出会い
私はルーラ・クリフ。十七歳、女。
れっきとした人間で、ある小さな村に暮らしている。
……………今生では。
○○○
「ルーラ!外の洗濯物取り込んでくれる〜?」
「はーい、お母さん!」
私は父と母と、3人で暮らしている。
父は昼間、働きに出ている。帰りはいつも同じ時間。
母は家事をする。料理、洗濯、掃除、買い出しなど。
私はそんな母を手伝ったり、本を読んだりしながら過ごしていた。
朝ご飯と夕ご飯はみんなで決まった時間に食べる。
家族仲の良い、幸せな家。
いつも笑顔で溢れていた。
ずっと、続いてほしい。そう思っていた。
洗濯物を取り込んでいく。
するりと一枚、タオルが手をすり抜け、風に飛ばされていった。
「あ、待って!」
ほかは飛ばないよう、取り込んだ中から重い上着を取り出し、重しをしてから追いかけた。
タオルは、あまり入ってはいけないと言われている小さな森に入っていった。
○○○
「ふぅ、よかった。すぐ捕まえられて」
幸い、きのみを取りにたまに入る、あまり深くない場所の木の枝に引っ掛かっていた。
「早く戻らなきゃ。お母さんが心配してしま……う………」
言い終わる前に、目の前に立つ黒い影に気づいた。
…………殺られる。
とっさに身構えた。
衝撃はこなかった。
よく見ると、影は黒いフード付きのマントだった。
体も、人間だった。
「あなたは……誰、ですか?」
恐る恐る聞いた。
返事がない。
と思えば、真ん前に来ていて、長めの爪がついた手で顎を掴まれていた。
息が、止まる。
「俺は、………お前を、殺しに来た」
一泊おいて聞こえたのは、低めの声だった。
フードから覗く顔は、自分と同じくらいの歳の男の人で。
瞳は、真っ暗な空洞のようだった。
○○○
「………ーラ、ルーラ!」
「?…………あ、れ?」
「あぁ、よかった、目が覚めたのね!」
目が覚めると、ベッドの上だった。
どうやら、気を失っていたらしい。
「本当に良かったわ!タオルは心配しなくていいからね。今度からは何も言わずに森に行ったらだめよ!」
「え、お母さん、私、なんで……?」
「そうだった!あなたを助けてくれた人がいるのよ。今連れてくるから、その人に聞くといいわ!」
意味がわからない。
人があの森に入った?信じられない。
それに、会ったのは私を殺しに来た人だけなのに。
どうして私は死んでないんだ?
「ちょ、ちょっと待って!私は」
「大丈夫、優しそうな人だったから!実際、あなたをここまで連れてきてくれた人だし」
「そ、それはそうだけど!でも!」
「じゃあ、ゆっくり休んでてね!」
「お母さーん!」
母は少し強引なところがある。
そうなると、父でも止められない。
それをまさに発揮して、部屋を出て行ってしまった。
それから数十秒後。
ドアがノックされた。
少し身構えながら、「はい」と返事をした。
ドアが開かれる。
入ってきたのは、やはり、黒マントの男の人だった。
フードは脱いでいた。
きれいな黒髪と、真っ暗な瞳が光に照らされて佇んでいた。
まっすぐ、こちらを射抜くような視線に貫かれる。
私は、再び息が止まりそうになった。
「あ、えっと……!」
「…………調子は、どうなんだ」
「……………………………へ?」
その質問は予想外だった。
すぐに殺されるかと思ったりしたけれど。
「ま、まあまあ、です、かね………」
「…………そうか。」
「……………………」
「……………………」
沈黙が怖い。
なにか下手をしただろうか。
今度こそ殺される?
「あ、あの!」
「…………なんだ」
「え、ええと……」
話は聞いてくれるらしい。
私には、ずっと疑問に思っていたことがある。
私には分かっていた。
この人は、今まで色々な姿で私を殺してきた、本人だと。
「………なぜ、私を殺すんですか?」
「…………………」
「あ、えと、その……!」
やばい、黙ってしまった。
あまりにも直接的すぎただろうか。
でも、回りくどくするのは嫌そうだし、そんなことしてなかなか話を進めなかったら殺されそうだし……
しどろもどろになりながら会話を続けようとすると、
「…………それは」
「!」
「…………俺が神の使いで、お前が人間じゃないからだ。」
「…………………………は?」
突然、そんなことを言ってきた。
私には全く分からなかった。
「か、神の使いって何なんですか?わ、わ、私は人間でしゅよ!」
「…………ふは」
「………………………………!?」
わ、笑った……?
あの残酷な人が?
なぜ?私が噛みまくったから?
笑う人には思えないのだが。
「…………噛みすぎだろ」
「な、な、な………!わわわ、笑って…………?」
「…………声も出ないのか。当然か」
「だ、だだだって、あなたは、あの、わ、私を……!」
だめだ、これでは私のほうがおかしくなっている。
落ち着こうとしたが、やはりこの人の前ではだめだった。
「…………無理に、喋るな」
「……え?」
「…………俺が話すから。落ち着け」
この人は心が読めるのか。
そしてなぜか優しい……?
いや、騙されてる可能性もあるかもしれない。
とりあえず、深呼吸、深呼吸………
「落ち着き、ました。少し」
「…………なら、いい。長くなるが、話していいか?」
「はい。おねがいします」
私は、まずはこの人の話を聞いてみることにした。