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だって滑稽なんだもの


 アンナがユリスに案内されたのは、マドル家の敷地内にある植物園だった。


 ユリスについて歩いて行くと、植物園の中にある温室に辿り着いた。ガラス張り屋根と白い壁で作られたその建物は、小さな宮殿のようで可愛らしかった。

 


「闇の魔法を使える人間をオレはずっと君を探していたんだ。」



 ユリスは扉を持ってアンナに温室の中に入るよう促す。促されるまま、アンナが建物内に足を踏み入れると、花の甘い香りがした。淡い色の花やギラつくような派手な色の花、アンナが見たことのない植物が整然と植えられていた。



「触っちゃダメだよ。オレは平気だけど、ここにあるのは毒がある植物ばかりだから。」



 アンナはユリスにそう言われ、手が当たらないように腕を組んだ。見た目は美しいが、それでも内には毒を秘めている。まるで目の前を歩く少年のようだ。



「……貴方はあの研究施設にいた子供なの?」



「確か昔は執政官をしていたんだっけ?流石に物知りだね。」



 ユリスはこちらを振り向かず話に応じる。ユリスの身につけている高級そうな革靴がコツコツと規則正しい足音を立てている。



「解体されたって聞いたけど……」



「そうだね。解体されて然るべきだよ。」



 思うところがあるのだろう。叩きつけるようにユリスは言った。



「何かを飲んだり食べたりしたって、闇の魔法が使えるようにはならない。だけど、あの施設の研究者はそれが理解できなかった。だから試した。集めた子供に人体に有害かどうかは構わず、噂程度の信憑性でも効果があると言われた物を摂取させてね。」



「そんな環境でどうやって生き延びたの?」



「オレは元々魔法の才能がなかったんだけど、生存本能っていうのかな。死の間際で毒の魔法に目覚めて、毒の耐性を得たんだ。そして、死んだ仲間の魂を使って使い魔を作った。その後、興味本位で研究施設を覗きに来た物好きな貴族がいて、そいつを脅してオレを買わせて施設から抜け出したんだよ。」



「それで、今の地位を確立したってわけね。」

 

 

 ユリスがクラゲの使い魔を出して、鉢植えを持ち上げさせる。その下には地下へ続く階段があった。



「生きるために必要な飲食をする度に毒物が含まれていないかという生死を分ける判断を迫られる。この家の人間は壊れていったよ。オレの言うことなら何でも聞くようになった。」

 


 アンナは椅子一つだけが置かれた無機質な部屋に通された。


 

「座って。アンナ・リリス。」



 アンナは言われるがままにその椅子に座った。クッションのついた上等の椅子だったけれど、初めて行く美容院の椅子のような座り心地の悪さを感じた。


 ユリスがこちらに手を伸ばしてきた。アンナが思わず退いたのにも構わず、ユリスはそのままアンナの首のリボンに手をかけ、解いた。



「やっぱりあるんだ。半信半疑だったけど。」


 

 黒い薔薇の模様をユリスはじっと見つめる。リボンを取り去りたかっただけだと分かって、アンナは息を吐いた。



「黒い薔薇の花言葉は『貴方はあくまで私のもの』だっけ?愛されてるんだね。」



 知らなかったがそういう意味なのか、とアンナは思った。呪いのような愛情を悪魔はリリスに向けている。



「貴方は何故、研究施設の目標を継ぐの?」


 

 アンナの前に立つユリスと真っ直ぐに目があった。ユリスの緑色の目には、底冷えするような暗さがある。

 


「それがあの施設で死んでいった子どもに報いることだと思っているからだよ。」



 アンナは試しに煽ってみることにした。



「フフッ」



「……?何が可笑しいの?

そういう作用のあるものは投与してないはずだけど。」



「だって滑稽なんだもの。貴方のやってることが。」



 ユリスは表情を変えずに頷く。



「……うん。自分でも分かってるよ。そんなことしても無意味だって。」



「闇の魔力の研究を続けることは、貴方の人生をめちゃくちゃにした人達に貢献することよ。それで貴方は満足なの?」



 ユリスは鬱陶しそうに溜息をついた。



「五月蝿いよ。実験台は黙っててくれる?」


 

 腕に痛みを感じた。

 慌てて見ると噛み跡がついていた。アンナはその意味を瞬時に理解して、全身に鳥肌が立った。

 

 この場に不釣り合いな動物の鳴き声がして、アンナが顔を上げると、ユリスの肩に黒い猫が乗っていた。


 使い魔の猫に噛ませることで、アンナに魔力を暴走させる薬を投与したのだろう。しかも効果が高いものを選んでだ。

 噛まれてからまだ数十秒しか経っていないのに、魔力が膨張している感覚に襲われた。アンナは溢れ出そうになる魔力を必死で押し留めた。



「薬の効果が切れた頃、また来るから。」



 そう言い残して、ユリスは部屋を出て行った。


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