なんだあのおっさん!?
翌日の朝、少女たちは各々時間が来るのを待っていた。
「そろそろ時間だわ。少し早めだけど行きましょ?」
「分かったわ」「ok」「いいよ」
全員の確認が取れたため雪梛は走り出した。
電話をしていた朝月が先頭でないのは道に少し自信がないからだ。
「それにしても、言映は大丈夫なの?」
相当の怪我が2週間で治ったと聞いて朝月は少し気になった。
「全然平気。なんか気づいたら治ってた」
「どんな身体なのよ…」
少し困惑気味に朝月が返事した。
「今日はどんなペースで行く?」
「この前と同じぐらいでいいんじゃないかしら」
「うん。そうだね」
少し周りを確認しながら雪梛は返事した。
「どうかしたの?」
「何かの気配を感じる」
集中しながら雪梛は答えた。
「どの辺に感じるのかしら?」
「…後方に20mぐらい離れてる」
「まあいいんじゃないかしら。この戦力なら多分大丈夫」
「慢心は良くないけどあたしもいいと思うわよ」
どうやら全員雪梛ほどでは無いが何かを感じてたらしい。
「じゃあ気にせずこのまま行くよ」
そう言って雪梛は颯爽と走り出した。
雪梛がそう言ってから約20分後、目的の場所へとたどり着いた。
「ここは壊滅させるの?」
着くなり雪梛は朝月に聞いた。
「最終的にはそうなるからいつ攻めに行ってもいいよ」
「じゃあちょっとしたら行ってくる」
「気をつけてねー」
その辺のコンビニに行く程度の話を終えたら雪梛は身体を伸ばし始めた。
「いやー、なかなか早く着いたね」
雪梛たちとは離れた場所で言映は身体を伸ばしながらそう呟いた。
「あらそうかしら?もう相手方も着いている気がするけど」
「いやいや、んなわけ」
「やっぱ気づいていたのかー」
「は?」
言映だけビックリしながら出てきた少女を見た。
「完全にはバレていなかったけどなかなかやるじゃないか」
「いつからつけていたのかしら?」
大方予想がつきながらも香澄は聞いた。
「ここから20kmぐらいの所」
「やっぱりね」
距離を聞いたら言映も気づいた。
「雪梛が言っていたところじゃない?」
「ええ、そうよ」
雪梛は深くは探さなかったがあの時に見つけられる可能性はあったようだ。
「早速で悪いけどあなたの名前を教えてくれるかしら?」
「そっちから名乗らないの?」
「分かりきった問題を解いて楽しいかしら?私は香澄で横のマヌケ面は言映よ」
「しれっとディスらないでもよろしいかな」
言映はノリよくつっこんだ。
「自己紹介どうも。私はりえだよマヌケ面さん」
「流石に名前で呼んでくれないと困るなぁ」
言映と軽口を叩き合ったあと少し鋭く香澄の方を見た。
「で、この後私と戦うの?」
「あなたが良ければそのつもりよ」
「私は全然いいよ。こんな強い人とやることなんて滅多にないからね」
少し尊敬しているかのような目つきをしつつりえはそう答えた。
「何分後が丁度良いかしら?」
「私は何時でもいいよ。なんなら今すぐにでも」
「準備が出来たらまた来るわ」
「待ってるからねー」
香澄は身体を伸ばして準備していた。
「誰だお前は」
「香澄ぐらい名前が無いとこういうの面倒だな」
心なしか雪梛は少し面倒気味に呟いた。
「ガキが。斬り殺してくれるわ」
「そういうのは私に切り傷のひとつでも当ててからにして」
そう言いながら雪梛は不意打ちを2歩ほどズレて避けた。
「チッ、実戦を十分に積んだやつだ。なめてかかると数瞬で壊滅だ」
相手は雪梛の実力を瞬時に分析して味方に注意を呼びかけた。
「そこのリーダーはあんまり弱くないんだね。どうする?私と一騎打ちか大勢でかかってくるか」
「このガキは自分が強いからって調子に乗ってますよ。一気にかかっちまいましょうよ」
部下のような人が興奮気味に声をかけた。
「アホかお前は。相手の表情や仕草をよく見ろ。完全に落ち着ききってるし冷静な状態じゃねえか」
どうやらここのリーダーは雪梛が思っていたよりも観察力に優れているようだ。
「あなたは中々いい眼をしてるね。戦闘能力はあるの?」
「いいや、全くないさ。それよりもあんたはなんでここに?」
少し周囲を警戒しながら男は雪梛に聞いた。
「友人がここで戦いたいから場所をくれと」
「失礼ながら友人の名を聞いても宜しいか?」
男は何となく予想しながら聞いた。
「香澄って人。多分あなたも知ってるでしょ?」
「香澄ってまさかあの銃使いで好戦的な?」
男は仲間に注意を視線で促しながら聞いた。
「そう、その香澄。仲間の心配は大丈夫だよ。最悪私が抑えるから」
「なら私たちに見学させてくれないか?」
「特に何もしないならいいよ。でもその前に私はあなたと戦いたい」
「それはまた不思議だ。香澄さんと並ぶ人が私と戦っても何も得られないぞ」
不思議そうな顔をしながら男は答えた。
「あなた本当は強いでしょ」
「それはなぜそう思うのだ?」
「まずひとつはあなたは良い観察眼を持っていること。そして自身の強さやオーラ的なもの、まあ威圧感みたいなやつを完璧に隠していること。これでも私は死線を何度も超えてきてるけど気づけなかったからこれは予想。まあそんなところだよ」
男は平然を装っていたが驚きを隠しきれなかった。
「やはりあなたはとてもすごい。こんな感想しか出てこなかったが私もぜひあなたと戦ってみたくなった。戦いの前に名前を聞いても?」
「これは失礼したね。私は雪梛。暇つぶしで防衛団に入った新入りだよ」
「では新入りとやらの実力をみるとするか」
そう言葉を交わしあったあと2人は刀を抜いて構え止まった。
15秒程止まったあと男が動き出した。
パチ
2人は刃を合わせると直ぐに後方に飛んで距離をとった。
「同じ型だと面倒だな」
「全くだよ」
両者ともすぐにDFだと見抜いた。
「私が先手をきってあげるよ」
「受けだとわかっていながらか」
相手の答えを聞く前に集中力を高め始めて姿勢を低くした。
「居合切りか。やはり戦いはこうでないと」
そう言うと男は雪梛の方に左足を出して横を向いた。
技の準備をしながら男の構えを見て狙う場所を首から足首へと変えた。
『マイゾーン』
雪梛は技を開始し男に向かって常人なら目に見えない速度で襲いかかった。
男は首以外を狙われていると気づき反射的に刀の先端を地面に垂直にに向けた。
雪梛の刃が当たる瞬間男は刀の柄の部分を殴り飛ばして先端の平に足を乗せた。
「!?」
雪梛と男は驚いて一瞬硬直した。
「なんだ今のは?」
「それはこっちのセリフだよ。あんな避け方見たことないよ。この勝負はあなたの勝ちだよ」
「何で?勝負はまだ始まったばかりじゃないか」
男は不思議そうに聞いた。
「私はあの一刀に勝負をかけていたってだけの話。それよりも本命がきたからどかないと」
雪梛がそう言うと2人は入口から入ってきた。
「あら、気づいていたの?まあいいわ。これから派手にやるから死にたくない人はどいて」
香澄はそう言うと雪梛は見物できそうな場所へ移動した。
「お前らも早く逃げとけよ」
男はそう言うと雪梛の方へと向かった。
「あたし達も雪梛の方へ行く?」
いつの間にかきていた朝月は言映に聞いた。
「そうだね。暇だし行くとしますか」
そう言って言映たちは雪梛の方へと歩き出した。
「いい戦場ね。開けてくれた方々に感謝しないと」
香澄は見渡すなりそう言った。
「あなたは室内戦の方がお好きで?」
いい戦場と言った香澄にりえは聞いた。
「特にないけれど私の新技を見せたいだけよ」
「ふーん。まあいいや。直ぐに始めよう」
そう言うとりえは後方に飛んで距離をとった。
「どっちが先手?」
「そんなものどっちでもいいわよ」
両者自身の銃を確認しながら言った。
「……」
2人は静かに静止している。
そしてそれを見ている観客も静かにしている。
「ちょっとかして」
「ああ。いいよ」
雪梛は言映に水入ペットボトルをもらい空高く投げた。
「ちょっとあんた何してんのよ!」
言映は驚いて止めたが遅い。
ガッ
ペットボトルが地面につくと同時に2人は左右に動き出した。
りえ、香澄はハンドガンを使っている。
バンバン
2人は正確に相手の銃、足を狙っている。
「なんで急所を狙わないのかしら?」
「それはあなたもでしょ」
2人は話しながらも制度を落とさず撃ち続けている。
弾を使い切り最初のリロードに入るかと思ったら香澄は違った。
「!?」
「私は銃だけではないのよ」
銃をホルスターにしまって香澄は殴りへと切り替えた。
とっさに詰めてきた香澄に驚きりえの反応は少し遅れてしまった。
「ふっ」
香澄はりえの左肩を狙いインパクトの瞬間に更に力を込めた。
「な…!」
りえは香澄の拳が左肩に触れた瞬間にものすごい勢いで身体をねじりダメージをほぼゼロにした。
「わお、すごい身のこなしだね」
バンバン
りえに当たらず後方に行ったがそのとき、左腕につけているホルスターから銃を取り出しマガジンを投げて地面に銃を叩きつけるようにリロードし、リロードのついでに逆立ちをして自身がハンドスプリングをする要領で跳ねて銃を撃ち反動でりえの方へ向いた。
「このぐらい出来ないと生きていけないわよ」
香澄は冗談ぽく言いながら次の攻撃を考えている。
「いいの?技を決めなくて」
「ちょうど攻撃方法が決まったわ」
互いの距離は最初と同じぐらいの5、6mぐらいだ。
「これで決めるわ」
香澄はそう言うと銃をセミからフルに切り替え演算を始めた。
りえは身体を脱力させて攻撃に備えている。
香澄の集中力は上がり続けて少しでも動いたら撃たれる気さえした。
ダダダダダ
不意に香澄が動き出し銃をマガジンが切れるまで撃ちはじめた。
りえは香澄の初動を見て一瞬不審に思ったが直ぐにどんな攻撃か見切り銃弾に集中し始めた。
『ブレイクショット』
香澄はそう言って銃をリロードし構えている。
「良くこんなに正確に撃てるよ」
りえはそう言いながら銃を構えた。
香澄のこの技は室内で使えて壁、銃弾を大量に反射させて決め弾を相手に撃ち込む技。
しかしこれを使うにはあらかじめ銃弾をどの角度で反射させるか、どの角度に銃を撃つかを演算しなければならない。
「ここだ!」
キーを見つけたのか銃弾の一発を弾き香澄に向けて複数発発砲した。
「中々良いカンしてるじゃない」
りえは大量に反射している銃弾のなかからさらにキーを弾き再び入れこませないために複数発撃って阻止した。
香澄は飛んできた弾に弾を撃ち込みながらりえを見ていた。
「今回はさすがに危な…何!?」
りえは攻撃場所、タイミングまで分かったが遅かった。
「ぐ…嫌なタイミングで決めるね」
左足の傷を確認しながらりえは言った。
「あと少し早ければと言いたいところだけど残念ね。私の予想通りだったわ」
呆れるかのように驚きながら格闘戦の構えに入っている。
「さっきは技を決めさせてくれてありがとね。今度はあなたが決めてきなさい。カンが正しければ終わりよ」
そう言われるとりえは構えを解き香澄に正面を向き脱力した。
「また先手を、格闘で来な」
「いいわよ。せいぜいカウンターを上手く決める事ね」
発言を読み取ったのか香澄はりえの方に左足を出して殴りの構えをとった。
「もう紅葉も色あせどきだよ」
「この紅葉は色あせないわ」
懐かしそうに香澄はそう言うと先程のりえからコピーした技を使った。
ドカン
りえの左胸に"反射"の速度が加わったすごく速くそして重い一撃が入った。
バン グルグルグル ドォン
攻撃をくらった瞬間に香澄からの攻撃を吸収して右足に移行し、宙を浮きながら回転して右足から着地した際に衝撃を放出してパワーに変えて香澄に殴りかかった。
『パワードライブ』
危機的状況下でりえがとっさにうみだした技だ。
「!?」
あまりの速度に驚いたがそれでも事前に突き出していた左手を正確にインパクトの瞬間に合わせて可能な限りの速度で引いた。
バコーン
「はあぁぁぁぁ!」
まさかの動きに驚き目を大きく開けて香澄を見た。
「本当に凄いね。あたしの技の詳細を見抜くだけでなくコピーするなんて」
「最近の強敵は変な技ばかり使うもの。強いものは使わないと」
香澄は左腕をだらりと下げながら言った。
「よく手が吹き飛ばなかったね。タンクローリーぐらい吹っ飛ばせる勢いで殴ったのに」
「あなたの技…反射を使ったのよ?2+でないにしろ私の方が速度が出たみたいね」
りえは本当に驚きながらその場に座った。
「本当にすごいね。全部見抜いてくるなんて。でもそれは予測かな?実際そこまでヒントを出していたわけじゃないから」
「あなたもあながちあほでは無いのね。頭がきれていたり常に冷静な人は好きよ」
香澄もそう言いながら座った。
「にしても、随分緊迫した戦いだったわね。お昼ご飯が食べたいわ。もしよかったらあなたも食べない?」
「じゃあそうさせてもらおうかな。話したいこともあるから」
そんな会話をしながら2人は立ち上がり雪梛たちの方へ歩きだした。
「なかなかすごい戦いだったね」
深いような浅い感想を言いながら雪梛は作ってきた弁当を香澄に渡しながら行った。
「あら、わざわざありがとね。私も久々に良い戦いをさせてもらったわ。ところでさっき話があると言っていたけど何かしら?」
回答を期待するように香澄はりえの方を見ながら問いかけた。
「もう本題に入るの?けどその前に自己紹介。私はりえ、刀より銃のが好きだから銃を使っているよ」
「わざわざありがとう。私は雪梛でこのロングが朝月…てみんなロングか。どうなってんだこのメンツは…」
雪梛はそんな自己紹介をしながら弁当をしまっていた。
「早速で悪いけど話があるよ。まだというより知らないと思うけど防衛団がトーナメントを隠れ開催するらしいんだって。エントリーの受付は今日から一週間後までで開催は二週間後だって。話はこれで終わりだよ」
「なんで防衛団がそんなことをするのかな?」
頭が回らない言映が訳がわからないよとでも言いたげな顔で聞いた。
「まあ多分新人や戦闘経験が少ない人の育成の目的かな。だからあんまり成果を上げていない人とかに招待状みたいなのを配っているらしいよ。誰でも出ることはできるらしいけど私は良いかな。あなたたちは?」
「あたしはいいかな。戦うよりも育成の方が好きだから」
朝月はそう言うと立ち上がって帰り支度を始めた。
「私は出るわ。もちろん雪梛も出るわよね?」
「私も出るよ。言映はどうするの?」
あんまりよく聞いていなかった言映は少し考えてから喋った。
「あたしはいいかな。まだ本調子じゃ無いからさ」
「そう。あなたも身体ぐらい毎日しっかり動かしなさいよ。そうすればすぐにでも調子が戻るわ」
そう言って全員立ち上がり帰り始めた。
こんちゃ。作者です。
ようやっとカオス感が出てきました。
これからももっとカオスになるんでご期待ください。
それじゃ次回で!