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第二章                          8 国王夫妻の憂鬱


ウィリアムが国王になり城の雰囲気も一新された。


アンジェリカは第二夫人となり裏に引っ込んだ。

元々王太子宮だった宮殿は白薔薇宮と名を変えて、アンジェリカの住処となった。


アンジェリカは、護衛のトムと子供の王女ソフィアと三人の生活を満喫していた。


書類整理などの仕事を担当し、白薔薇宮から殆ど出て来る事は無かった。



王妃になったアリスは、ウィリアムの負担を減らすべく執務室で一緒に仕事をこなした。


アーサーは、王太子としての教育を頑張っていた。

アリスとウィリアムは、親としてアーサーとの時間を毎日の様に作った。


仲睦まじい様子は、城だけでは無く外にまで広まっていた。新聞記事は、国王夫妻やアーサーの記事が目立つ。



「ねぇ~、ウィル?何でプライベートな事が、こんなにも筒抜けな訳?」


執務室で、アリスが新聞を開きながら溜息を吐く。


「ほんとだね。誰が情報を流してるのか。

新聞記者でも使用人に紛れてるのかな?」



ウィリアムは、笑いながらそう言った。

特に、仲睦まじいと言う様な記事だからスキャンダルでもないし王家としては文句は無いのだけど、アリスは全てを見られてる様で嫌な気分だった。



「王族って注目されて大変よね…。

今度の視察も追っかけ回されるのかしら?」


「僕の妻になった事を後悔してる?」


「そう言う訳じゃないわ。だだ何か嫌だなって」



ウィリアムは、生まれた時から当たり前の事だから気にならないが、アリスは違った様だ。


アリスは、外に出なかったからスキャンダルとは無縁だった。リオベルトも裏工作で新聞記事になる様な事も無かったし、アリスにしてみたら気になるのだろう。



「そのうち慣れるなんて言ったら冷たいかな?

僕にしてみたら、国中に僕たちの仲の良さをアピール出来て嬉しいけどね。それに、何処かで見てるリオベルトが安心するだろ?」



「そうね…。リオは元気かしらね?」



アリスは窓から見える空を眺めた。

急に突き放されて姿を消したリオベルト。

探すなと言う願いを聞く事がアリスに出来る唯一の事だと思う事にした。


理由はどうあれリオベルトが自分から離れたかったのは事実だ。それを受け止めなくてはいけない。



「リオベルトに会いたいかい?

今からでも探そうか?」



「それは駄目よ。きっと元気よ…

だってリオよ?しぶとく生きてるわよ」



「僕は文句を言いたいけどね。逃げる事でアリスの心に自分を刻んで行ったアイツの卑怯さに今でも腹が立ってるよ。今でも、アリスにそんな顔をさせるんだからね」



ウィリアムは、いつまでも引き摺ってるアリスの想いを消し去れない自分の不甲斐無さにも腹が立っていた。どんなに愛しても、今でもアリスの心にはリオベルトが居て、それが辛かった。


結局は、アリスの前から居なくなるなら、何でアリスを愛したんだと文句を言いたかった。



「今もリオを愛してるとか言わないわ。酷い男だもの。ただ、一人に背負わせてしまったって言う罪悪感みたいなものよ。

ウィルと結婚して正式にアーサーの母親にもなれた。

私は幸せよ。貴方と共にあれる事を心から幸せに感じてるわ」



「罪悪感は、俺も一緒だよ。

アリス、今日はこの辺で終わりにしようか。

久しぶりに二人の時間を過ごしたい」


そう言うと立ち上がったウィリアムは、アリスの元へと移動するとキスを落とし手を差し出した。


アリスはウィリアムの手を取ると立ち上がり、二人は城の最上階へと向かった。



王の間。国王と招待された者しか入れない部屋だ。


リオベルトを最後に見た場所でもある。

二人だけの時間を過ごす時に使っていた。


二人が愛し合う事で、哀しい過去を書き換えたかったのかもしれない。



大きな窓から王都が見渡せる。

リオベルトが居そうな場所は限られていた。


何度と無く、ココから外を見て二人はリオベルトの居場所の推測をしたものだ。


いつからか、それをしなくなったのはアリスだった。

そんなアリスの為にウィリアムも口をつぐんだ。



アリスには秘密だが、マリから店の権利証などを預かっている。ルナの為にと。


きっと、マリはリオベルトの居場所を知っている。

アリはリオベルトを支えているとウィリアムは思っていた。どちらもアリスにとっては家族みたいな存在だ。アリスだけが仲間外れみたいな思いをさせたくなくて黙っていた。


これからも言うつもりは無い。


言ったら、アリスが自分の前から消えそうで言いたく無かった。


リオベルトは、アリスに追い掛けて来て欲しかったのかもしれないと思うと、ウィリアムは罪悪感が生まれる。


けれど、ウィリアムはアリスを手放したくなかった。

ズルくても良い。自分の物にしたかった。


女々しい男だと思うが、それでも良かった。



きっと、自分は国より民よりアリスが全てなんだ。

アリスが居ない人生は考えられない程に。


そんな男が王なんて、国民は可哀想だなと思う。

最低な偽善者だ。それでも王である限り最高の偽善者を演じるだけだ。




ウィリアムはアリスを抱き締めた。

国が見渡せる、この場所でアリスを抱く。

アリスに溺れる一人の男になる。



その頃、新聞社には匿名でスクープが舞い込む。

ウィリアムとアンジェリカの子供と発表されていた王太子のアーサーは、実は現国王夫妻の実の子供だったと言う内容だ。


当時、アリスはダグラス公爵夫人だ。

不倫の果てに結ばれた真実の愛なんて見出しで号外が出ることになる。


ダグラス公爵が姿を消したのと、関係があるんじゃないかと色んな憶測が飛び交った。



何も知らない二人は、愛し合っていた。

快楽を堪能し愛を囁き二人だけの時間に酔いしれていた。



数時間後に、最上階から降りると家臣が慌てていた。

号外を見せられた二人は青褪めたのだった。



定例会議で、今回の騒ぎの真相を求められたウィリアムは集まった貴族達に真実を話した。


予言書の事も含めて全部だ。


それを踏まえて二日後の視察の話になった。


「この騒ぎでの視察は無謀ですっ」


「いや、こんな時だから視察すべきでは?」


そんな声が上がる中で、エルロンドが声を上げた。



「今からでも遅くない。

真実を包み隠さず号外で出してしまえば良いんです。


予言書の事があればアーサー殿下が神の子となります。一瞬で騒は鎮静化しますよ」



「そんな発表をすればアーサーが生きづらくなりますっ。そんな事になるなら、私が不倫したと騒がれた方がマシです!」



父の意見に歯向かう形になった。

他の貴族が黙ってしまう。



「この件に関しては、夫婦で話し合ってみます。

視察も予定通りに進めるので少し見守ってくれますか?」



ウィリアムの発言で、会議は御開になった。


民の関心が直ぐに無くなれば良いのだがと二人は憂鬱になった。


アーサーに注目が集まる事で、アーサー自体が戸惑ってしまうのではと心配で堪らなかった。



アリスにとって、神の子の心が揺れる事が堪らなく不安なのだ。







その頃、奈落の底にも号外があった。

ミリティアが持って帰って来たからだ。


「大変よね〜。別に今が幸せなんだから過去なんて良くない?」


ミリティアの話も聞こえて来ないくらいにリオベルトは号外を読んでいた。


新聞社をマークしていなかった事に後悔した。


しかし一部の者しか知らない情報が何処から漏れたのかとリオベルトは考えていた。


そんな時だった、マリが号外を握り締めて駆け込んできたのだ。


既に号外を見ていたリオベルトに向かって叫ぶように言葉を吐いた。



「私がアリス様に御恩を返せる時が来たわ!

ダグラス公爵と恋仲だった私の為に偽装結婚だったと公表すれば良いのよ。ルナは私の子供だって!」



リオベルトは驚いた顔でマリを見つめた。

この女は、本当に無謀で大胆だ。



「仕方がねぇから元ダグラス公爵も出てくか?

オマエの店で小綺麗な服に着替えるぞ」



マリは笑顔で頷いた。




二人は着替えると新聞社に乗り込み、偽りのストーリーを語り写真まで撮らせた。


今は、平民として家族三人で幸せだと付け加えて。



直ぐに号外として、ばら撒かれた記事。

ダグラス公爵が平民に堕ちた理由。平民の女を想い協力した王妃の優しさ。


元婚約者の病死で心を痛めた王の心を癒やした王妃の献身。等と美談になる。



その号外を見た、アリスとウィリアムは久しぶりに見る。リオベルトとマリの笑顔に安堵した。



「あの二人は馬鹿ね」


「アリスの為だよ?」


「分かってるわ…幸せそうな笑顔ね。良かった…」


「お似合いの二人だね」


「そうね。少し寂しいけど二人が一緒に居るのが分かって嬉しいわ。これで安心した…」



記事の中の写真を見ながら二人は寄り添った。

本来の形に収まったと言う所だろうか。



一瞬にして憂鬱を晴らしてくれたリオベルトに二人は心から感謝した。



離れていても、自分達の事をちゃんと見守ってくれているんだと思うと嬉しかったのだ。



予定より1日後に視察に出た国王と王妃。

人々の歓声を受けながら、まるでパレードだった。


現地に着いてもギャラリーが多く。ずっと気が抜けなかった。



帰りの馬車も歓声が上がり、窓の外に群がる人々に二人は笑顔で手を振った。



沢山の人々の中に、二人はリオベルトとマリを見付けていた。手を振りながら、アリスの瞳から涙が流ていた。


笑顔で手を振るマリと、マリの腰を抱きながらコチラに向かって口を動かしていたリオベルト。



『俺は幸せだ。俺の事は忘れて幸せになれ』


そう口が動いて居たように見えた。


人混みを掻き分けながら走る馬車の速度は遅い。

馬車から飛び出せば捕まえられそうな距離に二人は居る。


けれど、それは出来ない。



二人は、手を振ると背を向けて人混みに消えて行く。

これで本当にお別れなのねとアリスは思った。


必死で笑顔を作ると、国民へと手を振った。

ウィリアムは黙ってアリスを抱き寄せると国民に笑顔で手を振りカーテンを閉めた。


そしてハンカチを差し出すと、アリスを優しく包んだ。



声を押し殺しながら涙を流すアリスをウィリアムは、城に着くまで抱き締めていた。



二人の帰りを待っていたアーサーが馬車を見付けて駆け寄る。アリスが泣いているのを見て心配する。



「母上?どうして泣いてるの?」


「民の皆に歓迎されて嬉しくて感動して泣いてるんだ。母上は涙脆いんだ」



ウィリアムは、そう言うとアリスを抱き寄せてアーサーと手を繋ぐ。



「アーサー。王太子として、大変な事もあるが民が喜ぶ姿を見たら辛かった事も忘れるんだ。だから、どんなに苦しくても希望を持ちなさい。オマエが国民の光になるのだから」



「はいっ!父上」




アリスは涙を拭き。気持ちを整えた。


いつまでも、リオベルトに甘えていては駄目だと気合いを入れ直す。


ウィリアムと手を取り合い。

私は、この子を導かなくてはと思うのだった。



「感激するほどの声援だったのよ?

今度はアーサーも一緒に視察に行きましょう。

民の喜ぶ顔を沢山みたら頑張ろうと思えるのよ」



「はいっ!母上。

僕も父上の様に苦しくても頑張ります。

僕が輝かなきゃ国も輝かないんだよね?」



「そうだ。この国で、王家は太陽なんだ。

太陽が無くなってしまったら民が困るだろ?」



「はいっ。太陽が無くては元気が出ないから」




アーサーは、健やかに育っている。

今までだったら、既に婚約者が決まっていただろうが、アリスとウィリアムは、アーサーが自分で決める事を望んで婚約者を決めていない。


もしも、アーサーが選ぶ者が平民でも受け入れるつもりだ。茨の路になるかもしれない。


けれど、愛の力で乗り越えて欲しい。


もしもの話だ。



もう直ぐ、アカデミーに入学しても良い年頃だ。

アーサーには、色んな職業を知る機会でもあるし色んな人との交流で貴族と平民の差を知る事になるだろう。


悩んだり苦悩したり、それを繰り返し大人になるだろう。


苦難を乗り越えた先に見える景色もある。

過保護過ぎるのも良くない事も分かっているが、心配は尽きそうに無い。









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