神話
話を要約すると、こうだった。
○○○
この世界には、二人の女神がいる。
一人はラーミル、一人はリーミルという。
二人はとても仲が良かった。
ある日、二人は協力してある世界を造った。
それが私達がいる世界なのだという。
そして、それを見守るために、それぞれ「使い」を生み出した。
「使い」とは、通常よりも高い能力を持つもの。
ラーミルは女を、リーミルは男を、模したものを。
言い方を悪くすれば、二人の命令に従う人形。
世界で異変が起きたとき、対処できるように。
それらを生み出してから、しばらくして。
二人は対立する。
原因は、考え方の違いだ。
二人は世界を造り出したが、なかなかうまく回らなかった。
そのため、世界を造り替えて、その世界の常識を作ろうとしたのだ。
そこで違いが生まれた。
ラーミルは、困難に打ち勝ってこそ幸せが手に入るものだと思っていた。
災害や戦争など、多少の犠牲は出ても、大きなものに打ち勝つ、その先に幸せがあると。
リーミルは、平和が一番で、何もないことほど幸せなことはない、そう思っていた。
ずっと平和で、何も起きない、誰も犠牲にならない、ただ幸せに暮らすことが一番だと。
二人はそれぞれの考えが認められず、実践してから決めることになった。
この世界を模した、この世界よりも小さい別の世界をそれぞれ造り出し、自分が思い描いていたものを再現した。
結果は散々だった。
ラーミルの世界は、初めは戦争が起き、災害が起こり、多くの犠牲が出た。
その中から生き残り、幸せを掴み取ったもの達は、なにもないのが一番だと、戦争をやめ、災害などのの対策をして暮らすようになる。
しばらくは平和になったが、また争いの火種ができて、戦争が始まった。
さらに災害も加わり、世界は波乱の時代になる。
その繰り返しだった。
リーミルの世界は、初めは何もなく、ただただ平和な、争い知らずの世界だった。
しかし、天候などで食糧難が起き、人々は争うようになる。
武器ができて、国ができて、対立して、戦争になる。
生き残りは、ただ平和を望み、争いを終わらせる。
平和が戻ったと思えば、また新たな火種が生まれる。
その繰り返しだった。
二人の世界は、結局のところ同じだったのだ。
ただ、始まりが違うだけ。
ラーミルは、あることに気づいた。
この世界の人々には、心がある。
きちんと考える頭脳があり、それぞれの個性があるのだと。
それを生み出したのは、自分たちではないか。
ということに。
しかし、リーミルは気づけなかった。
気づこうとしなかった。
なぜ自分が考えたとおりにならないのか。
自分は女神なのだから、自分の思いどおりになるのが当然ではないか。
そう思い、ラーミルに何も言わず、止められても聞かず、世界を強制的に自分の思いどおりになるように変えてしまった。
ラーミルは、リーミルが突然そうしたことに驚いた。
今までは仲が良かったのに、想い一つでこんなに変わってしまうのか、と。
世界がリーミルの手中では、世界の人々が思考を放棄してしまう。
世界を造り出した意味がなくなってしまう。
ラーミルは、自分の限界まで力を振り絞った。
自分の使いをより強力なものに変えて、リーミルの意思どおりに動かなくして世界に放ち、リーミルを眠らせて、世界の人々が自由に、思いどおりに動けるようにしようとした。
リーミルは、それが許せなかった。
眠る直前、リーミルも使いを変え、ラーミルの使いを殺すように命令した。
そうすれば、少しは自分の思いどおりになると思ったからだ。
そして、力を振り絞った二人は、今も長い眠りについている。
その二人を目覚めさせられるのは、二人の使いだけ。
○○○
「…………そのリーミルの使いが、俺なんだ」
「え、ま、待ってください!情報量が多すぎて………!」
「…………そうだな。少し待つ」
なんだこの話は。めちゃくちゃ壮大な話だな。
というか、リーミルっていう女神、酷すぎるじゃないか。
ラーミルは本当に元はリーミルと仲が良かったのか?
面倒をかけられ過ぎてるじゃないか。
「って、ええぇ!リーミルの使いって、えぇえ!」
「…………信じられないかもしれないが、本当の話だ」
「え、じゃあ、私が人間じゃないっていうのは……?」
「…………お前なら、わかるだろ」
私なら、わかる?
確か、リーミルは自分の使いにラーミルの使いを殺すよう命じていて、私はすでに彼に百回殺されていて………
ということは。
「私が、ラーミルの、使い?」
「…………そういうことだ」
「え、は、な、なんで、わたしが?だって、私にはそんな記憶もないし、」
「…………お前を送り出す前に、ラーミルが消していた。周りに馴染めるように、だったか?」
そうか。元は、リーミルに気づかれないようにしていたから。
でも、こんな話、すぐに吸収できる話ではない。
「能力が、高いっていうのは……?」
「…………主に身体、頭脳。寿命もないはずだ。あとは、一つだけ、人間にはできない事ができる。」
「人間には、できない事?」
「…………俺の場合は、」
そう言った瞬間、彼の上げた腕が毛皮に覆われた。手の形まで変わっている。
「な、な………!」
「…………変身能力。姿を変えられる。……触るか?」
「え、ええと、じゃあ………」
恐る恐る触ってみる。
確かに、長い毛が生えていた。
しかし。
「で、でも、この手で、あなたは、わ、わたし、を………」
「…………すまない」
「………………え?」
「…………今考えると、自分がおかしかったと思うんだ」
「おかしかった?それって、一体……?」
まさか謝るとは思っていなかったから、かなり驚いた。
そして、おかしかった、とは一体何なのだろうか。