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森の奥

作者: 大川雅樹

 ある村に住む、かおるちゃんは小学二年生です。日曜になると家の裏にある森で、二つ上のお兄ちゃんと一緒に遊びます。二人っきりの兄妹です。

 今日も遊びに行こうと靴を履いているかおるちゃんに、たまにはもっと奥まで探検しよう、とお兄ちゃんの声が聞こえました。

「いいわね。うん、行こう、行こう。」

 そして、かおるちゃんは、お兄ちゃんの背中を見ながらついて行きました。

 だいぶ奥まで歩いたところで、かおるちゃんは蝶々を見つけました。金色をした蝶々です。

「まあ!きれいな蝶々!」そう言って、かおるちゃんは蝶々を追いかけました。

「待ってぇ~。」

 かおるちゃんは、ハッとしました。気づくとお兄ちゃんの姿が見当たりません。

「お兄ちゃん!?」かおるちゃんは大声で叫びましたが、返事はありません。どうやら迷ってしまったようです。

 かおるちゃんは、歩き回りながら「お兄ちゃ~ん!」と何度も呼びました。

 すると、こっちだよ、とお兄ちゃんの声がしました。

「どこ?」かおるちゃんは、辺りを見回しましたが、お兄ちゃんの姿は見えません。

 また、こっちだよ、と声がしました。かおるちゃんは、声のした方に行きました。

 急に開けた場所に出ました。そして、かおるちゃんは、目を見張りました。

 それは、人があぐらをかいて座っている形をしていましたが、異様なのは全身にたくさんの色とりどりの蝶々がびっしりと止まっていたのです。

 かおるちゃんは、恐る恐る近づきました。

 すると蝶々たちは、いっせいに飛び立ちました。そこにまだ若いだろう男の人が現れました。Tシャツにジーパン姿です。

 男の人は、目を開いてかおるちゃんを見て言いました。「こんにちは。」

「お兄さんは誰?村の人じゃないわね。」

「えらい奥まで来たんだね。僕はこの森に住んでいるんだよ。」

「さっきの蝶々は何?」

「蝶々?ああ、あれが見えたのか。あれは妖精だよ。普通の人には見えないはずだけどね。」

「一人で暮らしてるの?食べ物はどうしてるの?」かおるちゃんは、興味津々です。

「森には木の実もあるし、食べられる野草もある。川もあるから困らない。食べられなくても、さっきみたいに妖精達が元気をくれるんだ。」

「なんか仙人さんみたいね。冬は寒くない?」

「巣穴でクマと一緒に冬眠するんだ。クマはとっても温かいんだ。」

「さみしくないの?」

「森の動物みんなと仲良しだからね。人間関係の方がわずらわしいや。でも、こうやって人と話すのもいいもんだ。」

「あっ、そうだ。わたし迷っちゃったみたいなの。」

「妖精に案内させるよ。」

「本当、ありがとう。でもお兄ちゃんはどこかしら?」かおるちゃんは、ふあんげに不安げに言いました。。

「君は一人で森に来たって妖精が言ってるけど。」

 かおるちゃんは、目を丸くしました。その目から涙がこぼれだしました。

「君のお兄ちゃんは一年前に病気で亡くなったんだね。君の後ろで君を守っているよ。ここに導いたのもお兄ちゃんだよ。」

「そうよ、お兄ちゃんは死んじゃったのよ。でも、それを認めたくなくてお兄ちゃんと遊ぶふりをしてたのよ。」かおるちゃんは、座り込んで涙が止まりませんでした。

「お兄さんはお兄ちゃんと話ができるの?」

「うん。」

「私の事、何て言ってる?」

「大好きだよ、かおる、って。」

 かおるちゃんは、また、わーっと泣き出しました。妖精達が次々にかおるちゃんに止まりました。

「お兄ちゃん...お兄ちゃん...お兄ちゃん...」

 妖精達がびっしりと、かおるちゃんに張り付いています。

「なぐさめてくれるのね、ありがとう、ありがとう。」

 しばらく、かおるちゃんは、気が済むまで泣きました。

 そして、かおるちゃんが立ち上がると、妖精達も離れていきました。

 かおるちゃんは、涙をふきながら、男の人に言いました。

「何だか気持ちが楽になったわ。お兄ちゃんごっこもやめるわ。」

「お兄ちゃんはいつも君のそばにいるよ。」

 男の人が立ち上がって手を差し出すと透明な羽を持った妖精が止まりました。確かに女の子の姿をしています。

「この子の後をついて行けば森を出れるよ。」

「ありがとう、お兄さん。また遊びに来てもいい?」

「いいよ。」男の人は微笑みました。「でも、僕の事は村の人には、内緒だよ。」

「うん、内緒ね。お兄さんの名前は?」

「名前は捨てた。只のお兄さんだ。」

「わかったわ、お兄さん。さよなら。」

 そして、かおるちゃんは、妖精の後をついて森の外へと向かいました。


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