4、未来の知識(前)
「それで、君は未来から来たと?」
金井には到底、信じられなかった。
少女が未来から来たと言う話も、今後、日本に起きる悲劇についても。
勿論、百パーセント信じているわけではないが、少女の話があまりにリアルなもので思わず聞き入っていた。それに、日本の今の政治を否定するような内容が多いので、そんな事を人に言ってはいけない、特に、政府の人間にはダメだと、そう注意してやるつもりだった。
「世界には、何度も分岐点が訪れるんだ」
少女が続きを話出したので、金井は耳を傾けた。
「そのうちの一つが、日露戦争。日露戦争に勝てたのなら、日本は第一次世界大戦の戦勝国となって、第二次世界大戦や太平洋戦争で負けても、結局、バブル景気で国内の経済を回復させて世界第二位の経済大国に昇り詰められる」
その後、経済が低迷するんだけど……と少女は付け足してから表情を引き締め「でも……」と切り出した。
「日露戦争に敗北した日本は、そのまま、ロシアに本土進攻を受け、十年に渡る第二次日露戦争に突入する。国土は荒れ果て、北海道と樺太はロシアの植民地になり、そして十年後、敗北する。その先は……」
子供の作り話とは思えないほど現実的な進み方だな、と金井は思った。
それから、もし、これが本当なら、と思った。
「……何か、君が、未来から来たと信じられる物は無いか?あまりに突拍子もない話で……」
「服ぐらいしか……あぁ、そうだ。これを見て」
少女はポケットから「スマートフォン」を取り出し、金井へと見せた。
金井には、一見、ただの小さな板のように見えたが、少女が電源を付けると画面に海の写真と時刻が写り、金井は「おぉ」と声を漏らした。
「これは、未来で作られたスマホっていう物なんだけど……」
少女へ画面をタップして、写真のアプリを開いて見せ、録ってあった写真を見せたり、パシャリと金井の顔を録ったりした。
これほど小さいというのに、どれも、流通しているカメラで撮った写真より鮮明で、これで電話も出来るとこれば、金井は少女の話を信じざるおえなかった。
「すごいな……これは」
金井は少女から受け取ったスマートフォンを上から下から覗き込み、不思議だ、不思議だと何度も呟いた。
「これで信じてくれる?」
少女に言われ、金井はコクコクと頷いた。
「君が未来から来たというのはよく分かった。そこで、提案なんだが……日本を、日本の未来を救うため、今後のロシアの動きを教えてくれないか?未来から来たというのなら、知っているだろう。敵艦隊の動きでも、大まかな作戦でも、兎に角、何でもいい。知っている事を、何でもいいから教えてくれないか?」
少女は首を横に振った。
「そんな詳しい事は分からない。歴史の授業でやらないもの。でも……私の父はシステムエンジニアなの。未来の技術なら、教えてもいいわ」