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第一章                          13 出産無しに母親になりました


マリの妊娠を気に私が妊娠したと外部に知らされた。

元々、アリスは外に出ない事もあり誤魔化す必要も無かった。


いつも通り屋敷で過ごしていれば良いのだから。


この時の為に、今までの全てがあったかと思う程に自然な流れだった。



後に話を合わせるために、アリスはマリとなるべく一緒に過ごし妊婦の生活を学んだ。遅れて自分も出産する事になるのだから事前に分かるのは有り難かった。


つわりで苦しそうなマリを見ているのは流石に辛かったが、心配をかけまいと健気に笑顔を見せるマリが愛おしいばかりだった。



子供用品を選ぶのも楽しかった。

カタログを見ながらマリと生まれてくる子供を想像して語り合うのも楽しい。


この世界は娯楽は少ないが生活に不便さは少なかった。科学の代わりに魔法がある様な、そんな世界。


もしも平民が、もっと経済的に豊かなら娯楽も増えてくるのでは無いかとアリスは思っていた。



生まれてくる子供の事を今から話し未来を描く二人を見ていたリオベルトも自然と顔が緩んだ。


明るく希望に溢れた未来を想像するなんて、リオベルトには無縁だったから新鮮でもあったのだ。



マリのお腹が膨らみを見せ始めると、リオベルトの心境も少しづつ変わったのかも知れない。



ある日の夜に、リオベルトが弱音を吐いたのだ。

アリスにとっては嬉しい変化でもあった。



「跡取りが生まれるのかと思ったら急に怖くなったんだ。家を存続するのが貴族の務めなのに、自分の子供に後を継がせたくないと思った…


公爵失格だな。こんな家は途絶えてしまえと思ってる自分が居るんだ。


愛など知らなければ良かった…」



「そんな哀しい事は言わないで欲しいわ。

それって普通の感情でしょ?自分の子が可愛くない親は少ないわ。可愛い子供に、自分が苦悩してる家業を継がせたくないと思うのは当然だもの。


王族や貴族が家族愛を感じてはいけないなんて可怪しいじゃない。


私ね、思うのよ。ウィルなら今の在り方を変えてくれると思うの。誰かの犠牲が無きゃ成り立たない国なんてクソでしょ?


予言の神の子が私の子なら、こんな世界を変えてくれるわ、きっと。


だって神の子なのよ?神は皆んなに平等でなきゃ。

闇属性だからって悪じゃないわ。闇は悪じゃ無い!


貴方は悪なんかじゃないわ」



「言いたい放題だな。

俺は悪だよ。この手は穢れしか無い」



自分の掌を見つめ項垂れたリオベルトの背中を、アリスはそっと包んだ。



「一人で抱え込む事なの?

貴方の罪は王家と貴族の罪よ。王家の不甲斐無さよ。光属性を持ちながら全てを内包出来ずに悪を作り出したのは歴代の王の責任でもあるはずよ?


何故、リオだけ責められなきゃいけないの?

リオのお陰で、どれだけの人が幸せを享受出来たと思う?少なくても私は幸せよ。


その幸せを齎したのは王家じゃなくて貴方よ」



初めて見る、リオベルトの涙だった。

黙って涙を流すリオベルトを抱き締めるアリスは、その哀しみを本当の意味で分かち合え無い事が辛かった。



いつの間にかアリスの方が大泣きしてしまいリオベルトに呆れられてしまう。


慰めてるつもりで、逆に慰められたアリスは罰が悪そうに涙を拭きながら苦笑いを浮かべた。



「ねぇ〜知ってる?

妊婦になると涙脆くなるらしいわ。

私達って妊婦なのかしらね?」



「何言ってんだよ」



「マリを見習わないと、初めての妊娠で不安だろうし身体も辛いだろうに健気に愚痴も溢さないのよ?

私達に心配させない為に無理してるの。私の我儘とダグラス公爵家の為に頑張ってくれてるのよ。


私達が弱音を吐いてる場合じゃないわ。

生まれてくる子供の父親と母親になるんだもの。

汚い仕事をさせない世の中に変えれば良いのよ。

生まれてくる子供が健やかに育つように明るい未来を生きられる様に私達が出来る事はあるはずよ?」



「アリス…君はやっぱり…」



リオベルトの何か呟く様な声が聞こえた気がして聞き直すアリスにリオベルトは顔を左右に振ると笑顔で言った。



「悪い。柄にも無く弱気になってた様だ。無能な父親なんて不要だな。」



「そうよ。リオは有能でしょ?」








数ヶ月後、マリは元気な女の子を産んだ。

マリは男児を産めなかったと申し訳なさそうにしていたが、アリスとリオベルトは内心ではホッとしていた。


予定通り、その赤子はアリスとリオベルトの子として手続きを済ませた。


名はルナ。ルナ・ダグラス。


リオベルト似の女の子は闇属性を持ち魔力量も申し分の無い事から周りでは男児でない事を惜しまれる事となる。


現在、当主になれるのは男児だけだと法律で決まっているからだ。



リオベルトの遺伝子が色濃い為に、実の母親がアリスでは無いと疑われる事も無いだろう。マリは乳母として実の子供を育てる事になる。子供に名乗る事も出来ない事にアリスは罪悪感が生まれたがマリは自らの手で育てられる事に感謝してくれるのがいじらしかった。



数日遅れて、アンジェリカも女児を産んだ。


王家特有の金髪碧眼では無いが、アンジェリカに似ていた為に怪しまれる事も無かった。男児では無い事でウィリアムに似ていない事を、とやかく言う者も現れなかったのは幸いと言えよう。



名はソフィア。ソフィア・オベリオ。



ウィリアムは自分とは血の繋がりも無い子であったが、アンジェリカを労わり自分の子の様に可愛がった。


実の父親であるトムは平民で在りながら王太子妃の専属護衛として常に傍らに居る様だ。



半年後には、アリスとウィリアムは別荘へと向かう予定だ。それまでの間、二人は其々の子供の良き親として子供に接した。





「マリ。疲れたでしょ?変わるから、ちゃんと寝てきて。マリに倒れられたら困るわ。

夜泣きも多いみたいだし、誰かさんに似て寂しがり屋さんなのかしらね?」



数時間置きに起こされ寝不足のマリを休ませてあげるために日中はアリスがルナの面倒をみた。


慣れない手付きでミルクをあげたり、オムツを替えたりと大変だったが、小さな赤子を見ていると自然と笑顔になってしまう。



メイド達も手伝ってくれるし、皆に愛されスクスクと育つと思うと成長が楽しみで仕方がなかった。



半年は、あっという間に過ぎた。

ルナと離れるのは寂しかったが、マリが居るから安心だった。


王家の別荘へは、リオベルトが送ってくれた。

王都から出たのは初めてのアリスは、別荘までの道程の3日間は新鮮で、あっという間だった気がした。



「妊娠したら出産まで別荘の中だ。

予定通り生まれるとも限らないから出産に立ち会えないかもしれないな。俺に出来る事も無いからな…


きっと、殿下が出産まで傍に居てくれるから心配は要らない。それから…」



「もぉ~、それ何回目かしら?

なんで、リオの方が不安になってる訳?産むのは私なんだけど。


なんてね。心配してくれて有難う。

私はルナの方が心配だわ。マリ一人で大丈夫かしら?帰ったらリオもマリがちゃんと寝てるかチェックしてね。それから〜」



「アリスも、それで何回目だ?

まったく少しは自分の心配もしろよ」



馬車の中での会話は、互いが違う心配をしていた。

けれど、それもまた楽しかったのだ。


途中、街場の宿に泊まる事も宿場町を出歩く事もアリスはリオベルトとデート気分だった。


それはリオベルトも同じだ。

仕事を忘れアリスと普通に手を繋ぎながら街を歩いたり屋台で食事をしたりとリオベルトにとっても新鮮な事だったのだ。


もう直ぐ別荘に着く頃、リオベルトは本心を口にした。



「本当は今直ぐに引き返して屋敷に連れ帰りたい気分だ。預言書なんて無ければオマエを誰にも触れさせたくなかった」



「昔のアリスに、あれだけ冷たくしてた癖に?

しかも今更じゃない。もうリオ以外の者に触れさせてる癖に」



リオベルトは苦笑いをしながら話しを続けた。



「オマエが二歳の時だ。俺が初めて会ったのは。

妖精の様だと思ったんだ。小さなアリスは光に包まれてる様に5歳の俺には見えたんだ。愛らしく俺に笑い掛けてくるアリスが眩しかった。

それが俺の記憶に強烈に残ってたんだ。だから10歳から家業のノウハウを覚えて少しづつ仕事を叩き込もれ穢れていく俺がオマエを穢してしまいそうで怖かったんだ」



「馬鹿ね。穢れてなんて無いわよ。

本当に素直じゃないし子供の頃から捻くれてるのね」



そう言ってアリスは笑うとリオベルトに口吻をした。



「仕事が終ればリオの元に帰るわ。私の帰る場所は貴方の所だからね」



「殿下も大切だと思ってるんだろ?」



「やっぱりっ。ウィルとの時間を覗いてたんでしょ?で、嫉妬でもしてたの?確かに、ウィルも大切だと思ってるわ。けど、それはパパやマリやルナも同じよ?その中で私が一番に優先してるのは誰?」



不貞腐れた様な顔でリオベルトは口を開いた。



「オマエの口から聞きたい」



「リオに決まってるでしょう?

ほんと、大人ぶった子供よね?ほっとけないのよ。

どんな俺でも受け入れろって言ったのはリオよ?

カッコ悪くても女々しくても愛してるわ、リオ」



「物好きだな」



「可愛くないわよっ?」



リオベルトはアリスを力一杯抱き締めると「苦しいわ」と叫ぶアリスの耳元で囁く。



「初めて会った、あの日から俺はオマエを愛してる。

どんなアリスも俺だけのものだ」



「私も、ずっと愛してるわ」



そして二人は別荘に付いたのも気付かぬ程に熱いキスを交わした。


出迎えたウィリアムが呆れるくらいに馬車の入口が開いても濃厚なキスを交わしていた。



「まったく呆れるほど仲が良くて羨ましい限りだね」



ウィリアムの声で着いた事に気付いた二人は馬車から降りる。


アリスが苦笑いする一方でリオベルトはあからさまに嫌な顔をして言い放った。



「ウィリアムっ。少しの間、貸すだけだからな!ちゃんと返せよっ」



「リオベルト。アリスは物じゃないよ」



益々、呆れた顔で言い返すウィリアム。

罰が悪そうに黙って荷物を使用人達に手渡すとウィリアムを睨んだ後、アリスに顔を向けた。



「迎えも俺が来るから。それに出産の時も駆け付ける。それから手紙も書け」



「分かったわ。マリとルナを宜しくね」



「大丈夫だ。二人は俺の大事な家族でもあるんだ。心配するな」



軽いキスを交わすと、リオベルトはウィリアムには挨拶も無しに帰って行った。王太子への態度とは思えない無礼極まりない対応にアリスは申し訳なくなった。



「ウィル、ごめんね。

最近のリオは反抗期みたいなの」



「そうみたいだね。

でも気持ちは分かるよ。愛する女を他の男に渡したくないと思うのは普通だろ?


僕も、リオベルトから君を奪いたいと思う位には君を愛してるんだけどね。流石にリオベルトからは奪えないさ。王家の影として余りにも背負わせたものが大き過ぎるからね…」



ウィリアムは、本当に申し訳ない顔をして走り去る馬車を見えなくなるまで見送った。



「ウィル。貴方も犠牲者よ。

リオに命じたのは貴方じゃないじゃない」



「僕も王家の人間だ。同罪なんだよ」




誰も本当の意味で幸せになれない世の中なんて間違ってる。そう改めて思うアリスは、やはり変えなきゃいけないと本気で思うのだった。




「後、もう一つ君に言わなきゃいけない事があるんだ」



次のウィリアムから伝えられた言葉にアリスは絶句した。



「実は、王家の決まりで初夜が無事に済んだ事を確認する為に初めての行為は監視が付くそうだ」



やはり、この国はどうかしているとアリスは思った。

今直ぐに廃止しろと国王に抗議したい気持ちで一杯だった。



ウィリアムは、苦笑いをしながら続けた。



「とりあえず、長旅の疲れを癒すためにお風呂でも入って、ゆっくりしてよ。夜まで寛いで」



アリスはメイドに連れられ湯浴みをするとオイルマッサージを受けながら寝てしまう。


気付けば夕方になっていてベットの横で読書をしていたらしいウィリアムが「おはよう」と微笑んでくれたが、初日から失態を犯したと反省しか無かった。



夕飯を済ませれば、ウィリアムから露天風呂に誘われた。タオルを巻いているとはいえ、ウィリアムに肌を見せるのは初めてで、アリスは急に恥ずかしくなった。


ダグラス家で、快楽に溺れていたのが嘘のように生娘の気分になってしまうのだ。



「急に距離を縮め過ぎたかな?

ごめんね。男として恥ずかしいんだけど実は慣れて無くてね…僕も急にベットで監視されながらは流石にキツイんだ」



照れながら話すウィリアムが可笑しくて緊張も和らぐ。アリスはクスリと笑うとウィリアムの横にピタリとくっつくと空を見上げながら言った。



「慣れませんよ。

きっと何回経験しても、初めての相手に肌を晒すのは恥ずかしいものですよ。私も恥ずかしいです。

だからベットの上では私だけ見てて下さい。私もウィルだけ見てるから」



「やっぱり初めては君で良かったよ」



「えっ?初めて?嘘でしょ?」



ミリティアとは関係を持ったとばかり思い込んでたアリスは驚きを隠せなかった。ウィリアムは苦笑いし



「驚いたよね。男の癖に婚姻してからと決めていたんだ」



そう言うとアリスを真っ直ぐ見つめて言葉を続けた。



「妻になる者を心から愛そうと子供の頃から思っていたんだ。政略結婚だろうが、結婚したら少しずつ関係を構築したかった。実際は妻は別の男を愛していて、君は妻では無い。けれど、君を心から愛したい。


僕と居る時は、リオベルトを忘れて僕だけを愛してくれるかい?」



「勿論です。今、目の前に居るのはウィルだもの。

リオを想いながらなんて、ウィルにもリオにも失礼だもの。この別荘にいる間は、二人だけの世界です。

ただの男と女としてウィルも私だけを愛して下さいね。


それに、アンジェリカは敬愛をウィルに向けてますよ。自分が大切にされてる様に、自分もウィルに貢献したいって言ってたもの」



ウィリアムは、とても良い良い笑顔で「ありがとう」と言った。



とちらからともなく唇が重なる。

盛り上がる気持ちは止められないはずだったが、流石は王家の使用人だ。


決まりは決まりだった。

大きな咳で止められたのだった。


二人は苦笑いしながら露天風呂を後にする事になった。









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