第三話 分度器の由来
「日直、黒板。」
「すいません。今消します。」
「しっかり消せよー
少しでも残ってると関数が見にくくなるんだ。」
昨日は寝れなかった。というのも、5日後何が起き、被害がどれぐらいか、そもそも犯人の動機や方法、刑罰も全て分かっているが肝心の犯人の名前が少年法によって分からないため、誰によって起こされたのかが分からなかった。しかし、犯人の性別は男性と書かれているため、候補の9人の内6人は女であるので3人まで絞れる。
「(おい、どこ向いている!!前向け」
「すいません」
まぁ、犯人が誰かなんて前日になれば分かるんだけどな。
「おかえりなさい。今日もお疲れ様。」
「小百合おばさん、ただいま。」
「ミナミとマサシ以外帰ってるわ」
「わかった。」
この施設は2階建てだ。1階にはキッチン、娘2人と小百合おばさんの3人分の部屋、ロビー、脱衣所、そして倉庫があり、2階に自分を含めた10人分の部屋と4人分の空き部屋、そして共同の大きな空間がある。施設というだけあってかなり広く、廊下が長いのも特徴的である。
「なんだ、帰ってたの?」
「あぁ。」
「、、、。」
「今からどっか行くのか?」
「いや。」
「なんだ?手伝いか?」
「うん。」
「アヤカは偉いな。」
「、、、。」
どうしても血が繋がっていないため、当たり前だが家族ではない。たまたま同じ施設にきた他人である。なので遊びに行ったりはするが、各々プライベートがあり、深くまでは踏み込んではならない。だから他の9人がどのような境遇でここに来たのかも知らないし、何に今一番関心があって、何を思っているかなんて言うまでもなくわからない。こんぐらいの距離感で今までやってきたんだからこれからもずっとこのままで良いと思っていた。
仮に定規を用いて、2本同じ線を書けと言われたら、5度ぐらいのズレの場合、最初は気づかないが長く引けば後に大きな差が出て、2本の線は全く重なり合わない。しかし、実際には10cmぐらい引いたところでズレに気づき修正ができ、肉眼ではほぼ重なっていると言えるだろう。この修正ができないのは10人という群集的問題によるものなのか、血のつながりがないという遺伝的問題か、それとも人と心から信頼したことがなかった者達から生まれる必然的なことだろうか。
「コンコン。」
「!!」
「入るよー」
「?」
「ちょっと手を貸してくれない?」
「なに?」
「ユウマをみてきてよ」
「なんで?」
「最近ずっと引きこもりで、学校も行ってないって小百合さんが言ってたから、同じ男として見てきてよ。」
「、、、。」
「小百合さんが困ってるんだよ。」
「わかった。すぐ行く。」