私たち入学したばっかりで!
翌朝早く、ロキとアンナはルーハドルツの街に入った。
警備の目が多い学園内部に侵入するのは危険だと考えたアンナは、学園外を歩いている生徒から制服を拝借し、新入生を装って情報を集める計画を立てた。
テスト勉強のために朝早く出てきた様子の男女二人組の生徒を見つけ、意識を狩ると、アンナとロキは制服に着替えた。
ルーハドルツ魔法学園の制服は、女子は黒色のケープにワンピース。男子はシャツとズボンに膝まであるローブを羽織る。そして男女共通の臙脂色のネクタイをつければ完成だ。
「何着ても似合うわね。」
長いローブが背の高いロキによく似合っている。ロキがクラスにいたら、たくさんの女の子に群がられることは間違いないだろう。
昨日魔法具の店で調達した変身魔法が込められたパワークリスタルでアンナとロキは髪の色を変える。アンナは赤髪へ、ロキは黒髪へ。
パワークリスタルというのは魔力を蓄えることができる鉱石だ。基本的に魔法を使うには生まれつきの才能が必要だ。魔力を持たない人はどんなに努力しても魔法は一切使えないし、才能に恵まれ魔法を使えたとしても一人の人間が使える魔法の種類は通常一つだ。
しかし、他の魔法使いが魔力を込めたパワークリスタルを利用することで、その人の魔力を借りることができる。ピグミーハウスにも使われており、この世界での生活に欠かせないものとなっている。
「私達入学したばっかりで!カルムさんに憧れて入ったんですけど、何か知ってることがあったら教えて欲しいです!」
アンナは渾身の演技で魔法学園の新入生を装う。ルーハドルツの街の中を歩き回り半日ほど学生に声をかけて回った。
「……ダメね。いい評判しか入ってこない。」
魔法学園近くのカフェテラスでアンナはぐったりと机に突っ伏した。サンドイッチを一皿ほど平らげてお腹は満たされたけれど、疲労は抜けない。未来に夢見る新入生を演じて、ドッと疲れが来ている。
「ああ。気になることといえば、セドラックというレストランによく出入りしている姿を見るって情報くらいか。」
ロキの方はいつも通り涼しい顔をしている。ロキに声をかけられた女子生徒が顔を真っ赤にしていたが、全く気付いていない様子だった。
「そうね。探りを入れてみましょうか。」
アンナは乱れた髪を整えた。
「歩き回って疲れただろう。飲み物のおかわりもらってくるよ。」
「ありがとう。」
ロキは空になった皿を持って席を立つ。
カルムが頻繁に出入りしているレストランは会員制の高級店らしい。どうやって潜入したものか、アンナが考え始めた時だった。
「ねぇ、カルムのこと知りたいの?」
魔法学園の女学生に声をかけられた。鮮やかなピンク色のショートヘアとお揃いの丸い目が可愛らしい少女だった。
「……ええ。」
ルーハドルツの生徒なのだろうけど、もう昼休憩も終わって授業の時間のはずだ。わざわざ声をかけて来たのは何故だろうとアンナは訝しく思った。
「実はカルムが貴方に会いたいって言ってるんだ。」
呼び捨てにしているあたり、カルムと知り合いなのだろう。
不審に思ってアンナは身構える。
「どうして新入生の私と?」
少女はキャハハと声を立てて笑って、首を振る。
「違う違う。闇の魔法使いで脱獄犯の貴方と会いたいって言ってるんだよ!」
アンナは立ち上がってこの場から離れようとした――が出来なかった。足がふらついて椅子に倒れ込んだ。とてつもなく眠いのだ。
「薬、効いてきたみたいだね。」
食べ物に睡眠薬を混ぜられていたのかとアンナは辛うじて保った意識で考える。だとしたらいつから狙われて……
眠気に抗えず、瞼が閉じて、視界が真っ暗になった。
「おやすみ。闇の魔女っ子ちゃん。」
その言葉を聞いたのを最後に、アンナは気を失った。