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第二章                          7 呪いの証明



面倒な仕事になりそうだとリオベルトは思っていた。

夜が更ける頃に、リオベルトはミシェーレ家に忍び込んでいた。


レオンの寝室の明かりが灯るのを確認すると、姿を消して裏口から堂々と侵入する。レオンの部屋の前までくるとノックをした。


レオンの声が「なんだ?」と聞こえる。

ノブを回すと鍵は閉まって無かった様で扉が開いた。


中に入り扉を閉めると、誰も入って来なかった様に見えているレオンが「誰だ?」と警戒するように叫ぶ。



リオベルトは、姿を消したままレオンの背後に回り口を手で押さえた。暴れるレオンに「俺だ。黙れ」そう声を掛けると大人しくなった。



リオベルトは姿を現すと、レオンから離れた。



「サプライズな再会だな。暗殺されると思ったぞ」



「暗殺依頼は来たけどな」



「はっ!?俺が?」



レオンは驚きを隠せなかった。



「依頼人は、キャロラインが呪いで殺されたと言い張ってる。で、怪しいのがオマエだとさ」


そう言うと、ソファーに乱暴に座るリオベルト。

向かいの椅子に座ったレオンは考え込んでいた。


「なんか心当たりあるのか?」



レオンは、キャロラインの葬儀の日の話しをリオベルトに聞かせた。


その日、墓地に集まった人数は相当な数だった。

王家も参列する豪華な葬儀は、淡々と行われた様だ。


棺に皆が献花する時、一人の男が一緒に棺に入れたキャロラインのお気に入りだった人形を見て取り乱し、ちょっとした騒ぎになったそうだ。



「で、その人形は棺の中か?それに、騒いだ男は誰だ?」



「人形は棺の中だ。男の顔は覚えてるが誰だか分からない」



「見覚えが無いとすると貴族令息の嫡男じゃないな…その男の特徴は?」



男の特徴は、赤茶色の髪に緑色の瞳と平凡な感じで背丈は平均より高い位。目立たない男だった様だ。


依頼者と被る。パーティー等で見掛けても直ぐに忘れるか認識さえしない様な容姿なのだ。



「墓をほりかえすと言ったら怒るか?」


「俺は良いけど、王家はなんて言うかだな」


「確かにな…許可を取れるか?俺の管轄外だ」


「オマエが頼んだ方が早いんじゃないか?」


「面倒だな…夜な夜な掘るか…」



レオンは呆れた顔をする。考えを巡らすリオベルトを横目にレオンは棚からグラスとウイスキーを出し、酒をグラスに注ぐと、リオベルトの前に置いた。



「まぁ〜少し付き合え」


リオベルトは、グラスを持つと一口飲んだ。


「キッツい酒だな?ストレス溜まってんのか?こんな酒を頻繁に飲んでると胃に穴開くぞ」


「オマエは良いよな。俺も家から解放されたいよ…」



レオンは、そう言うとグラスの酒を飲み干した。

リオベルトは、苦笑いしながら答える。



「まぁ〜貴族の苦悩は分かるよ。ミシェーレ家は金の流れを作るのが仕事だからな。恨みも買うかもな」



「ミシェーレ家のせいでキャロラインは若くして死ななきゃならなかったのか?だとしたら俺も犯人の始末の依頼の報酬を払う」



「まだ、何も分かってないよ。呪いなんて、どう証明する?そもそも、呪いは神聖力では解けないのか?」



人形は重要なヒントな気もする。



「キャロラインの遺品は?何か気になるものでもあったか?」



「レイが寂しがった時にと部屋はそのままにしてあるんだ。たまに、レイが出入りしてるからな」



「そっか…。今から見てもいいか?」



レオンの案内でキャロラインの部屋へと向かう。

部屋には沢山の写真が飾られていた。


嫁入り前に撮ったものが多かった。その写真の中に依頼者の男が写り込んでいるのもがあった。



「騒ぎを起こした男ってコイツか?」



レオンに見せると、レオンは頷いた。



「依頼者だ。依頼人は棺の中の人形を見た。それが呪いの人形だと思った。政略結婚で、レオンは結婚前にミリティアと少し良い雰囲気だった事もあり、レオンがキャロラインを邪魔に思ってたと思い込んでたって事かな?」



「まったく良い迷惑だよ」



リオベルトは、引き出しを全て開けて見てみた。

日記や手紙などはレオンに許可を貰い確認する。



お気に入りの人形とやらは、どうもキャロラインとアリス、ミランダの三人で一緒に注文し作らせた着せ替え人形の様だった。



「知ってたか?」


「知る訳ねぇ~だろ?妹となんて話もしなかったからな」



自分達の妹達が、揃ってオーダーメイドで作った人形。何処で作らせたのだろうか?



「オマエの親父さんに聞くのが早いかもな」



その他の情報としては、キャロラインは嫌がらせを受けていたと言う事実だった。日記に綴られた内容では、臆測でしか無いがキャロライン的にはレオンを想う誰かからの嫌がらせだと思っていた様だった。


レオンがエルロンドを呼びに行き、連れて戻る頃には部屋の隅々まで調べ終わっていた。



「久しぶりだな。こんな形で会うとは思わなかったぞ。」


「お久しぶりですね。アリスを幸せに出来ず申し訳無い。けれど王妃となられて良かったですね」


「私はオマエを気に入ってたんだぞ?まったく不甲斐ない奴だな」


リオベルトは苦笑いしか浮かばなかった。



「で?人形が何だって?」



「昔、アリスとキャロライン、ミランダ三人で人形をオーダーメイドしたらしいんですけど、何処の店に注文したんですか?」


「人形?」


エルロンドは直ぐには分からなかった様だ。

レオンが「棺に入れた奴だ」と言えば分かったようだ。



「そういや、アリスにせがまれて作った人形があったな。アレは店じゃ無いな。芸術家に頼んだのだ。


多分、アリスの人形が倉庫に眠ってると思うぞ。足の裏に作者の名前が刻まれてる。そこまで有名な者では無かったからな…」



レオンは使用人に指示を出して、アリスの人形を探させた。その間に、エルロンドに経緯を説明した。



「呪いね…。俄には信じ難いが調べる価値はあるな。場合によってはミシェーレ家を狙ってると言う事だろ?」



「まぁ〜逆恨みされるのが貴族ってもんですしね」



アリスの人形を持って現れたメイドから人形を受け取ると靴を脱がせ足の裏を見た。Emilyと刻まれていた。



「Emilyね…それだけじゃ調べるのも面倒だな。服は別で作らせたんですか?」


「服は衣装屋だ」


「なるほど…ミシェーレ家の墓を掘り起こして良いですか?」


「まぁ〜王家にバレずに掘れ」



エルロンドの許可を受けてリオベルトはニヤリと笑った。



「じゃ〜俺は、そろそろ帰ります。夜分に悪かったなレオン」


「待てっ。何処に居るんだ?」


「アリスには秘密ですよ」



そう言うとエルロンドに名刺を渡すとリオベルトは、窓を開けると外に飛び出した。二階の窓から器用に木に乗り移ると「では又」と姿を消して暗闇に消えていった。



「茨の路を選ぶか…」


「父上は、リオベルトが好きですよね」


「まぁ〜な。オマエと違ってアイツは13の頃には覚悟が決まってたよ。父親が裏の顔は冷酷な奴だったからな…地獄を見て来ただろうに。オマエは案外、恵まれてるんだぞ」


レオンは、エルロンドが認めてるリオベルトが少し羨ましくなったのだった。



エルロンドは、名刺を見る。するとレオンに名刺を渡すと言った。



「場所を覚えたら燃やせ」


そう言って部屋を後にした。

レオンは、名刺を見ながら部屋へと戻ると「奈落の底ね…」と呟いてマッチで火を付けると名刺を燃やした。



リオベルトは、その足でマリとルナの家へと向かう。

団欒を楽しむ訳では無く、マリに頼み事をする為だった。


Emilyのサインをするデザイナーや芸術家を知らないか聞きたかったのと、店に来る貴族の噂話なんかにキャロラインに関わる事や、レオンを狙ってる者は居ないか?など探りを入れて欲しかったのだ。



「頼み事をしてくれるなんて嬉しいわね。

依頼料は、ルナと遊ぶ時間を作ること!でどう?」


「そんなんで良いのか?」


「大事なことよ。家族で遊ぶのは」


「分かった。また来るよ」



リオベルトはマリにキスをすると立ち去った。

マリは、やっぱり風みたいな人だな…なんて思って笑った。



それから真夜中にジグルドと墓を掘り起こし棺から人形を取り出したりと地道な調査が進む。


レオンが店に来て、神聖力には呪いを解く力は無いと知らせてくれた。それから時々、レオンは店に通う様になった。ミリティアが居るのにビックリしてたが、話し相手がいて楽しそうにしていた。



後日、マリの情報で、Emilyが見つかる。

リオベルトは会いに行くことにした。


エミリーは、六十代だと言うが魔力量が多いのか若かった。人形について話しを聞くと、彼女は懐かしいと言いながら昔話をした。


エミリーは当時、駆け出しのデザイナーで勤めていた衣装展で先輩デザイナーと共に貴族の家に出入りしながら学んでいたと言う。


たまたま、ミシェーレ家に行った時に自分の書いたデッサンを見た、遊びに来ていたキャロラインが、そのデッサンの絵の少女の人形が欲しいと言い出したらしいのだ。


それに反応してアリスとミランダも欲しいと我儘を言いだして、エルロンドの頼みで人形を作る事になった様だ。着せ替えが出来る人形。


流石にデザインは出来ても人形は作れないから、知り合いの職人に頼んだ様だ。人形の服を作るのは楽しかったと笑った。


受け渡しの日、三人の女の子を前にエミリーは御伽噺を聞かせたと言う。勿論、作り話だ。


大好きな人が出来たら人形のEmilyに、その人の名を毎晩の様に聞かせるとEmilyが大好きな人との仲を取り持ってくれると。


その時、キャロラインがコッソリとエミリーに言ったと言う。


「この人形の左足の裏にEmilyって書いてあるけど、右の足の裏に大好きな名を彫ったら結婚出来るかしら?」


そう聞かれたエミリーは、可愛らしいキャロラインに「そうだと良いわね」と答えたそうだ。



リオベルトは、呪いとは無関係かと無駄足だったと肩を落としたが、エミリーが思い出したように付け加えた。


「そうそう、知り合いの職人が人形を作る時に精霊が現れて手伝ってくれたって言ってたわね」  



リオベルトは、精霊王に会うことを決めた。

近くの花畑に立ち寄ると、飛んでる精霊の光の粒に話し掛ける。


「精霊王に伝えてくれ。話があると」


光の粒は、風も無いのに舞い上がった。

それが、何処かに流れて行くのを見届けると、歩き出した。



向かった先は王都が一望できる小高い丘だった。

地べたに座って空を眺める。


すると、精霊王が現れた。



「なんだ?話とは」


「久しぶりですね。ミリティアは元気ですよ。

魔法は行使しないのに何で加護はそのままなんですか?」


「ただの気まぐれだ」


リオベルトは笑うと、精霊王に顔を向けた。



「精霊の加護は呪いにもなりますか?」


「場合によってはな。人と精霊は、そもそも価値観が違う。精霊の加護が人にとって害になる事もある」


「一人の少女が精霊の加護を受けた者が作った人形を手に入れた。その人形に落書きをした。それが、彼女の寿命に影響を与えた。そんな事はあるか?」


精霊王は考えた。そして答えた。



「職人以外の者の手で作品に手を加えた事で、何らかしらの魔法が、その者が使える様になり、願いを叶える為の対価が命だとしたら有り得るな」



キャロラインの恋心が、自分の命を削ったと言う事だろうか…何とも哀しい事だ。



「精霊と契約し魔法を使う事も、何らかしらの対価がいるのか?」


「普通は、体内の魔力が対価だ。しかし稀に他の物が対価となる事がある。だから契約は慎重にと説明はしてある。アカデミーの事だろ?」


「ならいい。呼び出してすまなかったな」


「人間とは複雑だな」



鼻で笑うリオベルトを残し精霊王は姿を消して行く。

リオベルトは再び、空を見上げて大きく息を吸う。



「さて、依頼者は納得するかな?」






約束の一ヶ月後となる日に、依頼者は現れた。

リオベルトは、調べた事を証明するように掘り起こした人形も含め、キャロラインの遺品も数点提示した。


そして、調べて分かった事を包み隠さず話して聞かせた。


依頼人は、涙を流していた。

それは何の涙だったかは分からない。

 


「この人形は、貰っても良いですか?」


その質問に答えたのはレオンだった。



「キャロラインの為に、ココまでしてくれた君が大切にしてくれたらキャロラインも喜ぶだろうよ。

俺は、俺なりにキャロラインを大切にしたつもりだ。けれど、愛してたかは分からない。君がキャロラインを愛してくれてたのなら、彼女が誰かに確かに愛されていたと分かって嬉しいよ。

君にとっては、俺は殺したい相手なのかも知れないがな。写真のキャロラインの後ろに君が写り込むものがあったよ。コレも貰ってくれるか?」



男は泣きながら「疑ってすいません」と言うと人形と写真を抱き締めた。


彼は、幼い頃からキャロラインだけを見つめていた様だ。キャロラインにとっては、幼い頃たまの御茶会で彼に会って会話を交わし話し相手として関わるようになっただけの者で、彼にとってキャロラインは憧れの人だったのだろう。



キャロラインにとっては、その憧れの対象はレオンで結ばれる事だけを夢見た。


人形の足にはReonと刻まれていて、きっとキャロラインは毎日の様に人形に話し掛けていたのだろうレオンと結婚して幸せになるとか言って。


実際に、その夢は果たされ結婚し子供も産んだ。

キャロラインにとっては幸せな日々だったのだろう。


その対価は、あまりにも大きかった。


魔法など無くても、キャロラインがレオンと結婚する事は決まっていたのだ。人の運命とは時に残酷なのかもしれない。



リオベルトはスッキリしない気分を誤魔化す様に、その夜はレオンと酒を飲みながら語り明かしたのだった。






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