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第一章                          11 王太子誕生祭(後編)


メイド達が控え室に軽食や飲み物を運んでくると三人で軽く食事をした。


ウィリアムも主役として気を張っていた様で朝から食べて居ない様だった。華やかに見える世界だが、気苦労は絶えないのだろう。



「婚約者は一人にしておいて大丈夫なのですか?」



「アンジェリカは、キャロラインに捕まっているよ。妹が出来た様で嬉しいらしい。ミリティアの時は険悪だったから今回はどうかと心配したが杞憂だった様だ」



リオベルトの指摘にウィリアムは苦笑いを浮かべながら答えた。


アンジェリカは普通の貴族令嬢の様な傲慢さが無い様だった。慎ましやかで大人しい性格の様で、二女として生まれたからか私と同じ様に屋敷から外に出る事は少ないと教えてくれた。



「なんだか、アンジェリカ嬢とは話が合いそうです。

私も外とは無縁で育てられましたし、未だに世間知らずですからね。王城で生活を始められたら、御茶のお供にお呼びくださいと伝えて下さい」



アリスの気遣いにウィリアムは好感が持てた。



「ありがとう。僕も政務が忙しいとアンジェリカを気遣ってやれない事も多いだろうから助かるよ」



アリスとウィリアムの会話に、リオベルトは割り込む事無く傍観していた。


二人が打ち解けていく様を無表情で見つめていたのだった。



1時間くらい控え室に籠もってしまったが、会場は賑やかで主役が居ないことも気にしてる様子も無かった。


アリスとリオベルトも会場の中に溶け込み、声を掛けてくる者に笑顔で対応をした。



しかし、パーティーも終盤の頃だった。

明らかに聞こえる音量の声で噂話をする小さな集団が居た。アリスに聞こえる様にワザと言っているのだと誰にでも分かる彼女達の視線は、アリスの全身を刺していた。



「見た目が美しいとは言え、夫に相手にされてないのは明らかよね?」


「ダグラス公爵の女遊びは有名ですものね」


「今回は王家主催ですもの、演技でも円満ぶりを披露しなくてはですものね」



言いたい放題の様だ。

何処までもダグラス公爵夫妻は仮面夫婦と言う事にしたいのだろう。


聞くに堪えない話しを永遠に聞かされてる気分になったアリスは行動に出た。



アリスを舐めている夫人達の輪に自ら近付き声を掛けた。



「どなたか存じませんが、随分と楽しそうな御話をされてますのね?夫が遊んでる方を詳しく教えて下さるかしら?それとも、夫と火遊びしてる本人だったりするのかしらね?」



自分よりも歳が上の夫人達にも臆すること無く堂々たる態度で問えば、夫人達は怯んだ。声も出ないようで無言のまま口元を扇子で隠し驚きの目を向けたまま固まる夫人達にアリスは畳み掛ける様に言葉を続けた。



「あら?難しい質問でしたか?

社交界に出ないからと馬鹿にしてたんじゃなくて?

小娘にも刃向かえない位の身分なら言葉に気を付けたらいかがかしら?貴方方の夫の立場を悪くさせるのは本意では無いわよね?」



慌てて謝罪をして許しを請う夫人達を哀れな者を見る様に見下していたアリスは、一転して美しい微笑みを向けた。



「分かって貰えれば良いのよ。皆が快く過ごせてこそのパーティーでしょ?機会があれば仲良くして下さいね」



一連の出来事を遠巻きに眺めていたリオベルトがタイミング良く現れるとアリスの横に来て腰を抱くように密着する。



「御婦人方、愛しい妻を外の野郎共に見せたく無くてね。家に閉じ込めてるんだよ。妻が不快に思う噂話は控えてくれると有難い。不甲斐無い夫だからね、アリスを哀しませたく無いんだ…」



「あら。女遊びも男の甲斐ですわ。

心の狭い女にはなりたくないもの。気にしてないわ」



夫人達の目の前で仲睦まじい姿を披露する様に見せ付けると、いつの間にかウィリアムとアンジェリカが現れた。



「とても楽しそうだね。僕達も混ぜてくれるかい?」



夫人達は慌てて挨拶をし始め罰が悪そうに禿げて行った。



それを見届けるとウィリアムはアリスにアンジェリカを紹介した。



「先ほど話したが、アンジェリカだ。

少し人見知りだから打ち解けるまで時間を要するかもだが仲良くしてやって欲しい」



「はじめまして、アンジェリカ・トンプソンです。

末っ子で、世間知らずですが粗相の無い様に努めますので仲良くして下さると助かります…」



不慣れな挨拶が逆に可愛らしいアンジェリカにアリスは笑顔で対応した。



「世間知らずは私も一緒ですわ。

アリス・ダグラスと申します。友と呼べる付き合いも有りませんので、アンジェリカ様とは友と呼び合える程に気楽に話せたらと思っております」



その後もアンジェリカやウィリアムと談笑を続けていて、リオベルトが途中から居なくなっていた事にも気付かなかった。


それ程に、アリスはウィリアムとアンジェリカと打ち解けたとも言えた。




リオベルトは、気配を消し会話の輪から離れ国王の元へと向かっていた。パーティーの後半には会場から姿を消していた国王は執務室に居た。


残務処理をしている様だった。

執務室に現れたリオベルトに国王は気さくに話し掛け二人は執務室を後にし王城本丸の最上階へと移動したのだった。



最上階は、完全なる王のプライベート空間であり王と王が許した者しか踏み入れる事が出来ない空間であった。その為に、この場所を知る者も少ない。



「それで、精霊王が再び加護を授ける事は無いのだな?」



「はい。精霊は元々は自由を好みます。

一度、興味を失えば二度と加護を与える事は無い様ですね。精霊王に接触しましたが、既に人間への興味は薄れている様で神の子が生まれるまでは眠りにつくと言っておりました」



「と言うことは、神の子には興味があると言うことはだな?加護さえも貰えるかも知れぬと」



「そこまでは…。ただ生まれた子に興味を持てば、それも有り得る事ではありますね」



リオベルトの調査では、精霊王がミリティアに、また加護を与える事は無いと分かった。しかし、今では城に仕える使用人の捌け口になっているミリティアを始末するのは勿体ない。



「ならば、このまま女が使い物にならなくなるまで幽閉で良かろう」



「そうですね。使用人達のモチベーションも上がってる様ですしね。中々の上物ですから」

 


「そうか…私も味見をするべきだかったかな?

まぁ〜今から味見をする気にもなれんがな。


で、ウィリアムの方はどうだ?アリスと上手くやれそうか?」



「中々に高感触のようです。後はアンジェリカ嬢の手前、時が来たら殿下には長期視察との名目で別荘にてアリスと二人で過ごして貰うと言うのが無難かと」



国王は頷くと大きな窓ガラスの向こうに広がる街並みに目を向けた。



「神の子が生まれたら何が変わると言うのだろうな?数百年前の古文書は抽象的過ぎると思わぬか?


何処まで行っても階級社会だ。神とは何なのだろうな?神の末裔だと言うのに万人が救われる世界にも出来ない。人は、それ程までに疎かなのか…」



「陛下も殿下と同じで御優しいですね。流石、親子です。幸せなんて万人居れば万人分の幸せが有りますからね。我々が思う神が何者でも、定義出来ない幸せを享受させる為に王家を繁栄に導いて居ると考えたら国自体を豊かにするのが一番の優先順位で良いのではありませんか?一人一人に目を向ければ信念が揺らぎますから。俺は思うんですよ、皆が幸せだと思う世界など存在しないと。ならば区別すれば良い。


だから、力ある実力者に爵位を与える訳ですよね?

平民も登り詰める道筋を与えた。それを勝ち取るのは本人達次第だ。今回の事で賢い奴は学んだはずですよ。


精霊達の存在をね。楽しみですね、精霊の加護を獲得して魔物討伐戦で名を上げる者が出てくる事が。


まぁ〜賢い奴が人格者とは限りませんがね」



そう言って笑うリオベルトに国王は苦笑いを見せた。



「オマエは父には似なかったのだな。

人を軽蔑しながら人を愛しているオマエだから思う事もあるのだろうな…


選ばれし巫女がオマエを救う事を私は期待しているのだ。神の子が誕生し愛を注いで育てた先に見る世界がオマエのダグラス家の光になる事をな…」



今度は、リオベルトが苦笑いになる番だった。



「やはり王家は光属性ですね。悪人になり切れない…。御心配には及びませんよ。どんな環境でも微かな光はあるものですから」



国王とリオベルトの密会はパーティーが終わる頃まで続き、御開になる頃には何喰わぬ顔で会場に戻るリオベルトが居た。


闇属性の魔法は隠密に都合が良い能力だ。

誰もが見惚れる容姿を持つリオベルトを一瞬にして人の目から存在を消せてしまえるのだから。



会場の隅で、楽しそうに談笑するアリスとウィリアム。その傍らで微笑みを絶やさないアンジェリカ。


端から見たらアリスの方が王太子の婚約者の様だ。

それくらい二人はお似合いだと、リオベルトは思っていた。


影でしか無い自分より太陽の光の様に皆を照らすウィリアムの横に居た方がアリスは幸せなのでは無いかと頭を過ぎってしまうのだ。



それでも、リオベルトはアリスを手放してやれなかった。リオベルトにとって、アリスは一筋の光なのだから。



リオベルトがアリスに初めて出会ったのは5歳の頃だった。まだ幼く純粋無垢なアリスは儚く消えてしまうのではと思う程に人間離れした美しい子供だった。


それ程に光に包まれている様にリオベルトには見えたのだ。屈託無くリオベルトに笑顔を向けるアリスに見惚れた事を今でも鮮明に覚えていた。



アリスの好意を嬉しく思う反面で、アリスを穢してしまうのではと距離を取るリオベルト。どれ程、冷たくあしらってもアリスはリオベルトへの想いを変える事は無かった。


そんなアリスが、あの日を境に別人になった。

リオベルトはアリスを穢す事への抵抗感が無くなった様に感じたのだ。もっともっとアリスを穢し自分と同じ世界へ引き込んで捕えて置きたかった。


快楽に溺れるアリスが愛おしくて堪らなかった。


歪んでいると分かっていた。

だから、こうして穢れ無き光属性のウィリアムの隣で微笑むアリスを見せ付けられると手放してやる事が正解なのだと叩き付けられてる様で胸が締め付けられた。



そんなリオベルトを見付けたアリスの視線と絡み合うと、アリスは満面の笑みでリオベルトの方へと歩み寄って来る。



その笑顔を見たら、やはり手放してやれないと思い知らされリオベルトの足は自然とアリスへと向う。



人の目など気にする事なくアリスを抱き寄せると唇にキスを落とした。周りから小さな悲鳴が聞こえたが気にならなかった。


俺の物だと見せ付け牽制したかったのかも知れないと思うと、リオベルトは自分の幼稚な行動に自分で呆れるが、そんな自分も嫌では無かった。



そんな事をリオベルトが思っているとは思いもしないアリスは、急に抱きつかれキスをされたものだから呆然としていた。


リオベルトの意図が分からず、けれど沢山の人の前で問い質す事も出来ずで引き攣る顔を無理矢理に微笑みに変えて何事も無かった様に、ウィリアムやアンジェリカに挨拶を済ませると帰宅の為に馬車に乗り込んだ。





後から着いてきたリオベルトが馬車に乗り込むと、馬車は屋敷に向かい走り出した。



「ちょっと、あれは何のキスだったのよっ。

いきなり過ぎて頭が真っ白になったわっ。あんな人前でキスされるなんて思いもしないじゃない」



「意味なんて無いさ。ただオマエを遠目に眺めてたら愛おしくなっただけだ」



「なにそれ。あんな事したら仕事の支障になるんじゃないの?」



「御心配無く。俺が愛妻家だろうが何だろうが、俺に落ちない女は居ないからな」



その傲慢な迄の自信に、アリスは呆れた顔を向けるがリオベルトは意に返さない。



「確かに、落ちない女が実在しないと言われても否定出来ないのが悔しいわ」



リオベルトは笑いながらアリスの横に座り直すとアリスの肩に自分の頭を置いた。



「少し疲れた。暫く肩を貸してくれ」



「お疲れ様。家に着いたら起こすわ」



本当に疲れて居たのか直ぐに寝息がアリスの耳に聞こえてきた。アリスはリオベルトが本当は不器用な人なのではと思っていた。


アリスに対して隠し事の方が多いのは分かっていた。

家業柄、言えない事も多いのも理解していた。


自分は、リオベルトの安らぎに少しはなっているのだろうかとアリスは考えていた。



いつか、リオベルトの本心を聞ける日は来るのかとアリスは窓から流れる景色を眺めていた視線を自分の肩に乗るリオベルトに移した。



「良い夢を見ていたらいいな…」








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