第二章 5 王立アカデミー創設
各地での学び舎も順調に起動した頃に、専門分野を学べるアカデミーを創設した。
入学は年齢を問わず身分も問わない。
三年間の学びを経ると能力に合わせた就職先も斡旋する機関だ。授業料は先に払っても、就職してから分割で払うでも手続き次第で選べる様にした。
後払いは、給料から差し引かれる仕組みを取った。
通いが難しい者は寮に住める。
制服は入学祝いとして全ての者に配る事にした。
着る物で差別等が起こらないようにする配慮だった。
殆ど、授業料に含まれている為にアカデミーに通う間はお金が別途に掛からない様にもした。
平民に配慮した為に、国が負担する金額が多くなったが、今までの貧民への支援の予算を割り当てたから国が新たな予算割当も少なく済んだ。
アリスの叡智で、各地にポータルも出来て移動は便利になっていた。魔物の発生も穢れの流れを一箇所に集める為の結界の様なものをアリスが張り巡らせ、国の北側にある山の下に穢れが溜まるようにしたのだ。
その山の下は地下迷宮があり、遥か昔には穢れが溜まる場所としてダンジョンが存在していた。
そこを、また再利用する事にしたのは、精霊王の助言だった。
アカデミー創設の為に、アリス達は精霊王と交渉していたのだ。魔力量が少なくてもミリティアの様に精霊の力を借りれば魔法は使える。
だからこそ、精霊王の許可を得て人間が自然を大切にする代わりに、昔の様に良き隣人になってくれと頼んだのだ。
精霊とは大地の守り神の様なものだ。
地上の神と呼べるだろう。
自然崇拝の様な教会を建て、大地に祈りを捧げる新たな信仰を作る事と、精霊の天敵とも言える穢れと魔物を人間が管理し駆除し浄化を行う事を条件に、アカデミーでの精霊との契約を許可して貰ったのだ。
色んな事をクリアしながら、やっと完成したアカデミーは、大きな敷地内に校舎と寮が建ち自然豊かな仕上がりになった。
精霊との契約で加護を受ければ、精霊と過ごす事になる植物や水など自然豊かにする必要があったのだ。
アカデミーには、魔法や剣術の他に魔道具研究や、様々な専門的な職業を学べるコースがある。
自分で選べる方式で、多様なコースを複数取り入れても良い。三年間のスケジュールも自分で組む事になる。分からなければ教師と相談しながらスケジュールを決めれば良い。
基本的には三年間を目安にしているが卒業の年になり学びが足りないと思えば学費は掛かるが延長は可能だ。卒業間近には、教師の推薦と雇い主のスカウトなど様々な形で就職先を決めて貰う。
炙れた者は、選考の結果で学び直しになるか適性の仕事を勝手に決めて与えるなど臨機応変に進める事となっている。
稼働してから問題は出てくるだろうが、その都度変更しながら運営していく事となった。
アカデミー創設はアリスとウィリアムが主体となって進めていた事もあって、数年の間はアリスは殆ど王太子宮殿に住み着いていた。
それもあって、アリスはリオベルトとの間に距離を感じる様になっていた。
その頃になると、いつの間にかミリティアが北棟から姿を消していた。アリスはリオベルトが外に出したと直感で感じて居たが、中々会えないから真相は分からないままだった。
「アカデミーが始まれば、アリスが帰ってしまうのかと思うと寂しいよ」
遅くまで残務処理をしていて夜中になってしまった二人は、同じベットに横になりながら話していた。
「それよね…なんだかリオに会うのが気不味いのよね…」
「そうだね。もう数カ月は顔も出さない。
リオベルトは何を考えてるのか本当に謎だよ」
「私も分からなくなってきたわ。
向こうから距離を取られてる気もするし…
昔は包み隠さず本心を言える人が、リオしか居なくて完全に頼り切ってた気がするの。たまに子供みたいな感じなのに、頼りになる存在だったから…
私は、ずっと甘えてた気がするわ」
「アカデミー創設で、そろそろ父も隠居する話が出てる。僕が王になれば、リオベルトの負担を減らせると思うんだけど。
父が僕に王位を譲る為に、後処理的にリオベルトを使ってる可能性もあるよね。父が何処までリオベルトを動かしてたのか僕には分からないけど、これ迄の国の在り方からしたらリオベルトの負担は大きいよね」
そうだとすると益々、アリスは距離が離れたのではと思った。リオベルトは、自分は穢れていると思っていた。そのせいで、汚い仕事も進んでこなす。
汚せば汚すほどに私を遠ざけてるとすればと考えるとリオベルトは私をこのままウィリアムの元へと手放そうとしてるのかとも思えた。
「リオは、私を手放したいのかも…」
「何故、そう思うの?」
「なんとなく」
アリスが哀しそうに見えてウィリアムは、ぎゅっと抱き締めた。
「もし、リオベルトが馬鹿な気を起こして君を哀しませるなら僕も一緒に怒ってあげるよ。
僕は、どんな事があってもアリスの味方だから」
ウィリアムは、いつだってアリスだけを想いアリスだけを見てくれた。
リオベルトは、どうなのだろう?彼の中で光が眩しすぎて離れたくなってしまったのだろうか…
また、リオベルトが分からなくなって突き放された気がして切なくなった。
ウィリアムの腕に抱かれ温もりを感じると、心が満たされた。この温かさにアリスは救われている。
アカデミーの第一期生の入学式が無事に終わると、やっと一息ついた。
入学式で挨拶をしたウィリアムと共にアカデミーを見学してから城に帰ると、リオベルトが待っていた。
「二人ともお疲れだな。顔がヤツレてるぞ。陛下がお呼びだ」
「私も?」
リオベルトは頷くと稷を返し歩き出す。
アリスとウィリアムは、首を傾げながらリオベルトの後を着いて行った。
そこは、城の最上階だった。
国を見下ろす様に大きなガラス窓から眼下を見ていた陛下の背中に向かって挨拶をした。
「堅苦しいのは無しだ。
ココは国王と国王が招待した者だけが足を踏み入れられる場所だ。普段は結界で入口も存在すら認識出来ない部屋だ。
ワシも、今日で最後にしようと思う。
コレからはウィリアム、オマエがこの部屋の主だ。
正式な発表は後からだが、来月辺りには王位継承式を執り行う予定で進めたい。引き継ぎが終わっても慣れるまではワシも手伝うが、完全に引き継いだら隠居する。
アリス。引き続きウィリアムの力になり支えてくれ。
オマエが居なきゃウィリアムは駄目な様だ。ワシが隠居すればしがらみも無くなる。お前たちが望むなら、正式な夫婦になっても良い。その方がアーサーも喜ぶだろう?」
陛下の言葉に、アリスはリオベルトの方へと視線を向けた。目が合うリオベルトは、優しく微笑んだ。
そして、静かに部屋を後にしようとする。
「待ってっ!」
リオベルトは振り返らなかった。
「まだ陛下が話してる。ちゃんと聞け」
そう言うとリオベルトは姿を消した。
アリスは、そんなリオベルトが腹ただしかった。
腹が立って涙が溢れそうになる。
ウィリアムはアリスを抱き寄せる。
「アリス、あれがリオベルトの愛なのだ。
リオベルトはダグラス家を終わりにする様だ。
ルナ・ダグラスが嫁に行った後に爵位を返すと言われた。オマエ達の創る未来にダグラス家は必要無いそうだ。
アリスよ。男には貫きたいプライドがあるものだ」
納得いかなかった。
リオベルトの口から聞きたかった。
逃げられたと思った。
今から追い掛けても、きっとダグラス家にも居ないんだと思うと涙が止まらなかった。
「アリス…一緒に探そう。
大丈夫…きっと見つかるから」
ウィリアムが必死でアリスを元気付けようとする。
「ウィリアム。オマエが支えてやれ。
そして、リオベルトの選択を尊重してやれ。
オマエが理想を叶える事が、リオベルトの救いにもなるんだ。彼ほど国を想い愛の深い者は居ない。
国の影をも愛し捨てられないのさ。オマエにはオマエのプライドがある様に、リオベルトには彼なりのプライドがある。
国全土に、オマエ達の幸せな姿を見せなさい。
それがリオベルトの一番、望む事だ」
陛下は、そっと二人の元を離れた。
残された二人は無言のまま寄り添った。
「コレがリオの幸せの形なの?こんな結末が望みなの?」
「僕には分からない…離れる事が愛なのかも僕には理解出来ない。僕には離れる事なんて出来ないから」
「私もよ。どんな事があっても傍に居たかったのに。
それは、私の我儘なの?」
「アリス、これからダグラス家に行こう。何かあるかもしれない」
ダグラス家に帰れば、やはりリオベルトは居なかった。マリが手紙を差し出してきた。
マリやルナにも、それぞれに手紙が置いてあったそうだ。
アリスは、封筒から便箋を取り出した。
アリス。この手紙を読む時は怒ってるだろうな。
他人の口から言わせた俺に腹を立ててるに違いない。
ずっと、オマエを遠ざけて来た。
俺がオマエを穢してしまいそうだったから。
ずっと、冷たく遠ざけるつもりが
あの日、離婚を切り出された、あの日だ
血迷って心を通わせたくなった
オマエも穢してしまえば良いなんて考えて
だけど、オマエは幼子の時から輝きは色褪せない
益々、輝いてきやがる。
眩しすぎて焦がされそうだ。
王家の影で悪行を重ねたダグラス家は、本当に悪だったんだ。
ミリティアの件を利用して家族を処刑に追い込んだ。
俺が殺したも同然だ。
ダグラス家の負の遺産は片付けた。
もう、ダグラス家は終わるべきなんだ。
マリやルナには悪い事をしたよな。
最低な夫で最低な父親だ。
オマエが代わりに幸せにしてやってくれるか?
最低な、お願いだな。
俺は闇がお似合いだ。
幸せな家庭なんて夢を見せてくれて有難うな。
その幸せが続く未来を想像したらさ
吐きそうになったよ。
闇でしか生きられない奴等と居た方が
俺は俺で居られる。
もう俺を楽にしてくれ。頼む
俺には愛が苦しくて絶えられない
光輝くオマエたちの近くには居られない
オマエだけしか見えないウィリアムに幸せにしてもらえ。
一緒に読んでるかもな。
ウィリアム。
アリスをやるよ。幸せにしてやれよ。
他の女に目移りしたら王だろうと殺してやるからな
頼むから探すなよ。
じゃ〜な。
アリスは、呆れてムカついてリオベルトを殴りたかった。けれど、彼はもう居ない。
「マリは、どうしたい?」
アリスは、マリに訪ねた。
「私の役目はダグラス家の跡取りを生むこと。
もう役目は必要無い様ですから…店の権利証も私名義にしてたみたいでルナ名義の銀行口座もありました。
ルナは私の子です。私が、ちゃんと育てます。
だから、アリス様はウィリアム殿下とアーサー様と幸せになって下さい」
「マリ…」
アリスが築いたと思ってた家族が崩れ去った。
幻だったみたいに。
項垂れるアリスを支えるウィリアム。
「アリス様の事を頼みます。アリス様は強がって居るけど、繊細な人です。リオベルト様と同じで不器用な人なんです。だから、どうか殿下が支えてあげて下さい」
「分かったよ。君も何かあったら、ちゃんと言うんだよ。君に何かあったらアリスが哀しむから」
「はい。心得ています」
ウィリアムは、アリスを抱えて馬車に乗り込むとダグラス家を後にした。
マリは、店の二階の事務所に住もうと思った。
ルナと二人で平民として生きると決めた。ルナは人見知りで貴族の集まりに孤立してしまうと聞いた。だからこそ、無理をしてまで貴族社会に馴染まなくて良いとマリは思ったのだ。
それに、リオベルトは王都の何処かに居ると思っていた。きっと裏路地辺りだろうとマリは確信していた。
底辺では無いが、マリも平民だ。
ガラの悪い連中が彷徨く所や怪しい店がある場所くらい知っていたのだ。
アリスにも恩があるが、リオベルトにだって恩があるし情もある。マリは、きっと探し出すと決め荷物をまとめる事にした。
翌日、ルナを連れてマリはダグラス家を出て行った。
そして、数ヶ月後に王城からの報せに国中が大騒ぎになった。
国王の交代に、ウィリアムの婚姻。
アリスを正妻に、キャロラインを第二夫人としたのだ。
ダグラス公爵家の爵位の返納もあり、世紀のスキャンダルは色んな憶測を呼んだ。
しかし、ウィリアムの人気は衰えを知らなかった。
アーサー王太子もウィリアムにソックリな事もあり、ウィリアムとアリス、アーサーの三人の絵姿が飛ぶように売れた。
その絵姿を見ながら、微笑むリオベルトが居た。
「お兄さん、買うの買わないの?」
「1枚、頂くよ」
金を払うと、リオベルトは人混みの中に消えて行く。
「ねぇ〜、アンタ。
今の顔どっかで見たことない?」
「あんな色男なんだ。
知ってりゃ、直ぐに分かるだろ?
ほら、忙しいんだから働け」
社交界の色男と噂されていたリオベルトは、実は平民には顔を知られては居ない。
リオベルトが手を出す女は決まって人妻だ。
表のスキャンダルになれば致命的とばかりに新聞社には貴族達がこぞって金を積むからリオベルトの顔が新聞に載ることも無かったのだ。
今回のダグラス家の記事も写真は載せたら殺すと脅していたのだ。
酒場の二階に戻ると、絵姿を壁に貼り付けた。
タバコに火を付けると、慌ただしくジグルドが入って来た。
「騒がしいなっ」
「あの女、なんとかしろよ!また男絡みで揉めてるぞ。」
「どうせ、男同士の女の取り合いだろ?ほっとけ」
リオベルトは窓の外を見ながらタバコの煙を吐き出した。
「止めなきゃ店が壊れるっつーのっ!」
「チッ分かったよ」
リオベルトの日常は騒がしかった。




