明るい部屋
重い話がある日。
雲すらない。
とても、晴れた日。
秋の乾いた空気。
そんな日のほうが気が重い。
忘れられない日になってしまう。
こんなに気持ちのよい空が思い出す鍵になってしまう。
いっそ、どんよりか雨なら
気が紛れるのに。
同じどんよりなんて滅多にない。
忘れられるのに。
失敗した。
ママ足痛い。
お気に入りのYOUTUBERの週1回の夜9時からのライブ配信に参加していた。
これは、見ている視聴者がチャットに参加できるというもの。
ライブ配信を見ている視聴者のたまの鋭いコメントと配信者の温かな雰囲気が楽しみで、いつからか自分も参加するようになっていた。
先週は、上手く子供達を寝かしつけて、静かな環境で楽しもうとしたけど、上手くいかず。
あと少しで9時だゴールだ!というところで絵本を読みながら私が寝てしまった。
次の週。
今回は子供が寝ない。
ずっと話かけ続ける子供達。
どっちが私と話すかで揉める子供。
ちょっと人気者気分を味わい嬉しい私。
言葉を交わしたいのではなくて、心を通わせたいのに、上手く言葉を使いこなせない私。
昔から沢山の言葉を吐くしか方法がなかった。
そして相手と心が通じあう事は少なかった。
子供達が多言症ぎみなのも、心を通わせたいから。
知っている言葉を出して、どれが心を通わせる鍵なのか分からずに、必死に何個も何個も鍵をくりだしているのかもしれない。
話しかけられすぎて見られない。
とうとう、弟も寂しくなったのか、
今度は、
「ママお姉ちゃん足痛いから来て。」
と呼びにきた。
のに自分の布団に私を案内する。
子供達は、寝はぐれた時は寝入りに私がいないと寝られない。
諦めた私は、温かな空気の中に、いつも通り添い寝する。
その温かさに、また、寝てしまった。
「ママ足痛い。」
夜中の2時
娘が私に話しかける。
痛み止めを飲ませた。
まだ痛いと言う娘。私は足をさすった。
痛み止めが効いてきたのか娘はすぅと眠る。
私はまだ、さすっていた。
私は2人の人間を思い出していた。
TVのある小さな休憩室。
リハビリで私は建物の中を一人でウロウロ彷徨っていた。
そして、この部屋にたどりついた。
こんな部屋があるんだ。
素敵な薔薇柄のバスローブを着た、女優さんみたいなおばあちゃんが入ってきた。
私の隣に座ると悲しそうに話しかけてきた。
「足が痛いの。
靴下を履いていれば、大丈夫だというのだけどね、足が凄く痛いの。
痛い。痛い。痛い。」
ソアー ソアー ソアー
と目に涙を浮かべていた。
昔、TVで終末期の患者さんにマッサージをすると凄くいいというのを見たのを思い出した。
私の片方の親指のつけ根には点滴用の針が入っていたから使えなくて。
しょうがないから片手でおばあちゃんの足をさすった。
両手ならもっと上手くできたのにな。
と思いながらしょうがないから、ぱんぱんに浮腫んだ足をイビツにおってしゃがんだ。
やりにくい。と思いながら下から上に足をさすった。
おばあちゃんは凄く楽になるといいながら、とつとつと不満をもらす。
私も、言葉が万全ではないから。
私はうんうんと頷くくらいしか出来なかった。
だけど、不思議とおばあちゃんと心が通じたのを感じた。
おばあちゃんの心が寂しく痛むのを感じた。
ずっと、冷たい足をさすっててあげたいなと思った。
通りかかった看護師さんがビックリしたように、おばあちゃんと私を引き離した。
看護師さんは、なぜか私に悪いと思ったようで、おばあちゃんが迷惑かけてごめんね。
と言って、おばあちゃんに靴下履いてたら、そのうち楽になるから、大丈夫だよ。
などと優しく背中をさすりながら説得しながら連れていった。
翌日、またいるかもとマッサージ用のクリームを持って同じ時間に行ったけど、もう会える事はなかった。
病室のほうも見に行った。
ここはそういう場所だった。
長く眠ったまま。
生きているから夢をみる。
「ママお腹いたい。」
小学生の私は、夜中に母の部屋に行って声をかけた。
母は胃薬を出すと私に飲ませてくれた。
布団に戻ると胃の辺りがスーッとして、うとうと。
朝日が見えないけど、空が少し明るくなってきて、新聞の配達のバイクが帰っていく、今度は途切れないバイクの音を聞きながら私は眠った。
本当は、うちの子供達みたいにお布団に入って母と一緒に寝たかった。
母はクタクタで出来なかった。
娘には朝まででも足をさすっていてあげたいな。
でも、これは余裕があるからできるだけで、できなくなるかもしれない。
あの愛情深い母が出来なかった事を私ができるわけがない。
もの凄い不安にかられた。
彼はどんな気持ちで
別居したいんだ。もういいよね?
という私の言葉を聞いたのだろうか。
小さく
うん。
と言っただけだった。
そして、いつもより家や子供の事をやってから髪を切りに行った。
イベントがあると髪を切りに行く人。
いつもより早く帰ってきた。
反論も何もない。
そして次の日、夫は子供達を連れて遊びに行った。
本当にいいお父さん。
ベランダには夫がつけてくれたイルミネーション。
でもカーテンのフックが2か所もとれて、だらしなく空いていた。
前なら、すぐつけていた。
部屋もこんなに散らかっている。
前ならイライラとかたしたけど、今は、子供達が遊んでいた愛しい形跡だな。
と眺めている。
転がるぬいぐるみ、本棚の本を一冊だして、それをトンネルにして、転がっているビー玉を通したのかな?そのあと、紙にお絵描きしてチケットをつくって、ピアノを椅子において、ティッシュとトイレットペーパーの芯でマイクを作ってセロテープで固定して、ぬいぐるみはお客さんだったのか!?
いい天気すぎて気が滅入る。