「まぁ〜、それより売れ残った奴隷が多過ぎるとなったら闇が濃くなるな…そっちが心配だな。

穢れが増えれば魔物が増える、他国の戦争を心配してられないからな。

一箇所に集められた穢れで、ヤバい怪物が生まれなきゃ良いけどな…」








その頃、城ではリオベルトの心配は的中していた。



いつもの様に、アリスとウィリアムが執務室で書類を見ながら話していた。



「港街の他国からの船が増えた様だね」


「そうみたいね。珍しい商品が増えて婦人方の話は、その事で持ち切りよ。帝国の流行りのドレスを取り入れるかなんて話してたわ」


「国内の物の価値が下がるのは困るね…。

早急にレオンに対策を考えてもらわないとだね。

それに、奴隷の数も増えた様だ」


「頭が痛いわね…人の売買なんて哀しい事だけど、それで動いている地方の仕事もあるんだものね…」


「まぁ〜ね、綺麗事だけじゃ回らない事もある。

全てを変えるには時間が必要だね…」



二人は、綺麗事だけじゃ国は護れないとリオベルトから嫌と言う程に学んだ。


引き継ぎの時に、前国王からリオベルトがしてきた仕事を聞かされて、私達はリオベルトの御蔭で綺麗な世界だけを見て来たんだと改めて思い知らされたのだ。


リオベルトは、この国の為なら海を越えて他国に偵察に行く事もあった様だ。海に囲まれて、他国の動きが分からない以上、分からないでは済まされない。


人の目で見て、自国に害が及ばないかと常に危機感を持って傍観しなくては判断出来ない事もある。


結局は、理想を叶える為には闇を見なくてはいけなかった。



国王が自ら動く訳にはいかない。

だからこそ、代わりに動く者は必要なのだ。


今でも、リオベルトが影で動いてると思うと二人は哀しくなった。



「また、リオに負担を掛けるかもね…」


「そうだね。いちいち僕達が負い目を感じるのを傍で見たくなかったんだと今では分かるよ。

彼は、少年だった頃から国の影を見て来たと思うと、彼には敵う訳がないよ。

僕達に出来るのは、目先の綺麗事じゃなくて見極める事だ。下手な理想で彼の邪魔をしない事だ。


今、出来ることをするしかないね」



「そうね。


そう言えば、アカデミーから地下迷宮の魔物が凶暴化してる気がすると報告を受けたの。生徒達の授業で入るのは危険かもしれないと。

直ぐに騎士団に調査をしてもらった方が良いかもしれないわ」


「分かった。直ぐに手配しよう」




十五歳になっていた、アーサーは今、アカデミーに通っていた。


魔法の授業では、迷宮に入り実戦で魔物を倒す授業もあるのだ。騎士団への入団を希望する者にとっては大切な授業になる。


アーサーも何度か迷宮に入ったと話してくれていた。





アリスは懸念していた。

魔物に異変があると言う事は、闇が深くなっていると言う事だ。


国全体は、良くなってきたと思ったのに、闇が深いとは、どういう事なのかと原因が分からなかった。


国の穢れだけを集めていると思っていたが、他国も関係するのかと思うと、アリスに出来ることは少ないのかも知れないと思わざるおえなかった。




ウィリアムの指示で、騎士団の中から選ばれた者達が、迷宮に入る事となる。


定期的に魔物駆除は行われていたのだが、凶暴化している為にいつもより迷宮奥深くに潜る事になる。


騎士達も気を引き締める様にと団長が釘を刺した。



それと並行し、騎士団の中から数名、他国の様子を偵察する様にと別で指令が飛んだ。



アカデミー創設で、騎士団の人員は以前より増えた。

より優れた者達が分担して、リオベルトがこなしていた仕事をする様になった。


一人の負担では無く、多数で行う事で少しでも心の負担を軽くしようとしたのだ。


表向きは騎士団員だが、優れた者達の別部隊が主に偵察や影の仕事をする様になったのだ。


元平民の方が、偵察しやすい場合もある。

民に紛れるのも容易いのだ。


そして、困ったら酒場の奈落の底のボスに相談しに行けとウィリアムは指示を出してあった。


城での動きをリオベルトに伝える為でもあった。



立場が違い過ぎる場所で生きてる以上は、直接は顔を合わせられない事をウィリアムは分かっていた。


時々、リオベルトに助言を求めたくなる事もあった。

なんだかんだ、ウィリアムの中でリオベルトは頼れる友だったのだ。



ウィリアムは、決断しようとしていた。

今まで、他国からの行商人を受け入れる事くらいしかしてこなかったリベリオ王国。


このままで良い訳は無かった。


他国から新しい物が入ってくる度に思っていた。この国は閉鎖的だからこそ発展も少ない。



このままでは、いつか侵略される程に他国から取り残されるだろうと。


伝統も大切だが、新たな刺激により発展する事もある。



けれど、その過程で闇が広がるかも知れない。

争いは避けられないかも知れない。


メリットもあればデメリットもあり。

何を優先するのかは難しい事だった。


けれど、誰かが決断しなければ、衰退するだけ。


綺麗事だけでは国は護れない。

世界を知れば知るほど思うことだった。


けれど、綺麗事を辞めてもいけない。

そのバランスに、ウィリアムだけではなくアリスも、いつだって心を痛めていたのだ。



プライベートな平穏な時間だけが唯一の安らぎであり癒しであった。




人は、小さな世界で愛する者と心を通わせる事が最大の喜びなのではないかと思うようになった。


しかし、世界は広い。

平穏だけでは生きて行く事は出来ない。



痛みがあるから、より愛が輝きを増すなら、痛みも愛おしいと思えるように、輝きを消す事の無いように未来を紡ごうと思うのだった。








「ボス。地方の貴族が上物の奴隷を探せって依頼があったよ。2・3人だってさ」


「またかよっ。最近、多いな。で、男が女か?好みは?」


「それが、中性的ならどっちでもだってさ。

歳は十五歳から二十歳で、胸は小さい方が良いって。

後は、なんだっけな?そうそう出来れば人形みたいに笑わない方が良いだったかな?」


「随分とマニアックだな。その貴族って常連か?」


「いや、初めて見る顔だったな」


「ふ〜ん」


「あっ、そうそう」



ジグルドは、何かを思い出したようにズボンのポケットからヨレヨレの封筒を取り出した。



「これこれっ。また騎士団の奴が手紙を持って来たよ」



なんの飾り気も無い白い封筒を、リベリオは受け取ると、ジグルドに奴隷を見繕っておけと指示を出し二階へと消えて行った。



リオベルトは椅子に腰掛けると封筒から便箋を取り出した。





リオベルト、相変わらずかい?

僕達の事は、言わなくとも分かってるよね。


いつまで経っても、君に勝てる気がしない。

王になっても、僕は弱いままだ。


リオベルト。

僕の決断は間違ってないかな?

国は良くなっているのだろうか?


君の意見が聞きたいよ。

いつも、君が傍に居てくれたらと思ってしまう。


僕達は、いつだって君に甘えてしまっている。

良い迷惑だろ?本当は、君を自由にしてあげなくてはいけないのにね。


駄目な王だ。


騎士団の者に助言を有難う。

君を頼るばかりの僕を許してくれ。


君に会いたいよ。

いつか、アーサーが王になったら

また会ってくれるか?


僕の唯一の友は君だけだからね。

たまには返事をくれると嬉しいよ。駄目かい?


君が恋しいよ




「恋文かよっ」


リオベルトは、そう呟きながら微笑んだ。

読み終わった手紙を眺めていたら、エルロンドが部屋へ入ってくる。



「なんだ。恋文か?良い顔して微笑みよって」


「また、勝手に入って来ないでくれます?」



リオベルトは、手紙を引き出しにしまうとエルロンドを押しながら部屋を出た。


歩きながらエルロンドが言う。



「今度の依頼も奴隷の売買か。他に何か無いのか?」


「そんなに仕事したいんですか?せっかく隠居したんだから少しは休めばいいだろ?」


そんな事を言いながら一階に降りると、一人の男がリオベルトを見て御辞儀をする。


たまに来る騎士団の団員だった。



「なんだ?また相談か?」



リオベルトが声を掛けると、男はエルロンドに気付き再び礼を取る。



「なんだ騎士団の奴か。もう隠居してる。

そんなに堅苦しく挨拶などしなくて良い」


エルロンドが嗜めると、男は顔を上げた。



「実は、今日はプライベートな相談でして…」


男は苦笑いしながら頭を掻いた。



テーブル席に座らせ、リオベルトとエルロンドが座る。



「て言うか、親父さんまで座らなくて良くないか?

仕事も無いんだから好きに遊んできて下さいよっ」



リオベルトが邪魔そうに言えば、エルロンドはしれっと言い放つ。



「面白そうだから混ぜろ。暇なんだから」



リオベルトは、呆れてしまうが気を取り直して男の話しを聞いた。



「実は…、俺は田舎の男爵家の嫡男なんですけど、男爵家とは名ばかりで金は無いんですよ。だから、父の代で爵位を返そうと思うんですけど、父がプライド高くて…。皮肉の策で、それなりの金を渡して小さい屋敷を用意して隠居させようと思ったら、その金で性奴隷を依頼した様で…


もしかして、ここに依頼したかと思いまして」



「もしかして、さっきジグルドが言ってた客か?

地方の貴族だって言ってたけどな。ちょっとマニアックな注文だったやつ」



「人形みたいな奴って注文ですか?」



「そうそう。オマエの親父なの?」



「多分…。その依頼なんですけど、どうせ奴隷を買っても食わしていけないと思うんですよ。飢えさせる訳にもいかないし。何も考えて無いと思うんですよね。

恥ずかしい話、俺の父は駄目な親父でして…」



話を黙って聞いていたエルロンドが口を挟んだ。



「オマエの親父さん、地方の男爵なんだろ?

領地を管理して、それなりの税収を回してたから爵位を取り上げられて無いはずだ。馬鹿な貴族は一新されたからな。


金が無いのは、領地の民にちゃんと還元してるからだ。あまり親父さんを馬鹿にするな」



まともな事を言うエルロンドにリオベルトは驚いていた。



「まぁ〜、それでも馬鹿真面目に責務をこなしてたからで、地方でも遣り方次第では懐は潤う。

オマエの親父さんは欲が足りなかったと言う事だな。それか稼ぐ力が足りなかったかだ。


性奴隷遊びをしたいなら、金の稼ぎ方を私が伝授してやろうか?暇だし」



「おいおい、暇潰したいだけかよっ。

まぁ〜良いけどさ。俺は手伝わないですよ。」



「オマエの手助けなんて必要ない」



リオベルトは、この件はエルロンドに任せる事にした。暇だからと自分の傍に引っ付かれるのも面倒だったから丁度良かった。



「じゃ〜、勝手にどうぞ。


そういう事だ。元ミシェーレ公爵に任せたら悪いようにはならないだろ」



男は、エルロンドに「宜しくお願いします」と頭を下げた。


エルロンドが男を連れて店を出て行くのを見送ると、リオベルトは二階の部屋へ戻ると、ウィリアムに返事を書くのだった。





会いたいとか、恋しいとか

よく恥ずかしくないな、気持ち悪いわっ


いいか!二度とキモい手紙書いてくんなよ!


オマエは、真面目過ぎだって言ってんだろ

決断が間違ってるかなんて俺にも分かる訳ねぇだろ


オマエはオマエの遣りたい様にやれ


良い国かなんて、民が決める事だ

俺達が決める事じゃねぇよ


オマエは、民にとって良い王だよ


どうせ、アリスには手紙書いてる事なんて秘密にしてんだろ?この手紙も直ぐに捨てろよ


オマエが思い悩むのも分かるが、誰かが救われたら誰かは面白くないもんだ


文句や批判は無くならない

だから気にすんな


俺しか友が居ない哀れなウィリアム

可哀想だから、死ぬまで友で居てやるよ




書き終わったリオベルトは便箋を封筒に入れると席を立った。


封筒を二つに折るとポケットに入れて歩き出した。


店を出ると、丁度良いタイミングでエルロンドが戻ってきた。




「あの男に男爵を継がせるのか?」


「まぁ〜後々はな。騎士団を辞めずとも領地経営は出来るからな。金の流れを造って優秀な者を雇えば良い話だ。先ずは、領地の事を詳しくまとめて来るように話した。夜にでも戻って来るだろ?」


「なんだ。戻って来るなら、その時でいいか」


「何か用だったのか?」


「まぁ〜な」



リオベルトは、手紙は男に託そうと思った。

確実に本人に直接渡してくれるだろうから。





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